『ハニーデイズ』作者:バター / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 一ヶ月前おじいちゃんが死んだ。人当たりがよく、いろんな人に好かれていた優しいおじいちゃんだった。あたしも、おじいちゃんが大好きだった。

 おじいちゃんは、おばあちゃんを残して先に死んでしまったの。でも、おばあちゃんは泣かなかった。あたしやパパやママは泣いたのに、おばあちゃんは泣かなかった。

「おばあちゃんはおじいちゃんが死んで悲しくないの?」

 あたしがそうやって聞くと、おばあちゃんは優しく笑って

「悲しいけれど、みんなが泣いたらおじいちゃんが可哀想でしょう?」

 そう言ったの。あたしはよくわからなかったけれど、そのときのおばあちゃんの顔が、寂しそうだったから、きっとおばあちゃんも泣きたいんだなって思った。

 おじいちゃんが死んでから毎日、おばあちゃんはお墓に行く。庭に咲いた花を摘んで、毎日毎日お墓に行く。

 でもあたしは知っている。

 おばあちゃんはおじいちゃんのお墓には「一回しか」行ったことないって。事実、おじいちゃんのお墓に飾ってあるお花は、おばあちゃんが持っていく花とは違うから。きっとほかの人が、おじいちゃんのお墓に花をあげているんだと思う。


「おばあちゃん、あたしも一緒に行っていい?」


 ある日、勇気を出してそう言ってみた。おばあちゃんはいつもの優しい顔で、いいよ、と言った。その日は一緒に花を摘んだ。

 二人で一緒に歩く時は、時間がすごく遅く感じるの。おばあちゃんのリズムはとってもゆっくりで、それが心地いい。あたしはおばあちゃんも大好きだった。

 お墓に着くと真っ先に、おばあちゃんは置いてあるヤカンに水を汲む。花を生けるための、大事なお水。あたしは一足先におじいちゃんのお墓に行った。……やっぱり、お花が違う。

「どうして、お花が違うの?」

 ヤカンを持ってきたおばあちゃんに、あたしはそう聞いた。

「別の人にあげているからよ」
「おじいちゃんにはあげないの?」
「おじいちゃんにお花をあげてくれる人は大勢居るから、いいのよ」

 そう言っておばあちゃんは優しくあたしの頭を撫でた。なんとなく、意味がわかった気がした。おじいちゃんのお墓には、あたしの摘んだお花を飾った。

 帰り際、おばあちゃんはあたしを呼んで、ひとつのお墓を見せた。名前を見たけれど知らない人だった。

「おばあちゃんの、昔の恋人なのよ」
「おばあちゃんの!?」

 あたしはびっくりした。だって、おばあちゃんの恋人はおじいちゃんだと思ってたから。おばあちゃんはやっぱり笑って、何でおじいちゃんのお墓にお花を飾らないかを教えてくれた。

「このお墓に入っている人とね、本当は結婚するはずだったの。でもこの人は貧しくて身寄りもなくて。おばあちゃんのお父さんとお母さんは大反対。それで、あらぬ噂が流れて、この人は自分で命を絶ったの。おばあちゃんを残してね」

 おじいちゃんが死んだときは泣かなかったのに、この人のお墓の前でおばあちゃんは泣いていた。あたしがいるのに泣いていた。なんだかあたしまで悲しくなった。

「せめてお墓だけは立ててあげてって頼んでね、この人のお墓を作ってもらったの。でも、絶対に参ってはいけなかった……おじいちゃんとの結婚が決まったから、そんなみっともないことはするなって、言われてね」

 おばあちゃんは花を生け、両手を合わせた。あたしも、名前も顔も知らない人のために、両手を合わせた。

「おじいちゃんが死んで、おばあちゃんはやっとこの人に会えたの。おじいちゃんのことはちゃんと愛してる、心配しないで。でもね、おばあちゃんにとってこの人は特別なの」

 みんなに好かれて、花の絶えることのないおじいちゃんとは違って、この人はみんなに忌み嫌われて、愛さえ奪われた。誰も彼の墓に花など手向けなかった。

 だからおばあちゃんは、この人のお墓に花を持ってくるんだ。あたしはおじいちゃんのことを好きなおばあちゃんしか知らない。でも、この人を愛していたおばあちゃんを今日見た。

「おばあちゃん」

 帰ろう? そう言ったら、おばあちゃんは涙を拭いて、そうね……と答えてくれた。帰り道は手をつないで帰った。

「その人のお話、聞かせてね」
「おばあちゃんがおじいちゃんのところに行く前に、話してあげるね」

 優しく笑うおばあちゃん。

 おじいちゃんのことを、きっと本当に大切にしてくれたおばあちゃん。だからあたしもパパもこの世界にいるんだね。でも、その人とおばあちゃんが一緒になっていたら、あたしもパパも生まれなかったんだろう。

 それでも、よかったのかもしれない。だって愛は二人で育むものだもの。


「おばあちゃん、あたしおばあちゃんもおじいちゃんも大好き」
「ありがとう。おばあちゃんも、大好きよ」



 大好き。まだ愛ってわかんないけど、おばあちゃんの顔が幸せそうだから、きっといいものなんだと思う。いつかあたしもするんだろうな。

 右手をぎゅっと握り締めて、あたしはおばあちゃんと笑いあった。




 帰り道に見た空は、真っ青に澄んで、とっても……綺麗だったよ。


 
2007-03-23 23:20:58公開 / 作者:バター
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この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして、シモネッティと申します。
拝読させていただきました。

シンプルながらとてもいい作品だと思います。文字数じたいは少ないですが、それがかえっていいかもしれません。ちょっとじわっときちゃいましたw
今後も期待してます。
2007-03-24 05:59:10【★★★★☆】シモネッティ
シモネッティ様

感想コメントありがとうございます^^
文字数は少なめですね。その分やはり描写不足が目立ちますけれど、
主人公の少女にいろいろと救われましたvv
いい作品と言っていただけて嬉しいです!!
ありがとうございましたvv
2007-03-24 21:10:35【☆☆☆☆☆】バター
はじめまして、風間新輝と申します。
すごいほんわかしてて、優しい雰囲気が文章全体にただよっていて心が洗われる気がしました。
次回作期待してます。
2007-03-25 03:15:29【☆☆☆☆☆】風間新輝
作品を読ませていただきました。軟らかい文章が作品にあっていますね。読みやすいのですが、描写が少なく〈おばあちゃん〉の想いがセリフからだけしか伝わってこないのでもったいない感じがしました。もう少し描写を増やして欲しいですね。また、行間が不必要に空きすぎているため作品の良さが薄まってしまった印象がありました。戯れ言を失礼しました。では、次回作品を期待しています。
2007-03-25 10:49:28【☆☆☆☆☆】甘木
[簡易感想]軽く読めてよかったです。
2007-03-25 12:05:39【☆☆☆☆☆】アナハイム
 それでも私はおじいちゃんへの冒涜を感じます。
2007-03-25 12:07:34【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
[簡易感想]しんみりしました。良かったです。
2007-03-26 23:57:00【☆☆☆☆☆】カメメ
風間新輝様

こんばんは、返事が遅くなってしまい申し訳ありません。
読んで下さってありがとうございました^^
嬉しい言葉をたくさん言って下さってありがとうございます。
とても励みになりました。
2007-03-27 01:26:27【☆☆☆☆☆】バター
甘木様

こんばんは。返事が遅くなってしまって申し訳ありませんでした。
確かにご指摘の通り描写がだいぶ不足していますね。
そこは自分でもわかっておりましたので、指摘して下さって
改めて見直すことが出来ました。ありがとうございます。
行間があきすぎ、という指摘も次回は踏まえるつもりです。
意図的な行間も少しは控えるべきですね。勉強になりました^^
いえいえ、大変為になるお言葉をありがとうございました!
2007-03-27 01:28:50【☆☆☆☆☆】バター
アナハイム様

ありがとうございます。
軽く読めたと言うことで、ショートの枠にぎりぎり収まったかいがありましたvv感想嬉しいです^^*
2007-03-27 01:30:00【☆☆☆☆☆】バター
模造の冠を被ったお犬さま様

こんばんは。
はい、ご指摘のとおり、確かに「おじいちゃん」にかんしては
ちょっと酷い扱いかもしれませんね。そこは反省点です。
もっと綺麗な形で表現したかったのですが、イマイチできて居ませんでした。そういった指摘も本当にありがたいです。

2007-03-27 01:31:34【☆☆☆☆☆】バター
カメメ様

感想ありがとうございます^^
しんみりして下さったようで、よかったですvv
大変嬉しく思いますvv
2007-03-27 01:32:16【☆☆☆☆☆】バター
計:4点
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