『凍笑』作者:恋羽 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角3181文字
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原稿用紙約7.95枚

 俺の中で、レンが目を覚ます。

 ―――ねえ、そろそろ僕を解き放って 

 そうか、そうだったな。このところ忙し過ぎて、お前の存在をすっかり忘れていた。悪いことをしたな。
 
 ―――ほら、早くこのドアを開けて

 わかったよ。少し待ってくれ。

 ―――よく、僕の声をきいていてね

 ああ、レン。お前の声をきいているよ。お前の優しい声を。

 ―――始めるよ、しっかり楽しんでね
 
 ―――これは僕の物語―――。





                    凍笑




 あるところに、やさしいやさしい少年がいました。少年のなまえはレンといいます。
 レンはいつもいつもわらっていました。あかるい朝も、くらい夜も。レンは笑顔を絶やすことはありませんでした。
 レンは二階のまどから外をながめています。いつもいつも。朝から夕方まで、ずっと。
 レンは生まれたときからずっと、おうちの外に出られませんでした。レンは病気なのです。外に出るとまわりの人にその病気がうつってしまうから、レンはいつもおうちのまどによりかかって、わらっています。
 レンにはおともだちがいません。おうちの人としかしゃべったことがありません。学校にもいけません。でもレンはわらっています。





 レンは雪の降る街の景色を眺めていた。レンは笑いながら、世界の全てを憎んでいた。
 世界は美しいから。全ては輝きに満ちているから。醜い自分が惨めになるから。レンは世界を呪っていた。
 泣くことのできない孤独な少年は、全身の痣を撫でながら、誰も愛してはくれない自分自身を抱きしめていた。




 レンはおうちの人になぐられます。マスクをして、ばいきんを見るみたいにつめたい目をしたおとうさんに、おかあさんに、おにいさんに、おねえさんに、なぐられます。
 おとうさんがなぐりながらいいます。

「なんで生きてるんだ? さっさと死ねよ」

 おかあさんがかみの毛を引っ張っていいます。

「あんたみたいなのにたべものをあげるなんて、もったいない」

 おにいさんがつばを吐きながらいいます。

「おまえのおかげでこっちゃあ、肩身がせまいんだよ」

 おねえさんがかおをあしで踏みながらいいます。

「ほんとさぁ、おねがいだから死んでくれない?」

 レンはわらいました。なぐられながら、けられながら、わらいました。みんながだいすきだから。自分のせいで、みんながかなしいきもちになっているのがわかるから。わらいました。
 かなしくて、さみしくて、それでもわらいました。




 あの頃、何を想っていた……? わからない。
 何も無い恐ろしく狭い部屋で、汚物だらけの悪臭の漂う部屋で、レンは何を考えていたんだろうか。本当に、レンが言うように、レンを足蹴にする家族達を愛していたのだろうか。それ以前に、レンを傷つける家族達は本当に、彼を愛していたのだろうか。醜い、汚い、そんな言葉が挨拶の様に使われる家庭に、本当に愛などというものが存在していたのだろうか。
 雪が降り、空は暗くなっていく。白の闇にレンが見る世界は染まり、レンは何を見つめるでもなく窓辺で微笑んでいた。乾き切った唇を裂き、血を滴らせながら、口元を曲げて。




 レンにはたのしみがありました。
 朝、学校にいくためにレンの家のまえをとおっていくおんなのこがいるのでした。
 おんなのこのなまえはわかりません。おんなのこの声もきこえません。かみの長いおんなのこでした。みつあみにしたかみの毛に、あかいリボンをいつもつけていました。黒いかみの毛がとてもきれいでした。レンはまいあさそのおんなのこを見ることがたのしみでした。
 でもレンはしっています。レンはこれから一生、あのおんなのことはなすことはできないのだと。レンはしっています。おんなのこも、きっとおうちの人たちみたいに自分のことをばかにするのだと。
 だからレンはそのおんなのこのすがたを、おうちのまどからそっと見つめています。



 レンには、自由などというものは与えられてはいなかった。
 物音一つ立てただけで殴られる。
 閉じ込められた部屋には内側にノブが無い。
 残飯と生ゴミが入り混じった食事以外、何も与えられない。教育も、情報も、言葉さえも。排泄の自由すら。
 家族達は彼に、それが当然なのだと教えていた。お前は病気なのだ、お前はどうせ死ぬのだと。お前は生まれてきてはならなかったのだと。
 そんな彼に唯一与えられた自由、それが縦横三十センチというところの小さな窓だった。その狭い視界の中に彼は世界を思い描き、美しさを感じ取った。アスファルトで塗り固められた彼の世界は、いつも彼の中で美しく咲き誇っていた。だからこそレンは自分自身を恥じ、世界を呪っていた。



 
 レンはくるしくなりました。レンはむねを押さえてぜえぜえとくるしそうにいきをします。くるしくてくるしくて、それでもわらっていました。
 おにいさんがいちどだけドアをあけました。でもレンをたすけようとはしないで、またドアをしめました。レンはわらいました。
 きっとびょうきがひどくなったのです。くるしくて、むねが熱くて、それでもレンはわらいました。
 だれもたすけてくれません。だれも。レンはわらいました。

 レンはわらって、死にました。







 ―――おわったよ、ごくろうさま

 ああ。ゆっくり寝るんだぞ、レン。

 心の中、レンは部屋の中へ入っていく。彼がその中へ完全に入ると、俺は心の中の扉を閉める。
 ふう、そう一息つくと俺は窓の外を眺める。……もう空が明け始めている。いつの間にかそんな時間になっていたらしい。

 レンは年に何度か、俺の中から現れて物語を語る。
 その行為に特に何の意味があるわけでもないのだろう。ただ彼は忘れてほしくはないのだと、俺はそう感じていた。自分がそこに存在し、確かに生きていたのだということを。
 レン……かつての俺の、俺という個体の主人格。
 レンという哀れな存在は、レンという悲しみに満ちた人生を閉じた。その瞬間から、俺が生まれたのだ。
 俺は家族達を一人一人殺していった。生きる為に。レンがあまりにも従順で一度として逆らおうとしなかった為か、彼らは病気で死んだ振りをしていた俺に隙を見せた。俺はレンがその時まで受けていた仕打ちを彼らに与え、そして殺した。ハンマーで殴り、ロープで締めた。ナイフで切りつけ、顔を蹴りつけた。
 彼らを殺した後、俺は漸く世界を知った。あらゆる物に初めて出会い、驚き、しかし笑わなかった。
 少年刑務所の中で、俺は学んだ。学ぶことの喜びを知り、しかし笑わなかった。
 八年間の刑期を終える頃には、なんとか社会生活を送れるまでに成長した。しかし笑わなかった。
 レンには名前が無かった。俺には戸籍が無かった。ならば何故レンは自分をレンと呼んだのだろう。……わからない。だが、彼はレンだった。
 レンは笑い続けていた。レンが死んだ時、俺という固体の中から笑顔というものが消え去った。レンは笑顔だったのかもしれない。
 ……明け始める世界を見つめる。背後でこぽこぽとコーヒーが沸いている。

 なあ、レン? お前は幸せだったのか?

 レンは答えない。
 俺はレンの眠る姿を想い、ふっと凍笑んだ。






          完
2005-11-06 12:08:52公開 / 作者:恋羽
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■作者からのメッセージ
 お読み頂きありがとうございました。ご感想など賜れましたなら、感激の極みでございます。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、最低記録!といいます。記憶があやふやですが、人は皆二度生まれるというような言葉があったと思います。記憶が確かなら、少しその意味からずれると思いますが、彼もまたある意味でそうなったのでしょう。二人の表現や口調もはっきり変わっていて、一度死んで違う俺になった、という雰囲気がしっかり出されていたと思います。精神というか、心の中には別の世界が広がっていると言いますからね、不可思議で少し悲しい良い雰囲気が出ていて、良かったと思います。次回も頑張ってください。
2005-11-06 11:50:44【☆☆☆☆☆】最低記録!
 もう、こういった書き物はココハさんも懲りたと思いましたのに(凍笑)。
 深部に光を差し入れようとしても、結局は自分自身が拒否反応を起こしてしまうのではありませんか? 膿を出すためのその切開が、同時に主要な臓器を引きずり出すことになりませんか?
 私はね、そういうものを見世物にするのには反発を抱くのです。
2005-11-06 16:41:07【☆☆☆☆☆】clown-crown
どうもお久しぶりですかね。勿桍筑ィです。
拝読させていただきました。最初「何だろう? この物語は……」っと首を傾げながら読んでいましたが、読み終わって、恋羽さんの言いたい事が少しは理解できたかと思います。「それは何ですか?」と聞かれると、最低記録さんの様に上手くは答えられないです。と言うか何て言えばいいか……。ごめんなさい。変な感想で。でも何かが伝わったようでした。次回も頑張って下さい。失礼いたします。
2005-11-06 16:51:31【☆☆☆☆☆】勿桍筑ィ
こんばんは、夜天深月(ヤアマ ミヅキ)というものです。
拝読させて頂きました。題名と始まり方に惹かれ読んでいきましたが、レンが語っている部分は所々平仮名になっていたので(間違えていたのならスイマセン)最初から最後まで読みやすかったです。その平仮名が幼い雰囲気も出していたので、「レン」と「俺」の違いがハッキリしていて良かったです。
それでは次回の作品も期待しております。それではこれで失礼します
2005-11-06 18:36:07【☆☆☆☆☆】夜天深月
はじめまして凪風と申します。僕はお話から感じたものはなんと言うか、あまりないです。心に深く刻み付けられるメッセージ性の強い作品などは、感じるものがダイレクトに伝わるのですが、この話はそういう類のものを狙っているのではないと思う(というか僕がそう思いたいだけなんですが……)ので。clown-crownさんが書くように、反発を抱く人はいるでしょうが、それはこのような作品に関してはちょっと勘違い的な感想であると思います。つまり、あまり個人の感情や信念や思想を入れ込んで読む物語ではなく、一連の流れの衝撃性などを読み取るのが正解かな、と。ちがってたらすみません。あくまでも一個人の勝手な主観の入った感想です。
文章構成や、文の書き方、これに関してはとても感動しました。アマチュア(じゃなかったりもするのでしょうか?)とは思えない文の書き方だと。構成も上手く、よく小説というものを理解しているのだなぁと。もう少し何か伝えるものがあると、もっとよいと思いました。悲しみなどのストレートな感情ではなく、『奇妙な感覚』だけでもいいと思いますので、それを狙ってみて欲しいです。
……偉そうなことを延々と失礼しました。次回作頑張ってください。
2005-11-06 22:22:16【☆☆☆☆☆】凪風
拝読させていただきました。時貞です。読み終わってすぐに、ああ、恋羽様らしいショートx2だな、と思いました。この手のテーマに対する、恋羽様のこだわりのようなものを感じもします。ただ以前拝読した作品の読後感と比べますと、(あくまで僕の主観ですが)その深みが薄れてしまっているといった印象も否めませんでした。多重文体を用いた手法はユニークでしたね。独特な味わいを生んでいたと思います。それでは、恋羽様の次回作並びに連載作品の更新を楽しみにお待ち申し上げます。
2005-11-07 14:07:21【☆☆☆☆☆】時貞
お久しぶりの感想です。お元気でしょうか恋羽さん。
読ませていただきました。前の読みきりなども実は読んでいたのですけれどもね、どうしても感想が書けなくて。この作品に何か感じたというわけでもないのですが、題材が個人的に興味深かったのと、読んでいますよということを伝えるために(笑)
なまじある掲示板で恋羽さんや他の方々の議論を読んでいるために、少々感想が書きにくいのですが。そうですね、反発を抱く人もいるでしょう。私はただ「後味悪!」と思いました。決して無礼な意味で言っているのではないので、どうぞそこらへんは許してください。この作品を通して何を伝えたかったのか、言いたかったのか。もしかすると読者である私が読みとろうとしていないのかもしれないのですが、それがちょっと私には分かりにくかったです。さてさて、やはり感想が書きにくいぞ(笑)結局「分かりませんごめんなさい」的な感想書き込みになってごめんなさい。次回作、また機会があれば読ませていただきます。
2005-11-07 14:30:14【☆☆☆☆☆】ゅぇ
率直に言って面白く無かったです。感情が動きませんでした。色々な狙いが裏目に出ているように思います。読めば読むほど、どうしたかったのかが測りかねました。
2005-11-07 17:45:22【☆☆☆☆☆】メイルマン
このお作と同系統の「記憶から見出す生きる希望」と、卑しくも比較させていただきますと、こちらの方がストーリー性はありますよね。しかしこれ(被害者であるレン視点オンリー)だと、ただの被害者妄想ペシミストの吐露、という感じも。レンに攻撃を加える加害者側に、果たしてどんな正当性があったのか(病気の家族(レン)がいるせいで、自分が差別を受けているからその腹いせ、とか)。レンはどれだけ、周囲に対する自分のあり方を考えたのか。もし己に非があったなら、もしくは己の非に気付いたら、改善してやろうという気持ちの一つも沸きそうなものですが(実際、自分がこんな状況に置かされたことがないので分かりませんが)。いずれにしたって、こんなに弱すぎるレンを、読者はどうやって受け止めてやったらいいのか、やはり困惑するだろうと思います。せめて、救いや癒しくらいは求めて欲しかったかも。
2005-11-07 21:02:37【☆☆☆☆☆】エテナ
拝読しました。何かしらのメッセージ性が読み取れず、感情を隆起させられませんでした。書き物が閉鎖的になって閉じていることが入れなかった要因かと思います。また、入口も出口も閉じてしまったがために、物語性が無くなっているように思えました。内的に帰結した物語は、読者に何ら伝えることは出来得ないのではないでしょうか。次回作御待ちしております。
2005-11-08 05:21:31【☆☆☆☆☆】京雅
今晩は、ミノタウロスです。前回の書き物との比較をどうしてもしてしまうし、あまり本音を今の時点で語るのは避けた方がいいと判断したので、暫くしたらもう一度コメントします。ところで、連載楽しみにしています。
2005-11-08 23:57:50【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
 返事が遅れてしまいまして申し訳ありません、恋羽です。

 最低記録!さん。初めまして、恋羽(ここは)と申します。こんな暗いものをお読み頂き、ありがとうございます。レンの中のレンは生まれ変わったのでしょうか。レンとレンの関係性はいったいどこへ向かっていくのでしょうね。ああ、訳わかりませんね(汗 何を書いていいやらわからなくてすみません。本当にありがとうございました。

 clown-crownさん。お読み頂きありがとうございます。懲りるほど書けてない、というが現状なのですね。もっと広げてあげられたなら満足というか、納得して次のステップへ進める気がするんですが、駄目ですね。はい。もうやめときます。自分でもよくわからなくなってしまうので。ありがとうございました。

 勿桍筑ィさん。お久しぶりです。お読み頂きありがとうございます。ええ、何を伝えたかったのか、なんとなくでも理解していただけたならうれしいです。ええ、それがなんなのかなどとは聞きません。僕自身判然としませんから(汗 ああ、どんどん悪い方向へ行ってしまっているのでしょうか、ね。ありがとうございました。

 夜天深月さん。初めまして、恋羽(ここは)と申します。お読み頂きありがとうございます。ひらがなの使い方が実はなかなか難しいことに、これでようやく気付かせて頂きましたが、読みやすいとたった一人でも感じて頂けて、うれしく思います。くだらない作者ではありますが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。ありがとうございました。

 凪風さん。初めまして、恋羽(ここは)と申します。お読み頂きありがとうございます。これがどういった系統に属するのかは僕自身あまりはっきりと判断し切れていないので何とも言えませんし、読者の方がどのような判断を下すのかも僕の執筆の領域外のことなので文句は言えませんが、人の感情を害する文章を用いたところは反省させて頂いております。ええと、アマチュアもいいところです(苦笑 ……なるほど、奇妙な感情。ええ、機会があったら描かせて頂きます。ありがとうございました。

 時貞さん。お読み頂きありがとうございます。らしいのかどうかはいまいち自分でも判じかねますが、そう思っていただけたなら自分なりの色が自分の作品についてきているということなのでしょうね。深みを描くのは難しいものですね。あの作品については記憶を手繰るという形式を用いていましたが、これについてはすべてを説明し切ってしまったような部分があるために差がついてしまったのかもしれません。ありがとうございました。

 ゅぇさん。お久しぶりです、お読み頂きありがとうございます。ええ、僕も勝手ながら読ませて頂いております、チビチビとではありますが(汗 いいえ、貴方の読解力が劣っていたなどと、ありえません。僕の思慮が足りなかったのです。「わかり難くてごめんなさい」と謝りたい気分です。とりあえず後味が悪いのが僕の持ち味なんでしょうか、だとしたらなんと性質の悪い(汗 ありがとうございました。

 メイルマンさん。お読み頂きありがとうございます。本当に率直にありがとうございます。本当に、何か申し訳なく思います。狙いをもっと絞らなければなりませんね。ありがとうございました。

 エテナさん。お読み頂きありがとうございます。一つの出来事に沿って、尚且つその物事を完結させるというのもこの作品について書きたかった部分ではあったのですが、それと「凍笑み」という言葉(一応自分なりに造った言葉のつもりだったのですが、いまいちでした)に余韻を込めたかった部分もあったのですが、そうか、そちら側にも広げる方向性があったのか、と今更ながらに納得させて頂いております。うーん、本当に自分の至らなさを痛感させられています。ありがとうございました。

 京雅さん。お読み頂きありがとうございます。メッセージ性を込めるだけの能力が無かった、ということになるのでしょうか。それとも作品の世界に自分自身が入り込めていなかった、ということになるのでしょうか。どちらにしてもそう、読者を拒んでしまった、という最大のミスを犯してしまっているのですから、何も言えません。ありがとうございました。

 ミノタウロスさん。お読み頂きありがとうございます。僕もミノタウロスさんの感想を楽しみにさせて頂きます。
 
2005-11-12 19:03:53【☆☆☆☆☆】恋羽
おはよう御座います。そろそろお答えしようと思いまして。余談ですが私は色々な方の【感想】を読むのも好きで読み漁るのですが、最近表から消えると途端に感想が入らなくなるなぁって思っています。(だから今書いているのですが) やっぱり読み手が少なくなってると言うのは寂しいですねぇ。ま、そう言う私も感想書くのが少なくなってますがね。
さて、今回の話は前回と比較と言うか、前回の物を踏まえた上での感想を書きますが、今回はこの主人公から魂の叫びが聞こえてこなかった。所謂多重人格障害の人間が、現在は俺が主になっているけれど、本来の主人格はレンであり、その主人格は【微笑】を司る部分、俺、はそれを冷めた目で、この世で生きるには不要だと言っているかのようで哀しかったです。ただ、此処で作者としてそれを言いたかったかどうかは疑問です。他の方も指摘してましたが、訴えたかった物が曖昧でした。前回の話は抽象的ではあっても貴方様の声がはっきり聞こえてぐっとくる物がありましたが、今回はそれが無い。レンの哀しい生い立ち、それを断ち切った殺人と言う結果。悲しい現実を突き出しただけではないでしょうか。その先にあった――凍笑を浮かべた後にあったであろう何かを、苦しみや葛藤の貴方様の声が聞こえない、これでは私は満足しません。
自分の経験や半生を赤裸々に綴る必要はありませんが、その近しい物を持ってきて何かを訴えたり、叫びたいのであれば、中途半端では何も伝わりません。何か訴えたい物――はっきり言いますが、幼児期に受けた虐待を経験者としてしっかり訴えたいのであれば多少の痛みを覚悟なさってお書きください。貴方様の心の叫びを吐露した後に、待ち受ける物が何なのかは私には分かりません。後悔なのか満足なのか、挫折なのか達成感なのか――どちらに転ぶかは不明です。でもそれは貴方様次第なのです。無責任かもしれませんが、再三こうした書き物をしているようですから、書くことによって何かを得ようとしているのだと感じています。そうであるなら、どうそ立ち向かってお書きください。万一挫折を味わっても立ち直る強さを身に付けて下さい。――なんだか見当ハズレな感想のような気もします。何言ってんの?と思ったら無視して下さい。(もし、気に触る表現があったならお詫びします。ただ私は貴方様が苦しんでいるようにしか見えなくて、辛いのです)では、次回作等お待ちしています。
2005-11-13 04:56:43【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
 ミノタウロスさん、じっくり書いて頂いたらしい感想をありがとうございます。読み手が少なくなっている、というより、本当に作品を読んでいる読者の方が減っていると感じますね、僕としては。読んでもいないのにさも読んだように感想を書いて宣伝する人も多分混じっているのだと思いますよ。
 さて。そうですね、この作品中に登場するレンという人物と「恋羽」という存在が接していないところが、多分僕自身の内から沸き起こるような感情を描けなかった理由のひとつなのでしょう。ただ前回の反省を踏まえての再チャレンジ、というつもりだったのですが、こういった作品はそもそも読み手を選んでしまうのがすごく切ないですね。
 凍笑―――とうしょう、じゃなくて、こごえみ―――結局最後を締めくくるこの一語がネックになっているのでしょうね。微笑みとほぼ同意義に用いたつもりなのですけれど、ね。前部の文脈から拾い上げていけば自ずと見えてくると思ったのですが、わかりにくかったらしいですね。凍るような笑み、ではなくて、寧ろ哀れむような、切なさに押し潰されそうな、そんな表情を描きたかった。だから題名にも使ったのです。
 ええ、別にね、問題提起としてこの題材を使おうと思ったわけじゃないんですよね。その辺りに作者が見え隠れしてしまって邪魔だったのだろうと思うんですが、それに前作が似た題材だったためにそう感じさせてしまったのでしょうが、そうじゃないんです。あれとは全くの別物として、言うなれば全く別世界の出来事として描いたつもりなんですが、……これこそ時機を逸したということなのでしょう。
 再三、というほどではないんですが、どうしても一度は納得がいくまでこの題材を書いてみたいと思ってはいます。雑誌記者が借り物の知識とどこかの偉い学者様の知識と偏見を持って書きなぐる記事ではなく、もっとリアルに沿ったものを。ただ、今の段階でそれを追ってしまったこと自体がそもそもの間違いだったのだと思います。もう少し機が熟してから、そういうことにしておこうと思います。
 胸が、痛いというのはありますよ。心臓がたまに細動するんです。多分こんな不規則な生活の中で、こんな題材を追いかけようとしている為なのだと思います。でも、しばらくは誰にも寄りかからず頑張ってみますので、見守っていただけたなら幸いです。ありがとうございました。
2005-11-19 11:39:03【☆☆☆☆☆】恋羽
計:0点
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