- 『花畑の記憶』作者:真黒 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 僕の思い出をたどっていくと、なぜだかいつもここに終着する。2つの記憶が交錯する、暖かい花畑で。
- 全角1728文字街から30分位郊外へ車を走らせると、森がある。
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原稿用紙約4.32枚
さらに林道を抜けたところに、花畑が広がっている。
脇道につけた車から、思いの外しっかりとした足取りで彼は降りてきた。
「……いい風。気持ちいい」
外出用にあつらえたトレーナーとジーンズは、この季節には暑すぎる気もしたが、彼は 本当に気持ちよさそうだった。
「大丈夫か?」
「大丈夫。体が大分軽いみたいだ……父さん」
僕の問に少しはにかんだように答えると、花の中に力無く寝そべった。
「おい、そんなコトしたら、虫が……」
「全く、過保護だなぁ。……うーん、暖かいし、それに、いい匂い」
彼は楽しげにくすくすと笑う。
もっと早くに連れてきてやれば良かった、と思う自分に驚いた。そんなことは不可能だったのに。
だが、そう思ってしまうのも仕方がないかと思う。
初めて病室の外に出た彼に見せるには、おあつらえ向きのいい天気だ。
空の青さは透き通るほどだし、強い日差しが2人に濃い影を落としている。
花は穏やかに、彼を迎え入れるかのように鮮やかに輝く。
「ねえ、父さん」
僕は、太陽の眩しさに目を細めつつ、彼を見た。
「母さんと来たことあるの?ここ」
言われるまでもなく、思い出していた。
「……ああ、母さんとはデートなんてあまりしなかったんだけどね」
少し、深く息を吸い込んでみた。
「でも、ここには何度も来たよ。母さんもそうして、寝ころぶのが好きだった」
「あの人のね、子供がお腹にいるのよ。だから、多分あなたの気持ちは受け入れられない気がする」
僕は俯くようにして、大の字で花に埋もれる彼女を見た。
「あいつが死んだばかりなのに、こんな事を言う俺を、ダメな奴だと思う?」
「ううん。あなたの気持ちはしっていたから、そんなことないよ。今は支えになってくれることが素直に嬉しいかな」
彼女はよく笑う。
夏の日差しに彩られた花の中でも、彼女は一際綺麗だった。
「好きって言ってくれたこともね」
「前も似たようなことを言われたな」
「あれはねぇ、あなたが言い出せなくてウジウジしてるから、先にお断りしたまでよ」
「進歩した?」
彼女はくすくす笑って答えた。
「前は好きの『す』の字も言えなかったからね。大進歩じゃない?」
僕もがっかりしたように笑って見せた。
「あれは、君が言わせなかったんだろう」
「あなたは昔っから、すぐ顔に出るから」
困ったような僕の顔を見て、また彼女は笑う。
「……今は俺、どんな顔してる?」
彼女が立ち上がって、一瞬間が空いた。
「フラれた顔。泣きそうね」
「……かなわないな」僕はわざとらしく肩を落としてみせた。
「帰りもお送りしますよ、お母さん」
その時、突然彼女が僕の手を取って、お腹の上にそっと重ねた。
からかうように笑う彼女が何を考えていたかなんて、僕は今も昔もよく分からない。
「……ねえ、それでも、私と同じくらいに、この子のこと愛してあげられる?」
「君にそっくりならね」
僕は意外と落ち着いてそう答えた。そしてそのまま引き寄せて、彼女を抱きしめてみた。
「きっと似てるわよ」僕の肩に顔を埋めるようにして彼女は続けた。
「だって、男の子は母親に似るものだから」
もう、10年も前のことだ。
帰り際、彼が思いきったように聞いてきた。
「……お父さん、僕を産んで、お母さんが死んだとき、悲しかった?」
何時の間に、彼はこんな大人びた表情を覚えたのだろうか。
「いいや、ちっとも」
僕はこの質問には、答える準備はずっと前から出来ていた。
「どうして?」きょとんとした顔で、彼は尋ねた。
当然のように僕は答えた。
「お前がお母さんそっくりだからさ」
彼が亡くなった後も、僕はよく花畑に来る。
だが、まだ花の中に寝ころんでみたことはない。
3人で来るまでとっておこうと思っていたから、できずにいるだけなのだが。 - 2006-12-10 14:37:20公開 / 作者:真黒
■この作品の著作権は真黒さんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
突然夢で見た光景をそのまま書いてみたら、こういう小説になりました。
みなさんの意見を参考に少しだけ推敲してみました……?ほんと、二言三言なんですが、前よりは読みやすくなってるかな、と自分では思っています(^^;)
ほんとうに拙い文章ですが、お読みいただけたら幸いです。
よろしかったら是非感想お願いしますm(__)m真黒でした。
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こんちは。人は私をもろQと呼びます。
しかしいいですね。お花畑の情景に、すごく切ないストーリーが載っかってて、ミスマッチなようで非常に調和しているように思えました。ダシが効いてる感じがします。
ただひとつだけ述べさして頂きますと、やや会話文が多い気もしました(特に父親の回想の部分)。まあこの短さなら大丈夫とは思いますが、これ以降長めの小説を書くときなどは、注意してお書きになって見たらどうかと思います。以上もろQでした。2006-12-09 12:19:13【☆☆☆☆☆】もろQもろQさん、読んでいただいてありがとうございました!
こんなので話が伝わるだろうか?と半信半疑だったのですが、感想いただけて嬉しいです。
そして……なるほど、確かにカギかっこ多すぎですね(^^;)
もっと色々な作品を読んでみて勉強してみます!どんどん推敲して、もっといろんな方に読んでいただけるよう頑張りますm(__)m
とりあえず連載中の長編をなんとかしてみます(T_T)ありがとうございました!2006-12-09 13:20:24【☆☆☆☆☆】真黒はじめまして。
花畑に切ないストーリー。シンクロさせれば、非常に美しい情景描写になりますね。
それを上手くシンクロさせられていて、とてもいいと思います。
あとはもう少し、花畑の情景をリアルに書けるといいですね。
次回も楽しみにしております。2006-12-09 13:36:27【☆☆☆☆☆】SAKAKISAKAKIさん、コメントありがとうございますm(__)m
確かに読み返してみると、全然、花畑という舞台を生かせていないですね〜(^^;)
自分の中一杯にイメージは広がっているんですが、やっぱり言葉にするってむずかしいんですね……。どんどん勉強していきたいと思いますんで、これからもよろしくお願いします!2006-12-09 14:31:40【☆☆☆☆☆】真黒2006-12-09 16:26:48【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さますみません。簡易感想を送ろうとしたらミスりました。せっかくなので文章感想を書きます。
回想が入るまで意味がわかりませんでした。もちろん、それは当たり前なのですけれど、回想から背景がわからなくても誰が何をしているのかわかるように書いてほしかったです。語り手が【彼】という人称を使っているので、それが【父さん】だと気づくのに時間がかかりました。人称そのものが悪いのではなく、人称と人物を結びつけるものが弱いと感じました。
それさえわかってしまえば(回想を終えたころには)、その情景を楽しめました。2006-12-09 16:36:47【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま>模造の冠を被ったお犬さま
ご感想ありがとうございました!
自分なりには、あえて名前も付けず、心理描写に終始して、みんなに『彼女』と『僕』と『彼』について感情移入してもらえたらなぁ、と思ったんですが……やっぱりなかなかそれだけで伝えるのは難しいんですね(T_T)
コメントいただけるとホントに勉強になります!よろしければこれからも是非コメントお願いいたします。ではm(__)m2006-12-09 16:49:50【☆☆☆☆☆】真黒初めまして、作品を読ませていただきました。
とても綺麗な話で、よくまとまっているな、と感心しています。ただ、私もカンムリーヌさん(模造の冠を……さん)のご意見と同じく、彼と父さんが同じだと気づくのに時間がかかりました。彼女=母親というのは容易に想像できても、彼女の息子、息子の本当の父親、そして主人公(だと勝手に思っている)は全て男なので、“彼”だけではわかりづらいかもしれません……。ただ、あえて名前を使わずに人物を登場させるのは、読者に感情移入させるという点では巧い手だと思います。だから、その時書いている“彼”が誰なのかを明確にさせるともっと良いかな、と思います。
大口を叩きましたが、楽しませていただきました。これからも頑張ってください。次回作にも期待しています。2006-12-09 23:53:13【☆☆☆☆☆】目黒小夜子目黒小夜子さん、丁寧なご感想ありがとうございますm(__)m
なんとか回想の部分からは、「彼」を取っ払ってみました。幾分は読みやすくなったつもり?です<(^^;)
チンタラとしたファンタジーを今連載中ですが、並行してまたショートショートの構想を練っています。掲載したあかつきには是非またコメントいただけると嬉しいです!
これからもよろしくおねがいしますm(__)m2006-12-10 14:46:42【☆☆☆☆☆】真黒計:0点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。