『ジグソーパズルファミリー』作者: / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1526文字
容量3052 bytes
原稿用紙約3.82枚
一枚の紙があれば、必ず表と裏がある
表と裏があるから、一枚の紙になるのかしら
どちらが表で、どちらが裏か、
もしも決めることができなかったら
もしも誰も決めてくれなかったら
紙はそこに存在しないことになるのだろうか

表と裏
どちらが表でどちらが裏か、
それを最初に決めるのは、誰ですか
決めてもいいのは、誰ですか
私ですか
それとも、あなたですか
それとも、そんなことは考えてはいけないこと
決めなくても、いいことなのでしょうか

世界が差し出すゲームの勝者だけが
それを決めてもいいのだとしたら
私は、何のためにここにいるのでしょうか……



 そんなことを思いながら、雨降る町を歩いた。雨が降っていることになっている町を、歩いた。いつもの店で、「少年」を買うために。

「お望みは? 」
 カウンターの向こうの店員は、相変わらず無表情だ。

「金髪碧眼、年齢は10歳。身長は145センチメートル。体重は30キロくらいで」
 私は考えてきた要望を伝えた。

「少々お待ちください」
 店員は背後の棚を見上げた。薄暗い店内に、商品がびっしりと並んでいる。箱に詰められた「少年」たちが、黙って客を待っていた。

「少年」を受け取ると、私は金を払って店を後にした。隣の店は「少女」専門店だ。くたびれた姿の男が、「少女」を抱えて出てきた。
 雨の中を足早に去っていくどこの誰だか分からない彼。彼もきっと、私と同じ人種だろう。空っぽの心と空っぽの体の。ぽっかりと開いたその空洞を、何で埋めていいのか分からない、悲しいニンゲン。

 家に帰ると、片足を失った息子に「少年」を渡した。
「できるだけ早く、組み立てるのよ」
 息子は私から「少年」の入った箱を受け取ると、中身を部屋中にばら撒いた。
 ジクソーパズルのピースは、どれも同じような形をしているのに、きちんとはまるべき場所が決まっている。一体何のために、わざわざバラバラにして売るのだろう。
 息子は無言で、「少年」を組み立てる作業に取り掛かった。

 私は鏡を見た。頬の皮膚がはがれかけている。私も、限界なのだろう。女は顔から崩れてくる。

 玄関が開く。夫が帰ってきたらしい。迎えに出た私に、夫が大きな箱に入った「女」を渡した。
「できるだけ早く、組み立ててくれ」
 私は夫から、ずっしりと重い「女」の入った箱を受け取ると、中身を部屋中にばら撒いた。「少年」のピースと、「女」のピースが混ざる。
 息子が、表情のない顔で私を見た。この子は私の何人目の息子だろうか。息子に限界が来ると、新しい「少年」を買ってきて、古い息子に新しい息子を組み立てさせてきた。壊れた息子は、私がゴミ袋に詰めた。
 「大人」よりもピースの少ない「子ども」のほうが、早く限界が来る。「男」よりも小さい「女」の方が、早く限界が来る。それが、この世界の常識。
 
――最初の一体を作るのは大変だけれど、後は完成したニンゲンに作らせたらいいから……
――完全に壊れる前のニンゲンに、次のを組み立てさせると楽だよね……

どこからともなく、聞こえる声。空の上から聞こえてくる、無慈悲な声。
「男」を最初に作った神の声。「男」は「女」を、「女」は「子ども」を作った。
立体ジズソーパズルの家族。壊れても、代わりは、いくらでもある。

 何のために、私はここにいて、何のために、新しい私を組み立てるのか。何万ものピースを順にあてがいながら、私はそれだけを考える。
 私に限界が来るまで。
 神が、この遊びに飽きるまで。
2006-10-01 11:03:54公開 / 作者:碧
■この作品の著作権は碧さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
雨の日は、なんとなく、暗い気分になります。急に思いついて書きました。ブラック&ダークで、無味無臭な感じ、伝わりましたでしょうか。
また気持ち悪いものを、と思われた方、お目汚し申し訳ありません。他の方の爽やかな作品で、気を取り直して下さいますように。


この作品に対する感想 - 昇順
拝読しました。これを読んで、今更何を当たり前のことをと思った私は腐ってるんだろうかと真剣に悩むところです。
2006-10-01 11:27:55【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
>水芭蕉猫さま

読んで下さってありがとうございます。何かを真剣に悩むことができるのなら、そう腐ってはいないんじゃないか、と私は思います。腐りかけても、腐りたくないと抵抗しているような印象を受けます。生きているものが持つ、土臭い感じ抜きで書いてみたかったのですが、まだまだ生臭さが抜けきっていないということですよね。もっともっと、無抵抗に壊れ、壊されていく感じを書きたかったのに、これでは主人公に抵抗させてしまっています。反省させられました。
2006-10-01 11:55:58【☆☆☆☆☆】碧
作品を読ませて頂きました。はて? ブラックだろうか? これだけ無味乾燥的に書いてくれると、さっぱりしていていいですが。私の家は両親が離婚して双方とも再婚した家族なので、まさにジグソーパズルのような家族です。はじめはピースにずれが生じ、ズレがだんだんと大きくなり、どのピースもはまらなくなりパズル(家族)は、私が大学に入学して東京に出てきた時崩壊(離婚)しました。私的にはパースがはまらずギクシャクしているよりずっとよい状態でほっとした覚えがあります。その後は双方再婚したり、一人っ子だったのに兄弟が急に3人もできたりと、新しいパズルが組みあがりました。現実はこの作品のように無味乾燥にいかない分、色々とやっかいで嫌ですがね。
では、次回作品を期待しています。
2006-10-01 13:11:02【☆☆☆☆☆】甘木
アイディア自体はおもしろいと思います。不気味&不思議な感じ。ただ、そこに“神”とか“家族論”とか陳腐な事柄がでてくると、一気になえます。そういう事柄は、議論されつくされてていわば完熟してる腐ってる事柄です。わたしたちは、それらの言葉と向き合うたびに、自前の記憶や考え方を参照してしまう。余計な情報を引き出してしまう言葉といえるでしょう。そういった現象が、“生臭さ”を生む。家族とか神について伝えたいなら、直接的に書くのではなく、徹底してそれらを排除するべきでしょう。考えるのは、読者にまかせればいい。なにも、具体的に示してやる必要はない、と。カフカやカミュの不条理さは、そこがミソだと思います。不条理はとことん不条理に書く。そこに正等(そうな)理由付けをすると、陳腐になってしまうから。。。(意味不明ですねエヘエヘ 
2006-10-01 15:23:10【☆☆☆☆☆】一読者
>甘木さま 一読者様

それぞれにお礼を申し上げるべきなのでしょうが、まとめて返信することをお許しください。私は、お二人の感想に、非常に衝撃を受けました。平たく言うと、「え!?そんなつもりじゃなかったんです……」という感じです。私はこれを書くときに、子どもがおもちゃで遊ぶ様子をイメージしていました。神は子ども、立体ジグソーパズルの家族は、その場で家族に見立てられた、子どものおもちゃです。おもちゃも、最近はゲームが多くなりました。少し前まで、汚れた人形やぬいぐるみを、私がゴミ袋に入れるのを目ざとく見つけて「捨てないで! 」と泣いていた私の子どもたちも、今はゲームに夢中です。兄弟で同じゲームをしているらしく、今朝は長男が次男に怒っていました。「オレの店からアイツ万引きしやがった! 」と。一体どんなゲームなのかはさっぱり分かりませんが。私は、命のないものを擬人化するという行為に、ブラックなものを感じます。こ言い訳は潔くないことを承知で書きます。結婚、離婚や家族論、神の前で無力な人間を書こうと思ったわけではありませんでした。単純な発想から単純に面白いと思ったことを書いただけ、だったのです。でも、結果的にどうであったかは、水芭蕉猫さま、甘木さま、一読者さま、それぞれの感想そのままです。読む人への想像力の至らなさを痛切に感じました。書きたいことを書きたいように書くということが、時としてどういう結果をもたらすかを、身にしみて感じました。感想として書いている間、決して良い気持ちではなかったであろう甘木様と、一読者さまの心を、私はしっかりと受け止めて、これから書くものに対しての私の責任に変えて行きたいと思います。本当に、ありがとうございました。
2006-10-01 18:17:01【☆☆☆☆☆】碧
丁寧なご返答ありがとうございます。申し訳ないです。“良い気持ちではなかった”ということはありませんで、どうか誤解なさらず(焦)。純粋におもしろかったです。不条理云々は、付加読み・誤読の結果でございます。しかし、これもまた興味深いですね。作者様が「そんなつもりじゃ・・・」と思われる例はほかにもたくさんあることでしょう。一読者の立場としても気をつけたいところです。ではでは
2006-10-01 19:09:53【☆☆☆☆☆】一読者
 お久しぶりです。
 新作ですね。相変わらず碧さんの文章は奥が深い表現が多くて勉強になりますね。とくに、

「大人」よりもピースの少ない「子ども」のほうが、早く限界が来る。「男」よりも小さい「女」の方が、早く限界が来る。それが、この世界の常識。

 は特に印象的でした。私はここ最近”情景描写”がおろそかという指摘を受けてただけに、ひとつひとつの表現が大変勉強になりました。
 続きの方も楽しみです。がんばってください。
2006-10-01 21:44:19【☆☆☆☆☆】有
>一読者さま

申し訳ないなどと思わないで下さい。どんな風に読まれようとも、それは読む人の自由ですし、それを正直に伝えて頂いたことに感謝しています。一読者さまの誤読ではなく、何も考えずに陳腐なものを突きつけてしまったのは私の方です。だから、申し訳ないと思うべきなのも書いた私の方でなければいけないと思います。誰かに言われなければ、全く気づかないようなことを指摘して頂いて、いろいろなことを考えさせられました。これからも、お気づきの点があれば、遠慮なくお願い致します。

>有さま

感想ありがとうございます。印象的だと言って頂いた一文は、単純に現実を反対にしただけなんですよ。現実だと、例外を除けば子どもの方が余命長く、男性よりも女性が長生きだよな、と思って。言葉一つで、現実を簡単にひっくり返せるのが楽しかったのです。命ないものを動かしたり、感情を与えたり。でも、何も考えずにこれをやると、ものすごく悪趣味なことになってしまうんですね。反省しきりです。奥が深いどころか、私自身の物事に対する考え方の底の浅さが表面に出てしまった結果だと思っています。これともうひとつ、食物連鎖が逆になった世界の話を書こうかとも思っていたのですが、(ニンゲンが冷蔵庫やプリンタにガシガシ喰われていくような)もう、勢いだけで書くのはここまでにして、よく考えてから書こうと思います。お互い、勉強中の身ということで、一緒に頑張りましょうね!
2006-10-02 06:09:30【☆☆☆☆☆】碧
読み始め、僕は小児性愛の話と思いました。歪んでます。しかし数行も読み下すとすぐ違う事は解りましたが。
おかしな事を思いすみません。
やはり、最後に介入して来た”天上”は良く無いと思います。構成全体の、映像的な完成度と云うものが気になってしまうので、それが無ければかなり良かったと思います。
それ故その点を除いて、他はショート・ショートっぽくなっていて一つの作品としてはまとまりをみせていて良かったと思います。
2006-10-03 03:09:44【☆☆☆☆☆】ブラインドパペット
>ブラインドパペットさま
 
感想をありがとうございます。
小児性愛の話だと思って頂いても、それは間違いではないかもしれません。最初に思いついたタイトルが「少年買い」でしたし。でも、私は私自身が歪んでいるとは思っていないのです。これを書いておきながら、読んだ人だけ悩ませて、何も悩んでいない私って、ダメダメじゃん、みたいな状況にはまっています。よく考えてこれは書き直します。どう書き直しても、私自身が同じなら、結局同じ結果になるんじゃないか、という弱気な気持ちにもなっているのですが。やってみないことには、結果も出せませんからね。完全に反省材料とします。構成全体の、映像的な完成度。とても参考になる言葉だと思いました。
 ところで、ここに書いて良いものか迷いますが、先ほど、「白昼夢」を読ませて頂きました。読みながら、その作品の独特の雰囲気に飲み込まれるような感じが私は好きです。ですので、非常に私好みの作風だと思ったことだけ、ここに書かせて下さい。
2006-10-03 04:17:59【☆☆☆☆☆】碧
いろいろ疑問は残る感じがするのですが、個人的にその発想は面白いし好きだなぁって思いました。ただ、はじめのところがちょっと読みづらいです。浮いている感じもしますし。そこの文を変えて地の文を上手く作れば、ぐっと読みやすくなるし小説的になると思います。無意味なことを無意味だと知りながらも繰り返してしまう怠惰さと、退廃的な雰囲気はとても良かったと思います。次回作、期待していますね。
2006-10-06 22:23:26【☆☆☆☆☆】夢幻花 彩
>夢幻花 彩さま

感想ありがとうございます。これは近いうちに絶対に書き直します。そう変わらないかもしれませんが、そう心に誓っています。でもその前に、他のものを書きます。きっと。なぜなら、私は心の奥底で、「爽やか」なものを書きたいと願っているからです。これこそ、無謀かつ無理なのですが。
 次回作は、期待しないで下さいね。これはとは全く別のものを書きますから。そういうものを書きたいと、一つ書く度に、思ってしまうのです。
2006-10-07 22:44:27【☆☆☆☆☆】碧
計:0点
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