『先生とぼく』作者:水芭蕉猫 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
電波がうるさいので虫を取り出したぼくの話。注※猟奇表現があります。
全角2168文字
容量4336 bytes
原稿用紙約5.42枚
 目玉の後ろに虫が入ってる気がしたから抉ってみたら物凄く痛かった。赤い液体みたいのがぽとぽと垂れて白いベッドのシーツを汚してしまったけれど、そのかわり白いぶにょんとしたゼラチンみたいな目玉にくっついた赤いびろびろした蚯蚓みたいな虫が取れた。物凄く痛かったけど、ずっと頭の後ろでうぞめいていた虫が取れたので、痛いのと同じくらい物凄く嬉しかったから同室にいる先生に見せてみた。
 先生は物凄い先生で、何がすごいかと言うと物凄い先生だから凄い先生なのだ。昔、戦争に赴いて地雷を踏んで下半身を無くしてしまった兵士さんを生き返らしたり、頭をなくした犬の幼虫に代わりに猫の頭を作ってあげたりしたらしい。ほかの部屋の皆は犬の幼虫は猫の頭よりも鼠の頭の方がくっつきやすいから先生はヤブだって言うけれど、ぼくはそうは思わない。同室だし、何より先生は凄い先生だからヤブなはずはないと思う。そういう風に言うと、たまにこの部屋にやってくる飼い主は笑う。
 飼い主っていうのは、人間の体に入った犬を飼っているらしい。犬の名前は犬だから犬だって前に言っていたけれど、前にぼくがポチと呼んだら喜んでぼくの手をへろへろ舐めたので、恐らく自分の名前なんて解ってないんだろうと思う。けれど、この建物に入ってる皆は大抵が他人の名前なんてどうでもよくて、お互い好き勝手に読んでいるのだから名前なんてあってないようなものだと思う。
 そこまで考えたところで、ぼくは手のひらにある目玉とくっついてる虫を先生に見せるのをすっかり忘れていたことを思い出したので、ベッドの上から格子付き窓の外をぼんやり眺めている先生に声を掛けた。窓に格子がついているのは、飼い主みたいな人が死ぬ気の無い自殺未遂をして外の人をビックリさせないためだと先生が言っていた。この先生は外をぼんやり眺めている先生ではなくて、イカみたいな白衣を着て頭に銀色の何かをつけた悪い先生が言っていたことだ。なにが悪いのかというと、ぼくや先生や飼い主や犬をこの建物に閉じ込めたから。電波も解らないくせにわかった風な口を利くのはイカにもヤブ医者のしそうなことだけれど、外の人はぼくの言うことを信用せずにぼくをこの建物の中に押し込んだ。でも外の人は悪くないのだろう。外の人はヤブ医者の先生に洗脳されてしまったから仕方がないのだろうと思う。
 おっとまたやることを忘れてしまうところだった。最近昔電波が頭の中で反芻するためか、やろうとすることをつい忘れてしまう。虫をとったらよくなると思ってたけれど、もっと奥のほうにも虫がいるんだろうか。電波は頭の中で反芻して口から出てってくれることもあるけれど、虫は卵で繁殖するから中々居なくなってくれない。とりあえず目の後ろに居たこの虫を先生に見せると、先生はのっそりと窓からこちらに視線をうつしてうむぅふぅむと唸った。
「先生。虫が取れました。これで電波がなくなるでしょうか」
 すると先生はうむぅふぅむともう一度仰々しく唸った後で、もう片方の虫も取らなきゃ電波はなくなりませんと言った。でもそうすると目玉の機能がなくなってしまうので、代わりに口から目玉を取り入れて見ましょうということになったので、先生はぼくの手からゼラチン質の目玉を取り上げ、むしむしむしと赤い蚯蚓みたいな虫をむしりとると、リンゴか何かを渡すようにぼくに渡した。
 ピンポン玉よりも少し大きいくらいのそれは、白い中にぷにょんと黒目があって、何だかそれがとても滑稽で、自分の目玉なのにちょっぴり可愛く思えた。
「さぁさぁイキが悪くならないうちに取り入れなさい」
 先生がそういうので食べようとすると、先生は一気に味わって食べなさいと言ったので、ぼくは丸まんま目玉を口に放り込むとよくかんで食べた。
 とろとろした海のような塩味が口に広がり、それから鉄サビみたいな味が口に広がって、こりこりするようなねちゃねちゃするような感触を味わった後で飲み下した。
「どうかね?」
 先生に聞かれても、視界は変わらなかったけれど、それを言うと先生は数日したらまた見えるのような事を言うのであぁそうなのかぁと思った。
 それで電波はどうなるのでしょうと先生に聞くと、先生は見えるようになってからもう片方の虫も摘出してみましょうということになり、すっかり用のなくなってしまったぼくはもう一度ベッドに戻ると、このベッドの赤いしみをどうしようと考えた。このままほうっておけばまたイカの先生に怒られるし、その部下のピンク色のイカにも怒られてしまう可能性もある。先生に助けてもらおうと思ったけれど、先生はまた窓の外を眺めて楽しそうにぼんやりしているので、仕方なくぼくはベッドのシーツを剥ぎ取ってベッドの下に隠した。どうして隠したのか問われたら、銀色の鼠がやってきて隠してしまったということにしよう。そう思うと少しだけ楽になったので、ベッドの中にもぐりこんで布団をかぶって目を瞑った。片方の目は見えなかったけど、その代わり残ってる方の目を瞑って見えなくした。電波がブンブン頭の中で飛び交ったけれど、それはうるさい電波ではなかったので無視する事にした。
 眠りに落ちる寸前に、虫も取れて今日も平和で良い一日だなと思った。
2006-03-26 15:35:26公開 / 作者:水芭蕉猫
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■作者からのメッセージ
「電波」というものを至極真面目に書くとしたらどうなるだろう。
最近そういうことを考えています。
 何かありましたらお手柔らかにお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
うーーーーん。電波を理解できなかったです。あまりに抽象的。先生の先生たる資質が弱いなと。たぶんこの短さでは表現しきれないと思います。水芭蕉猫様ならもっとエグイの書けたのでは?と。冒頭は中々のインパクトで薄ら笑いしてました。ではまた!
2006-03-26 21:57:11【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
ミノタウロス様>
感想ありがとう御座います。抽象的です。抽象的そのものが電波として意味を成すのか、それとも確固とした何かとして書くのが電波的に良いのか判別が付かなかったのでとりあえず抽象的になりました。先生の先生たる資質が弱いですか……。もっと先生としてエグくしてみたら良いかもしれませんね。ちょっと今回はエグさが足りなかったかもしれません。冒頭薄ら笑いしていただいたとのことありがとうございました!!^^
2006-03-26 22:44:10【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
作品を読ませていただきました。何をして電波云々と判断するのか未熟な私には分かりませんが、この作品は言葉遊び的な面白味のある娯楽作品だと思いました。ただ、作品の主題と言うべきものが曖昧で不条理さ、グロさが弱かった感じがします。個人的嗜好ですが、私としては不条理故の気持ち悪さを(人間は自分が理解できないものに不快感を感じます)前面に出した作品が好きですね。では、次回作品及び連載の更新を期待しています。
2006-03-26 23:03:19【☆☆☆☆☆】甘木
甘木さま>
感想ありがとう御座いました。これが電波なのかは自分でも判断しかねますが、電波に触発されて書いたので恐らくは電波だと思います。これは言葉遊びなのでしょうか? その辺りは読者の皆様に任せてしまおうかと思います。作品の主題が曖昧でしたか……不条理さやグロが足りなかったのは恐らく私の電波不足です。次こそは気持ち悪さを全面的に押し出したものを書いてみようと思います。ありがとう御座いました。
2006-03-26 23:34:41【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
 どのような文を指して電波文というのか知りませんが、文章に脂肪が多いと感じました。もっとスマートにするか、ぎっちり詰め込むかしたほうが好みです。
2006-03-26 23:47:57【☆☆☆☆☆】clown-crown
読ませて頂きました。背筋がぶるっときてしまいました。自分には少しキツイ話でした。これが電波なのですね。でも結局何が言いたかったのだろう。ということが読み終えたあとに残ってしまいました。
次回作を楽しみにしています。
2006-03-27 09:09:47【☆☆☆☆☆】聖藤斗
作品を拝読させていただきました。時貞です。こういうタイプのショートx2、実は僕も無性に書きたくなるときがあります。バーセルミの短編を思わせるようなバッド・トリップ感(?)ですね。端からストーリー性を求める向きの方には受け入れがたい内容かもしれませんが、ある意味パンキッシュな文体で、変わり者(?)の僕は思わずカッコイイと思ってしまいました(笑)ラストに何かしら捻りがあったら更に嬉しかったですね。それでは、次回作品と連載の更新を楽しみにお待ちしております。
2006-03-27 12:43:24【☆☆☆☆☆】時貞
このような白日夢的趣向というか淡々とした狂気は非常に好きな私なので、率直に楽しめました。一方『僕』の語りが理路整然としすぎて、電波っぽさが一人称としては弱まってしまった気もしました。何か一箇所、ドキリとするような流れの齟齬感があると、より電波的になるかと思ったり。
2006-03-28 01:49:11【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ
clown-crown様>
感想ありがとう御座います。電波、は、頭の中の混線模様が電波。な気がしますが、どうなんでしょう。スマートにするのは苦手なので、もっとぎっちり詰め込むように出来るように勤めます。
聖藤斗様>
感想ありがとう御座います。キツイ。かな?個人的にはまだぬるいかもしれないと思っていたのですが、嬉しいです。これが電波の端くれだと思います。結局何が言いたいのかよく解らないというのも電波のうち……かもしれないと思っておりますが、次は意味のある電波にしたいと思います。
時貞様>
感想ありがとう御座います。おお時貞様もこういうのを書きたくなる時がありますか。ストーリー性は全くありません。甘木様の仰られる言葉遊びに一番近いかもしれません。でも電波です。ラストに捻りを入れるのはちょっと思い浮かびませんでしたが、次回の電波にはなんとか何かを入れてみようかと思います。
バニラダヌキ様>
感想ありがとう御座います。私もこういう白昼夢のようなまったりとした電波っぽいものが好きです。楽しめたということで大変満足しております。理路整然としすぎたのは、きっと私の力が足りないせいだと思います。一箇所ドキリとするような流れの齟齬を入れてみれば電波的になるとのこと、アドバイスに感謝します。次はもっと電波にします。
2006-03-28 15:32:34【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
拝読しました。単調に事象が語られてゆくこのテンポは見習うべきところもあるのでしょうが、例えば水芭蕉様はこの作品のどこを読者に(最も)読んでもらいたいと考え、また如何なる感慨(感想?)を与えようとしたのか、それが気になります。つまり意図、ねらい。文章は稀有だと思うのですが、それ以外の部分に突出したものが無いように思えました。小説にあるべき美麗さは感じられませんでした。次回作御待ちしております。
2006-03-30 14:33:17【☆☆☆☆☆】京雅
京雅様>
感想ありがとう御座います。遅れて申し訳ありません;ねらいは、おそらくぐにょぐにょした思考と訳の解らなさを最もアピールしたいのだと思います。文章を見ていただきたかったのです。なのでそれ以外に突出したものが無いのはごく当たり前かもしれません。美麗さのカケラも無い文章に明日は無いのかもしれませんが、それでもこういう文章があるということをアピールできれば、これはこれでまず良しという考え方を取らせていただきました。それでは感想ありがとう御座いました。
2006-04-07 00:50:35【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
計:0点
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