『テリー鮎川の推理趣味』作者:時貞 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角9782文字
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原稿用紙約24.46枚
 ある晩秋の夕刻のことである。
 大学生の北見吾郎は、学友である《テリー鮎川》こと鮎川輝彦の住むアパートの一室にどしりと腰を降ろしていた。どうやら外は北風が強くなってきたようだ。サッシ窓がガタガタと揺れている。テリー鮎川は、グラスに注がれたストレートのウイスキーをぐいっとあおると、煙草を咥えてうまそうに一服した。
 テリー鮎川――この何とも怪しい渾名は、彼の本名である輝彦の《てる》をもじったという意味もあるが、それと同時に彼が無類のミステリー愛好家であるということも意味している。ミステリーの《テリー》を採ったというワケだ。
 北見は自分のグラスに注がれたウイスキーをチビリと舐めると、話を切り出した。
「なぁ、テリー。例の女性資産家殺人事件について、お前はどう思う? ほら、一昨日の深夜に起こった事件」
「ん? ああ、なんかそんな事件がこの田舎町で起こったらしいね。お前の兄貴もその事件に関わっているのか?」
 北見吾郎の実兄は刑事である。
「ああ、ウチの兄貴の担当事件なんだ。こんな田舎町にしてはけっこう面白い事件なんだが……その口ぶりじゃあ、ほとんど内容については知らないらしいな」
 テリー鮎川は、寝癖のついた後ろ髪をボリボリと掻きながらそれにこたえる。
「うむ。もっぱら空いている時間は読書に掛かりっきりだからな。現実に起こる事件なんて、ミステリ小説の面白さに比べたらつまらんものばかりだが……まぁ、せっかくお前が寒い中来たことだし、退屈しのぎに聞いてやってもいいよ」
 テリー鮎川はそう言って大きく紫煙を吐き出すと、短くなった煙草を灰皿代わりの空き缶の中に突っ込んだ。
「ったく、相変わらず高飛車な口ぶりだな。まぁいいや。これは兄貴から内々に聞いた話も含まれるんだが――」
 そう言って北見が語り始めた事件の概要とはこうである。

       *

 この町に住むさる女性資産家――独身で一人暮らしであった――が、一昨日の深夜何者かによって殺害された。死因は絞殺。首には家電量販店でよく見受けられるような、灰色の電機コードが深々と食い込んでいた。絞痕が二本あることから、犯人は被害者の首を一度絞めた後――その一度ではまだ死に至らなかったのか、あるいは抵抗されて電機コードが一度緩んだのか――、更にもう一度首を絞めて殺害している。凶器となった電機コードは、被害者の首に巻きついたまま放置されていた。殺害現場は被害者の自宅。庭に面した八畳ほどのリビングで殺されていた。なお、そのリビングの窓ガラスが割られており、部屋の中にガラスの破片が散らばっていた。室内を物色したような形跡は無し――。

 この事件で浮かび上がった容疑者は、次の四人の男たち。
 いずれの四人とも殺害の動機があり、それに反して事件当夜のアリバイは曖昧なものばかりであった。
 一人は霧島和則。職業は運送業経営の四十三歳。被害者の元夫である。自分の経営する運送会社の経営が傾き、被害者に多額の借金があったらしい。事件当夜は近くの居酒屋チェーン店で呑んでいたとのことであるが、それを裏付ける目撃証言は無し。
 二人目は新城武彦。職業は大学助教授の三十六歳。被害者とは以前交際があったのだが、新たな恋人が出来てしまい別れたとのこと。被害者から、脅迫的とも言える復縁を迫られていたらしい。事件当夜は自宅にてすでに寝ていたとのこと。一人暮らしでもあり、当然裏付けは取れていない。
 三人目は中田圭二。職業は無職の四十五歳。もともとは被害者の経営する会社の下請け会社の社長であった。昨年被害者より下請け契約を打ち切られ、それに伴い経営が破綻。倒産を余儀なくされ、被害者個人に対しても強い逆恨みの念を抱いていた模様。事件当夜は自宅で家族とともに寝ていたと言うが、証言としては弱い。
 四人目は渡辺淳也。職業は建設会社の営業マン。二十八歳。リフォームの仕事の依頼を受け、被害者と知り合う。妻子は無く一人暮らし。被害者に強く恋愛感情を持ち――財産に目が眩んだとの見方もあるが――、拒絶されながらも執拗に迫っていたらしい。いわゆるストーカーまがいの行為を繰り返していた。事件当夜は残業で遅くなり、車で帰宅途中であったと言うが裏付けは無し。
 なお、四人ともその住居は被害者宅からさほど遠くない距離にあり、例えば家族と共に自宅に居たと言う中田圭二でさえも、家人が寝静まった隙をついて外出した可能性もおおいに考えられる。

 事件の解決を大きく左右する、重大な目撃証言があった。
 被害者宅のある町から近い距離に一人暮らしをしている女子大生が、事件直後に犯人とおぼしき人物と接触していたのである。彼女の非常に重大な証言に、警察関係者はみな色めきたった。
 その女子大生――名前は八木下ゆかり、二十歳――は、現在絶対安静状態で総合病院に入院している。以下に、警察が医師の承諾を得て聴取した彼女の証言を再現する。

 ――あなたは何故、あの時間にあの場所で倒れていたんですか? それも頭部に失神するほどの怪我を負って。
「……はい。私はあの夜、自室でレポートを書いていました。夕食を採っていなかったもので、あの時間になって急にお腹がすいてきたんです。でも、家には何も買い置きがありませんでした。時間が遅くてお店はみな閉まっていましたので、歩いて十五分ほどのところにあるコンビニまで出掛けようと思ったんです。ええ、ご存知のとおり田舎町ですし、私のアパートの近くにはコンビニがないものですから」
 ――それで、あの人気の少ない被害者宅の側を通った?
「はい。あの道、暗いし人通りも少ないのであんな時間に通るのは気が引けたんですが、一番の近道だと思ったんです。私は早足で通り過ぎようと思ったんですが、ふとあの家に視線が向いて……」
 ――そこで例の、窓ガラスに書かれた赤文字を見つけたと?
「はい」
 ――そしてその直後に、犯人らしき人物に襲われたと仰るんですね?
「ええ。窓ガラスに書かれた赤い文字に目を凝らしていたら、急にあの家の庭から黒ずくめの人物が躍り出てきたんです。そして急に私に襲い掛かってきて……何か、バットのような物で殴られたのだと思います。風を切る「びゅん」という音が耳に入りました。それと同時に額がカっと熱くなって……気が付いたらこの病室にいました」
 ――その人物の顔は見ませんでしたか?
「……はい。暗くてよく顔はわからなかったのですが、男の人だと思います。私に襲い掛かってきたときに何か声を発したのですが、男の人のような太くて低い声でした」
 ――体格や服装、背格好などは思い出せませんか?
「全身黒っぽい格好をしていて、かなり大柄だったと思います。……百八十センチくらいでしょうか。ガッチリしていて、スポーツ選手のような印象を受けました」
 ――わかりました。それで、あなたが見たと言う窓ガラスに書かれた赤い文字のことなのですが、一体そこには何が書かれていたんですか? 我々が発見した時には窓ガラスは粉々に割られておりましたし、その前に何かでその文字を拭ったような痕もあって、識別が出来なかったんです。分かったことは、その文字が被害者の持っていた口紅で書かれていたということくらいで……。思い出していただけませんか?
「……二文字の、漢字でした。……人の名前だったと覚えています。でも、なんと言う名前が書かれていたのかは……残念ながら思い出せません」
 ――我々の推測では、被害者が今際の際に書き残したダイイング・メッセージではないかと考えています。きっと、犯人の名前を誰かに知らしめるために――。それに気付いた犯人が、あなたを襲って気絶させた後に、証拠隠滅の目的であの窓ガラスを叩き割ったのでしょう。あの辺りはご存知のとおり人通りは極めて少ないですし、時間は深夜です。周囲の人家から離れている所為もあって、物音に気付いた人はいなかったようです。
「そうですか……」
 ――いいですか? あなたの証言は非常に重大なものです。なんとかして被害者が書き残したその文字を、犯人に繋がる可能性の大きなその文字を思い出していただけませんか?
「……すみません。誰かの名前だったとしか……私、私、それ以上はどうしても思い出せないんです――」
 ――では、ここに四人の名前が書かれています。この中で思い当たる名前はありますか?
「……すみません。どれも思い当たりません」
 ――わかりました。それは後でゆっくり思い出してください。……もうひとつだけお聞きしたいのですが、あなたが襲われた後、男性らしき声で警察署に通報があったんです。――「若い女性が頭から血を流して倒れている」――と。現場にも、付近にもその通報者らしき人物は見当たりませんでした。そして、今も名乗り出てきておりません。その人物に何かお心当たりはございませんか?
「……さぁ――」

       *

「お前の兄貴は刑事失格だな。いくら身内だからって、いや、身内だからこそお前にそこまで打ち明けるなんて、何を考えているんだ?」
 北見の長い話を聞き終えたテリー鮎川は、嫌味を込めたような口調でそう言った。外はすっかり風が止み、しんと静まり返っている。北見はバツが悪そうに頭を掻きながら、言い訳がましくこう言った。
「いやぁ、俺たち兄弟は何でも包み隠さず話し合う間柄でね。はっはっは。……それに、兄貴はちょっとお前を試してみたかったのかもしれないな。俺に聞かせれば、きっとお前にも話が伝わるだろうと思ったのかもしれない」
 テリー鮎川は、以前この町で起こった連続放火事件の真犯人を指摘したという実績がある。警察も手をこまねいていた難事件で、やはり今回のように北見吾郎との会話の中で、見事真犯人の名前を指摘したのであった。
「ふんッ」
 あまり興味なさそうに鼻を鳴らすテリー鮎川。北見はニヤニヤしながら、思わせぶりな口調でこう切り出した。
「なぁ、さっき四人の容疑者についての話をしただろう? 実はその中で、今警察がもっともマークしている人物が居るんだが、お前は誰だと思う?」
「中田圭二だろ」
 テリー鮎川は、何の逡巡もみせずに即座に言い放った。そして箱から煙草を一本抜き取り、口に咥えて点火する。
「な、なんでわかった?」
 テリー鮎川は天井を見上げて紫煙を吐き出しながら、
「目撃者の女子大生の証言だよ。――何て書いてあったのかは忘れたが、人の名前だと思う――って言ってたんだろう? ここに四人の容疑者の名前を書いてみろよ」
 そう言ってメモ用紙とボールペンを差し出した。北見は受取り、素早くペンを走らせる。そして名前を書き終えると、テリー鮎川にそのメモ用紙を差し出した。
 テリー鮎川はさも面倒くさそうにそれを受取ると、ぼやくようにこう言った。
「女子大生が目撃した現場は、どれくらいの明るさだった?」
「いや、かなり暗かったはずだぜ」
「ふむ。じゃあ被害者宅の庭だが、どれくらいの広さだ?」
「うーん、実際に見たわけじゃないからハッキリとは言えないが、資産家だけあってかなりの広さだったらしいぜ」
 そこまで聞くとテリー鮎川は、手にしたメモ用紙をヒラヒラさせながらこう言った。
「この四人の名前を見てみろよ。一目瞭然だろ? 被害者は《部屋の中》から文字を書いた。それに対して目撃者は、《部屋の外》から文字を見たんだ。ガラスの内側から書かれた文字は、外から見れば当然左右が逆になる。辺りはかなりの暗さであり、庭を隔てた窓ガラスまではそこそこの距離があった。つまりそんな状況の中であっても、《左右が逆になっていても人名だと判別する事が可能な文字》をこの中から選べばいい。すると、おあつらえ向きに一人しか残らない。――《中田》だよ」
 北見は思わず口笛を吹いた。さすがはテリー鮎川といったところだが、まさかこんなに早く言い当てるとは思わなかったのである。しかしそんな北見に反して、テリー鮎川は浮かない顔で天井を見上げている。それからおもむろに口を開いた。
「警察は中田を拘留したのか?」
「いや、まだだ。そこまでの証拠が無いしな。今のところ、一番怪しいとマークしているだけにすぎない」
「女子大生の証言だけだからな。それならいいが……ときに、被害者が文字を書くのに使ったという口紅だが、それは本当に被害者本人の持ち物だったのか?」
「ああ、それは間違いない。何しろ、被害者本人が取引のあったイタリアの某メーカーから取り寄せた試作品で、日本国内では他に出回っていない品だそうだ」
「……」
 それきりしばらく、テリー鮎川は黙り込んでしまった。合わせて北見も黙り込む。テリー鮎川がこのように押し黙っているときは、その脳裏を様々な思考が駆け巡っているということを知っているからだ。
 十分が過ぎ、十五分が過ぎる。北見は沈黙に耐え切れず、痺れを切らして口を開いた。
「なぁ、さっきから何を考えているんだ?」
 テリー鮎川はきょとんとした顔つきで北見を見返すと、ため息ひとつついてから重い口を開いた。
「いや、ちょっと引っ掛かるというか、おかしく思えることがあってな」
「なんだよ、そりゃ?」
「その目撃者である女子大生だが、どうもその証言にしっくりこないものを感じないか? 他の部分については結構詳しく覚えているのに、何故窓ガラスに書かれていた名前が思い出せないんだろう? たとえハッキリ覚えていなくても、その四人の名前を見せれば思い出せそうなものじゃないか」
 北見は少し考えてから、
「俺も詳しくはわからないが、そういった一種の健忘症があるんじゃないか? あるちょっとした事柄だけ思い出せないような」
 そう言って腕組みをしてみせた。
 テリー鮎川が、自問自答にも似た言葉を更に続ける。
「窓ガラスの問題もある。警察が駆けつけたときには既に粉々に割られていたそうだが、だとすると犯人は、女子大生を襲った後で窓ガラスに書かれた文字を隠蔽したことになる。……それはまだいい。おかしいのは、窓ガラスに内側から書かれた文字が何かで拭われた痕があったということだ」
 北見が口を挟む。
「犯人は最初被害者宅に戻って、口紅の文字を拭き消そうとしたんじゃないか? それでも上手く消せなかったから、思い切ってぶち割ったとか」
 テリー鮎川は無言で首を振る。
「普通、殺人者は一刻も早く犯行現場から立ち去りたいと思うものだろう? 何しろ一度、その女子大生に遭遇してもいるんだ。一度室内に戻って拭き消そうなんて悠長なことをしなくても、最初から外側からぶち割ればいいじゃないか。いくら深夜で、人通りの少ない道だったとしても、また誰かが通りかかるかもしれないだろう? しかもそこには、頭から血を流して失神している女性が転がっているんだぜ。それに、警察に通報した人物っていうのは何だ?」
 そこまで一気にまくし立てると、テリー鮎川は肩が凝ったように両腕をグルグル回し始めた。そして、同じように首もグルグル回す。やがてそれらを終えると、真剣な眼差しで北見の双眸を覗き込みながら語りだした。
「いいかい? これはあくまで僕の仮説だ。あくまでひとつの推理に過ぎない。そう思って聞いてくれるか?」
 北見の喉がごくりと鳴った。そして、黙ったまま機械人形のようにコクリと頷く。テリー鮎川は、先ほどの四人の名前が書かれたメモ用紙を再び北見に手渡すと、ゆったりと落ち着いた声でこう言った。
「ここに、目撃者である女子大生の氏名を付け足してくれないか?」
「あ、ああ」
 北見はメモ用紙とボールペンを受け取ると、先ほどの四人の名前の一番下に八木下ゆかりの氏名を追加した。そして、そのメモ用紙を無言でテリー鮎川に手渡す。テリー鮎川は手渡されたメモ用紙にチラと目を落とすと、北見に向き直って唐突に切り出した。
「僕の立てた仮説、推理では、この事件の犯人は女子大生の八木下ゆかりだ」
「――なッ、なんだって?」
「警察ももしかしたら、もうすでに彼女をマークしているかもしれないな。……窓ガラスに書かれた名前を見たなんて言わなければ良かったんだ。ただ、庭から飛び出してきた人物に襲われたとだけ言っておけばね――。僕の推理はこうだ。彼女――八木下ゆかりは被害者の家に上がり込み、リビングで首を絞めた。そしてそのままその場を立ち去ろうとしたんだ」
 北見はもう何も口を挟まない。置時計の秒針の音が、室内に静かに響いている。
「しかし、被害者はまだ息絶えていなかった。必死で窓ガラスまで這っていき、手元にあった口紅で犯人の名前――八木下だか、ゆかりだか――を書いた。それを犯人が見つけ、慌てて駆け寄ると再び首を絞め上げる。……絞痕が二本あったのはそのためだろう。それで今度こそ息絶えたのを見届けてから、窓ガラスの赤文字を拭おうとした。しかし、なかなか上手く拭き消すことが出来なかった。もしかしたらその口紅は、特殊な原料が使われていて落ちにくかったのかもしれない。そこでやむなく、窓ガラスを叩き割った」
 テリー鮎川はここで一息入れると、グラスにウイスキーを注ぎ足して一口含んだ。少し顔をしかめながら、そのまま話をつづける。
「そして逃亡しようと外に走り出た際に、ある人物と出くわしてしまった。きっと彼女と関係の深い男だろう。興奮した彼女と、事態を知って慌てふためく男――揉み合っているうちに、男は彼女を突き飛ばすか押し倒すかしてしまった。路面に頭を打ち付けたか、あるいは近くに電柱でもあったのかもしれない。窓ガラスを割るのに使った鈍器を彼女が持ち出していて、それが何かのはずみで彼女自身の頭を襲ったのかもしれない。ともかく彼女は昏倒した。そして男は彼女がただ気絶しているだけだと気付くと、公衆電話から警察に通報してそのまま立ち去った」
 北見にも何となくその場面を想像することは出来た。しかしまだ、いまいち頭にピンとこない。その疑問を口にする。
「もしその仮説を取るとしてだ、一体彼女の動機は何なんだ?」
「さぁ……というのはあまりにも無責任だから、これまた僕の仮説で話を進めさせてもらおう。……彼女には恋人がいた。そして、その恋人にとっても、彼女にとっても、被害者の存在は邪魔者以外の何者でもなかった。そこで彼女は被害者の殺害を思いつく。うすうす彼女の行動に不安を覚えていたその恋人は、彼女が深夜にも関わらず部屋に居ないことに驚いて、もしやとの思いで現場に駆けつけ、最悪な状態を引き起こしてしまった彼女と遭遇した」
 グラスのウイスキーをちびりと舐めてから、北見が問うた。
「その、彼女の恋人っていうのは誰だったんだろう? お前は誰だと思ってるんだ?」
「いくら仮説でも、そこまでハッキリとはわからないよ。データが少なすぎる。でも可能性として高いのは、新城武彦あたりではないかなぁ」
「その根拠は?」
「僕の仮説で推し進めると、一番その人物像に当てはまるのが彼だからだよ。被害者とは以前交際があって、新たな恋人が出来たことから別れているんだろう? それに被害者から、脅迫的とも言える復縁を迫られていたらしいじゃないか。それに彼の職業が大学助教授で、八木下ゆかりが女子大生だというのも何だか暗号っぽくて面白いじゃないか」
 そう言ってテリー鮎川はにやりと笑うと、何やらわけのわからない節回しで鼻歌を歌い始めた。北見はそんな彼を呆れた様子で見つめながら、なおも問い掛ける。
「それは全部、お前の仮説にすぎないわけだよな?」
「当たり前だろ。最初からそう言ったじゃないか。こんな仮説も立てられる。……八木下ゆかりは、被害者を亡き者にしたいと目論んでいた四人の男たち――自分の恋人も含めた四人の男たちを知っていた。そこで事情聴取の際、窓ガラスに書かれた名前のことで偽の証言をし、警察の目がわざと中田圭二に向くように誘導した。……また、もし四人の男たちの名前を知っていたならこんなことも考えられる。窓ガラスを叩き割った理由だ」
「その理由とは?」
「うん。最初彼女は口紅の文字を拭き消そうとした。それはある程度うまくいったのかもしれない。少なくとも、はっきりと文字が識別できない程度には。しかし、完全に綺麗に拭き消すことは出来なかった。……四人の男たち――彼らの名前は苗字も二文字、下の名も二文字だ。それに対して八木下ゆかりは、姓も名もどちらも三文字。赤文字自体はぼやかす程度に拭き取れたかもしれないが、三文字で書かれていたという痕跡だけは消せなかったのかもしれない。警察は四人の男たちの情報を握っている。そこから糸をたどって、彼女に辿り着くかもしれない。だから、窓ガラスを叩き割った」
 北見は、いつの間にかじっとりと手のひらに汗をかいていたことに気が付いた。それをジーンズに擦りつけて拭うと、あらためてテリー鮎川の顔を見つめなおしてこう言った。
「お前、すごいな」
「はっはっは、全然すごくなんてないよ。僕のこんな推理なんて、砂上の楼閣みたいなもんさ。もし被害者が書いた文字が、漢字じゃなくて平仮名だったら? そもそも名前なんか書かずに、全然関係ないことが書かれていたら? 新城武彦と八木下ゆかりが、何の面識もない他人同士だったら?」
 北見は一気に肩から力が抜けてしまった。よほど間の抜けた表情を見せていたのであろう。テリー鮎川は彼を見てプっと吹き出しながら、
「もしさっきの仮説がお気に召したんであれば、兄貴に言って八木下ゆかりの交友関係、特に新城武彦との関係を調べてもらったらどうだ? それと、八木下ゆかりはまだ入院しているんだろう? 彼女の身に付けていた衣類を調べてみるのも面白いかもしれないな。もしかしたら被害者の髪の毛が付着しているかもしれないし、あの、日本にひとつしかないっていう口紅の原料が検出できるかもしれない。身体の汚れは病院側で拭き取ったかもしれないが、爪の間から何か面白いものが出てくるかもしれない。……まぁ、なーんにも出てこない可能性だってあるけどね」
 そう言ってグラスを傾けた。
 北見は腕時計に目を落とすと、すっかり根が生えてしまった重い腰を持ち上げる。放り出してあったスポーツバッグを肩に掛けながら、テリー鮎川を振り返りこう言った。
「とりあえずお前の立てた推理、兄貴に話してみてもいいか?」
 テリー鮎川は笑顔でこたえる。
「どうぞ、ご自由に。僕はまたこれから、色々な仮説を立ててみるよ。今までのデータだけでも、あと二つくらいは面白い仮説が立てられそうなんだ。……まぁ、どれが真相だろうと構わないんだけど。というよりも、僕が真相に辿り着けなくたって全然構わないんだけど」
 北見が少し驚いたような顔で振り返る。
「お前って珍しいな。普通ミステリー小説に登場する名探偵とかって、『私は犯人が誰であろうと興味が無い。ただ私は、真相を知りたいだけだ』なんて言うけど、お前はそんなタイプじゃないんだな」
 テリー鮎川は爆笑した。目に涙をためながら、
「おいおい。僕は名探偵なんかじゃないし、ごくごくフツーの探偵でもないよ。単なるミステリー小説の愛好家だ。真相を突き止めるなんてことより、ただ色々と推理を組み立ててみることが好きなだけだ」
 そう言って立ち上がり、北見の肩に手を置いた。
「駅まで送っていこう。ちょっとしゃべりすぎたから、外の新鮮な空気が吸ってみたくなった」
 その言葉が言い終わらないうちに、テリー鮎川は新しい煙草を口に咥えていた。




       ――了――
2005-11-14 17:17:31公開 / 作者:時貞
■この作品の著作権は時貞さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
11/14:微修正
「渡辺淳」の名前を「渡辺淳也」に修正しました。これでないと主人公の言葉が可笑しくなってしまうもので(汗)あと、ラスト近くを微妙にいじってあります。
こんな些細なことでUPしてしまって誠に申し訳ございません(汗汗)

お読みくださりまして誠にありがとうございました。
初めてミステリ系のショートX2を書いてみました(これをミステリと呼んでいただけるのかは、はなはだ自信が無いのですが 汗)。なにぶんミステリ初心者が書いた拙作ですので、叩けばいっぱい埃が出てくることと思われます(汗)僕にとって本格的な謎解きミステリは、まだまだまだまだ遠く及ばない世界なのです。
一人でも楽しんでいただけたのでしたら嬉しいです。感想などいただけたら狂喜乱舞します(笑)
それでは、よろしくお願い申し上げます(^0^)/
この作品に対する感想 - 昇順
ミステリ……読ませていただきました。こういうのは批評とか書けないたちなんで簡単に感想だけを。
良いと思いますよ、私は結構好きですね、こういうの。テリーさん格好良い(笑 ラストの犯人を定かにしていないのは少し、ミステリとしてアレかもしれません。まぁ、私の戯言ですが。とは言え、中々見ることの出来ないミステリ作品が読めてよかったと思います。では、時貞さんの次回作をお待ちしております。
2005-11-11 22:29:41【☆☆☆☆☆】緋陽
確かに八木下ゆかりは怪しかった。多分犯人は彼女だろう。でも……答えは示されていない。で、結局犯人は誰だったの? とか聞くのは無粋だと思うのです。なぜならこの作品のタイトルは「女性資産家殺人事件」ではなく「テリー鮎川の推理趣味」なのだから〜! いや〜彼の主義思想はいいですね。推理モノにありがちなでしゃばり系探偵役とは違い、友人との語らいの中で仮説を疲労するだけに留めている謙虚な姿勢。真実への執着の無さ。故にテリー鮎川のキャラ提示としては、犯人を明かさないこの終わり方が素晴らしい。別の作品にも登場しそうですね彼は。あまり関係ないんですが、テリー鮎川という名前は、作家の鮎川哲也氏からとったものかと思ってました(まさか、ミステリーから派生したものだとは…… ところで時貞さんは普段どの作家のミステリを読まれているのですか?今後の参考(なんの?)にしますので、是非ともお聞かせ下さい。ではまたいずれ〜。
2005-11-12 13:45:48【☆☆☆☆☆】月海
ミステリーもの、読ませていただきました。読後の感想としては「なるほろ〜」といったところです。
読んでいて思ったのは、テリー鮎川のキャラクターがとても生きていていいなぁと。ごちゃごちゃ言わずにするすると真実を語ってしまうところが好感をもてました。
ちょっと気になったことを二つ三つ。
〔彼女の証言を再現する〕の一文の後、まるで状況を再生するようなシーンがありました。テープを回して声だけ聞いているような。イメージとしてはすぐに浮かぶし、雰囲気もいいんですが、少し違和感が。友人が喋っていたのに、なぜ再生調なのかがわからず、一瞬とまってしまいました。
もう一つ。これは意見程度におさめておいて下さい。もしかしたら作品の雰囲気を壊してしまうかもしれませんから。
登場人物との掛け合いが欲しかったです。ミステリーを読んでいて思うことは、出てくる人物が皆『人』らしいなぁという点です。その『人』が起こす事件に、変り種な探偵がひょこりと現れ、その個性的なキャラクターで読者に気持ちよくかき乱していく。そういうのが面白いなぁと。なにより事件関係者との関わりがあれば、主人公のキャラクターがさらに生きてくるはずです。この作品を見ていると、事件に関係する人物もすべて文章の上にしか再現されていないため、事件に対する情緒というか……とにかく何かが決定的に足りない! って感じです。すみませんいい加減な意見で;;
例えば北見が事件現場に行ったり、関係者にあったりして、その話をテリーに話す。それにテリーが合いの手を入れたり、冗談を言ったりする……するとただの解説みたいな北見のキャラクターもイキイキするし、テリー鮎川のヒョウヒョウとしたキャラクターも素晴らしく完成すると思います。もちろんあくまでも一例でしかありませんから、時貞さんの素晴らしい書き手としての才能で、もっと面白くしていただきたい次第ですが。
長々と失礼しました。明治時代の書生のような雰囲気がとても素敵でした。素直に心地よかったです。地の文もしっかりしています。今後のテリー鮎川と時貞さんに期待しますね。では
2005-11-12 14:26:38【☆☆☆☆☆】凪風
御作品、読ませていただきました。はじめて感想を書きます。良い感じの理論派安楽椅子探偵ですね。鮎川という名前も名探偵らしくて良いですね。苦学生の香りが妙に現実的でちょっとだけ気になってしまいましたが、とはいえ、私の勝手な探偵の理想像との差異なので、これは作者本意のことですね。論理の展開が良いですね。読んでいて心地良いです。書き慣れておられるのだなと思いました。ショート・ショートというよりは発想からしても堂々の短編ミステリですね(あえてショート・ショートとなさったのだと存じます)。やはり、探偵小説には煙草とウィスキーは欠かせませんね。私もこれからいただきます。いつか(是非、次の御作品にも)、テリー鮎川氏の続編を読ませていただきたく思います。余計なことかもしれませんが「《》」はルビで使われたほうが良いかもしれません。
2005-11-12 23:36:33【☆☆☆☆☆】松家
今晩は、ミノタウロスです。時貞様!いいですっこのテリー鮎川!好きです、好きです、とても魅力的なキャラ、もう最高。私の知っている推理物の主人公にはいなかったタイプで、しかも爽やかでクール。自称――俺は探偵さっ何て言わないところがいい。松家様も書かれていますが、是非この続編と言うかこの人の長めのお話読んでみたいです。私は推理物の小説や映画を読んだり見たりするのは好きですが、書くのは全く無理です。書ける人が羨ましいです。しかも私は推理物をよく読むくせに考察が全く出来ないし、ただただ楽しむだけなので、アドバイスは出来ませんが面白かったです。ではでは、また次回作も連載もお待ちしております。
2005-11-13 01:19:45【★★★★☆】ミノタウロス
うん、突っ込み所満載……と言ってしまうのは止しておきましょう(うそうそ)。こんばんは、時貞さんが書いたミステリで、SSなので気軽ながら安心して読ませて頂きました(ミステリーっていうのが嫌でしたけど(笑 うーん、というか探偵小説系の作品に出てくる警察ってなんでこんなにも間抜けなんでしょうね。何十人もの刑事を集めての対策会議なり発達した科学捜査なりという武器と、昔ながらの足で稼ぐ捜査って奴を展開している筈なのに。だからこういう意味での探偵って外界と遮断された場面以外では活躍できない、というのが今のこのご時勢ですが、そこは時貞さんなりにあれですよね、「田舎」という要素を付随してなんとか調理したんですよね。うん、ただ探偵ものとしては珍しくテリー氏は案外普通の人なので、その辺りが好感を持てました(探偵役には作者の人間性が滲むのだそうですよ)。あと一つ気になったのは、もしかして人物名、ミステリ作家さんの名前をモチーフになさっておられますか?(霧島とか、武丸とか)いっそのこと、テリー氏を主人公にして長編ミステリ作品(いや、別に中篇でも短編でも構わないのですが)を書いてみませんか? 時貞さんの、問題の中心ではなく外側から物事を抉っていく姿勢はミステリなどにはぴったりだと思うのですが、いかがでしょうか? といった系統の期待も含めて一点を付けさせて頂きます。今後の作品も読ませて頂きます。それでは。
2005-11-13 03:01:17【★★★★☆】恋羽
読ませて頂きました。うん、何だかとても読みやすかったです。ラストは「え、終わり?」って気もしましたが、そこで改めて題名をみて納得しました。「テリー鮎川の推理趣味」となっているからこそ、テリーさんが真相に興味がないのだから真実を明かす必要はないのかもしれませんね。良い意味で肩透かしを食らった気がしました。でも、個人的にはミステリーという感覚とはちょっと違った気もします。ミステリー系はあまり読み書き経験がないのでわかりませんが。えぇでも面白かったです。実は途中、「名前が左右対称」ってところで中田さんが疑われたとき、私は北見さんを思わず疑ってしまいましたが笑 それでは次回作お待ちしております。
2005-11-13 15:14:11【★★★★☆】十魏
こんばんは。夜天深月という者です。拝読させて頂きました。ミステリーなのにも関わらずショート・ショートというのに惹かれましたね。元々ミステリーというのは結構ながいものですが、長い小説が苦手という人には良いですね。まぁ、僕は別に長くても全然構いませんが。さらに、進み方も個人的に良かったと思います。普通ミステリーは事件がが起きてそれを主人公が解くという典型的なパターンが多いですが、時貞様のような、趣味で推理したというパターンは良かったと思います。それではこれで失礼します。
2005-11-13 17:55:22【☆☆☆☆☆】夜天深月
皆様、ご丁寧なご感想を誠にありがとうございました。お返事が遅くなってしまい、誠に申し訳ございません(汗)

緋陽様>
今回もお読みくださりまして誠にありがとうございます。テリー鮎川を気に入っていただけたとのこと、とても嬉しく思います。自分で書いておきながら、どうしても「テリー伊藤」を思い浮かべてしまう時貞なのですが(笑)もっと精進して、いつかはミステリらしいミステリを書いてみたいと思います。とても励みになるご感想、誠にありがとうございました。

月海様>
いつもながらにありがたいご感想、非常に感謝しております。今作の主旨をご理解いただけて、ホっと胸撫で下ろしている僕でした(汗)ご質問の件ですが、海外の古典本格ではクイーンとカー、サスペンス系ではアイリッシュ等に一時夢中でした。国内では横溝、高木彬光、鮎川さんも好きですよ!活躍中の作家では浦賀とか麻耶(この二人は個性が強いですよね 笑)、貫井等の新作は毎作チェックしております。あまり参考にならない回答で申し訳ございません(汗)一度ぜひ、月海様とじっくりミステリのお話をしてみたいですね!

凪風様>
うわぁ、とてもご丁寧なご感想、そして的確なるご指摘、モニターの前で深く頭を下げさせていただきます。誠に感謝です。事情聴取のシーンに関するご指摘には、思わずドキリとさせられてしまいました。まさに凪風様のご指摘はズバリといったところで、ちょっと僕、ここのくだりでは楽な方法をとってしまったのです(汗汗)今回はクリスティーの短編(ミス・マープル物)のような、安楽椅子探偵者のパロディ(?)といった方向を目指したのですが、今度はぜひ、本格的なミステリ物を書いてみたいと思います。たいへん参考になるご意見、本当にありがとうございました。

松家様>
はじめまして。時貞(ときさだ)と申します。拙作をお読みくださりまして誠にありがとうございます。仰るとおり、「《》」はルビを使用した方がスッキリして読みやすいですね(汗)今後は作中にルビを使えるように勉強します(汗汗)堂々の短編ミステリなど、勿体無いほどのお褒めのお言葉をいただくことが出来まして、舞い上がるほど嬉しいと共に照れてしまいます(汗汗汗)たいへん貴重なご意見を本当にありがとうございました。

ミノタウロス様>
あ、ありがとうございます!テリー鮎川を気に入っていただけたとのこと、書き手冥利につきるお言葉でございます(うるうる)僕も今回初めてミステリ(っぽい? 汗)小説に挑戦してみたのですが、やはり難しいですね。ですがミノタウロス様のお言葉を拝読させていただいて、俄然やる気が沸いてまいりました!もっともっと勉強して、皆様に楽しんでいただけるようなミステリ小説が書けるように精進していきたいと思います!それと、停滞中の連載の方も頑張ります(汗)いつも大きなパワーをくださりまして、本当にありがとうございます。

恋羽様>
ミステリにとてもお詳しいであろう恋羽様からのご感想、ドキドキしながら拝読させていただきました(笑)確かに僕も「ミステリー」という表記ではなく、普段は「ミステリ」という表記を使います。テリー鮎川の「テリー」にこじつけるが為に、今回は泣く泣く「ミステリー」と(笑)人物名に関しては意識して付けたわけではないのですが、頭のどこかで無意識に馴染みの名前を打ってしまったのかもしれません。仰るとおり、DNA鑑定や科学捜査が進んだ現代を舞台にすると本格物は難しいですよね。古典では定番の「首の無い死体」なんかもDNA鑑定をやられてしまったら(笑)今回も非常に参考になるご意見を誠にありがとうございました。

十魏様>
ご丁寧なご感想、誠にありがとうございます。やはりまだまだ僕のレベルでは、本格的な謎解きミステリを書くのは難しいようです(汗)十魏様のご感想を拝読して、思わず「あ、ほんとだ!」と驚いてしまいました。仰るとおり、北見という字も中田同様に左右対称に見えますね!なるほど。恥ずかしながら今までまったく気が付きませんでした(笑)読みやすかったとのお言葉、作者としてたいへん嬉しく思います。貴重なご意見を本当にありがとうございました。

夜天深月様>
はじめまして。時貞(ときさだ)と申します。拙作をお読みくださりまして誠にありがとうございました。お褒めのお言葉、たいへん恐縮です。思わず狂喜乱舞してしまいます(笑)ここで調子に乗らないよう、いっそう気を引き締めていかなければいけませんね!まだまだ未熟者の僕ではありますが、いただいたお言葉を胸に精進していきたいと思います。たいへん励みになるご感想をありがとうございました。


実は密かに、「テリー鮎川の狼狽(仮)」という短編を冒頭だけ書いていたりします。ああ、これだから僕は、連載がなかなか進まないのですよね(汗)
2005-11-14 10:43:32【☆☆☆☆☆】時貞
拝読しました。面白かったです。テリー鮎川のキャラ、読後感はこれに尽きます。と言うのも、例えばミステリのミステリたる事象そのものがそれ程に大掛かりではないケース、これは詰まりそこにどう人間性が絡むかという一点に私は目がいきます。そう考えると、今回は彼というキャラが魅せられたわけで、良かったです。ただ逆に言えば、読みきりとして区切ってしまったことで、それだけに終わってしまったのが勿体なかったです。事件が一つあって、そこにどう周りが絡むか、解き解すのが「安楽椅子探偵」であるなら、本来主軸はそこではなく右往左往する北見吾郎(誰でもいいのですが)だと思うのです。そうでなければ、起伏と緩急のない、種明かしゲームになるのではないでしょうか。此度の時貞様の書き方がとても良いと思えただけに、強く、そう感じました。次回作・連載の続き御待ちしております。
2005-11-15 12:20:57【★★★★☆】京雅
京雅様>
テリー鮎川のキャラクターを気に入っていただけたとのこと、キャラクター造型に自信の無かった僕としましては飛び上がらんばかりに嬉しいお言葉です。ただやはり、そのキャラクターを活かしたうえでご満足いただけるようなストーリー性を持つミステリを書き上げる為には、まだまだ僕には勉強が必要なようです(汗)後半のご指摘は、今後僕がミステリ系の小説を書くにあたって非常に参考になるお言葉でした。いつもながら真摯なスタンスで大変貴重なアドバイスをくださる京雅様。いただいたお言葉を胸に、もっともっと精進していきたいと思います。ご感想、誠にありがとうございました。
2005-11-15 14:25:49【☆☆☆☆☆】時貞
作品を読ませていただきました。キャラクターが立っていて物語として楽しく読めました。SSだから容認できる部分と、せっかくのキャラをSSだけで終わらせるのはもったいないなぁという二つの気持ちがあります。推理物の引きや解説の妙などはSSのため弱いのは仕方ないのかなぁ。本当ならば、その部分が面白いのですが。でも、キャラクターが生き生きしているので、推理の物足りなさを補っていました。ただ、キャラクターとして生きていたのはテリー鮎川だけという感じもします。ワトソン役の北見ももう少し肉付けして欲しかったですね。それと北見は兄と違って刑事ではないのだから、情報の提示だけではなく推理の片割れ(的外れでも可)を担っても良かったのではないでしょうか。長々戯れ言を書きましたがSSとしては十分堪能させていただきました。では、次回作品を期待しています。
2005-11-15 22:18:32【★★★★☆】甘木
遅ればせながら拝読させていただきました。再び躁鬱真っ最中水芭蕉です(弱)時貞さんの新作がUPされたのを知って喜んでも、こうも素晴らしいものを読むと自分と比較して落ち込むので読むに読めなかったのですorz さて、ミステリーですね!! それも純粋なミステリーですね!!! 推理モノを書くのが苦手なので、推理系が書ける人は素直にすごいと思っております。テリー鮎川さんの性格が中々に楽しい。ミステリものは結末から読む派なのですが、この話は最初から読めました。次回お待ちしております。
2005-11-15 22:34:19【★★★★☆】水芭蕉猫
甘木様>
おはようございます。さっそくご感想を拝読させていただきましたが、さすがは甘木様だと思わず唸ってしまいました。仰ることが一言一言ごもっともで、作者自身が気付かずに走ってしまった部分を的確にご指摘くださり、それに対するご丁寧なアドバイスまでくださっている。今作に対する反省を感じながらも、今後他の方の作品に対して感想を書かせていただくうえで、非常に参考になるお言葉の数々でした。仰るとおり今回はテリー鮎川の自己紹介的な側面が強く、ミステリとしては不十分な部分が多々ございました。いずれまた、この二人の登場する物語を書きたいと思っておりますので、今回いただいたご感想をおおいに参考にさせていただきます。誠にありがとうございました。

水芭蕉猫様>
今回も拙作をお読みくださりまして誠にありがとうございます。ありがたく思うと共に、僕は水芭蕉猫様の御加減がとても心配です。僕などでは何もお力になれませんが(汗)、少しでも楽しんでいただけるような小説を頑張って書きあげることで、陰ながら応援させていただきます。ミステリは大好きなジャンルなのですが、やはり本格的な謎解きミステリはまだまだ僕には難しく、今回はなんとか「ミステリもどき(?)」的な物語を書くことが出来ました。勿体無いほどのお褒めのお言葉、誠に恐縮であります(汗)いずれまたテリー鮎川を登場させる予定でございますので、その時はもっとミステリらしい物語を目指します!ご感想、誠にありがとうございました。
2005-11-16 09:47:39【☆☆☆☆☆】時貞
本当にしょうのないことを申し上げたようで、恥じ入ります。「《》」をルビに用いるのは、青空文庫等に準じるべきか、という意味で述べました。実際には、それに慣れた人が「《》」内をルビと認識する、という程度のものだと思います。むしろメリットは筆者が書く段において、あるいは校正時においてより扱いやすいエディタを使用することにある気がします。これは、安易に人様に(あまつさえ押し付けがましく)勧めることではありません。まして個々人で倫理基準を設けたサイトではなく、こちらのサイトは大多数の人が汎用ブラウザでそのまま閲覧するのでしょうから、やはり余計なことでした。失礼をいたしました。新作をお書きになられているそうで、テリー鮎川氏の活躍を楽しみにしております。
2005-11-17 02:01:47【☆☆☆☆☆】松家
再度失礼致します。「テリー鮎川の狼狽(仮)」なる物を書き始めたとの事。それは楽しみです。うん、うん、これ分皆様の評価を得ているのですから、やっぱり、テリー鮎川は魅力的なんですよ♪ とにかく私は嬉しいです。連載をやってるとどうしても余所見と言うか、寄り道したくなりますよねぇ。どちらもとっても楽しみにしていますので頑張って下さいませ。応援しております。
2005-11-17 03:39:30【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
松家様>
いえいえ、松家様から前回いただいたご感想はとても大きな励みとなるものでしたので、今回頂戴したお言葉にはかえって恐縮してしまいます(汗)実際僕も出版小説のルビ付きのほうに読み慣れておりますので、純粋に「使えたら良いな」と思った次第であります。ですので、まったくお気になさらないでください。まだまだ未熟者ですので、いただいたお言葉を励みにもっともっと精進していきたいと思っております。二度もご来訪くださりまして誠にありがとうございました。

ミノタウロス様>
いらっしゃいませ!(笑)ミノタウロス様のお言葉から、いつも僕は非常に大きなパワーをいただいております。感謝の気持ちを表すためには、もっともっと楽しんでいただけるような小説を書き上げることですね!次回のテリー鮎川物、いつ発表できるかはわかりませんが、今度は彼にきちんと事件を解決させてあげようと目論んでおります(笑)っと、その前に連載、連載(汗)いつものことながら暖かいお言葉、誠にありがとうございました。
2005-11-18 09:53:58【☆☆☆☆☆】時貞
計:24点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。