『愛のある風景』作者:模造の冠を被ったお犬さま / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
 彼女はとても素直だった。素直でハッキリしていて、そして純真だった。だからこそ簡単なことに抗えなくて自分に嘘を吐く。嘘を吐く行為が慣例化し彼女の仮面が日に日に厚くなる様は正視に堪えられるものじゃなかった。僕の恋心を媒介に、なんとか彼女の仮面を剥ぎ落とそうとして──。 絵描きと親気取りと店番と冷血で織り成す、忘れたものを取り戻す物語。
全角8275文字
容量16550 bytes
原稿用紙約20.69枚





 海の絵がある。
 離れを改装した小さなアトリエに、まるで波打ち際から切り取って来たかのような海の風景がある。

 大きなキャンバスに描き込まれているのは、碧い海に白い砂浜。それに対比する、空の蒼と雲の白。
 水の中で煌めくのは小魚の鱗。ときおり水面から飛び跳ねてみては、ぽちゃんと涼しげな波紋を広げる。波打ち際の穴の中から姿を現すのは蟹。ダンスに誘うかのように、大きなはさみで手招きをする。陽光に熱された岩場で羽を休めているのは海鳥たち。今にも鳴き声と羽ばたきが聞こえてきそうな、慌ただしい気配。波頭が崩れていく。白波は何度も何度も打ち寄せては返る。

 絵の具の臭いがこもった部屋で、塀櫃千代はひとり「嘘」と呟いた。
 キャンバスに原色のシアンが飛ぶ。
 碧い海も白い砂浜も蒼い空も白い雲も小魚の鱗も水面の波紋も蟹の穴も大きなはさみも熱した岩場も海鳥の羽も波頭も全部、一緒くたにされてシアンの底に沈む。
 こうして海がシアンに塗り潰されるのは何度目だろうか。このキャンバスは何度も海を描かれ、そのたびにシアンで覆われてしまう。海溝の底のように光が届かない、ひた隠しにされた過去がある。
 絵筆をもった手の甲で汗を拭う。作務衣に染み付いてしまった絵の具の臭いが秋の夜へと意識を吸い寄せる。描いた絵は気に入らなかったが、それを塗り潰してしまったことで千代は清やかに絵筆を置いた。
 小窓を開ける。ぽっかりと満月が浮かんでいた。月見がてらに散歩に行こうと決め、絵の具のついた作務衣を脱ぎ捨てる。
 もともと離れだった座敷を改装してアトリエにしている。この家の主、大神尤太が千代のために設えたのだった。大神尤太はいつも千代を気にかけており、このアトリエもその好意からの産物だった。ありがたく使わせてもらってはいる。けれど千代がその好意を鬱陶しく感じているのもまた事実だった。
 渡り廊下で斎に出会った。まるで機械のように仕事に忠実で優秀な大神尤太の秘書であるがその代わり、機械のように愛想のない男だった。千代はすれ違いざまに「いってらっしゃいませ」と耳打ちされた。空耳かと思い振り返って見たが、斎はすでに渡り廊下を行き過ぎていて千代の声量で呼び止めることはできなかった。
 愛想のないくせに、なぜ今だけは挨拶などしたのだろう。千代は遠ざかっていく斎の背中姿を見ながら考えていた。そもそもなぜ「いってらっしゃいませ」なのか。寒空の下を、千代が下着姿で家の中を出歩いている。それは服を着替えるためだろう。着替えるのは外出するためだ。そんな思考を一瞬のうちに巡らせたのだろうか。千代は浮かんだ想像を振り払う。考えても詮無いこと。
 廊下から見た池の庭には月が映りこんでいた。つられて空を仰げば、荘厳な月がそこにある。
 家の門を出て、溜め息を吐いた。この家は千代にとって息苦しい。過保護なまでの愛情を傾ける大神尤太。無駄が一切ない厭味なまでの完璧な斎。絵ひとつうまく描けない千代は自分の能力を恨んでいる。
「あれ? 千代姉さん」
 いつの間にか足が白の店へと向かっていた。ここ一年は、憂鬱になる度に白のことを思い出している。ささくれた心に瑞々しさを与えるような何かが白にはあった。当の本人は寝間着姿で、眠そうに瞼を擦りながら欠伸交じりの声で、
「今晩は僕に夜這いをかけに来てくれたんですか?」
 平坦な口調で、悪びれもせず、気取った風でもなく、商売口上でもない話術を使う。
「煙草と三角チョコ三つ」
 千代もその話術に乗ったりはせず、蓮っ葉に交渉する。
「五百円になります」
 気を悪くした様子も見せずに白は右手を突き出し、代金を要求した。
 千代は大げさに手を振る。
「財布の持ち合わせがない」
「そうですか。では、ツケにしておきます」
 そういって右手を袖にしまうと、左手で煙草と三角チョコを取り出す。
「用意がいいな」
「お得意様ですからね」
 青い月が千代たちを見下ろしている。千代が初めて白に会ったあのときも、月が出ていた。
 キャンバスに向かって黙々と筆を振るっていた。そのときもやはり海の絵だった。絵を描くということは即ち、絵の中に入り込むこと。絵の中から自分の本体へと指示を出して絵を描かせるものなのだ。暑い陽射しを浴びながらさざなみの音を聴く。千代はこのとき砂浜の中で佇んでいたが、急にジリリリリリリリリと骨董物の固定電話が鳴るのを聞いて我に返った。意識を中断されることに憤る千代は電話に出まいとしていた。けれどもいつまで経っても鳴り止むことのないベル音は、再度集中しようと試みる千代を嘲笑うかのようだった。ついには千代も折れた。「もしもし、大神家ですが」受話器の向こうから、いつになく焦燥を浮かばせた──それはもう狼狽と言っていい──斎の声が聞こえ、千代は驚愕に見舞われた。
「あ、もしもし塀櫃さんですか。大変です。直ちに、です。とにかく来てください。え。あ。場所は羈束市立病院です。尤太様がお呼びです。今すぐここに……」ここで千代は受話器を置いた。斎が取り乱すところなど、見たことがない。大神尤太が千代に助けを求めるのも未曾有のできごとだった。何より、場所が病院であることが千代を駆り立てた。
 着替えをする間もあればこそ、がま口財布を引っつかみバスに乗り込む。バスの最前席に陣取っていると、後ろから視線を感じた。
「こんなところでも会うとは奇遇ですね」
 少年のようにしか見えない、しかし落ち着いた男性が最後尾の座席にいた。他に乗客はいない。
「失礼しました。貴女は僕を知らないんでしたね。僕のことは白と呼んでください。大神家から五分ほど歩いたところで駄菓子屋を商っています。店番をしている最中、貴女が散歩しているのを幾度か見かけますよ」
「駄菓子屋。郵便局の斜向かいの?」
 白と名乗る男性は大きく首肯し、笑顔で言葉を紡ぐ。
「どちらに行かれます?」
「市立病院」
「でしたら僕と同じだ。ご一緒しましょう」
 信号待ちでアイドリングストップしている合間に白は、伺いを立てることもなく千代の隣へと移動する。
「煙草吸う?」
 白は袂から煙草を差し出した。
「いえ。私は吸わないの」
「そうでしたか」
 深夜のバス内。車窓から見た青い月が、千代に白との出会いを印象付けた。
「でも、ライターを持ってませんでした?」
 散歩には何かを持って出歩くことはない。でも、外出着であるジーンズのポケットにはいつもライターが入っている。
「乾性油を加熱するのに使うのよ」
 使って、それをポケットに入れたままになっている。財布のようにいつも使うものではないから特に苦もない。用途がないから出しておいてもいいのだが、脱ぐときには忘れている。ジーンズだから小まめに洗濯をする必要がなくてそのままとなってしまっている。
「僕はね……」
 千代の記憶がそこで途切れる。何の前兆もなく、ぽつりと放たれた言葉であったことは覚えている。けれどその内容が思い出せずにいた。
「僕に見惚れちゃってます?」
 真面目と呼ぶにはあまりに心のこもっていない声で白が言う。
 千代は自分のペースで煙草を一本取り出し、火を点け、咥える。
「煙草を吸う女の人ってカッコいいですよね」
 大きく吸い、吐き出す。
「白が、そう仕立てたんでしょうが」
「そうですね」
 千代が喫煙者になったのは、まぎれもなく白の影響。おぼろげな思い出の中に白がいる。病院内の数少ない喫煙室はすし詰めで、けれどその中にあって白だけは軽やかに煙を浮かべていた。
「僕も吸っていいですか?」
 千代は軽く頷く。
「一本ください」
 受け取る白の手は青白い。
「火を点けてもらえます?」
 ぼっ、と点火したがすぐに風によって吹き消されてしまった。白の咥える煙草に手を翳して、風除けを作ってみても結果は同じだった。
「点きませんね」
 千代は白の前に屈み、かちりとライターの歯車を回す。
 かちりかちりかちりかちり。ガスに着火しない。

 ────。

 白は千代にキスをした。
「すみません」
 額にではあったが。
 それはいつもの浮薄な言葉でなくて、何かに怯えるような真っ直ぐな言葉だった。自分でもその声音に驚いたようで、他の話題を作ろうと無理やりに口を動かした。
「それにしても、名月ですよね。とても趣深い。ホラ、千代姉さんもご覧になって……」
 月があるはずの場所には暗雲が立ち込めていて、ほのかにその青い陰影が残されているのみだった。
「ごめんなさい。あんまり間近に千代姉さんの顔があるものだから。我慢できませんでした」
 悲壮さすら湛える白の顔がある。
「謝るってどういうわけ? ねえ、白。悪いことだと思ってる? 私に許しを請うているの?」
 千代は問い詰める。どこか、からかっているような語調も含んでいる。
 白はそれを、鋭敏に気取った。
「ええ。実はこれっぽっちも悪いと思っちゃあいません。隙あらば胸にも触れてやろうと目論んでいました」
 白は普段のペースを取り戻している。
「まあ、それは大変。未遂に終わってよかったわ」
「ただの劣情だけで冗談や冗句を言ってるんじゃありませんよ」
 白は憤慨した様子で、鼻息荒く言い切る。
「もっと他の反応はないんですか?」
「例えば?」
「もう……」と言って、間を置いて披露する。「僕の初恋の人は千代姉さんなんですよ」
 白の顔にはいつもどおり緊張感のない表情が張り付いていたが、どうやら本当に嘘ではないらしい。肩肘を張った口調ではないからこそ、自然体そのままの言葉であると物語っている。
「かわいくなくて、おしゃれじゃなくて、絵の具まみれで絵の具くさい女を好きになるなんて変わってるね」
「それは自覚しています」
「私のどこがよかったの?」
「もう忘れました」
 軽口に反して、今度は千代が緊張しているようだった。さっきから煙草の煙を吐き出すのを忘れてしまっている。言葉は止め処なくとも、息を詰まらせている。
「動因を思い出せないなら、大した思いじゃないのよ」
「きっかけより“好き”の感情のほうが重要だと、僕は考えます」
「あのさ。私と白の歳の差は……」
「『歳なんて、好きの感情の前では関係ない』と言って欲しいんですか?」
 まだ充分に長かった煙草を携帯灰皿に押し付けて、千代は新しい煙草に火を点けようとする。けれど、焦っているからかライターに火が点かない。
「私は白が好きだけど。けど、そんな意味じゃなくて」
「千代姉さんが僕を好きにならないといけないなんて、そんな傲慢なことは言ってません」
「でも、それじゃ」
「千代姉さんは僕に愛されていればいいんですよ」
 断崖絶壁の縁に立っているような千代に向かって白は笑顔を向けた。
「そんな顔しないでくださいよ」
 無明の闇の中で蹲っているような千代に向かって白は言葉を投げた。
「綺麗な月です。ね? 千代姉さんも見上げて。青い青い月です」
 ゆっくり顔を上げた千代の目に映ったのは、月を隠して仄か青色に輝く雲海の現実か。それとも、白の見る青い月だったのだろうか。
「やっぱり口にしたいです」
 小首をかしげる千代。その顔を両手で引き寄せる。
「怒られたって謝りませんからね」
 唇が触れ合う。
 白は少し恍惚になって呟く。「最初のキスは煙草の匂いがした……」しかし、すぐにもとの調子に戻ったようで、「千代姉さん? いつまでもボーっとしてると本当に胸を揉みますよ?」
 がばっ、と千代は身を起こす。
「ああ、残念」
「大人をからかうもんじゃないわ」
「僕だって大人ですよ。ひとりで店番できるぐらいには」
 白は左の袂からマッチを取り出し、それを擦った。ぼう、と浮かぶ炎は煙草の先端に近づけられる。
「煙草も吸えますしね」
「違法だけどね」
 千代は呆れたようにその白の喫煙姿を見ていたが、何かがふつふつとこみ上げるように表情が変容する。
「白。あなた、私から火を借りたわよね」
「結局、火は点きませんでしたけどね」
「今、左手で取り出したものはマッチよね」
「マッチというかマッチ箱です。街で肌を露出したお姉さんから貰いました」
「何でマッチ持ってるのに火を借りるのよ」
「細かいことを気にしますね。ちょっとオイルが減るだけじゃないですか。なんなら、僕のマッチあげましょうか?」
 千代は肩を竦める。
「いい? 女の子の純情は減るからね。覚えておいたほうがいいわよ」
「代わりに純愛を差し上げますよ」
 やはり気取った風はない。千代は肩を落とし、うなだれる。
「さて、と。重大発表も済んだことですし、そろそろ帰ります」
 ガックリとうなだれた格好のまま、首だけを持ち上げて、
「じゃあね」
「また、すぐ会いましょう」
 不吉な予言か、あるいは不幸な予告を残して白の背中は夜の闇にまぎれていった。
「あ、そういえば。今度会うときにはツケを払ってくださいね」催促の言葉を残して、今度こそ本当に夜の闇にまぎれていった。
 「初恋の人だ」と宣言されるのは気恥ずかしいような、むず痒い気分にさせた。千代は嬉しがっている。そのことに間違いはない。けれども、同じく告白を意味する「好きだ」の台詞とはまた違う、感傷的にさせる要素が白の言葉にはあった。それは“初恋”に連想される、青春だとか甘酸っぱさなのだろう。白紙のノートの第一ページに書かれていたのは、まず何より先に空白を埋めていたのは、自分の名前だったというなんだか申し訳ない気持ちになってしまうのだった。白は、一方的に千代が好きなのだと言った。千代が自分のことを好きになる必要はない、と。しかし、いくら変わり者の白といえど愛する人から愛されたいだろう。そんなことは火を見るより明らかだ。千代はそれに応えることができるのか懊悩している。自分の気持ちに整理がつかないでいた。
 足は家に帰ろうとしている。大神尤太のいる家が安心できるのだと、無意識に判断したのだろう。鬱陶しさや息苦しさを感じてはいても、それが真実だった。
 門の前には大神尤太が待っていた。大きな上背を丸めて、両手に白い息を吹き込んでいる。いつから待っているのだろう。その姿は酷く惨めで情けないものだが、千代の目からはまた違って見えた。千代を視認して大神尤太は顔を綻ばせる。それを見て千代も微笑む。踏み出す一歩一歩は軽妙で、生き生きとしていた。半ば走り歩きの千代を、大神尤太は大きな腕で抱きとめた。
「どこに行っていたんだい?」
「月が綺麗だったから、散歩に」
「風邪をひかないようにね」
 ダンディズムを備えた大神尤太の口調はどこまでも甘い。丁寧にたたまれた半纏を千代の肩にかける。
「斎くんがお茶漬けの用意をしていってくれたよ」
 千代が外出しようとしているのを察知し、すぐに用意したのだろう。その後、自分のマンションに帰っていった。そうでなければ、大神尤太の指先はあれほどまで白くなることはない。斎がいれば、その斎の手前で子煩悩じみた行動は起こさないし、もし起こしたとしても斎が止めている。斎にとって小娘ひとり風邪をひこうが構いはしないが、彼の仕える社長が結核でも患ったら一大事。出迎えることを引き止めて、自分が門の前に立つ役目を負うことは容易に想像できる。かと言って、斎はべつだん千代を疎んじているのでもない。その証左に、帰ってきたら空腹だろう千代のために茶漬けを用意している。
 完璧な判断力、無欠の忠誠心、迅速な実行力。それらが集結して斎ができあがっている。
 自分には不相応な人間ばかり周囲にいると、千代は感じている。
 かき込むようにして茶漬けを胃袋に入れると、千代はアトリエに向かった。
 悩みがあればアトリエにこもる癖がついている。心の靄を晴らしたい一心で絵筆を手にとっても、その瞬間は忘れることができるだけで、書き終われば靄が疲労感とともに増大する。それをわかっていても一時の忘却を得たいがために絵を描く。自分の悩みを糊塗する行為と、キャンバスを塗り重ねる行為とがあまりに似通いすぎていて喜劇的だ。
 外に出る前、換気のために開けた窓から風が入ってくる。閉じようとして、月が目に入った。

 ──糊塗するために用いた幾千の言動。
 どこから現れるのか、ずむずむと湧いて出る暗雲に小さな切れ目が走った。

 ──思案をかぶせるあまり、見失ってしまった無垢の心。
 切れ目が次第に広がっていき、円の輪郭を垣間見る。

 ──どれほど大事なものだったのか、それすら思い出せないでいる。
 完全な円が現れ出る。それは心中にまで届く青い光を放ち、ひたすらに神々しく輝いている。

 「私」と呟き、そのまま言葉を連ねようとした自分に叱咤する。
 絵の具剥離剤を棚から下ろし、キャンバスの上に厚く塗る。その上に濡れた布をかぶせて乾燥を防ぐ。剥離剤が絵の具に浸透するまで時間がかかる。
 千代は、自分自身に対して何を隠してきた。厚く覆われた絵の具の奥にある、隠したかった最初の絵は一体なんだっただろうか。隠蔽したものは何。
 とり憑かれたかのようにペインティングナイフを振るい、キャンバスを削る。垢を擦るようにぼろぼろと古い絵の具が落ち、イーゼルの下に積もっていく。その作業に千代は没頭する。

「たまには人物像でも描いてみたらどうだい?」
「駄目よ。タダでモデルになってくれるような人なんてなかなかいないし、それに、私の好きな人がモデルじゃなきゃ描く気にならないもの」
「君がいつも『描くものない。描くものない』とうるさく言ってるものだから、僕なりの案を出してみたんだけどね」
 縁側でふたり、談笑していた。
「私、口に出して言った覚えはないわ」
「ああ、そうだった。君のことを考えていると、本当に口に出して言ったことなのか、それとも君が頭の中で考えているだけのことなのか区別がつかなくなるんだよ」
「勝手に私の気持ち、決めないでよね」
「でも、本当のことだろう?」
 うららかな日差しを浴びていた。
「僕じゃモデルになれないかな?」
 言った「好きな人でないとモデルになれない」と「思考を読める」の話を瞬時に重ね合わせて考えると千代は錯乱した。
「バッカじゃないの! 誰があんたなんか。いい気になるのも、そのぐらいにしないと見苦しいわよ」
 このやりとり、随分と昔の出来事である。
「今ならタダだよ。久しぶりに休暇が取れたんだ。君と過ごしたい」
「あんた、バカよ。そんな簡単に休み取っちゃっていいわけ?」
 二十代に入って間もない、若い頃の千代。
「それとも、もうひとつの条件に反しているのかな。やっぱり、モデルは好きなひ──」
「うっさい。誰があんたなんか描くもんですか」
「残念だな。僕はこんなにも君を好きなのに」
「バーカ」
 それは養父として。娘として千代と接している──千代を愛しているからだ。千代の恋心は決して大神尤太に悟らせてはいけないものだった。

 ──だから隠蔽した。
 厚い絵の具の層の中に。今までずっと塗り固めてきた。聡い大神尤太にも気取られないように。

 何度、剥離剤を塗りたくっただろう。
 幾重もの嘘の下敷きにされながら、その絵は幾分も衰えていなかった。押し潰されることもなかった。覆いつくすべき海の絵のほうが、取り込んだ絵に同化して穏やかなものへと変容している。小魚も蟹も海鳥も、絵の秘めるものが光であったからこそ、その絵が嘘であるにも関わらず活気に溢れた絵になったのだった。
 千代がアトリエの中で大神尤太を思いながら描いた絵は、今も微笑んでいる。

 いつの間にか、夜が明けていた。

 月は出ていない。





2007-04-07 17:05:48公開 / 作者:模造の冠を被ったお犬さま
■この作品の著作権は模造の冠を被ったお犬さまさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 帝王に捧げる第四部。

 私自身は虚言も隠匿も厭わないサイテーの人間だったりします。今回の私の隠匿は混乱を招くことができたでしょうか。仕込み期間が長すぎて自分ですら隠匿の事実を忘れるほどでしたので混乱しなかったとしても仕方のないことかもしれません。でもそれは、現実に存在していて、日常の中に潜むノイズとして残っていくことでしょう。それらが堆積し臨界を迎えたとき、存在に気づかなかったものはしっぺ返しを食うことになる。
 崩壊に至るまでの時間は、刻々と観察していれば長すぎるし、忘却するには短すぎます。
この作品に対する感想 - 昇順
作者様のメッセージにあるように、混乱というか当惑しているのは確かです。既視感はあるのに、その大元がすでにどこにも見当たらない。
今回のお作は、我が貧弱な記憶力による既視感の大元よりも、ちょっとアンバランスに感じました。油絵の描写の巧みさと、その重ね描きという象徴的趣向が突出して、そこにこめられた心情のほうは妙に淡く、軽いような気がします。
連作の一部ではなく単体だとすれば、もう少々、人物たちの肉付けが欲しいです。
2007-04-09 02:55:11【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ
私が突っ込めるレベルではないので感想だけになりますが、面白かったです。
2007-04-09 15:55:27【☆☆☆☆☆】アナハイム
 よかった。感想もらえた。わーいわーい。

>バニラダヌキ様
 イエーイ、ト・ウ・ワ・クぅー! バニラダヌキさんの言う『大元』は『ピカソ』を目指したものであって、今回は『ルネサンス』です。絵画っぽい感想をもらえるような書き方をしてました。私に絵の観賞センスがないからかもしれないけど、絵画を見たときって感想を言語化しにくいですよね。──だから、感想をもらいにくいのか……(ガックリ)。王道街道まっしぐらのつもりで書いていたので、アンバランスって言われるとガーンですよ。でも、すごい。比較できるってことは、多少なりとも覚えてくれてたってことですね。すごいすごい。
 心情はさ、私の一生の課題になりそうだよ。なんか、いっつもバニラダヌキさんには言われてるような気がするよ。進歩ないなあ。っとさ、心情についてだけは、そのままドーンな書き方をしたくないんだよね。ま、それは淡さに関連するのであって、軽いのとは別問題な気がするけどね。
 がんばるよ。

>アナハイム様
 え〜っ。この『愛のある風景』は二年前に通り過ぎた私の足跡だから、今はもっと先に進んでるぜい。今はこの四倍面白いぜい(当社比)。おうおう、ちんたらやってたら間に合わないぜい。早くしないと置いてくぜいっ!

 ちょっと最近、おとなしい書き物ばかりだったので次は羽目を外しちゃいたいな。
2007-04-09 22:20:47【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
 油彩にかかる描写の巧みさとエッジのきいた意匠を大いに評価するという点で、バニラタヌキさんに大いに同感します。そして、人物造詣における淡さ、軽さという点に関する疑問についても。僕はどうも、淡さ、軽さは書き手が選択して当てはめた様々な可能性の一旦、ひとつの方向性というより、今作品世界を構成する知的意匠や知的把握の要素が先鋭化してしまっているために不可避にそうなった、ある意味構造的な問題じゃないかとも思ったんですね。
 露骨に言えば、淡く軽い人物像しか今描けないんじゃないかと。それを選び取ったというより、そこにしか今行けていないんでないかなあ。
 僕がここしばらく、模造の冠を被ったお犬さまの作品に於いて重層性をもうひとつ感じられていないのは、それが重厚なものを企図していないからということでなしに、ひとつの作品世界に対する様々な方面からの力の負荷とその歪みのようなものを感じられていないからではないかと、自問自答しているところなのだけれども、つまりは仮にこの人物造詣に淡さや軽さとは別種の何かを目論んだ時、おそらく知的意匠、知的把握によって形取っていたこの作品世界はたちまちに軋む。書き手には制御できない振動になるかもしれない。実はそれこそが見てみたいものであるし、それとそれに対処するということが重層性への端緒となるのではないかと。
 勿論、全ての作品が重層性を目指す必要はどこにもない。作品にはそれぞれ書き手の意識的無意識的な目標があるもので、それをクリアしていれば書き手にとっては満足できるものであるし。ただ、僕は淡く軽い人物像って、この一作や二作で卒業できて、別種の面持ちに次は挑めるという性質のものとはもしかしたら違うかもしれないなという危惧を抱いたのだ。

 余談。読んで気分が悪かったのは、丁度今こっちも絵を描くというのをモチーフに作品書きつつあったせいなのだ。急ピッチで作品仕上げて、先んじてアップしておくべきだった。ああくやしい。
2007-04-10 21:15:12【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
 そうだね。書き方はパッケージとして完成されているから(もちろん、完璧って意味じゃないよ)、ここを取ってこっちに替えるってやり方はできないね。もし書き方を変えるなら、総替えしかないよ。
 重層性がないってのは、小さくまとまっているってことでいいのかな。物語設定に付随する連鎖的な横糸、それを快刀乱麻がごとく断ち切ってしまっている、と、そういうことを言ってるのかな。確かに設定は設定を呼ぶから、いっこ連鎖させると途方もなく連鎖していくことがあって、それは恐ろしいよね。常に完全制御したいと考える私にとっては邪魔なんだよね。でもじっさい私の下した処理としては、断ち切っているのではなくてほったらかしにしているだけ。意識の外に追いやっているんだよ。無理をしない最善の方法だね。
 卒業という感覚はまだまだ遠いよ。少なくても十年は試行錯誤の連続だろうな。無茶な計画ばっか立てる私が十年と言うんだから、きっと一生のうちには終わらないだろうね。それに、飽きるかもしれない。そっちのほうがあり得そうだな。
 自由なように見えてけっこう不自由してるんだよ、私は。私の精神も身体も自由なんだけどね。でもその精神と肉体それ自体に仕掛けられた限界が私の領域を狭めるんだよね。これはてこずるよな。
2007-04-10 23:43:55【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
 うん、重層性と別種というのはさ、あなたの作品へのアプローチってプライオリティがあるわけでしょう。その整然たる秩序ゆえだよね。人物造詣の多用さ、深みというのは、プライオリティが高くないと思うのね。だから意識の外に追いやっているというのは良くわかる。また、イジの悪い表現を用いれば、意識の外に追いやることによってはじめて、現状は作品を組むことができている、ということにもなるんではないかなと。
 どうなんだろうね。先々それで身動き取れなくなるんじゃないかしら、というのは暴言かねえ(汗)
 あなたのバヤイはさ、あなたの世界を決定付ける知的意匠、知的把握の鮮鋭さがさ、あまりに際立っているし、プライオリティとして常に第一位であるのではないのかな。それがまさしく、あなたの原動力であると同時に、限界となって領域を狭めるというより決定付けているところがあるのかもしれないね。他人事だから無責任にいえば、多種多様な力、多種多様なアプローチと、その複合から、全く別種の自分に到達するというのは非常にエキサイティングなことだと思ってしまうんだがねえ。ただ自分自身にてこずるというのは、同様同種と異なることは承知のうえだけれど、実に同感でありますよ。どうもね、自分というのは重要な商売道具なんだけど、制御するのもタネにしてこねてみるのも、なかなか厄介なものだよね。
 まあ一本槍だと、確かにそのうち飽きるわな。色々攻め口があると自分を抱えててこずっても、結構それが面白いんだけどね(笑)
2007-04-11 00:10:59【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
 プライオリティね、プライオリティ。優先順位、秩序、ルール。それは、ちょっと違うかな。これはもう、装置としての私の機構。宿命。設定変更が利かないオリジナル。スタンス(姿勢)というよりスタブルなスタイル(流儀)。
 これは私の性質によるものだね。独学哲学だよ。基本的に、私は感情というものを信じないから。空気より不定形なそれを物語の中心に据えるなんて空恐ろしいよ。とてもできないと思うね。“どうにでもなるがどうにもならない”、そういうものだと思うんだよ、感情って。確かに万能性はあるけれどね、それを使いこなすことができないんだ。【船上のピアニスト】を思い出すよ。“無限の鍵盤では演奏できない”ってね。
 タカハシさんは私の作風の中に一発ネタと同種の臭いを嗅ぎとっているのでないかと思うのだけれど、それは間違いではないね。ネタが尽きれば終わり。でも、それは感情にしたってなんだって同じだと思うよ。『想い』ってやつの多様性が無限に存在するにしても、それを表現する方法が無限じゃないからね。制限された無限。爆発しそう。
 私は、自分に課せられた制限を楽しんでいるよ。制限がキツくなればキツくなるほど物語の道がよく見通せるということもある。今のところ、同じ道は二度と通っていないからね。以前の道が狭くなったとしても気づかないよ。そんなことより、新しい隘路を探すのに夢中なんだ。楽しいよ。子供の頃に果たせなかった冒険だ。
2007-04-11 06:29:29【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
 うん、装置としての機構も含めたうえでのプライオリティ、かな。その中に自分にとって選択の余地がある領域と、不可避にそこに向かわざるを得ない領域とあると思う。そういう意味で、僕は無限の鍵盤では演奏できないというのは全く同意なのですよ。無限の自由なんてフレーズはカッチョいいんだけど、内実は地獄以外の何物でもない。そもそもありえない。必ず各々にはそれぞれの限界値というのがあるんですね。結局その限界、個人的な自律的他律的縛りというのが、桎梏として苦しくもあるし、またそれだからこそその書き手のパーソナリティの源泉ともなる。 
 万能性、或いはシンメトリ、そういう部分に対してガチガチのコチコチのアタマでは、批評というか作品の妙味を味わうというのはムリなんだよね(笑) むしろいびつなもの、その形を愛でるという鑑賞の楽しさもあるし、万能性というのであれば読み手こそ多様な快楽性をテクストから積極的にスティールする気概を持つべきかも知れない(笑)
 さてと、一発屋というのとは、僕の中ではちょっと語感が違うんだな。何ていうんだろう、辣腕家の文豪様ならそんなことないのでしょうけれど、僕らは言語を支配しているというより、ある意味に於いては言語に支配されているというの、あるじゃない。これはどうにでもなるがどうにもならないというのと同じことだと思うのだけれどね。一発屋というのはあくまで表層の問題でしょう(笑) 僕ねえ、この先あなたの数作か十数作か後の、隘路の足どまりとそこからのブレイクスルーについて、勝手に想像しちゃったのね。ひとつのテクストはただ現在に位置しながら、その書き手の過去にも未来にも及ぶというか、そういう面白みもあると思うのだけれど、さてこの書き手はいつかの未来のその地点に於いてどのように暴発するか、また立ち消え安全装置によってパーシャルに意気消沈するか、その辺りもどうなるかなあと、勝手に先読みしてしまっていたのだ。書き手のポジションは、それは苦労ですよ(笑) でも読み手は、読み手の中でも性格が悪くなると(笑)、そういう面での書き手の四苦八苦もコミコミで鑑賞して喜ぶというのがあるかもしれない(笑) 
 まあ個人的にはですね、空恐ろしいことをやってもらいたいと思うし、空恐ろしいことであるからこそやる価値があるとも思うのですよ。だから僕は、少なくとも僕らの今の時点に於いては完成度なんてあまり尊ばないんだ。書き手のそれぞれが空恐ろしいことにどれだけ挑んでいるか、そういう気概や緊張感を味わいたいと思うせいでもあるし、また挑んで力尽きた眉間のキズをけなそうというのに最大限寛容でありたいと思うのね。
2007-04-12 00:55:35【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
 強情だね。そこが祝福されるべき不可避なる性質かな。なかなか中核に近づいてきたのを感じる。己のうちにもつ言葉の意味と相手の定めた言葉の意味、その乖離が強く意識させられるのは、しかし今初めて乖離したのではなく、もともと乖離していたものが浮き彫りになっただけ。歩み寄りには必然なステップといえる。
 だんだん油断ができなくなってきた。距離によるものか、時間によるものか。どちらにせよ一時的なものだね。熱のようなものだ。だとすれば今、白熱しているということだろう。構造上、もっとも性質の悪い迷路の話を知っているかな? 砂漠の夜は身を切り裂くよ。気をつけてね。もう遅いだろうけど。
 「嫌いだ」と言うことに非難される箇所があるとすれば、それが『食わず嫌い』だったときに限ると考えているよ。理解してなお「嫌い」だと言えることは、「好き」と言えることと同様、誉れだと考える。判断を下すということはそういうことだ。空恐ろしいと思える感覚、これは私が稼動するためのロジック。プライオリティというのなら、そこがすでに順位の反転をしている。稼動に必要なロジックであって、ロジックどおりに稼動するのではないよ。
 隘路といったのを『障害』として翻訳しているかな。私は、障害のある中でのゴールへの道筋といった意味で書いたのだけどな。私はひとりじゃないからね(仲間がいるという意味じゃないよ)。見通しは利いている。逆に、足元をおろそかにする傾向があるにはあるが。カメラの種類として、私は自分を背景として認識できてもいるし、外部からの視点として自分をクローズアップすることもできる。私の原点が冷えている証だ。
 言葉に支配されている感覚はないけれど、完全に支配している感覚もないね。道具という認識ではない。友人でもない。根源的な選択肢。運命に似ているね。
2007-04-12 06:35:46【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
拝読しました。まったりと気持ちの良い感じに読めました。
2007-04-14 00:19:23【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
 なんか気を使わせてしまったような……ありがとにゃ。
 これってまったりする読み物なのかなあ。水芭蕉猫さんはズレた感覚の持ち主だし、意図したとおりに読まれなくてもなんら不満はないけれど。まあ、水芭蕉猫さんが【良い感じ】なら私も良い感じです。
2007-04-14 09:49:43【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
[簡易感想]おもしろかったです。
2007-04-14 23:36:17【☆☆☆☆☆】甘木
 面白いならよかったにょー。
2007-04-14 23:59:20【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
スポットライトを当てた主人公一人の心理が中心なのではなく、ある程度周囲を絡めたうえで物語を作ろうと思うなら、この短さではある程度定型的な人物像(執事キャラ、無邪気キャラ)に当てはめて、登場人物を理解させるのが普通(一般的という意味でも効力の面でも)だと思うのですが、定型から外れた部分を中心に描写されたような気がして、あまり理解が出来ませんでした。
この短さと会話の中では、なかなか心理の把握が難しい気がします。特に白と主人公の会話は、背景説明のない中での少々普通ではない会話なので、どちらの人物像もうまく把握できませんでした(2回目3回目と読む分には何とはなしにわかってくるのですが)。ただ口惜しいことに私自身、この話の完成形というか、目指しているであろう方向が見えませんので、もしかしたらまったく的外れのことを言っているかもしれません。それでは。
2007-04-15 01:50:16【☆☆☆☆☆】メイルマン
 あ、メイルマンさん。ごきげんよう。
 描かれた平行でない二本の直線。いつか交わるはずなのに、紙面が狭くて交わらない。そんなときは紙面の概念を取っ払ってしまうのがよいように思えます。なにより、そのほうが自由です。
 方向というなら、『獲得と喪失』なのでしょう。自分ではあまり意識していませんけれど。大局観というのは最初に作ってしまうから、書き出しているときはほとんど覚えていないのですよね。いつもこのオモチャみたいな容量には苦労させられます。
 書き手にとって明らかであることと読み手にとって明らかであることの差異が大きくてイヤになります。埋める努力が必要なのでしょうか。私は努力というものは伝説の類だと思っているから、それを目指すというのはなかなかビジョンが見えてこないですのよね。
 “普通であること”に関しては諦めに近い思いがあります。普通な人間を探すより、どっか変な人間を探す方がラクチンなんですよ。私は普通の人間を見つけることができませんでした。普通の人間というのは、認識において人間未満のことを指すのではないでしょうか。
2007-04-15 12:26:21【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
カンムリーヌさんの作品に感想を書くのは……2回目?です。
こんばんは。読んで感じたことを、素直に書かせてもらっちゃおうかな〜と思います。
えっとまずは、読んでいて、絵を見ているような気分になりました。お茶漬けを作っている斎さんの後姿が何となく浮かんだり、白さんのところにタバコとチョコレートを買いに行く千代さんの姿が何となく浮かんだり。
情景描写がどう、とかじゃなくって、カンムリーヌさん自身がこの作品に情熱を持って作っている感じがしました。だって、その場面その場面で、よく雰囲気が伝わってきましたから。“ああ、今はこんな感じなのかな……”って。映画の観すぎのせいか、イメージが非常に強く浮かびました。いや、カンムリーヌさんのイメージと一緒ではないかもしれませんけど。
これぐらい大切に作品を作り上げることが、今の私はできないかもしれない。うーん、まとめると、気に入りました。続きがあるのならきっと読みます、感想はもう書けないかもしれませんけど(同じようなことを繰り返しそうだから)。
2007-04-15 19:22:13【☆☆☆☆☆】目黒(小夜子)
 目黒っち、おひさー。素直に書いちゃって〜って思います。
 絵を観てるような、か。うーん、なるへっそ。以前にもそう評価してくれた天使様がいたっけなー。そのときはバニラダヌキさんの言う大元だけれどね。映像が浮かぶっていうのはホント嬉しいな。映画はあんまり観ないけれど、映像分野には興味が尽きないからねっ。
 「言わなきゃわからない」ってホントにそうだよね。でも、言葉を重ねると重ねるほど嘘っぽくなることってない? 言葉を積み上げすぎると潰れちゃうんだよね。ひとつひとつの言葉をよく知ってちゃんと使ってあげれば、そんなに多くの言葉を要しないと思うんだっ。それが大切にするってことなのかなー?
 ごめんね、続きらしい続きはないよ。続きらしくない続きはあるけれどね。
2007-04-15 21:56:47【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
ずいぶん前に読んでいました。二十代千代ちゃんの話し方が、文章として見てみるとやや芝居がかっているようにも思えたけれど、再度読んで頭のなかで想像してみると、しっくりきました。つまりこれも「絵を見てるみたい」ってことなのかなぁ。この作品は好きです。バタとはまた違う方向で、読めば読むほど味が出る、みたいな感じ。私、バタにこだわりすぎ?(笑)
2007-04-15 22:15:00【☆☆☆☆☆】ゅぇ
 あ、ゅぇさんだ。こんばんはー。
 うーん、それは──ツンデレの定型文だから。っていうのは冗談で、あ、でも、冗談でもなくて、意識には上ってたってことで。
 若かりし千代ちゃんは本心を隠してたわけだから芝居っぽくてもよいのですよ。よいことにして、しっくりきておくのがよいのですよっ!(強引) コミックだって現実の中に存在してるんだからリアリティがあるのですよっ? ──なにを訊いている、私。絵画というよりは漫画なのかなあ、と気になったのです。
 バタにこだわってもよいですよー。ストーカしてもよいですよー。
2007-04-15 23:05:17【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
 感想です。
 以前より人物の描写がはっきりしない書き方をされていますが、今回の話はそれが顕著に感じられ、その為疎外された私は物語に入り込めませんでした。
 恐らくストーリーが『普通』でなければ、それに引き込まれ、他が気にならなくなるのだろう、と、ただ感じたままに言わせて頂きました。失礼致しました。
2007-04-16 10:18:06【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
 おかえりー。
 阻害されちゃったー? それは残念賞っ。人物描写っていうか、ほとんどの描写がほとんどないよ。行動描写ばっか。それなのに単調にならないのはひとえに私の才能だね。私ってば天才! ぶらぼ。
 ミノタウロスさんの『普通』って肯定的に使ってる? 否定的に使ってる? 気にならなくなるのはいいこと? 悪いこと?
2007-04-16 22:26:19【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
恥ずかしながら戻って来てしまいました。
 聞かれたので答えます。私にとって、普通は否定的。気にならなくなる――――の良し悪しは分かりません。ただ、他が気にならなくなる程の物語にそうそうであえるものではないと思っております。例えば主人公の人物描写が無いのに読み進めるにつれ、いつの間にか自分の中で作り上げた主人公があたかもその物語に描写されていたが如く脳裏に映し出されたり、行動描写のみで人物や背景、心情までも読み手に伝えられる程、繊細かつ絶妙な描き込みがされていれば、人物描写、心情描写云々など全く不毛な論争だと思います。
 しかしその実現には相当の引き込みが絶対不可欠かと。物語が放つ魅力あるいは既に一定の世界感を持つ作者の読者に与える影響力が必要かと。
 貴方が目指すのがそう言った高みの物かは知りませんが、そうかも知れないと思えば楽しみです。(少し毒がある物言いですよね。嫌味じゃありませんよ、今までの経緯からしてそんな風に取りませんよね?)
 ぞくぞくします。……ああ、何だかヤダな……長すぎる、メグサイ……でも、自分、書き手として復活した訳ではないので、あくまでも、感動を求めて徘徊する平凡な読者ですので、許してください。
 では、貴方様のご活躍を陰ながら(ロムってことかっ)応援しております。
2007-04-16 23:57:34【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
 メグサイですか。私がそれを方言だと知ったのはつい最近のことです。
 極端な言い方をすれば、書き物において描写は邪魔です。書くのにも読むのにも時間がかかるだけです。「いや、お前、書き物は文章でできてるんだから、それがなくちゃ始まらんだろ」その通り、しかしそれは最低限必要なだけあれば事足ります。厳密にいうと、読み手は文章を楽しんでいるのではありません。そのような趣向の書き物もありますが、副次的趣向に過ぎません。書き手は想像した物語を書き物というコードにし、読み手は書き物をデコードして想像の世界を楽しむのです。ディスク三枚組みのゲームは容量的に大作でも、ストーリや感動できるかという意味において大作かどうかにはつながらない、というのと同じことです。容量が大きいこと自体は、むしろ嫌われる傾向にあります。
 ミノタウロスさんがメグサいと感じたことを代筆してみました。合ってますか?
 ただ違うのは、ミノタウロスさんの感覚に沿って書いているのではなく、個人の感覚よりはもっと普遍的なものに根付いて書いていることです。文章のコンパクト化を成功させる鍵は、それを紛らわせる『異常』ではなく洗練された言語センスであると思うということなのですよんッ。
 普通ではない『異常』に惹かれるのは好みであって、描写云々とは異なる独立した感覚ではないかな。
(ミノタウロスさんにはいつも意地悪なこと書いてる気がする)
2007-04-17 22:57:47【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
 困ったね。先に述べた見解に意図しないモノが混ざって伝わって仕舞ったようです。わたくしが、相当、異常な物に惹かれるのは事実だけれど、普通じゃない書き物=異常な書き物じゃなければならないとは言っていない。そう言っているようにしか取れない書き方だったかな。
 文章をコンパクト化させる為には勿論言語センスが必要、しかしそのセンスって何によって輝きを増すの? 言語センスがどんなに光り輝いていても、つまらない話なら一般的な描写を省いた分、それが目につくか、話のつまらなさが余計に際立つ。小説である以上物語がどれ分惹かれるモノかが最も重要でしょ? (ここで『私』が惹かれるどうかは別問題) 一体何が主体? 描写とは物語を際立たせる為の表現ですよね? では面白い話とは何? 誰にとっての好悪? もともと、私の好みと普偏的要素の議題をごっちゃにして感想を書いてる私がいけないのかな……。

 意地悪だって言う自覚あったんだ――――参ったなぁ、確信犯か。
2007-04-18 12:30:58【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
拝読しました。流れる清流の如く、さらさらと気持ちよく流れていき、しかもそこで交わされる知的なやりとりが僕の脳に心地よい刺激を与えてくれ、とても面白く、また勉強にもなる作品だと思いました。
次回作も読みたいです。お待ちしています。
2007-04-18 14:53:34【☆☆☆☆☆】的場真剣
 ミノタウロスさん、描写の多少は書き物の面白さに不干渉だと書いているのですよ。
 面白い面白くないは個人それぞれ。そこに普遍的事由を見つけ出そうというのは難題ですよ。特に、一定レベル以上の書き物はね。感覚的に突き進んでいくしかない。突き進んできた道を見て「ああ、ここはこういうべきだった」と振り返るのは簡単なのですけれど。うまくいかないものです。

 的場真剣さん、こんにちは。
 勉強になるほどのものではないよ。おだてても木にしか登らない。面白いと言ってくれるのには、素直に嬉しがるけれどね。
2007-04-18 22:48:44【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
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