『無常』作者:銀 真 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
『死神』が魂を刈るお話。その魂を刈る際に、『死神』が抱いている疑問を『カミサマ』にに問いかける。当然、『カミサマ』からは答えは返ってこない。しかし、『死神』は問う。何故、人間の屑を貴方は生み出したのかと。暗にそう問うても答えは返ってこない。
全角1847.5文字
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原稿用紙約4.62枚
 五階の屋上から見たそれは、ただのどす黒い紅の物体だった。
 いかに死神といえど、流石に大体40メートルの距離からその物体が何かを確認することはできない。
 ここからでは仕事はできないな……
 そう判断して、私は屋上の腰の高さほどの塀を飛び越え下に墜ちる。勿論大事な鎌も一緒にだ。
 そしてとんっと軽い音を立てて地面に降り立つ。
 目の前には……ぐちゃぐちゃに潰れたもの。紅の狭間から真珠のように白がちらりと顔を覗かしている。
 それはつい先ほどまで『人』と呼ばれていた。しかし、今は誰も……それを『人』とは呼べないだろう。
 それは、5階建ての学校の校舎の屋上から落ちた『人』。まぁ、こんなぐちゃぐちゃになるとは本人も思っていなかっただろうが……
 別に、私が突き落としたわけではない。
 自分で、落ちたのだ。
 私は……その背中を後押ししただけだ。一言で。
『そんなに生に絶望しているなら、ここから墜ちてみたら?苦しみもなく死ねるよ?』
 その前に、いくらか問答をした。しかし、決定打はこの一言だった。
 そして、それはあっさりと墜ちた。
 それが自殺したのは大部分が私のせいだろう。しかし、それほど罪悪感はない。
 何故かって?
 それが私のお仕事だからだ。
 手に持っていた私の身の丈ほどもある大きな鎌を手だけで支えるのは限界になってきたため、地面に下ろす。
 少し紅く汚れるが、仕方あるまい。今の私のような少女の細腕には荷が重過ぎる。そう、今の私には。
「……死にたいと、言ったのは貴様だ」
 見下しながら亡骸を足蹴にする。
 靴が汚れる。しかし、それよりも僅かに胸が痛んだ。
 今回のお仕事は人間界に増えすぎた雑魚のような魂の回収。私はそれを『カミサマ』とやらに献上しなければいけない。
「本当に、貴様みたいな屑は仕事の相手にはもってこいだ」
 勝手に世界に絶望して、自分のことは棚に上げつつ他人のことを責めたてる。
 『人生』というものをまったく味わえずに死んでしまった私から見れば腹立たしいことこの上ない。
 ただ、この屑も将来には大物になる確立がなかったわけではない。
 私はこの屑の命をつんだのだ。
 心がまた痛みそうになる。
「貴様に理解できるか?
こんなに綺麗な世界を味わえずに赤子で既に死んでしまった私達の無念が」
 人間というのは、あまりにも贅沢すぎる。
 私達がいくら味わいたいと思っても、決して出来ないことを出来ることに何の疑問も抱かず、堕落した日常を送っている。そして、それを不幸として他人を羨むしかしないのだ。
 いくら不幸でも、その不幸さえ味わえなかった私達『死神』。その無念すらこいつらは踏みにじる。
 でも、そう思っても……心が痛むのは止まらない。
 仕事の時はいつもそうだ。
「『死神』を見ることのできる人間の大半はこういう奴らばかりだ」
 私は、ここにはいない『カミサマ』に向かって語りかける。
 自分の心を誤魔化すため、あえて問いかける。
「何故、貴方は…私達にこんな屑の始末を押し付けるのだ?」
 答えは当然ながら返ってこない。
 溜息を一つ落として、私は少女の姿から本来の『死神』の姿に戻る。
 この身体ならば大鎌は苦にならない。いや、私のために作られた鎌だ。苦になるわけがない。
 先ほど少女の姿をとったのは、屋上に上ってきた屑に自殺を唆す為。
 そして今、元の姿に戻ったのは魂を『カミサマ』に献上する為。
 私は大鎌を操り、葬送の舞を踏む。複雑な半円を描いた上に円を描きなおすような舞。もう何十回と踊ってきたもので、次の動きを思い出す前に身体が動く。
 それは死神の魂送りの儀式。
「…何故、貴方は私達に試練をお与えになる?」
 舞終わって、私は『カミサマ』に問いかける。
 当然、返答はない。
 『カミサマ』に会い、言われた言葉が思い出される。
『貴方が死神であるうちに、3つの試練を与えよう。その試練を突破できたら人に転生させてあげましょう』
 これは試練なのですか?
 貴方が私に魂を刈らせること。私がその仕事に心を痛めること。いくら問うても、貴方からの返答はないこと。
 どれが試練なのですか?
 もう一度溜息を一つ落として、私は次の獲物を探して風と駆ける。
 人になりたい。
 ただそれだけの望みのために。
 私は魂を刈る。
2006-05-12 19:52:33公開 / 作者:銀 真
■この作品の著作権は銀 真さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして、銀 真(しろがね まこと)と申します。
無常(つねなしと読んでくださると嬉しい)を読んでくださりまことにありがとう御座いました。
今回は『死神』・『カミサマ』『自分を不幸だと思っている人間』の三つを登場人物として出させていただきました。
この世界に今存在するということは、私はとても貴重なことだと思っています。
平凡に平和に一日を過ごせるのは幸せなことです。
それを不幸という方に向けた疑問が丸々この小説となっています。
この世界を見ずに死んだ人たちは、もしかしたらこの世界を一目みたいと思っていたかもしれない。
でも、それはかなわなかった。だったら、この世で世界を見れることは幸せではないのでしょうか。
だから、私はそんな幸せをもてる精一杯の力で書かせていただきました。
最後に、ここまで目を通してくださってありがとう御座いました。
五月十二日に頂いたアドバイスをもとに大幅加筆をしてみました。
それでは、失礼致します。
この作品に対する感想 - 昇順
 はじめまして。作品に関してですが、実際のところ、描写が少ないかなという印象はうけますが、内容は好きですね。こういう雰囲気の作品は好きです。もっと肉付けしてあれば、さらにいいですね。
 改行が多いこと、段落のはじめは一文字あける、沈黙を表すのは三点コーダを二つつなげるというのがここのサイトではルールとなってます。僕もはじめはそうでした。正規表現でない場合は読まないというかたもいるので気をつけましょう。後は、一箇所献上が謙譲になってました。僕もへたなので、偉そうに言うべきじゃないんです。偉そうにすみません。次回作期待してます。
2006-05-07 23:36:11【☆☆☆☆☆】buchiM改め風間新輝
 はじめまして、感想ありがとうございます。風間新輝様。銀真です。描写が少ないですか、注意していたつもりでしたが今後はもっと気をつけて描写を増やしていきたいと思います。
 改行をもっと少なくした方が良いということですね。わかりました、次回からなるべく改行が少なくなるように気をつけます。段落の始めは1行あけるんですか、すみません失念しておりました。以後気をつけます。ところで、三点コーダを繋げるとのことでしたが、二つ繋げて最初に投稿したときにエラーが出てしまいまして、それを一つにしたらエラーにならずに通ったのですが、やり方が悪いのでしょうか。あ、誤字指摘ありがとうございます。
 ご意見とても参考になりました。感想ありがとうございました。
 それでは、失礼致します。
2006-05-08 19:06:46【☆☆☆☆☆】銀 真
初めまして、蘇芳と申します。
全体的に描写がうすいと思います。どうのようにぐちゃぐちゃなのか、どんな舞なのか。そういったところ詳しく書けばグロテスクさ、幻想さといったものが増すのでは。
 冒頭で五階の建物ってあるけれど、具体的にどれくらい高いのか想像がつかない。そこから見下ろしたり眺めたりした風景の描写が加われば、奥行きが生まれて“高さ”も読者は感じ取れると思う。
 自分のやっている事に疑問を抱くってことは、その行為に後ろめたさみたいなものがあると思う。読んでみて、そういう感じが伝わってはくるけど希薄だった。そこをもう少し強調してみれば良いんじゃないかと思う。台詞に出してしまうよりも、そこを心情とかの描写で補ってみるのと書いてて楽しいかもしれない。
 最後のほうで「試練」って言葉が出てくるけど、それは最終的に何か見返りがあるってことかな。あるんだったらそこを伏せないで、作中で触れてみれば葛藤とかが上手く伝わると思う。
 長々と申し訳ないんだけど、これは読みきり?それとも連載?
この終わりかただと連載なんだけど、作者コメント見ると読みきりっぽい。読みきりなら読みきりで、最後にすぱっと終わらせた方がすっきりするかな。

僕に限って言わせて貰えばカタカナ語の使用はあんまり良くないかなあ、と。
文章の見栄えは良くなるけど(場合によりけり)、その見栄えに頼りすぎてしまうきらいがあると思う。モノとかカタカナ二文字で済ますくらいなら、それがどういう状況でどういう状態なのかをしっかり書いたほうが読者はイメージしやすいし、作者も勉強になると思うけどなあ。

さてようやく感想(汗
なんか神様にひたすら文句垂れるだけって感じだったなあ。少なくとも私は面白いとは思いませんでした。というよりも感じるものがなかったというのか。
生を受けることが叶わなかった魂が死神となり、日々を飽いた生者の魂を刈り取る。
逆恨みのうさ晴らしに、神からの指令っていう言い訳付きっていうように、ヒネくれた私は思ってしまうのですよ。
この作品からは「日々の幸せ」よりも「死神の不幸」のほうが感じられた。
ではでは、長文乱文失礼致しました。
2006-05-09 01:22:30【☆☆☆☆☆】蘇芳
 はじめまして、アドバイスありがとうございます。蘇芳様。
 描写が全体的に薄いですか、もっと具体的にですね。次に小説を書く際には、もっと描写を肉付けしたいと思います。
 風景の描写、それは今回すっかり気にしてませんでした。そうですよね、風景の描写がないと小説になりませんよね。ご指摘ありがとう御座います。
 心情描写ですか、今回一人称でしたので多めに心情描写を入れたつもりでしたが、もっとあっても良いのでしょうか。では、次回から気をつけていきたいと思います。
 試練というのは、説明が足りなかったようですね。本当は「いくら問うても、返事が返ってこない」というのと「何故、もう世界で過ごすのが許されない自分をこの世界に送り尚且つ意志を持たせたのか」という二つの疑問のようなものが試練、という感じをだしたかったんですけれどもどうやらまだまだ修行不足のようです。
 この小説は読みきりです。最後の終わり方が続いているような感じがするのは、また最初に戻って読んでも違和感が出ないようにと書いてみました。同じ日々をつらく過ごす死神、というニュアセンスを出したつもりだったのですがこちらも修行不足がたたってしまったようです。いご精進します。
 カタカナ語にたより過ぎですか、確かにもう少ししっかりと状態を描写した方が分りやすかったですね。すみません。
 
 ああ、確かに。「死神の不幸」の方が濃いですね。本当に一人で突っ走って書いているのが数日経った今だと分ってしまいます。お恥ずかしい限りですが。
 今後はそういう一人で突っ走る点の打破を目標としたいと思います。

貴重なお時間を割かれて、ここまで丁寧にアドバイスしていただきまことにありがとうございました。
得るものがとても多かったと思います。
本当にありがとうございました。
それでは、失礼致します。
2006-05-09 20:00:44【☆☆☆☆☆】銀 真
[簡易感想]
2006-05-11 17:34:35【☆☆☆☆☆】オセロ凡人
とても面白かったです。続くんですよね頑張ってください。
2006-05-11 17:35:37【☆☆☆☆☆】オセロ凡人
感想ありがとうございます。オセロ凡人様。
いえ、続きません。まぎらわしい終わり方をして申し訳ないです。
一応あれで完結です。
それでは。
2006-05-12 19:10:29【☆☆☆☆☆】銀 真
再度読ませていただきました。確立→確率、会話の不自然な途切れを発見しました。カミサマとやらと書いているとちょっとカミサマに会ってないように感じるかなとおもいました。指摘を受け、試練を出したのはすばらしいんですが、試練を突破なのに内容言ってないの?と思ってしまいました。
 罪悪感がないと言い切るよりは、これは仕事なのだ。私は仕事を実行しているだけ。罪悪感なんてあるはずがない。でも、私の胸はちくりと、徐々に強く締め付けられるように痛む、とかにしてあると入り込みやすいかな。でも、これは僕の好みの問題だったりします。
次回作をお待ちしてます。
2006-05-12 21:29:22【☆☆☆☆☆】風間新輝
初めまして甘木と申します。作品を読ませていただきました。淡い感じの作風は作品にあっている感じはしますが、物足りなさも感じています。死神のもつ不幸ばかりが強調され、背景にあるはずの人に対する羨望と嫌悪などが希薄な印象です。ところで5階建て建物の屋上でも40メートルもないです。仮に1階分が3メートルとしても5階建てでは20メートルもならないはずです。では、次回作品を期待しています。
2006-05-14 22:38:37【☆☆☆☆☆】甘木
 初めましてカメメと言います。作品読まさせていただきました。生と死を題材に持ってこられたのは正しいと思います。文学が何よりも題材として(恐らく人であればどうしても避けられない考えであるでしょうから)向き合うことが必要だと思いますから。
 ただ、だからこそ多くの作家さんが取り組んで考えてきたものだと思うのです。独白の形式で行くのなら、もっともっと掘り下げてしまって良かったかと思います。それこそくどいってぐらいに。きっと答えの出ることのない問いなのだと思うのです、なので堂々巡りであろうともっと深い考えを聞きたいなと思ってしまいます。
 テーマに真摯に取り組んで、思いがあるというのはとても大切な事だと思います。器用さも大事でしょうが、僕はこうした真摯さの持つ誠実さを大事に思います。これからも取り組んでいって下さい。次回作期待しています。
2006-05-15 00:27:41【☆☆☆☆☆】カメメ
 レス遅くなって申し訳ありません。

風間新輝様>
 再度読んでいただきありがとうございます。
 不自然に途切れてましてか、以後そういうことの無いよう今以上に推敲に力を入れたいと思います。
 カミサマの試練の内容が具体的でないのは、具体的に言ってしまうとそれにしか力を入れない者が出てきてしまう。という現実味をいれたつもりですが変な誤解を生んでしまったようで大変申し訳なく思っております。
 そういう文章も素敵ですね。私はそういう風にはたぶんどう頑張ってもかけないのですが、素晴らしいアドバイスありがとうございます。
 今回誤字を指摘していただきましたが、これ以上この程度の文を底上げするのもあれなので、今回はそのまま流してしまおうと思います。
 ご指摘ありがとうございました。

甘木様>
 はじめまして、銀真と申します。物足りないですか、一応加筆を一度したのですがそれでもまだまだのようですね。以後精進いたします。
 あ、そうなんですか。すみません、無知を晒してしまいました。20メートルくらいなんですね、次回作からは気をつけたいと思います。
 ご指摘ありがとうございました。

カメメ様>
 はじめまして、銀真と申します。生と死の題材を話題にしてくださりありがとうございます。幼い時からずっと疑問に思っていたことをやっと文章にできる程度の力がついた気がしましたのでここに投稿させていただきました。
 もう少し掘り下げる、でもそうしたらこの文は相当くどくなってしまうような気がしたのであそこまでにしておいたのですが、まだまだ実力が足りなかったようです。また、もう少し文章力がついたら自分でこの作品をもっともっと加筆して本当にくどい文章にしてみたいものです。
 ありがとうございます。これからも、こういった題材を扱っていきたいと思います。



皆様。レスありがとうございました。
次回作は、もう少し文章を綺麗に書くよう心がけます。

ほんとうにありがとうございました。
2006-05-15 19:34:48【☆☆☆☆☆】銀 真
計:0点
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