『KILLERS of reality』作者:おすた / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
2007年4月16及び17日、日本と世界で銃声が鳴り響いた。現実か、非現実か、それすらも分からなくなる、ここにある確かな事実。
全角1894文字
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原稿用紙約4.74枚
 
 機嫌良く扉を閉めたのは四月十七日の僕だった。
 
 引きこもりになって早一年、僕は今を生きていた。手に持っていた大きな袋をパソコンデスクの横にそっと置いて、ドサリと体を脱力させてベッドに寝転んだ。顔には満面の笑みを浮かべ、それは最早綻びを超えて下品になっている。僕は抑えきれぬ幸福を特に構いもせず、解放していた。良いんだ、そうしたいならそれで。僕を止めるもの等何もないし、止める権利がまず存在しない。故に僕は自由の塊だ。そんな屁理屈を宙に浮かべ、僕は部屋を見回した。
 壁の白を覆い隠す様々な形をした黒い模造凶器たち。鉄パイプの棚に於いてあるのは手作りのダンボールの的と革の手袋とサングラス。そしてペットボトルに詰め込まれた、数多のオレンジ色の小さな玉。ここはまるで異空間、居心地の良い僕だけの楽園だった。
 無性に何かを貫きたくて、僕は起き上がり、パソコンデスクの横の袋を取った。そして僕は欲望のままに袋の中身を兇暴な獣のように荒々しく破りむしった。中から現れたのは僕のコレクションの最高傑作。これ一つで僕は何でも出来る、そんな気がするのだけれど、それはもうほとんど確信だった。壁を覆う黒たちが騒いだ。おい、それは駄目だ。僕たちの仲間に入れちゃならねえ。次元が違う。そんなことを云っているようで、僕は逆に興奮した。手に取った傑作を電灯の光にかざしてみる。その見事な本物の黒は光を反射して体全体を不気味に輝かせていた。
 ふと、僕は時計の針が深夜を指していることに気付いた。もうこんな時間か、いつも見ているアニメが始まっているのではないか。僕は可能性を手に握ったまま、テレビの電源をつけた。

 黒いマントを纏ったデビルが地面に倒れている一人のナイトの前にぽつりと立っていた。デビルは笑っている。ナイトはぐったりとして動かない。デビルは手に持った血だらけの剣を振り回し、狂ったように喜んだ。何故か泪を流している。そんなに喜ばしいことをデビルは果たしたというのか。何のどの場面なのか、僕にはさっぱり分からない。
 すると、世界は飛ぶ。
 今度はデビルの城の中だった。何匹ものピクシーが一人のデビルの前に立たされている。デビルは何か訳の分からない言葉を云っている。それを聞いてピクシーたちがどよめいている。その場から逃げ出したいような表情を浮かべたピクシーたちは皆震えていた。デビルはピクシーに近寄ってゆっくりとその前を歩き出した。デビルはそれぞれ何か怒鳴りつけながら、それぞれの瞳の中を覗いていく。そして一匹のピクシーの前に立った。身なりの良いハンサムなピクシーだった。デビルは手に持った剣の切っ先をそれに向けて、誰よりも激しく怒鳴っていた。何度も何度も馬鹿にするような訳の分からない言葉を吐いた。ピクシーは泪しながら震えていた。デビルの言動がより一層感情的になる。そして思わずピクシーが云い返そうとしたら、デビルはピクシーを刺してしまった。ピクシーはその場にぐたりとして倒れこんだ。それを見た周りのピクシーたちが愕いて、パニック状態になり、逃げ惑った。デビルはピクシーたちを追い詰めていった。デビルは尚も言葉を吐き捨てる。呪いの言葉さえ呟いたほどだ。ピクシーの何匹かは腰を抜かして立てなくなっていた。デビルは容赦なくピクシーを刺していった。地面には夥しい量の血が広がっていた。結局逃げ出せたのは四匹、それ以外の多くのピクシーは床に転がり、そこに立っているのはデビル、たった一匹だった。
 満足気な表情のデビルは辺りを見回した。これがデビルにとっての理想なのだった。そしてデビルは一笑いすると、ピクシーを刺したその剣を自分へと向けた。血だらけになった鋼の刃にはそれでもデビルの顔が明確に映った。自分の顔を認めると、デビルは無表情になった。そこにある自分の顔を睨みつけ、何かがデビルの中をいぶっているようだった。そして刃は狂いもせずにデビルの体を突き刺した。

 そして画面には罪なき人も殺人者も消え、そこには血が流れたという事実だけが残った。

 僕は激しく嘔吐した。迫り出してくる汚物が僕の何もかもを吐き出そうとした。僕は最早抑えることなど出来ない。抵抗する気さえ起きないのだった。僕は床の上に突っ伏した。握った手は痙攣を起こし、鈍い音がして何かが落ちた。僕はおぼつかぬ視線を必死になってそれに向けた。そしたら僕は暗転した。僕は一体何を持っていたのか。知るよしもなく、見えなくなった。意識の幕が、落ちたのだ。
 深い闇の中を鋭い銃声が貫いた。(了)
2007-04-21 01:27:54公開 / 作者:おすた
■この作品の著作権はおすたさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
非常に難解で、訳が分からない、というのが本当でしょう。起承転結に於ける「結」はあえてしっかりと設置しませんでした。それは、この事実が読者それぞれの中に「結」があるからです。俺が定めてしまえば、単なる私小説に他なりませんので。
当初、五月いっぱいまで連載するつもりだったショートショートはこれで最後です。俺はこの作品を登竜門の遺作として、今日をもってこのサイトを去ります。理由は様々です。俺はここ数ヶ月で読者に対する、また執筆をする上での一つの答えを見つけたような気がします。今までご支援、ご感想を下さった皆様、ありがとうございました。「舌の上で転がして」「アフターヌーンアイスハーブティ」「てんしの泪」「早期發見」そしてこの作品、皆様の書いて下さった感想は全て印刷して保存してあります。勿論、貴重な資料であり、宝なので、これからも大切にしていきます。著者としての責任として、この作品がこの掲示板上から消えるまでは感想への返答はいたします。また、「てんしの泪」以前に投稿した作品を読みたい方がいたら申してください。貼りますので。二年という短い間でしたが、本当にありがとうございました。
この作品に対する感想 - 昇順
 最初、主人公は刃物好きでコレクションの模造凶器をナイフだと思ってて、だから『ヒキコモリ』が『ペットボトル』で『オレンジ色』と言ったらアレしかないと思ったのに『玉』とあったのでなんだろうなあ、考え込んでしまいました(この感想も印刷して保存されるのだろうか。うわ)。
 読み手それぞれの中に『結』があり書き手の中の『結』は明らかにしないという考えでしたら、読み手である私もまた書き手に『結』を隠しましょう。
 登竜門を卒業できるのは夢を叶えたものだけと信じております。おすたさんは叶えることができたのでしょうか。
2007-04-21 13:56:01【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
 こんばんは、おすたさま。上野文です。
 御作を拝見しました。
 自分がやろうとしていること、あるいはやっていることを他の存在にやられたら、衝撃を受けるのは当然のことです。
 が、私自身は主人公に共感できませんでした。
 死ぬ前に自首するのは当然のこと、生きてやることが山ほどあるからです。
 一度狂気におちかけたこそ分かる事があるでしょう。
 悪魔を生み出す原因(コミュニティとか思想背景)を調べてもいい、実現は難しいでしょうが、銃社会が悪いと運動を始めてもいい。
 結局主人公はただの一度も現実と向き合わず、逃げに逃げて、この世からもおさらばしただけ。
 そういう主人公のへたれさを表現したかったなら、それは成功していますが。

 また、気になったのはあとがきの

>起承転結に於ける「結」はあえてしっかりと設置しませんでした。それは、この事実が読者それぞれの中に「結」があるからです。俺が定めてしまえば、単なる私小説に他なりませんので

 の部分です。
 別に作者が何を考えてようとも、読者は勝手に感想をいだきます。
 おすたさまが、他の作者の物語を読んでそうするように。
 「「結」をあえて作りませんでした」は、「未完成ですテヘ」と同意味です。
 読者を軽んじていると受け止められても仕方がありません。

 厳しい事を徒然と書いてもうしわけありません。
 では。
2007-04-21 22:47:04【☆☆☆☆☆】上野文
 読んでいて「ブンガク」をやりたいのだなというのを強く感じる作品。何か表現したいことを小説という形式の中で当てはめようとしたり、またそう試みても捕捉し得ない蠢く何かが潜んでいたりというダイナミズムを、読んでいてあまり感じませんでした。むしろ積極的に目に付いたのは「ブンガク」という自意識ですね。それも自意識と対峙してあぶりだされた自画像というのと違うんだなあ。「ブンガク」と同化しようとする中で始終まとわりついている自己陶酔的な自意識に見えるんですね。
 でも別に自己陶酔が悪いわけでなくて、自己陶酔の力が他人も陶酔させることができれば、少なくともその人間の輪の中では作品は価値を有するわけですからね。むしろ僕が非常に興味深いのは、今このテクストと感想レスのやり取りをメタフィクションにして取り込み、ナルシシズムとその幻滅のプロセスを活写するという路線で作品を書けるんじゃないかということなんですね。そうすると非常に純文学的な作品になると思う。
 まあこのテクスト単体を見て、他の作品もざっと目を通した上でも大体近似であるけれど、芝居に例えればひどく「名優」を目指そうとしていることはわかったんです。それは結構なことだと思うし、また用いられているレトリックのね、技巧のなかなかなところというのはそういった「名優」を目指すというモチベーションからきている気がするので、プラスの効能はあると思う。ただ、名優というのは名優を目指してきたから名優になったのかしら、と僕は首をひねるのです。まあそりゃあ名優になりたいとか、名優のだれそれのようになりたいというのあるだろう。ただ彼らはそう夢見つつも、眼前の役作りに無我夢中になって、気がついたら結果として名優になったのではないかしら。僕ね、夢を見ること、野心を抱くことは実に結構だと思うけれど、足元が非常にお留守だと思う。表面上のレトリックをちょちょいとちりばめて純文学になるなんて、そんなイージーなことなんてありゃしませんよ。表現したい渇望は良くわかる。だけれども何を表現したいのか、その実感こそが第一ではないのかしら。何か非常に、吐き出したくて仕方のないものを吐き出せず、稚拙にコーティングしたものを涙を流して産み落とすといった辛さ、もどかしさ、痛みを、僕は実は感じない。ひとつの実感を表現するということに対して苦しみや絶望、そういった葛藤を僕は実は感じない。それは冒頭や巻末のコメントに書くことではなくて(笑) また書いたからといってどうということではなくて、作品を読んだ時に、戦慄と一緒に流れ込んでくる書き手の言外のうめきなのですね。僕はそれは「ブンガク」ということしか聞こえてこなかったなあ。そして「ブンガク」っていう意識なんて、ちっとも切実じゃないよー(笑) それはただの道具だもの。文学やってるから立派なんじゃなくて、文学ってカテゴリのなかで立派なことをするから立派だっていうことなんだなあ。世の傑作というのはね。
 
2007-04-22 00:21:33【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
返信遅れて申し訳ありません。
皆さんの意見、感想により俺は俺自身を見つめることができました。正に小説自体に作者の隠し持っているつもりだったそういったナルシシズム、「てんしの泪」に見られるような高みを目指して足元を見ていない、といった危機の自覚を、俺は今年に入ってようやく気付きました。ショートショートを張り出す以前にもう知りえていました。では、なぜあのようなことを書いたのか。それはショートショートだから、という訳じゃなくて、あれは俺の発想の、今なしえるそのままの形なんですね。いわゆる構想を練りもせずに出た、思いつき、です。言葉は悪いかもしれませんが、俺は読者うんぬん、日本文学うんぬん、作家うんぬん、と高をくくって英雄気取りして、自分自身を見つめようとしていたのです。それじゃ読んでる側を試したのか、って批判くらうかもしれませんが、いくら言葉を重ねても結局それを否定しきれはしません。俺は俺自身にも試しを入れてみたんです。だから読者の感想で述べられていた事柄、あれらは全て承知です。ああいった答えを俺は望んでいました。何か一つの作品をなるべく完璧に(それは自分の中に於ける価値の尺による)作ろうとすれば、推敲は勿論、構想も深く考えるし、そういった点で読者を意識するのはやむをえない。むしろ本気で作家を目指すのであれば何かと審査員の目も気になるし。そういった意味で俺は何も見ず、独りよがりになって、自己陶酔して、今現時点に於ける自分を作品の中に出しました。特に最後の作品には俺の中では思い入れがあります。それは決して読者には知りえない遠いところにあります。そこは知られたくないし、俺の中で解決していまえばいい、これはそんな身勝手作品に違いありません。だからここに貼るべきではなかったのですね。でも、本当にいい経験になりました。ネット上に於ける匿名同士で意見交換、というよりは、顔が見えないから敬語もくそもなくぼろくそ云う、そんな刺激的な非現実に於いて、ちょっと乱暴ですが、そんな人たちに現実のお話をしたまでです。また自己陶酔ですね。本当に最悪です。いつもこんな感じに、隠しても隠しきれない。その内は俺に小説を書く資格などないのでしょう。いや、そういうのは読者に読ませる以前に、自分に酔いしれているなら自分で書いて自分で読んでそれで終わらせちゃえばいい、俺はとりあえずその結論に達しました。俺の小説は人に読ませるべきではなかったのだと思います。感動なされた方もいれば、徹底的に批判なさる方もいる。読者というのは本当に難しい。云っておきますけど、別に自分の小説が認められないとか、納得いかないとか、そういった浅薄な意見じゃないことは断っておきます。
2007-04-23 01:19:43【☆☆☆☆☆】おすた
 初めまして。『舌の上で転がして』を拝見したときに感想をと思ったのですが断念し、ずっと傍観しておりました。
 此処を利用し何がしかの答えを見つけご自分の進むべき方向が見出だせたのなら喜ばしい事です。
 また貴方様が道に迷った時此処を思い出して下さい。
 さて、最後に感想です。途中までは興味深く読めたのですが、やはり結末を省きすぎの様に感じてしまいました。それぞれの読者に託すにしても、もう少し作者の導きがあっても良かったのでは?……と思いました。
 それではこの辺で、ご機嫌よう。――――貴方様の前途を祝します。
2007-04-23 01:39:00【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
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