『新災〜人形を巡って〜』作者:紫 湖洸 / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
重なってしまった二つの世界。そして落ちてしまった神のおもちゃ「ドール」。そして「ドール」により生まれた黒い存在。その黒い存在は二つの世界を少しずつ引き合わせていく。「ドール」に魅入られた少年と、「ドール」を破壊しようとする青年、そして全てから逃げるために、人形に魂を託した少女。その者たちの物語はどのように進むのだろうか。破滅か、それとも――
全角27370.5文字
容量54741 bytes
原稿用紙約68.43枚
 〜プロローグ〜
 『人形の行方』

 
 人間界と隣り合わせで確かに存在する魔界。その姿は人間界と似て非なる物だ。球型の星という点と、心をもつ生き物達という点は同じだが、そこに居る住人の容姿は人間とは違い、耳は尖り、目は赤く染まっている。
 そんな魔界では最近、ある現象がみられるようになっていた。
「こちらカナド隊! サーラ砂漠に謎の建築物を発見! ただいま調査に入る!」
 調査に向かっていたカナド隊の、この隊員の発信が始まりだった。サーラ砂漠という、魔界の南に位置する砂漠の建築物を調査しに行った隊員は、数週間後に遺体で帰ってきたのである。
 これを、不可解に感じたルーゾフ・カナド隊長は、さらに隊員を何人か派遣する。しかし、結果は同じだった。
「こちらルーゾフ! カナド隊員、応答せよ! カナド隊員!」
 彼らが変わり果てた姿で戻ってきたのは、派遣された日のちょうど三週間後だった。
 これらの不可解な事件をルーゾフは軍に報告し、軍は国の最高権力者に協力を求めた。何も動きは無かった。いや、動けなかったというのが正しいだろう。何せ、そんな報告が色んな市民からも届いており、そしてその最高権力者も同じ事件ですでに亡くなっていたのだから。
 
 軍内部は最高権力者の死、そして不可解な現象の多さに困惑していた。軍本部の廊下は調査の命令や、現象をまとめた書類の確保などで、走っている兵士ばかりだ。
 そんな中その現象を発見し、多い犠牲をはらった隊の隊長、ルーゾフもまた忙しそうに走っていた。階段を何段か抜かして駆け上り、全ての隊を仕切っている、カーナス・イリク将軍の部屋へと向かった。
 汗をたらし、へとへとになりならがも、最上階についた彼は、将軍の部屋をノックした。
「カーナス将軍、お呼びがあったので参りました。ルーゾフです」
「入れ」
 そういわれると、ルーゾフはドアを開け、部屋に入った。部屋の床は書類でうもっており、足の踏み場がない。そして、片付いていた机に軍服姿で眉のしわをよせ、書類を眺めている将軍が座っていた
「将軍、何かあったのですか? 深刻なお顔ですが」
 将軍はルーゾフに気付き彼の方を向いた。書類から目を離した今でさえ、難しい顔をしている。
「今、軍で問題になってることは知っているだろう? よりによって人間界とこの世界が重なっているという大事な時期に、あれが片付いてないことを」
 そのルーゾフは少し考えて、思いついたように言う。
「ドール……ですか? 今何体か行方がわからなくなっているという、神の人形……」
 タバコを吸ってから、カーナスはある写真を机から取り出した。その写真には人形が映っていた。
 その人形こそ、彼らの言う神の人形だ。その人形は、人の魂を取り込むと言われている。
「ああ、こいつがまだ片付いていない。この写真を撮った者の行方は未だ不明らしい。そんなブツが、人間界の落ちたら一大事だろう」
 写真を眺めたルーゾフはある事実に気付いた。
「将軍、この写真のバックにある木。これは人間界の樹木では? たしか栗という実のなる木です。この熟していない緑色の刺の実、確実に栗です」
 驚いたあまり、カーナスがくわえていたタバコは床へと落ちた。  
「何だと……? ということはもうすでにドールは向こうに……?」
 




 夏のある日、成宮家は東京の家から祖母の家に遊びに行った。家には仕事づけになっている父をのこして。
 成宮家の長男の浩介は、祖母のホコリっぽい倉庫で、何かを探していた。
「おかしいな、確かにここらへんにあったはずなんだけど」
 ホコリまみれになりながらも一生懸命に、彼は探し続けた。何を探してるかというと、人形だ。
「お婆ちゃんが持ってったのかな。いや、こんな倉庫にお婆ちゃんがくるはずないか」
 彼の探している所は倉庫の二階。しかも登るには梯子でいくしかなく、とても年寄りがこれるようなところではない。
「箱さえもない、もうそろそろ昼だろうし……早く帰らないと怒られちゃうよ」
 しょうがない、と浩介は諦め、近くに散らばっているアルバム、辞書、絵などを元の位置に片付け、梯子を降りた。あまり倉庫にいても祖母に怒られてしまうだろう。倉庫は祖父の遺品だらけなのだから。
 外にでると、気持ちいいぐらいに空は澄み渡っていた。周りは青々とした雑草が、地面を見せないほどにしげっており、手入れをしていない畑は、もはや草原になったいた。
「やっぱ明るい所って気持ちいいけど、落ち着かないな〜。この草とか邪魔だしさ。まったく、手入れしろっての」
 草をかきわけ、彼は自分の家へ向かった。倉庫から家は結構離れているので、帰るのは面倒くさい。まったく、何でこんな所に倉庫なんて建てたんだか、と浩介は心で思いながらも、家族さえ近づかないという理由を考え、やっぱ良かった、と思ったのだった。

 やっと家の前に着いた。しかし浩介は嫌な予感がしていた。昼食と思われるカレーの臭いがしたということは、現在は昼。8時に家を出て、すぐに帰ってくると母に言っていた彼は、玄関に建っている人物が確実に母で、確実に怒っていると確信した。
「こんな昼までどこへ行ってたの!」
 やはり、出迎えたのは母の怒声だった。母はいつも怖い。浩介にとって逆らえる存在ではない。
「いや、ちょっと散歩を……さ」
 そう嘘をついても母に通じるはずもなく、母は浩介を疑いの目でみて言った。
「嘘ね。あなたこんな明るい日に散歩なんてするわけないもの」
「俺がジメジメ好きみたいな言い方しないでよ」
 確かに言ってる事は正しいと浩介は思ったわけだが。
「どうせまた、お祖父ちゃんのお気に入りだった倉庫に行ったんでしょ?」
 図星だった彼が、言葉を発する事は無かった。母は呆れ顔だった。リビングをちらりと見ると、妹が白いカーテンを少しあけて笑っていた。
「呆れた。とにかく昼食できたから。今は入りなさい」
 彼は昼食後の説教に怯えながらも家へと入っていった。

 昼食の時間は彼にとって最悪な時間だった。祖母に怒られ、母に冷たい目で見られ、妹には散々笑われる。
 妹を睨んだ浩介は、皿を片付けに行くふりをしてさりげなく家から逃げ出した。
 人形を探すために。
 
 同じ道を通り、倉庫に着いた彼は、午前での捜索活動の続きを始めた。
「なんで無かったんだろう。先週は確かにあったし、あそこの鍵もってるのは俺と祖母ちゃんだけだし」
 一階には絶対に置いてはいない。なのに何故? 浩介の頭は疑問でうまっていた。
 はっきりとあの時の記憶はある。たしかに置いた。二階にあったあのダンボール箱に。だがその箱さえも無かった。
「薄気味悪いな〜。確かにあの人形も薄気味悪かったけどさ〜」
 ためしに一階に下りた彼は時間を忘れ、探すのに没頭していた。
 
 彼がここまで人形を気になってるのには理由がある。あれは、もの忘れの激しい祖母が、祖父の遺品を全てメモした際に書いた紙に雄一書いてなかった遺品なのだ。しかも、人形とは思えないほどに重く、素材も布とは思えなかった。
 その後、気になったので祖母の家にいくたびに倉庫に行き、人形を眺めていた。
 そんな人形がなくなったことは、彼の楽しみがなくなったという事だ。祖母の家であることは、ほとんどが怒られることばかりだから、人形を見る時間は、とても気持ちが安らいだ時間だった。

「あの人形……一体何だったんだろう。無い今じゃ何も分からないや」
 陽が沈んできた帰り道を、浩介は残念そうにゆっくりと歩いていた。
 結局何も見つからず、何もわからず、時間だけを費やしただけの時間だった。
「急がないと母さんにまた怒られるや、急ごう」
 彼は急ぎ足で家へと戻っていった。
 

「ん?」
 家の前に着いた浩介は何かに気がついた。見たことも無い車が止まっている。一度も客としては見たこともない車だ。しかも高級車。一体家に何の用だろうか。
「ただいま」
 
 ドアを開けると、玄関には知らない男性が血まみれのナイフを握って立っていた。
「だれ、だ?」
 男性の震えた声がする。浩介は何も動こうとしなかったが、次の瞬間浩介の表情は完全な怒りへと変わった。
 何故か、それは奥で倒れている、妹の姿を目の当たりにしたからだ。
「あんた、何をした?」
 男性は後ろの様子をみて、少し笑みを浮かべた。
「ああ、あのガキはお前の妹か何かか? フフフ、とても逃げ惑っていたよ。泣いて、泣いてな」
 そのとき浩介は男性に殴りかかった。見事に隙ができていた男性の顔にヒットする。
「痛ッッ!」
 男性は顔を抑えた。顔は真っ赤に染まっている。
「調子に乗りやがって、ガキがッ!」
 男性はナイフを振りかざした。浩介は避け切れなかった。
「うっ……!」
 浩介の腹は赤く染まっていた。
「ガキが調子に乗るからだ。この家族はこれで皆殺しだ。ハッハハ」 
 男性は去ろうとしていた、だが浩介はその足を掴む。
「離せ」
 その顔は冷酷で残酷に満ちた顔をしていた。だが浩介の顔も憎しみに溢れている。
「お前が、お前が奪った! 俺の日常を、そして家族をな!」
 男はその手を振りほどき、踏みつけた。
「がッ……!」
 男はその声を聞くなりまた笑い、去っていった。
「死ぬのか……俺?」
 口からも血が出てきた。浩介は悟った。もう助からないと。
 他の家族の後を追う、そう思えれば綺麗に終わる。だが、そうは思えなかった。
「憎い、あいつが……憎い」
 死ぬ前に、浩介は復讐をしたかった。家族を、そしていつもの平和な日常を壊したあの男に。

 


 ──ほうこれは良い。良い心の鼓動だ。
 浩介に、声が聞こえた。かすかにかすれた声だ。
 ──それほどに憎いか。それほど、あの男が。
 浩介の意識は確かに失せていっている。だが、その声だけは強く、鮮明に頭に響く。
 ──私が、邪悪な私がお前の願いを叶えてやろう。お前の記憶も邪悪だしな。
「願い……邪悪か」
 浩介のまぶたはだんだんと閉じていく。
 ──待て、今までの怨念の中でお前はもっとも強力だ。まだ逝くんじゃない。
 浩介は、赤い光に包みこまれていった。
 ──私と……融合しろ。
「意識が戻ってきた……お前は何者? 融合って何だよ?」
 浩介は目の前に広がる赤いものに問いかけた。
 ──私は、お前……つも一緒に居た。そし……れからは一つになる。
 その赤い光の声の方は、浩介とは逆に、かすれていく。
「一つ? 融合? さっきから何を言っているんだ?」
 ──……
 光は完全に、浩介の体を包み込んだ。その光は、まるで宇宙が生まれた時のように爆発を起こした。




「カーナス将軍! 聞こえますか!」 
 軍本部にある自分の部屋で、ルーゾフは無線を使っていた。手には地図を握りしめている。
「こちらカーナス! 何があった!」
「地域のエネルギー検査をしていたら、とても強い力を放っている地域があったんです!」
 ルーゾフとは思えないような大きな声だった。
「ルーゾフ落ち着け。そんな大きな声では私の耳がつぶれる」
「す、すいません。それで、その強い力を放っている地域が、ちょうど人間界と重なって、人間界に侵入することが可能になってしまった地域なんです。しかも、そのエネルギー反応の大きさが、ドールと生物が融合した時と驚く程に似ているんです。そして融合時に起こる光の爆発はこちらの世界にはなかった……つまりドールは人間界に」
 ようやく落ち着いたルーゾフが握りしめていた地図を見ながら言った。
「くっ! 人間界に侵入する前に融合してしまうとはっ!」
 カーナスは机に拳をぶつけた。ルーゾフは、無線魔法でもその音が聞こえていた。
「……将軍」
「起こったことはこれから取り戻すあるまい……。それで、その光が発生した地域というのは?」
 ルーゾフがちょうど地図のある場所に、印をつけた。
「海に囲まれている島……日本です」




 〜第一章〜
 『動く者達』
 
 かつて浩介がすんでいた家は瓦礫の山に変わっていた。そして周りの家も崩れてしまっている。原因は光の爆発だろう。
 その事件の後、遠くからその爆発を見ていた人の通報で、警察、救急隊などがその町に向かった。しかし誰一人帰ってこなかった。確認できたのはヘリの残骸だけ。そんな怪奇事件に日本全国が震え上がり、取材陣が殺到してしまった。
 ひたすら町にはヘリの音が響く。そんななか、瓦礫が持ち上がった。ヘリに乗っている取材班はその動きに気付いたのか、カメラを構える。
「おい! あそこで何かが動いたぞ! もっと近づくんだ!」
 ヘリはどんどん接近していった。そしてヘリを地面に降ろし、取材班はカメラを構えた。
「え〜中継でお送りしています。只今廃墟の町と化した場所の瓦礫が少し動きました。もしかすると生存者かもしれません。ちょっと瓦礫をどかしてみます」
 その時、その取材班の後ろから何かが近寄ってきた。
「ん?あれは何でしょうか? 剣を持って……こちらに走ってきます! ちょっと、逃げよう。カメラ走って!」
 取材班はヘリに向かって逃げ出したのだが、ヘリも破壊されており、絶対絶命の状況となっていた。
「か、カメラ!」
 カメラマンはそこで転んでしまったのだ。追ってきた人物の剣はカメラマンの喉を捕らえた。
「うあああああ!」
 カメラマンはそこで命を絶たれてしまった。その場をみて記者は恐怖の叫びを上げ、倒れこんだ。
「も、もう終わりだ。囲まれてしまった」 
 追ってきた人物はいつの間にか三人に増えており記者は絶望を感じた。

 
 ルーゾフは隊員を集めた部屋に急いでいた。手には無線が握られており、その手は汗ばんでいた。
 数時間前、軍直々に命令が入ったのだ。そして今それを隊員に伝えに行こうとしている所だ。
 数分たって、部屋に着き、ドアを開けた。それまで騒がしかった隊員達はそのとたん静かになっていた。
「カナド隊員諸君! 只今命令が入った! カーナス将軍の配下の元、我らカナド隊と、チュリア・トリス隊長率いる、トリス隊と共同して人間界に潜入する!」
 それを聞き、ほとんどの隊員は凍りついた。なにせ未知の世界であり、今まさに軍を揺れ動かしている人間界に降り立てというのだ。隊員らの顔は恐怖の顔へ変わっていった。
 それを察してか、ルーゾフは言った。
「だが、あまり大人数で人間界に潜入しては、人間達にばれる確立も多い。最初に少人数で偵察に行き、確認してから残ったもの全員に降り立ってもらう。まぁ降りるところは廃墟と化してることから人間に見つかる可能性は低いが」
 そこまでルーゾフが話したとき、ある隊員が質問をした。
「その偵察に向かう者というのは、もう決まっているのですか?」
「決めてはいない。今から……私達隊長と、偵察に来てくれるものを決めたい。偵察ともあり、何があるかわからないし、人数もかなり少ない。だが、それでも来てくれる者は椅子から立ち上がってほしい」
 ルーゾフは声をおとして言った。ルーゾフは周りを見渡した。皆、迷っているような顔をしている。
 室内は重い空気で包まれていた。とその時、立ち上がった隊員がいた。その隊員は恐らくこの隊で一番若い。
「イシハ・カヤミ、偵察作戦に参加させてください!」
 そのあまりの威勢のよさに、皆驚いていた。
「作戦は非常に危険だぞ? 廃墟だが、何があるかわからない」
 ルーゾフは問いかけた。だがイシハの意志は変わらない。
「分かってます。ですが、僕は知りたいのです。亡くなったカナド隊員に何があったのか」
 それを聞き、ルーゾフは笑顔を浮かべ、イシハに手を差し出した。
「よろしく。イシハ」
 イシハはその手を握った。その時、もう一人また立ち上がる隊員が居た。
「ミヤ・ソーティアス、私も偵察作戦に入りたいです!」
 それは女隊員だった。女性を入れるのは、気が進まないルーゾフだったが、彼女の目にもまた強い意志を感じたので、ルーゾフは手をまた差し伸べた。
「参加してくれてありがとう」
「私の能力が役立てばいいのですが」
 そう言って握手を交わしてから、ルーゾフはまだ立ち上がろうとしている隊員たちに、
「君らはカーナス将軍の命令にしたがって動いてくれ。偵察隊は私とこの二人、トリス隊の隊長と隊員二人で編成する」
 と言って部屋を出て行った。
「僕らだけでいいんですか?」
 イシハはルーゾフに聞いた。何せ、六人だけの作戦だ。すこし不安だった。
「私も思ってました。いくらなんでも少なすぎでは?」
 ミヤもイシハもどうやら同じ心境のようだ。
「確かに、そうかもしれないが……」
 そういってルーゾフは二つの紙を二人に見せた。
「これは何です? ……エネルギー反応の結果ですか?」
 イシハは紙の上に書かれていた文字を読みそう言った。どうやらミヤは気付いたようで、驚いた顔をしている。
「この二つは、これから潜入する場所の反応結果で、こっちが数時間前、そしてこの紙が最近の結果というわけですね?」
 ルーゾフは感心していた。
「君、なかなか鋭いな。そう、これは潜入する人間界のエネルギー反応結果だ。これは二時間前に調べた結果だが……」
 そう言って二枚のうちの一枚を見せた。それには黒い点が4つ見える。
「この点がエネルギーを発している。そしてその点の濃さがエネルギー反応の高さを示している。人間と考えれば普通なのだが、このエネルギー反応結果には人間はエネルギーを発してないので載らない。つまり人間界に居るはずのないもの。つまりこの世界の者だ。だがこの世界にこんなに濃いエネルギーを出す者はいない。ましてやこんな点ほどのサイズでは。君らともあまり変わらない大きさだ。そしてなにより、この一つはものすごく濃い色をしている。そうとうのエネルギーだ。」
 そう言ってからルーゾフは、もう一枚の紙を見せた。
「そしてこれは……」
 そう説明しようとしたとたん、イシハが口を挟んだ。
「この結果だと、点が二個に減ってるじゃないですか!」
 ミヤも興味津々だった。
「……エネルギーを発してる者が人間に殺された?」
「いや違う。人間にそんな力はない。恐らく一番濃いエネルギーのド……おっと、そろそろ集合場所だ」
 ミヤもイシハもその続きが気になったが、結局ルーゾフはさっさと集合場所へ駆けて行ってしまった。

 
 記者が逃げ惑っていたあの廃墟の町では、一人の少年が闘っていた。
 少年の容姿は、まるで鬼だった。顔は元の顔だったが、銀色の髪、そこから生える角、そして鎧を着た体、握っている長い刀。まさに鬼神だ。
「はあっ!」
 少年は剣をもった黒い人物めがけて刀を振り下ろした。だが刀は受け止められ、振り払われる。
「チッ、アンタは結構強いね。他の二体はあっさり死んだけどさ」
 少年の後ろには、怯えている記者が立てずに座っており、その横には黒い人物が倒れていた。
 『何故だ。何故覚醒したばかりのドールがそこまで惑わずに闘える?』
 その声はすこしかすれて低かった。
「ドールとかなんだか知らないが、俺は殺された復讐のために蘇った…俺は闘うために蘇ったのさ!」
 『人間にその力を使う気なのか? ふざけるな。その力はそんなくだらぬ理由などに…』
 その言葉に少年の目は一気に殺意で満ちた。
「くだらないだと?」
 少年は刀を黒い人物めがけて振った。黒い人物は剣で刀を防いだが、少年のあまりの力の入れように、剣を手から離してしまった。
 『クッ! 剣が!』
「俺の目の前から消え失せろ!」
 少年は刀で黒い人物を縦に斬ったあと、胸めがけて刀を突き刺した。
『の、呪われ、れしに、ん、げ、ん、め。わ、れ、ら、は、お、ま、え、か、ら……』
 黒い人物は倒れ、動かなくなった。
「俺から? 何が言いたいんだか。呪われてるのはお前らだろ」
 少年はそう吐き捨てた。そのとき彼の顔を何かの光が照らした。
「あ、ごめんね。ボウヤ。ちょっと格好よかったからついついカメラをさ」
 記者は震えながらも何かの新発見に、嬉しさを隠せなかった。そんな大人に、少年は呆れていた。
「あんた懲りないな。殺されそうになったのに。俺だってあの化け物たちと大体同じようなもんだぞ?」
「そうは見えないよ。だって君化け物じゃないもの」
 少年は少し複雑な感情だった。
「おっさん。俺は死んでるんだよ。殺されたんだ」
 記者はすこし戸惑った。
「何言ってるんだい? だって君は……」
 記者がしゃべっている途中、少年は刀を抜いた。
「わわわ、ちょっと、やめてよ、ぼくが何かした?」
「おっさん。すぐここから消えたほうがいい」 
 記者は少年の刀に怯えながらも問いかけた。
「な、何で? もう化け物は居なくなった、これで報道陣が消えた元凶もなくなったじゃない」
「近づいてきているんだ」
 少年は東の方向を見つめ繰り返した。
「近づいてるんだよ。東のほうからさっきの奴と同じ感じがする、何かが」
 記者は少年と同じ方を向いた。だが記者に目には何もうつらない。
「いや、来てるって言われてもなあ」
 記者はやはり少年のことを不思議に感じていた。何なのだろう? この子は。
 そう記者が考えていると、少年はいきなり小刀を記者に渡し、
「これで身を守れ」
 と言い残して東へ走っていった。
「彼は、一体?」
 そういいながらも、記者もまた西の方角へと走っていった。
 
 少年は記者が見えなくなったころに立ち止まった。
「なんとか騙せたな」
 彼は意地悪な笑みを浮かべていた。
「ったく。そんな予知機能が俺にあるかよ。……さて。」
 彼は歩き始めた。周りの悲惨な状況を見渡しながら。
「なんでこうなったかなぁ?」
 水道管が壊れて水が噴出し、それによってできた水溜りを眺めた。自分の顔をみるために。
 少年はずっと、ずっと気になっていたのだ。自分の容姿が。恐らく化け物の顔をしているだろう。そうは思っていた。何せ、死んだはずなのに、何かの声に包まれ、そして今蘇っている。そして周りの景色の変化とどうじに自分の力の変化と、心に眠る憎しみの心。彼はきっと自分は悪魔に心を売ったのだ、とそう感じていた。
 水溜りを、見てみた。
「……偉く変わったな。成宮 浩介も」
 そうつぶやいた彼。彼はかつて自分の家族を殺され、そして抵抗むなしく自分さえも殺された少年、浩介なのだ。
 あの融合による光の爆発の後、瓦礫に埋もれていた彼は、何かの鼓動を感じ、目覚め、記者を助けるために、そして自分の憎しみをできるだけ発散させるため、黒い人物をなぎ倒していたのだ。
「もう……後戻りなんてできないのか。俺は一体何をすれば……」


 ルーゾフらは集合場所に着き、ルーゾフはチュリア隊長に挨拶をしていた。
「お久しぶりですね。チュリア隊長」
 チュリアは帽子をとり、お辞儀をした。その姿は紳士的で、その白髪と、白髭からは、隊長より上の階級を感じさせた。
「ふふ、相変わらずかわらんのだな。自分の隊員以外へのその敬語は」
 チュリアは笑いながら顔を上げ、ルーゾフに手を差し出した。
「敬語以外はなかなか慣れないものでしてね。ああ、よろしく」
 ルーゾフも笑みを浮かべ、握手をした。
 二人が挨拶をし終わったとき、何かの音がなった。驚いている隊員に、ルーゾフは説明した。
「この音は、ライダードラグーンの発進がOKになったという音だ」
 イシハは首をかしげた。
「ライダードラグーンって何ですか? そういえば人間界への行き方も説明されてませんが」
 そこでチュリアが説明を始めた。
「そうだな……ライダードラグーンというのは空を飛ぶ竜のことだ。わしも一回しか乗ったことがないのだが、ライダードラグーンは、荷車の何倍も早いぞ。それになにより頑丈だ。人間界に行く時に負荷がかかったとしても、ライダードラグーンなら耐え切れるだろう。さて、そろそろ行くぞ。ライダードラグーンが発進するカタパルトはすぐそこだ。」
 そこでミヤが質問をした。
「ライダードラグーンって……乗り込むのですか?」
 チュリアは何食わぬ顔だった。
「いんや、普通に乗るのだ。馬にのるようなもんだな」
「そ、それじゃ負荷を耐え切れるっていうのは……」
 チュリアはようやくミヤの心配に気付いたらしく、意地悪な笑みを浮かべた。
「そうだな、ライダードラグーンは耐え切れる。ライダードラグーンは、な。
 ミヤの顔はどんどん青くなるばかりだった。そんなミヤを見かねたのか、ルーゾフは口を挟む。
「私たちだった耐え切れる。私たちは木材じゃないからな。ほら、こんな雑談なんてしてる場合じゃない、いくぞ」
 そういって彼は隊員を連れてカタパルトへと向かった。
「まったく、わしがせっかくからかって遊んでいたのに……お、おいわしを置いてくな」
 一同はカタパルトへと向かった。一人の年寄りを置いて。
 
「これが……ライダードラグーンか」
 イシハはとても興味ありげにそれを眺めていた。それとは反対にミヤは顔を青くしていたわけだが。
 そんな時、兵士が一同に声をかけた。
「もう発進準備は出来ています。いつでも発進できますよ。それと、自動操縦なので乗っているだけでOKです。あとはきちんとシートベルトを付けてくださいね」
「だとよ、ミヤ。ベルトを閉めればなんとかなるみたいだ」
 イシハは少し前のチュリアの意地悪な顔のようになっていた。
「あなたたち……そんなのじゃ一生彼女できないわよ……」
 ミヤは青い顔を赤に変え、チュリアとイシハを睨んでいた。
 ルーゾフは緊張しきっていたので、談笑などしてる余裕はなかった。
「皆、ライダードラグーンに乗れ! 発進するぞ!」
 皆慌てて乗り、ベルトを閉めた。
 その時、ナレーション入った。
━発進準備OK━
「ついに始まるのか……」
 ルーゾフの胸の鼓動はどんどん早く波打っていった。
━カタパルトゲートオープン━
 外の景色が見えてきた。どんどん開いていくカタパルトからは光が差し込んでくる。だがそれと同時に、遠くには交差地点の闇が見える。
━発進してください━
 そして、ライダードラグーンは発進していった。
 自動操縦なので、ぐんぐんと勝手に交差地点へと近づいていく。
「あれが……」
 ルーゾフは交差地点の上空にある闇を見据えた。その闇には、うっすらと何かが浮かんでいる。
「あの中に……強いエネルギー反応を発するものを殺した奴が……ドールが居るのか」
 ルーゾフは闇を睨んだ。
「いや、たとえドールだろうが、何だろうが、絶対に殺されはしないっ!」
 彼らは闇へと突っ切っていった。


 浩介は何もできない無力さに打ちひしがれていた。復讐のために蘇ったのに、なのにその復讐の相手さえ、この瓦礫の町に埋もれてしまった可能性だってあるし、生きていたとしてもどこにいるかなんて分かりはしない。
「この町だって……崩壊したのは俺のせいだろうし」
 荒れ果てた周囲を見渡し、彼はため息を付いた。そして彼は空を眺めた。
「不思議なことばかりだ。俺の容姿はあの人形に酷似しているし。空は何時間たっても朱に染まっている。第一あの黒い奴らは何だ? 奴らは人間とは思えない。なんでか、俺に似てる気がす…ん? な、何だあれは!」
 彼が眺めていた朱に染まった空に、六つの光を発する何かが、ものすごい速さにこちらに近づいてきている。
「おっさんに言ったことが本当になっちまったのか?」
 彼は少し不安の表情を浮かべていた。
「あいつら、あの黒い奴らと同じ感じがする。くそっ六体か……」
 彼は刀を鞘から抜き、空の六体に刃先を向けた。
 不安な表情は変わらない。だが彼は闘うことを決心した。
「もうこうなったら何体でもかかってこい! ……全員、この刀でぶった切ってやる!」
 彼は汗をたらしながらも、空を睨んだ。
「ん? ……あれは竜! ちっ、面倒なもんが来やがった!」  
 次第に近づいてくるその六体の姿が段々と確認できるようになったとき、彼は驚きを隠せなかった。
「人が乗ってやがる……! あの眼鏡野郎の手には槍で、金髪もじゃと兜野郎どもは剣、あの女は弓、あのジジイは斧か。あの金髪もじゃと兜野郎はどうにかなりそうだが、他の奴らの武器には俺の刀は不向きだな。クソッ」
 彼の刀は震えていた。

 
 朱に染まった空で、青年の声が響いた。
「隊長! あそこに何かいます! あれは人間とは思えない容姿です!」
 人間界に着いた時から、何かが居るのが確認できたイシハの鋭い眼は、ある者をとらえていた。
「そんなこと言われても、私にはまだ何も見えん」
 ルーゾフは自分の眼鏡を落とさないように支えながら、下を見据えた。
 確かに何か見えるような気はするが、彼の視力の悪さではよく見えない。
「う〜ん、なあイシハ、お前に視える奴はどんな姿なんだ?」
 イシハは剣を構えていた。ルーゾフの質問に答える彼の声は震えていた。
「一言で言い表すならば鬼です。片方の頭には角、体には鎧、そしてこちらに向けている刀、恐らくあれが一番濃いエネルギー反応の持ち主ですよ」
 そういわれ、ルーゾフも持っていた槍を構えた。その様子を見たほかの者もだ。
「いいか、地面は瓦礫の山だ。地面に降りた時、すこしクッションがある。とはいえ注意が必要だ。ライダードラグーンから飛び降りるときは注意して飛び降りろ」
 チュリアさえ緊張している。ベテランの彼だが、これほど強いエネルギーの持ち主と闘おうとしているのは初めてだ。
 ルーゾフは瓦礫の町を見渡した。
「ここで光の爆発が起きたのか……? ドールの融合爆発にしては、規模が大きすぎないか? ドール一体の光爆発で起こせる爆発の範囲は町全体ではないはずだが。まさか……ドールが複数ここで……?」
 彼は何かを掴みかけたような気がしていた。次第に近づく人物の姿をみて確信した。
「間違いない。あれは私が探しているドールじゃない。あれはドールだが……あれは元々人間界にあった物だ。あれは資料に載っているだけで、未確認のドールの「修羅鬼」だ」
 彼は調べ物が好きで、よく趣味でしらべており、ドールについてもいくつか調べていた。その知恵が今役立つとは、彼も思いもしなかっただろう。
「今だ! 飛び降りろ!」
 チュリアの声が響き、皆ライダードラグーンから飛び降りていった。

「けっ! 遂に来やがった!」
 彼は刀を構え、降りた兵士に向かって駆け出した。
「うおおおおお!」
 彼の刀は、まだ体勢をととのえてなかった兵士の腹を貫通する。兵士の腹から赤のしぶきがあがった。
「ぐああッ!」
 倒れかけた兵士を浩介は掴み、近くで剣を構えているイシハめがけて押しやった。
 その瞬間、兵士がイシハにぶつかり、イシハは剣を落としてしまった。そして浩介は刀を向け、突進した。
「うっ!」
 イシハは恐怖の声を上げた。刀はもう近くにあった。
 だがそのとき、横から槍が刀を抑えた。それは紛れも無く、ルーゾフの槍だった。
「イシハ! 退け! こいつは隊長クラスでないと渡り合えないような強さだ!」
 ルーゾフの大声が周りに響いた。
「隊長、ですが……」
 イシハは逃げ出すのを拒みかけたが、ルーゾフの思いを理解し、負傷した兵士を背負い、走っていった。
 ルーゾフはそれを見て安心し、抑えていた刀をはらった。
「おわっ!」
 倒れかけた浩介だったが、すぐに体勢を戻し、刃をルーゾフに向けた。
 よくみると、眼鏡をかけた目の前の人物の耳はとがっており、眼も赤かった。
「さっきから何なんだよ! 黒い奴らの次はファンタジックなエルフか! 一体どうなってんだよ!」
 ルーゾフはすこし考え、
「やはりそうか……」
 と呟いてから刃を向ける少年に言った。
「私たちは、君が少し前に殺した黒い人物とは違う。黒い人物は、君と他の者達が産んだ存在だ。だが私達はこの朱に染まる空から来た。君を、ドールを返してもらうために」
 言い終わった彼に、浩介は怒鳴った。
「何がドールだ! 意味わかんねえよ! この体なのか? 俺が見守り続けた人形のことなのか!?」
「落ち着くんだ! ドールというのは呪いの人形のことだ。ドールは強い想いをよせた者の魂を引き寄せ、融合する。つまり
君は見守り続けた人形に、魂を吸い寄せられて融合したんだ」
 ルーゾフは説明し、浩介をなだめようとしたが、浩介の怒りは止まらなかった。
「ならなおさらだろ! この体を失ったら俺はどうなる! 俺は、俺には死ぬと言う道しかないじゃないか!」
 浩介は遂にルーゾフに襲いかかった。
「俺の名は成宮 浩介! 復讐を果たすため、俺は悪魔に魂を売ったああ!!」
 ルーゾフは浩介に何か言おうとしたのだが、浩介の攻撃を防ぐことで精一杯だった。
 そのとき、何かが浩介めがけて飛んできた。彼はそれを素手で掴んだ
「ちっ! うざったい飛び道具使いやがって……」
 彼が握っていたのは矢だった。それを放ったのは……
「大丈夫ですか!? 隊長!」
 今回の作戦でただ一人の女性、ミヤだった。
「あの尼ァ!」
 浩介の顔は怒りの表情をみせていて、刀を握る手は怒りのあまり、震えていた。
 ルーゾフは、浩介がミヤの方を向いている隙に立ち上がり、槍を浩介の首の横へと構えた。
「動けば首が飛ぶことになるぞ」
 そう言われ、浩介は動くこともできず。刀を地面に刺し、両手をあげ降参した。そして、悔しそうな顔で、質問をした。
「な、なぁ、ただ一つ聞いていいか?」
 浩介は続けた。
「なんで俺はあんたらみたいな部外者と言葉が通じるのか、それと何でドールって奴がここにあったのか、あの黒い奴らは俺から産まれたってあんた言ってたけど、どういうことなのか。これらの事を聞きたい」
 ルーゾフは静かに問いに答えた。
「……一つだけなら答えられる。黒い者たちの事だ。あとの二つは推測の域までしかいってないから」
 浩介を逃がさないように、警戒して槍を握り締めたルーゾフは話を続けた。
「黒い者たちは生物がドールと融合した時に産まれる。ドールが呪いの人形と呼ばれてる理由の一つだ。黒い者たちは融合すればするほど増えていく」
 浩介はまた質問した。
「それじゃドールは黒い者を増やそうとして融合するのか?」
 ルーゾフは首を縦に振った。
「その通りだ。彼らを増殖させるためにドールは生物の魂と融合する。だが一回の融合で産まれる黒い者は一体。これでは黒い者の繁栄には至らない。だからドールは、黒い者をそのドールと融合した者に襲わせる。ドールの首を飛ばしたりすれば、ドールの中にいる魂は無くなる。だがドール自体はちょっとのことで消えることはない」
 浩介は何かに気付いた。
「ってことはこの町で三回融合が起きたのか……?」 
 そこまで話したとき、チュリアが近づいてきた。
「わしの部下が負傷兵を治療している。だが相当危険な状態らしい」
 チュリアは浩介を見て、話を続けた。
「こいつがドールってやつか。まったく、こんな子供がどんな意志を現せばこんなことになるんだ?」
「…………」
 浩介は黙ってしまった。彼の脳裏に浮かんだのは、家族を奪った男への憎しみだった。
「俺の気持ちさえわからないお前らに……」
 そんな彼の小さすぎる呟きに気付くものは、誰一人いなかった。
 
 数分後、浩介の両手両足は縛られ、ルーゾフらは無線での連絡、資料の作成などで慌しかった。
「あんたらの世界にも無線ってあるんだな。でも俺らの無線とは違うんだな〜。まるで携帯みたいだ」
 浩介は言ったが、誰一人彼の話に応えなかった。さっきまで敵だった者と話したくないのだろう。
「負傷兵を運ぶ準備ができました。あとは軍に連絡して、ライダードラグーンを自動操縦してもらえれば大丈夫です」
 トリス隊の兵が、さっきの負傷兵をおぶり、ライダードラグーンに乗り込んだ。
「たったいま連絡した。もう飛んでいけるはずだ」
 チュリスはそういい、兵士の肩を叩いた。
「状況報告などの説明を頼む」
 兵士はうなずいた。そしてライダードラグーンは、朱に染まる空へ上昇し、消えた。おそらく魔界に突入したのだろう。
 その時、浩介は東の空をまた眺めていた。
「…………」
 その時、ルーゾフの無線から連絡がはいった。その声はカーナス将軍で、せっぱつまった声だった。
「こちらカーナス、聞こえるか!? ルーゾフ!」
 ルーゾフは無線のを掴んだ。
「どうしたんです? カーナス将軍」
 カーナスは、今までにない大きな声で言った。
「光の爆発がまた、お前らの居る国で起こった!」
 その声が耳に入った浩介は目を大きくした。そんなこと無いとおもった。ただ、この町だけで終わると思っていた。
 ルーゾフもまた、驚きを隠せなかった。
「やはりドールは複数こちらの世界に……」
「みたいだな。エネルギー調査によるとあと五体は確認されている」
 カーナスはそう言ったあと、さらに続けた。
「今、光の爆発場所が特定できた。お前の居るところより、東の方角にある……」
 ルーゾフはメモの用意をし、浩介は無線に耳を傾けた。
「東の都。東京だ」
 


 〜第二章〜
 『二人目』

 無線の声で知らされた、光の爆発の場所。それは、人々が仕事に行きかい、町には人の多くであふれている日本の首都、東京だった。そして、皮肉にも東京は、成宮家でただ一人生き残っている浩介の父が居たのだ。
「嘘だろ……」
 浩介の顔は絶望の顔に変わっていた。ルーゾフは無線での会話を続ける。
「トウキョウ……確かそこは日本の首都だったはず。そこに黒い者が現れたら……」
 ルーゾフが言い終わる前に、カーナスが声を落として言った。
「被害は拡大し、死傷者が多く出るだろう。だがもう光の爆発は起こった。つまり東京の一部の家々が崩れさり、黒い者も生まれ、町は大パニックを起こし、日本の首都も死の町へと変貌するだろう……」
 カーナスはそういい終わった後、声を元の調子に戻した。
「そこで……だ。たった今、君らの後に続く本隊がそちらに向かった。君らにはさらに移動してもらい、今度は東京へ向かってほしい。ドールはまだ融合によって気絶しているだろうし、黒い者は一人だ。君らには隊長が二人もいる。それに……」
 カーナスの発言が、そこで止まったので、ルーゾフは質問した。
「それに……なんですか?」
 カーナスはためらいがちに言った。
「……それに隊長クラスのドールも、君らのそばにいる。だから……」
「本気ですか!」
 ルーゾフの声は、周りを驚かせるほどに大きかった。
「彼は私たちを襲ってきたんです! その彼を連れてけ、というのですか!?」
 浩介は、自分のことを言われていることに気づいた。
「俺を東京に連れて行けと、言われているのか?」
 浩介の質問を無視し、ルーゾフはカーナスに訴え続けた。
「彼にいつ裏切られるかわかりません。連れて行くのは無理です。我々だけでも黒い者程度、渡り合えます」
 カーナスもルーゾフの訴えに引かない。
「だからと言ってそこにおいていくわけにはいかん。軍事機密だったが言っておこう。もう人間界ではドールのエネルギー反応が、六十は確認されている」
 ルーゾフの表情は変わった。
「なんですって!? そんな……」
 カーナスは続ける。
「人間界に最近落ちたのは、ドールの中でも最強と言われた物だ。だがそれまでもが覚醒したら……そちらに向かっている本隊さえも全滅しかねない……そこで、だ。この作戦の本当の目的を話そう」
 ルーゾフの眼鏡が地面に落ちた。だがルーゾフはそれにさえ気付かない。
「この作戦の目的、それはドールをできる限り説得。そして回収し、最強のドールを倒せるほどの戦力を作る。日本では最低十体のドールが確認されている。人間には気付かれていないがな。その十体のドールと、できる限り協力するのだ」
 ルーゾフはやっと眼鏡が落ちたことに気付き、眼鏡を拾ってから口を開いた。
「その最強のドールが敵になるとは限らないのでは?」
「いや、そのドールは人間の意志までをも壊す。説得どころか会話もできないだろう」
 ルーゾフは数秒黙り込んだ後、浩介の方へ歩いていった。手にはナイフが握ってあった。
「お前を開放する。腕を上げろ。」
 浩介はやれやれ、と腕を上げた。
「やっとこのキッツイ紐みたいなのから解かれるのか……あ〜しんどかった」
 腕を縛っていたものはなくなり、足も今解かれていた。ルーゾフはそこで浩介に忠告した。
「言っておくが、逃げようと考えたりしたらすぐに、この槍で君の首を飛ばす。覚悟しておくように」
 ルーゾフは言い終わったあと、無線を耳に当てた。浩介は反抗的目つきでルーゾフをにらんでいる。
「それで、移動手段は?」
 ルーゾフの質問に、カーナスはすぐに答えた。
「それだが、ライダードラグーンを利用してもらう。人間界でも恐らく自動操縦できるはずだ」
「ライダードラグーンに……わかりました。こちらの準備が整い次第、連絡します」
 無線を切ったルーゾフに、ミヤが問いかける。
「ライダードラグーンに乗り込むんですか?」
 さらに浩介が質問した。
「ライダードラグーンてお前らが乗ってきたアレか? 竜みたいな」
 イシハは浩介に、やや自慢げに話す。
「そう、僕らはあの竜に乗ってきたんだ。空を飛ぶってのは気持ちよかったぞ〜」
 浩介はあまり興味無さそうだった。
「別に俺は飛行機乗ったことあるし。空を飛ぶ喜びとか前にとっくに知ったさ」
「あっそ」
 イシハは悔しそうな顔だった。ミヤは、二人の会話によって薄れてしまった自分の質問を、もう一回くりかえす。
「……それで隊長ライダードラグーンに乗り込むのですか?」
 イシハはさっと表情を変えてさらに質問した。
「まさかこいつの紐解いたのって、こいつを連れて行くために?」
 ミヤは、再度自分の質問の邪魔をしたイシハをにらんだ。
「あんたねぇ……ちょっとワザとでしょ?」
「へ? 何が?」
 ミヤはイシハの頭を、パンッと叩いた。
「いった! ちょっと、ミヤ何すんの!?」
「何馴れ馴れしく呼び捨てにしてんのよ!」
 二人の茶番劇を見ていたチュリアは、呆れながら二人の質問をまとめた。
「東京に、ライダードラグーンで、しかもこの小僧も連れて行くのか?」
「小僧とは何だよ。小僧とは」
 浩介はチュリアをにらむ。ルーゾフはライダードラグーンの点検をしながら質問に答えた。
「ああ、両方ともそうさ。成宮というドールも、ライダードラグーンに乗せる」
 浩介は目を丸くして言った。
「俺を連れて行くのは別に良いんだが……あの竜で行くってのはやばいんじゃないか?」
 ルーゾフはライダードラグーンから目を離し、浩介の方を向く。
「何故だ? ライダードラグーンは速いし、丈夫だ」
 浩介は頭をかきながら言った。
「いや、それ以前に人に見られるとやばいって。なんかその、UFOに勘違いされたりとかしそうだし」
「ゆーふぉー? 何だよそれ?」
 イシハは首をかしげる。浩介は慌てて言い直した。
「と、とにかく、大変なものに見間違われる可能性が高いだろ?」
 ルーゾフはまた点検の作業に入って、言った。
「確かにな。できるだけ馴染んで入らないとな」
「い、いや、そんなんでいいのか? 爆発したならヘリだって飛び交ってるだろうし……」
 イシハはまた首をかしげる。
「ヘリって何だ?」
「あ〜、簡単に言えば空飛ぶ乗り物だよ。地上の様子とか確認したりとか、色々役立つんだ」
 浩介はすこし困った様子でそれに答えた。そして、その後に、ルーゾフが質問に答えた。
「確かに少し隠れるのは難しいかもしれないな。だが爆発した地域なら何が飛んでても大丈夫なんじゃないのか?」
 浩介はやや呆れ顔になった。
「案外アバウトだな。あんた。はぁ〜、もうUFO扱いへの道しか残されてないのか〜〜!?」
 その時ルーゾフは、やっと手入れが完了したらしく全員に、乗るよう手で合図した。が、浩介は慌てた。
「おい! 結局考えなしに突っ込むのか!? 危険すぎる! もしも勘違いされたら俺らが爆発を起こしたように仕立て上げられるんだぞ!」
 ルーゾフは冷静に答えた。
「だとしても、これしか方法がないなら。賭けるしかない」
 そういわれ、浩介は渋々ライダードラグーンに乗り込んだ。ルーゾフは無線を構えた。
「準備完了です」
 しばらくして、ライダードラグーンは飛び立った。だが、浩介はまだ気にしていた。この無謀すぎる作戦を。
「賭けって……あいつどうかしてるぜ」
 浩介は、浮いている竜の背中で、そう呟いた。


 ――一方、東京ではやはり取材、救済などのヘリが飛び交い、慌しい雰囲気だった。
 光の爆発により、東京の駅近くのビルは崩壊。電車も機能停止に陥り、東京へ仕事に行く者、遊びに行く者、家族に会いに行くものらの足を止めることとなった。
 そんな駅近くで、東京の一部である廃墟の町をある人物が歩いていた。手にはカメラが握られている。
「この町も……同じ風景だ。どうしちゃったんだ? この国」
 朱に染まる空を見ながら、彼はつぶやいた。
 彼は一度浩介に助けられたあの記者で、懲りずにまた現場へと足を向けていた。
「この風景はきちんと撮っておかないとな。あとで科学者にでも解明してもらおう」
 彼の声は少し震えていた。前に自分の仲間のカメラマンを殺した、黒い人物がまたここにいるかもしれないからだ。
 空から目を離そうとした、その時だった。
「な、なんだあれは!」
 彼は自分の目を疑った。彼が見ていた空に、ヘリとは思えない形の、細長いなにかが飛んでいたからだ。
「おいおい、嘘だろ……? こんなに早くのシャッターチャンスは望んでないぞ」
 驚いているのは彼だけではない。東京に居た記者の一部、ヘリに乗っていた記者のほとんどは、目の前を、もしくは遠い彼方を飛ぶ、細長い何かに驚いていた。
 あるヘリがその細長い何かに、急接近する。正体をみるなり、ヘリに乗っていたものは叫び声をあげたのだった。
「りゅ、竜だ! 竜が飛んでいます!! しかも背中には人です! 人が、人が竜の背中に!」


 ヘリに急接近された浩介たちは慌てていた。特に浩介が。
「ほら見ろ! やっぱいるじゃねーかヘリが! 何か叫んでるしよ!!」
 一方イシハは初めてみる何かに興味津々で、ヘリをずっと眺めていた。
「これがヘリ!? 人間界にもこんな便利なものがあったのか〜」
 しかし呑気なのはイシハだけで、ミヤとチュリアは焦り、恐怖などで汗ばかりかいて無言だった。
 ルーゾフはすこし慌てながらも、地上を見つめる。
「やはり一体のドールでの光の爆発は範囲が狭いか……とはいえ、やはり普通に考えればすごい爆発だ」
 ライダードラグーンは急降下を始める。浩介はあまりの急な角度の降下に、叫び声をあげた。
「うぐっ! き、きっついな。う……」
 浩介の顔は真っ青になった。
「気張れ! もうすぐで着地だ!」
 ルーゾフの強く大きな声でさえも、浩介には響かなかった。浩介は気を失っていたのだ。どんどん地面が近くなっていく。だが彼の意識は戻らない。一向に、戻らない。
 ライダードラグーンから皆が飛び降りる中、浩介は、ライダードラグーンと共に地面に衝突した。周りの者が、浩介が居ないことに気付いたのは、彼が地面の衝突による衝撃で吹っ飛んで行った後だった。
「あの鬼小僧……どこ行ったんだ?」
 しかも最初に気付いたのは意外にもイシハだった。ルーゾフはその言葉を聞いて、瓦礫の町を歩き始めて言った。
「まずいな。彼とドールの衝突はできるだけ避けたい。ドールを仲間にするのが目的だからな……」
 彼の足があるところで止まった。彼は瓦礫から何かを取り出した。
「この写真……?」
 写真には、一人の女の子と、その子の両親と思われる二人が映っていた。両親は笑顔だった。だが女の子の表情は曇っている。
「よくみれば、この両親も……笑顔がぎこちないな」
 彼はつぶやいた。その後、彼はその写真をポケットにしまった。
 その女の子の腕には、人形が抱きしめられていた。


「うう……頭が」
 浩介は頭をおさえつつ、起き上がった。瓦礫のホコリが浩介の体から流れ落ちる。
 彼は周りを見回したライダードラグーンは彼から10メートルほど離れた場所にあった。
「俺、なんで? 急降下してって……覚えてない」
 彼はまだ頭をおさえている。そして、その体勢のまま歩き出した。
「あいつら……居ないな。もしかして俺、気を失って、それからずっと……?」
 彼は座り込んでしまった。座って、朱の空を眺めてから周りを見渡す。その景色はまさに自分がさっきまでいた廃墟の町と同じだ。違うことといえば、マスコミの数と、遠くに被害の受けなかった建物が見えることだろうか。
 彼はハッとし立ち上がって、刀を抜いた。前の黒い者が居るに違いない。そう思ったからだ。
「油断しちゃいけねぇな。こりゃ」
 刀を構えつつ浩介は、ゆっくりと歩き始める。ヘリの音のせいで、耳での情報は信用できない。そのため周りを注意深く見回しながら歩かなければいけなかった。ヘリが遠ざかるのを願っていた浩介だが、その音はだんだん近くなってくる。
「あのヘリ……! 近づいてきやがって。地上がどれだけ危険だかわからねぇのか!」
 イライラしながら彼はヘリから少しでも離れようとし、空から顔を離し、走り出そうとした。その時だった。
 
 ――瓦礫がすこし動いた。
 
 浩介は刀をぎゅっと握り締めた。その手は汗ばんでいる。
「へへ、来やがるか。でもいきなり来るのは驚くぜ。俺ビックリ箱とか苦手なんだよね」
 彼はそう言いつつ、瓦礫の動いたところへ近づいていく。ヘリも、さらに近づいてくる。
「あの野郎、命が惜しくねぇってのか!」
 彼のイライラと緊張感はピークに達していた。
 瓦礫がさらに動き、ヘリの音は止まった。どうやらヘリが着地したようだ。
「マズイ! なんて悪いタイミングに!」
 彼が後ろの方をちらっとみたその瞬間だった。
 瓦礫が崩れる音が聞こえた。浩介は焦って後ろを振り向く。
「こうなったらッ! お前を瞬殺し……てやろうとおもったけど」
 浩介は驚いて、途中まで振りかけていた刀を鞘に戻す。目の前には黒い者は居なかった。目の前にいたのは――。
「生存者……じゃねーな。日本にはお前みたいな水色の髪で、目が黄色い奴はコスプレイヤーぐらいだ」
 目の前の人物はまだ困惑している。目をきょろきょろして、何もしゃべらない。
「女の子がこんな爆発で生き残ってるわけが無いよな。ってことは君はやっぱり……」
 浩介は言いかけたが、女の子の自分自身への恐怖の顔を見て、口を止めた、
 まだ困惑しながらも、彼女は口を開く。
「あ、あなたは、誰……? 私、どうなっちゃったの?」
 浩介は、彼女の戸惑う姿を見て質問した。
「呼びかけはなかったのか? その体から」
 彼女はその言葉を理解できず、固まってしまった。浩介は慌てて言い直す。
「い、いや、ごめん。つまりその……えと、お前はなんか人形みたいなの持ってなかった?」
 浩介の言葉に、彼女は強く反応した。
「あなたなんで知ってるの!? あの人形は何なの!?」
「い、いや、それは俺にも……」
 浩介は黙り込んだ。自分には説明できなかったからだ。説明できるのは、隊長と周りに呼ばれる眼鏡をかけている、ルーゾフという男だけだ。
 彼女はその姿を見て、すこし声を落としながら謝った。
「ご、ごめんなさい。でも、貴方のことは教えてくれませんか? その、君、姿が人とは……」
 浩介が口を開けかけた瞬間、誰かの悲鳴が響いた。
「お、鬼だ!! あそこに鬼が!」
 どうやらヘリから降りた記者が浩介の姿に気がついたようだ。こちらを指差している。
「きっちりカメラに抑えておけ! あの鬼が、少女を襲うといている! そこの子! 早くこっちに来るんだ!」
 浩介は怒って、記者めがけて怒鳴った。
「だれが! この子を襲うって!? 俺はそんなつもりは一切ない!」
 彼に対し、記者が言い返した。
「嘘をつけ! この町も、君のせいだろ! 前崩壊した町に行った記者のカメラにも、君が映っている!」
 彼女は浩介を見上げた。
「そ、そうなんですか?」
 浩介は彼女に対しても怒りの目でにらんだ。何せ、この町を崩壊させたのは彼女なのだから。彼女はその目をみて、下をうつむき、小さく謝った。
「ご、ごめんなさい」
 浩介はそれを無視し、記者の方を向いた。記者はまだ浩介に対し、大きな声をだしている。
「あの町で報道陣の遺体が見つかったそうだ! 首には鋭利な刃物を思われる刺し傷。君は、そのの腰に携えているその刀で殺したのだろう!?」
 浩介は目を丸くし、刀を鞘から抜いて走り始めた。
「たのむ! 間に合ってくれ!」
 彼は叫んだ、が周りは何が起こっているか理解していなかった。
「やはり君は人殺しのお……」
 一瞬だった。記者の腹から刃物が出てきたのだ。彼の腹からはみるみる赤い液体が流れ出る。
「な、なんで?」
 記者の腹から刃物が抜け、彼は倒れた。倒れた先には、黒い鎧をかぶった者が立っていた。周りに居たカメラマンなどは黒い者に、たったいま気付き、固まっている。
 浩介は黒い者に向かって行った。
「間に合わなかったか! クソッ! おい! 何ボサッとしてんだ! 早くにげろ!」
 彼の声は報道陣には届かなかった。周りの者らも、次々と記者の後を追っていった。後ろからはさっきの女の子の悲鳴が聞こえる。
 浩介は刀を黒い者目掛けて振り上げた。
「ダァッ!!」
 しかし黒い者はそれをかわし、女の子の方へ走っていく。彼女は驚いていたが、座ったままだった。
「きゃあああ!!」
 彼女の悲鳴を聞き、浩介は必死になって走った。
「させるかよ!!」
 間に合わないと察した浩介は刀を黒い者目掛けた投げつける。刀は見事黒い者の背中へと刺さった。
『うぐっ……私の邪魔をしおって、うぐあっ!」
 黒い者は吐血し、倒れこんだ。浩介は黒い者に駆け寄り、刀を抜いた……その時、まだ息のあった黒い者が彼の足を殴る。
「おわっ!」
 浩介は体勢を崩してしまった。その隙に、黒い者が立ち上がって剣を振りかざす。
『油断したな! 所詮は小僧ということだ!』
 浩介は刀でなんとか受け止めたのだが、刀を地面に落としてしまう。
「チッ!」
 黒い者の振った剣をかわした後、黒い者の足目掛けて蹴りを一発お見舞いした。
『んなっ!』
 浩介は刀に手を伸ばす。だが黒い者の足が浩介の手を阻んだ。浩介は手を押さえながら怒声をあげた。
「この野郎! しつこいんだよ!」
 浩介は体操選手のような逆立ちをし、黒い者の顔めがけて倒れこんだ。黒い者は、顔を押さえて後ずさりした。
「これでも実は体操部なんだよ! 俺は!」
 浩介はさらに飛び蹴りを黒い者にお見舞いする。そして刀を拾い上げた。
『貴様ァッ!』
 黒い者も剣を構える。二人の死闘は、終盤を迎えていた。
 二人とも、同時に走り出す。
『仕方が無い! あの娘は貴様を殺してからだ!』
「俺を殺せると思うなァッ!」
 浩介は黒い者の剣をかわし、刀を黒い者の顔に突き上げた。黒い者は一瞬にして絶命した。
「強かったな……。疲れたぜ」
 彼は刀に付いた血を振り払う。血が彼の顔にかかった。
「まだ温かいな……気持ち悪いぜ」
 彼は後ろに座り込んでいる女の子に気付き、歩き出した。彼女の近くまできたが、彼女は顔を上げない。心配になった彼は、彼女にしゃべりかける。
「その、大丈夫か?」
 彼は、さっき彼女をにらんでしまった事を思い出し、謝った。
「あ〜、その、さっきは睨んで悪かったな。ちょっとカッときちまってさ」
 彼女は顔を上げない。だが彼は続けて質問した。
「そういえばお前の名前聞いてなかったな。名前は?」
 彼女は顔を下げたまま、口を開いた。
「伊野原 志保」
 そう呟いた彼女に向けて、彼は手を差し伸べた。
「そ、その、ベタだけどさ。志保。よろしく」
 志保は顔を上げて、浩介の方に顔を向けた。そして、細い腕を上げる。
「よろしくね……。きゃ!」
 浩介はその手を握って、彼女を立ち上げた。
「わ、私、立ってる?」
 志保がようやく笑顔を見せた。浩介は不思議に思いながらも一緒に微笑む。
「こんな形で、同じ人間のドールに会えるなんてな」
 志保はその言葉に首をかしげて、質問した。
「どういう意味なの? よく意味が読み込めないんだけど」
 彼女の質問に、浩介は精一杯説明出来るところまで、説明した。
「う〜ん、だから〜その、人形に意識を持ってかれた人間ってことだけど。人形ってのはお前のその体の元となったやつのことで……。俺のこの体も元は人形なんだ」
 だが志保はますます意味が分からなくなり、頭を抱え込んでしまった。
「えと、とにかく眼鏡で耳の長い奴が来れば説明してくれるぜ。頭はムカツク程よさそうだから」
 浩介は慌ててそう言った。慌てていたので、後ろからの足音に気付かない。
 志保は浩介の背後から近寄る影に気付き指を差した。
「眼鏡の人って、後ろに居る人ですか?」
 浩介はその言葉に驚き、慌てて後ろを振り向く。そこにはルーゾフと、そのほかの隊員が、呆れた目つきでこちらを見ている。
「なんだよ、その目は」
 イシハは誰よりも早く口を開いた。
「お前こそなんだ! お前を探すためにどれだけ歩いたと思ってるんだよ! あ〜疲れた疲れた」
 後にミヤも続ける。
「そうそう、しかも何? やっと見つけたと思ったら女の子にナンパ?」
「だ、誰がナンパなんてするかッ!」
 浩介も顔を真っ赤にした言い返す。
「へっ、勝手な妄想しやがって! 自分がナンパされないからってね〜!」
 浩介の皮肉まじりの言葉が、ミヤの導火線に火をつけたようだ。
「何ですって〜! この鬼小僧〜、まだ恋愛の悲しさも知らないくせに!」
 イシハもミヤに続けて、声を上げた。
「そうだぞ! ミヤが何回悲恋を繰り返したことか、片思いの相手が全員彼女持ちなんて悲し……」
「……なんであんたがその事知ってるの?」
 イシハの顔が青くなり、ミヤの顔が怒りに染まった。イシハは走りだした、が数メートル走ったところで、ミヤに捕まり、見るに耐えない仕打ちをされていた。それを見て浩介は大爆笑し、チュリアと志保の顔は青くなっていた。
 ルーゾフは、イシハの悲鳴を聞こえなかったかのような冷静な顔つきで、志保の方へと歩き始めた。志保はそれに気付き、首をかしげる。
「あの、なんですか?」
 ルーゾフは志保の顔を、何秒か見続けてから口を開く。
「いや、君の姿をどこかで見たような気がしてね。多分気のせい……じゃ無いみたいだ」
 彼はポケットから写真を取り出した。さっき瓦礫から取り出した物だ。それを受け取った志保の目は大きく開いた。 
「そんな……、なんでこんなに古い写真を?」
「古いだと……?」
 ルーゾフは驚いて、志保に質問した。
「どれぐらい前の写真なんだ? これは」
 ルーゾフの質問に、志保は指を折っていき、何本か数えたあとで答えた。
「え〜っと、もう7年程前です」
 ルーゾフはそれを聞き考え込んでしまった。質問しようとしていた志保だが、ルーゾフの姿を見て諦めた。
 周りには浩介の笑い声と、ミヤの怒声、イシハの悲鳴が響いていた。
 空を飛んでいたヘリの全機が着地したようだった。竜の着地地点と、見慣れない人々をカメラに収めるためにだろう。
 
 そして、この記者達により彼らの本当の、そして本格的な戦闘は始まってしまう。
「自業自得ってのはこのことだな! アハハハッ!」
 そんなこと、笑っている浩介には分かるはずも、そして予想することも出来なかった。

 新しい災い、【新災】は少しずつ始まりへ近づいている。




〜第三章〜
 『対立』

 ルーゾフは相変わらず考えてばかりいた。何故ドールがそこまで昔からあったのだろうか、と。
「ドールは最近落とされたのではないのか……?」
 彼はそういうと、胸ポケットに入れていたメモを取り出す。ドールについてまとめたページだ。
 ドールの出現は五ヶ月前と書かれてある。それは魔界に謎の建物が出現したのと同時期らしい。
「何故彼女のドールは七年も前にあったんだ……? しかもこのドール……魔界のどの資料にも載っていなかった。伝記さえも残されていないし、まさか魔界から落ちたのではなく、そもそも人間界にあったのか? そんな馬鹿な……」
 一人で考え続けるルーゾフは、志保がこちらをずっと見ている事にやっと気付いた。
「ん? 何か、何か聞きたいことでもあるのか?」
 そう言われ、志保は質問を始める。
「その……この体について聞きたいことがあるんです」
 そう言ってから、ルーゾフが拾った写真に映っている人形を指差した。
「さっき落ちていた鏡の欠片で確認したんですが、この体はこの人形と姿が同じなんです」
 ルーゾフはうなずく。
「ああ、私もそれは確信していた」
「何故ですか?」
 志保は問いかけを続ける。
「あなたは何で驚きもせず、確信できるんですか? この体はどうなっているんですか? なんでこの町はこんなふうになってしまったのですか?」
 ルーゾフは頭をかいた。
「一気に質問されても困る。……まあいいか。まずは最初の質問に答えよう」
 ルーゾフはまだ笑い転げている浩介を指差した。
「あの鬼の姿をした少年、成宮も君と同じ存在だ。君らは大きく、強すぎる意志をあらわにしてしまったがために、人形に心を奪われてしまった。つまり君の体は君のではない。人形の体だ。俗にドールと言う」
 志保は何かに気付いたような顔をしていた。それを気にせずに、さらにルーゾフは続ける。
「そしてこの町だが……そうだな、単刀直入に言おう」
 ルーゾフは少し言うのをためらったが、志保の真剣な顔を見て続けた。
「この町を廃墟にしたのは、君だ。君がドールと融合した時に発せられた高エネルギーが……」
 それを聞いた志保は座り込んで黙ってしまった。その時、影から人が現れた。四人ほどの集団で、どうやら記者のようだ。その顔は、怒りと興奮で溢れている。
「やはり君らか! さっきからおかしい集団だと思っていたんだ! そこには違う記者達の死体。そして鬼のような子供と、耳の長い人間とは思えない者たち。そして眼鏡の君の発言で全てが証明された! もう逃げ場はないぞ!」
 浩介は、笑いを止めて記者達に近寄る。
「あの記者達は俺らがやったんじゃない! 黒い奴が斬り殺したんだ!」
 記者はフンと鼻を鳴らす。
「何を言っているんだか。君のその刀で殺したのだろう。君の体に血が数箇所に付着している」
 怒って、卑猥なことを発言しようとした浩介を抑えてから、ルーゾフは発言した。
「貴方のような人間には分からない事情だ。それに彼女だって好きでこの町を破壊したわけじゃない」
 しかし、記者はまるで聞く耳をもたない。
「フン、どうだか。わざとじゃないならどう破壊できる? 自分の意志じゃないとでもいうつもりか? 私はな、前に起こった爆発で母を亡くしたんだ! 君達の身勝手な行動でな!」
 その言葉を聞いたとたん、浩介は猛スピードで記者の胸倉を掴んで怒鳴った。
「身勝手な行動だと! ふざけるな! 何も、何も知らないくせに知ったようなでかい口叩くな! 俺だって、俺だって家族を全員殺されたんだよ!!」
 記者は多少怯えながらも、まだ言うのを止めない。
「殺された、からって、巻き込むな!」
 浩介は遂に怒りが頂点に達し、記者を殴り飛ばした。
「お前に何が分かる! 俺はどうすればよかったんだ!!」
 記者は何メートルか宙に飛んだ。その瞬間をカメラマンは捉えていた。
「このVTRは日本政府に届ける。君らはもう国を敵に回したんだ。おまけにウチの記者も殴られている。君らは全員相応な処罰をうけることだろうな」
 カメラマンは冷静にそう言い、殴られた記者の方へ駆けよって行った。今では、喧嘩していた(一方的に殴られていたのだが)イシハとミヤも真面目な顔をしていた。
 浩介は、頭を抱え、うずくまってしまった。
「でも、俺はあいつの言うとおり、人を巻き込んだ。だけど、だけどよ……」
 彼は瓦礫で埋まる地面を、強く叩いた。何回も。手がおかしくなるまで。
2007-01-16 23:17:36公開 / 作者:紫 湖洸
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■作者からのメッセージ
長く続かせる予定で、まだまだ書き終わるには時間がかかりそうですが、できるだけ早く更新していきたいと思っています。


まだ未熟な点が多いので、変な点、不自然な場所などがあったら、ご指摘してもらえるとさいわいです。
この作品に対する感想 - 昇順
 初めまして、座席です。
 第一章のみしか読んでいない事を断り入れておきます。
 どうにも全体として世界観が見えず、非常にとっつきにくい印象があります。原因は、魔界と人間界という二つの世界の存在に対しての説明、描写不足と、導入から続く急展開だと思います。
 プロローグですが、読者にとっては初めてとなるシーンで、「人間界と隣り合わせで確かに存在する魔界。」この一言で異世界だと認識して、その後に大量に登場する固有名詞や世界観がわからない状態でのシーンは見ていて難解です。
 そして、その後の日常シーンからの突然の急展開などが相次いでいるため、読んでいてついていけない部分が多々ありました。その後の魔界側の単語も意味合いはわかるものの当たり前のように使用されても、やはり読者にとってはひっかかりを覚えます。改めて言い直すと、やはり全体として世界観の説明不足による読解の難しさが強いと感じました。
 私としては、導入のシーンは突然の異世界ではなく、人間界側からの視点(第一章冒頭の取材班視点ですね)をもってきた方が、入りやすいかなと思いました。次回更新に期待します。
2007-01-10 17:47:42【☆☆☆☆☆】座席
ご指摘ありがとうございます。
たしかに…展開を詰め込みすぎてますね。
説明不足もあるし、読者さまに読みにくい文章にしてしまったこと、不覚お詫び申し上げます。

座席さまのご指摘のおかげで、これから改善してく点などが良くわかりました。ありがとうございます。
2007-01-10 21:25:15【☆☆☆☆☆】紫 湖洸
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。