『VID』作者:コーヒーCUP / SF - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
ヴァンパイアのシルド・クロスとともに、ストリートチルドレンのウィンター・レントが、行方不明中のアレース・ホイミーを探していると、ある情報を掴んだ。 なんでここ最近、イギリスの中心部ではストリートチルドレンを狙った殺人事件が多発していたらしい。アレースも襲われたんじゃないかと心配になったシルドとウィンターは、イギリスの中心部へ向かう。
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第一章【Friend Is Vampire】


 十九世紀のイギリスのある町で、私はフラフラと歩いていた。何日も洗っていない体は痒いし、何日も着続けている服は変な匂いがする。しかし、こんなことはいつもの事なので別に気にしたりしない。私が臭いからといって、困るのは私だけだ。
 夜の路地裏。イギリス特有の細長い家と家の間で私は体育座りをしながらその膝の上に顔をのせていた。季節は冬という事もあって、とても寒い。毎年、冬には寒さでこ困らされるし、夏には虫で困らされる。本当に、勘弁してほしい。
 つめたいプロックタイルの上で座っているお尻が冷たい。
 三週間前までなら、二人よりそって寝ていたのに、アレースはどこに行ってしまったのだろうか。アレースとは、私の家族であり、友人である大切な人だ。本名をアレース・ホイミーというおさげの可愛い私のより一つ上の女の子だ。
 私とアレースは俗に、ストリートチルドレンといわれる子供だ。親に捨てられ、町にさまよう子供という事だ。私は本当に小さな頃に両親から捨てられて、町にさまよっていた当時のストリートチルドレンに育てられた。いわば、親同然だ。私と同じ頃に親に捨てられたアアレースもそのストリートチルドレンにし育てられた。私たちは姉妹のようなものだった。
 しかし、親のストリートチルドレンは警察に捕まった。悪い事をしたわけではない、私たちの存在自体がダメらしい。警察に捕まったストリートチルドレンはどこかの施設に送られて、労働をさせられるらしい。
 親たちは私とアレースだけを助けてくれた。これが三年前の、私が九歳の頃の話。
 そして3週間前にアレースが私の前から姿を消した。私の事が嫌になったのかもしれない、そう考えると涙が出てきた。

「ウィンター! 泣いてないで、お前も手伝ってくれ!」

 私の名前が上空で呼ばれた。ああ、彼だ。私は涙を拭きながら立ち上がって、家と家のほし隙間の空を見上げた。その空から羽が生えた人がゆっくりと降下してきて、私の前に立った。
 悪魔のような羽が生えた黒髪の男の子、身長は私と同じくらい。マントのようなものを着ており、そのマンとは肩から足の先まで彼を包んでいる。顔を見ると、口からするどい犬歯を覗かせていて、瞳は金色。
 シルド・クロスだ。
「もう本当に勘弁してくれないか、何度も言ってるけど俺は夜は苦手なのよ。眠いじゃんか」
 彼は羽を折りたたむと背中にくっけた。彼は俗にいう、ヴァンパイアという者だ。ただのヴァンパイじゃない、色んな事に関して変わっているヴァンパイアの少年だ。
 彼とであったのは一年前で、あの時はアレースもいて、よく三人で遊んだ。ここ最近は彼に頼んで、空を飛んで町中を見て、アレースを探して貰ってる。
「本当にねむい……。なあ、今日は諦めよう」
 ヴァンパイアが夜に、眠い? と思うだろうが、これは彼にとっては普通なのだ。彼は夜が苦手なヴァンパイアで、一日中時間寝ないと倒れてしまうらしい。
「シルド、あんたねえ、アレースが心配じゃないの? アレースは友達じゃない。お願いよ、一生懸命さがして」
「一生懸命は探してるし、アレースは心配だけど……今、眠くて倒れそうなんだ」
 ヴァンパイアの言う事じゃないし、情けない。
「じゃあ、分かった。あと一時間だけ一緒に探して、そしたら寝ていいから」
「分かった! じゃあと一時間でアレースを見つめよう!」
 シルドが翼と両手を広げて言った。私はシルドの手を握り、路地の奥の方へ歩いていった。ちなみにシルドは怖がりなので、路地裏は嫌いだ。私の握っている手を離そうとしていたが、途中でかなわないと察して諦めた。
 待っててね、アレース! あなたは必ず見つけ出してあげる! 私はそう決意して、拳を強く握った。すると両手の拳に力を入れてしまったらしく、片方の手で握っていたシルドの手を力強く握ってしまい、シルドが叫んだ。


 *

 暗闇の地下室に牢屋が一つだけある。そこで、牢屋の前にしゃがみ込んで、牢屋の中を観察していた。
「ちょっと! いい加減にしなさい!」
 牢屋の中で首には首輪をつけられた、足には鉄球をつけられた少女が牢屋の向こうで、ジーッと彼女を見ていた私に向かって叫んだ。何て汚い言葉づかいだ、と私は思った。
「人のこと見ないで、この馬鹿! それと、いい加減ココから出しなさい!」
 少女はここに監禁されてもうずいぶんたつ。そこまで食料もあたえていないので体力は無いはずなのに、彼女は大声で叫び続けた。その叫び声はこの地下空間にできた牢屋の中で響いた。その声は私と彼女しか聞こえない。
 牢屋は狭い四角い部屋で、彼女はそこに監禁されている。私が監禁したのだ。
「静かにしなさい。無駄に体力を使うのはやめといたほうがいい、長生きしたいだろう?」
「ふ、ふざけないで! ここから出しなさいよ! 一体、私に何の恨みがあるのよ!」
[君に恨みなど無いよ。大丈夫だ、君はちゃんと助かる。それは保障しよう」
「あんたの言う事なんか信用できないわ!」
「何を言うか、君に毎日食事を与えてるだろう。それが君を生かそうとしている証拠だよ」
 私は笑顔で言ったが、牢屋の中の少女はまた怒鳴った。
「じゃあ何で私を監禁するのよ! 生かしてくれるんなら、ここから出して!」
 私は首を横に小さく振った。
「それはできない。さあ、、もうお話は終わりだ」
 私はそういうと牢屋から離れた場所にある木製の板でできた階段に近づいた。それを登ろうとしたら、彼女がまた怒鳴った。
「この人でなし!」
 私はその言葉に腹が立ち、ついついポケットから拳銃を出してしまい、それを牢屋の中の少女に向けて発砲してしまった。弾は少女の頬をかすれて、壁に当たった。少女の頬から血が少しだけ流れた。
 私は静かになって固まっている少女に拳銃を向けたまま、優しく言った。
「はい、静かにしました、いい子ですね。そのまま静かにしてなさい。私を人でなしと言った罰は、また明日にしましょう」
 私はそういうと木板の階段を上った。タンッタンッと私が板を踏むたびに鳴らす音とが地下室に響いている。しばらくすると少女の鳴き声が聞こえてきた。私は、この声が好きだ。
 階段を上りきると、私は地上の世界へでた。


 *


 この世界は、ほとんどの物が二種類に分けられる。人間の場合は、男と女。一日の場合は昼と夜。動物で言うと、ワニに例えようか。ワニの場合、クロコダイルとアリゲーター。
 ここで説明しておくと、クロコダイルとは気性が荒く、よく他の生物を襲う種類のワニで、アリゲーターは大人しい種類のワニだ。ワニの見分けた方は歯だ。口を閉じて歯が口から出ていたらクロコダイルで、出ていなかったらアリゲーターという
 同じように、ヴァンパイアも二種類に分けられる。気性が荒いヴァンパイアを『レルド』といい、気性が落ち着いているヴァンパイアを『コーラル』という。ここで、ヴァンパイアとワニとの違いが出てくる。ワニは見分けがつくが、ヴァンパイアは見分けがつかないのだ。ゆえに、人間はヴァンパイアを見ると全て『レルド』だと思い、逃げていく。
 ここで差別が発生する。イギリス国内ではその差別は国が認めたものだ。ヴァンパイは差別してもよい、詳しい事は知らないけど、そんな感じの法律が何年も前にできたらしい。そしてイギリス国内に住んでいたヴァンパイアは『レルド』も『コーラル』も関係なく、殺された。多くのヴァンパイアが殺された、その中にはシルドの両親もいた。
 シルドの両親は彼を彼のために捨てた。捨てて、私たちのようなストリートチルドレンの中に紛らわせた。ヴァンパイアの『コーラル』の場合は、人間に化けれる。
 ヴァンパイと人間の違いは翼と鋭い犬歯だけだ。『コーラル』の場合は翼も背中とくっければ肌色になって、背中と同化できる。犬歯も短くできたり、長くできたりする。ただ『レルド』の場合は、それができない。それが『レルド』と『コーラル』の唯一の違いだ。
 これがシルドが生き残っている理由だ。シルドは人間に化けて日常を過ごしている。
 ヴァンパイア差別が起きて、大量のヴァンパイが死んでいくなか、ほとんどヴァンパイアは他国に逃げていった。
 この頃から、ヴァンパイは吸血能力を使うようになった。ヴァンパイアは吸血する事によって、その血の持ち主だった人間に化けれるのだ。
 これがつい先日、シルドから教えて貰ったヴァンパイアの歴史である。


「ヴァンパイアが太陽やニンニクや十字架に弱いっていうのは、イギリス政府が作ったデマなんだよ。ヴァンパイに怯える国民を安心させるための、真っ赤な嘘なんだ」
 シルドが夜の森の一本道を歩きながら言ってくれた。今、私達はある家を目指してその一本道を歩いていた。コウモリが上空を飛んでいる。何故かやたらとシルドのまわりを飛んでいる。
 森の中なのでガス灯もないので、道は真っ暗である。道というのは草などが切られているだけでただの土である。ブロックなどではない。
「でも、銀の杭に打たれると消えちゃうんでしょ?」
「そうなんだ。あれは本当なんだよ。僕たちヴァンパイアは確かに銀の杭を打たれると、光の粒になって消えちゃうんだ」
 ふーん。いい勉強になるな。
 昨日、私たちはアレースを探したが結局見つからなくて、シルドとの約束どおり一時間後に眠りに付いた。そして朝早く目覚めて、今目指しているある家を目指して歩き出した。そして現在にいたる。
「……シルド、ヴァンパイアは人間に化けれるんだよね?」
「そうだよ。ヴァンパイアは吸血する事で、その吸血した人間に化けれるんだ。今のヴァンパイアはそれ人間に化けて暮らしてるんだよ。だから人間からしたら、もしかしたら家族のうちの誰かがヴァンパイアかもしれない、なんて心配しながら生活しないといけないんだ。けど、それができるのは僕のような『コーラル』だけで、『レルド』は一応人間に化けれるどけ、犬歯とか翼とか隠せないんだ。だから家族の中にヴァンパイアがいても人間は怖がる必要なんて無いんだよ」
 複雑にできてるわね、と私が呟くと、シルドは軽く笑った。そして背中と同化させてある翼を一気に広げた。翼を広げた時に生じた風が私の髪や服をなびかせた。それと同時に近くを飛んでいたコウモリたちが一気にシルドから離れていった。
「そうでもないんだよ、ウィンター。人間がなんでヴァンパイを差別し始めたか、覚えてる?」
 シルドが笑顔でといけてきた。ヴァンパイアの差別が起こったのは、人間が気性の大人しい『コーラル』ではなく、気性が荒い『レルド』を怯えたからだ。人間は『レルド』を滅ぼしたかったんだ。
 それをシルドに言うと、彼はさらにニッコリ微笑んで、正解、と言った。
「ウィンターの言う通り、人間は『レルド』に恐れて差別を始めたんだ。けど、今の状況的には『コーラル』はうまく人間社会に紛れ込めるけど、『レルド』は無理だ。あきらかにこの今のイギリスじゃ『レルド』の存在は目立つ。つまり『レルド』は今、イギリスではものすごく見つけやすいんだ。それらを全部殺しちゃえば、差別も終わる」
「……嫌じゃないの? 同じヴァンパイアが殺されるの?」
「嫌だよ。けど、もう奇麗事も言ってられない。油断してると、こっいが殺されちゃうんだから」
 言い終わった後、シルドは黙りこんだ。彼にとって『レルド』であれ、同じ種族の生物なんだ。殺されるのはつらい。何より、シルドには『レルド』の友達がいたと聞いたことがある。

「……『レルド』には、『コーラル』が待たない、特殊能力があるんだ」
「えっ?」
 それは初耳だった。
「『レルド』は吸血することで、有名な話だけど、吸血した人間をヴァンパイアにできるんだ。と言っても、元が人間だから人格は人間だよ。けど『レルド』に噛まれてヴァンパイになった人間は、こうプログラムされるんだ……人間を襲う、とね」
 しばらく沈黙が続いた。風の音が聞こえるほど静かで、森の木がゆれる事でおこる音がうるさく感じれた。シルドは広げていた翼を背中にたたみ、同化させると、かすれるような静かな声で言った。
「もし……アレースが『レルド』に噛まれて、ヴァンパイになってたとしたら……もしかしたら、もうすでに……人間によって殺されてるかもしれない……」
 静かな森の一本道にシルドの最悪の考えと、私のつばを飲み込む音が響いた。いつのまにか、またコウモリがシルドに寄ってきた。


 *


 俺が図書館で借りてきた本では、こう書いてあった。

『ヴァンパイアは、レルドとコーラルの二種類に分けられる。コーラルは比較的、大人しく、人を襲って吸血する事など滅多に無い。コーラルは吸血する事によって完全に吸血人間に化ける事ができる。 九年前から始まった『ヴァンパイア差別』で多くのコーラルがその能力を使い、今のイギリス社会に紛れ込んでいる。その数は二百を超える。吸血した血からその者の記憶等がコーラルには分かるらしい。なお、コーラルが能力を発揮するためには蚊が一回に吸う血液の十倍はいるが、完全にその人間と入れ替わり家族などと生活するために吸血した人間を殺すコーラルも、差別後から出てきた。
 一方、レルドの場合、とてもややこしい。レルドはかなり気性が荒く、よく人間を襲う。
 レルドは差別後から急激に数を減らし、今、イギリス国内にいるレルドは五十程度だ。しかし、レルドには吸血するとヴァンパイアにさせという能力があり、レルドに吸血された人間はヴァンパイになる。人格は大人しくが、犬歯が鋭くなるのが特徴。翼は生えない。
 レルドに吸血された人間はレルド同様、気性が荒い、そして人を襲う。』


 そんな基本的なことしか書いていなかった。しかし、これは重要な資料だ。俺はそう思いながら、その本を閉じた。そしてテーブルの上にあった新聞紙を手に取る。何てこった、と最初にこの記事を読んだ時に呟いた。
『ロンドン ストリートチルドレン連続殺人事件で三人目の犠牲者!』
 記事の内容はここ最近、ロンドンでおきているストリートチルドレンを狙った連続殺人事件で三人目の犠牲者がでたという事だった。
 ロンドンストリートチルドレン連続殺人事件とは――。
 そのとき、家のベルがなった。どうやら、ウィンターとシルドがきたらしい。
2006-12-16 23:58:22公開 / 作者:コーヒーCUP
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■作者からのメッセージ
 SF&ミステリ。ミステリ&SF。この二つを新連載のどっちかに持ってこようと思い、悩んでいました。悩んだ挙句、すべてを混ぜる事にしまいした。
 ヴァンパイのネタは前々から使ってみたかったし、ミステリも書きたかったので、自分としては一石二鳥な作品になりました。
 舞台が十九世紀にイギリスなんですが、うまく描けませんでした。すいません。SFもミステリ要素も強くしていきたい作品です。どうぞよろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
[簡易感想]描写が多すぎる気がします。
2013-08-28 23:19:55【☆☆☆☆☆】Abigail
計:0点
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