『記憶から見出す生きる希望』作者:恋羽 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 ――記憶の裂け目を右往左往する





 記憶の向こう側、遠い記憶の中で幼い自分が泣き叫んでいる。ぎゃあぎゃあ、幼い兄の足が自分の背中を蹴りつける度に俺は悲鳴を上げている。そんなに痛かったのだろうか。不思議とその記憶が無い。
 十二月二十五日。クリスマス。俺は両親が居ない寒いリビングの真ん中で兄に背中を蹴られている。ぎゃあぎゃあと叫びながら、五歳の細い声で叫んでいる。幾ら叫んでも誰も助けにはこない。誰も助けてはくれない。規則的に蹴りつける兄を、あの頃の俺は一体どんな目で見ていたのだろう。何も覚えてはいない。あの頃の思考、あの頃の人格は一体どう考えていたのだろう。
 きっと痛かっただろう。帰ってきた看護婦の母親に即病院に連れて行かれた。病院に行ってもの凄く痛い注射を打たれて、バナナの匂いのする麻酔を吸って、記憶が途切れた。不思議と注射の痛みははっきり覚えている。記憶がリスタートする辺りで母親が「内臓破裂の寸前だって」と言った。五歳の俺には何が何やらわからなかった。

――あの頃、もう既に自分が存在してはいけない生き物なのだと気付いていた気がする。






 古いアルバムのページを繰る。姉が、兄が、父が、母が、それぞれに複雑な表情を浮かべている。そこに俺はいない。いや、少なくとも現在の俺は存在しない。俺が生まれてすぐ、アルバムのページは少なくなっている。そして僕が小学生に上がる頃には完全に途絶えてしまっている。
 それを今の俺は何故だろう、と考えて、ふと結論に至ってしまった。

――ああ、俺が悪いんだ。俺が生まれてきたから、家族はばらばらになったんだ。

 幸せな四人家族。それを引き裂いたのはきっと俺という悪魔なのだと、はっきり感じることが出来た。そう思った時、泣くよりも笑ってしまった。
 両親の離婚、父の暴力、兄の不良化、姉の離反、その全てが俺に起因している。あらゆる疑問がそのたった一つの結論によってすっきりとした一筋のラインになる。それが嬉しかった。




「死ね」

 首筋に蘇る圧迫感。痛みよりも早く脳へ送られる圧迫感。紅潮していく自分自身の顔が脳裏に浮かぶ。ああ、死ぬんだな、そんなことを考えていた。それもいいな、殺してくれるなんて、幸せだな。そう心の中から思えた。
 そうすれば俺の存在が、せめてたった一人、目の前で僕を絞め殺そうとしている自分の父親の中に刻まれていくのだから。それはきっと幸せなのだと感じた。




 首を締める指が緩められた。それが残念に感じた。死んでしまいたかった。殺してほしかった。殺されるべきなのに殺されない理不尽を呪った。咽びながら、目の前の中途半端な人間を心から憎んだ。
 殺すならば殺してくれ。その代わり包丁はやめてくれ。出来ることなら血が出ない殺し方にしてくれ。俺は血が嫌いなんだ。
「お前は本当になんなんだ!?」
 知らない。そんなこと知らない。そんなことどうでもいい。殺すなら殺してくれ。刃物でなく、お前自身の手で殺してくれ。悪事を叱るのはやめてくれ。お前が俺をこの世に発生させたこと自体が既に悪なのだといい加減気付いてくれ。そして殺すならさっさと殺してくれ。お前の美学や誇りや、守ってきた人としての道、そんなものは俺にとってどうでもいいんだ。さあ、殺してくれ。お前がこの世界に描き始めた俺という軌跡を、お前の手で終わらせてくれ。
 ……俺は死ななかった。だから今、こうしてここにいる。






 憎い。全てが憎らしい。滅ぼしてしまいたくなるほど憎い。
 だが俺の手には何も無い。悪を滅ぼすヒーローの超能力も、死すべき自分を殺す力も。
 自分がわからない。どこにいて何に向かっているのかも。美しい何かを手探りで追い求め、しかしそれが本当に美しいかどうかも知らないで、そうやって生きている自分が嫌いだ。汚らしい自分に気付いていながら無視する自分が嫌いだ。人生を浅はかな自慰みたいに過ごしている自分が嫌いだ。知りもしないのに知った気でいる自分が嫌いだ。首筋にしばらく残されたままだった青痣を指でなぞって、「痛かったね、苦しかったね」と自分に同情している自分が嫌いだ。汚らしくて、吐き気がして、嫌いだった。
 首など折れてしまえ、不必要な足や腕などもげてしまえ。そして、誰にも助けられないまま死んでしまえ。
 





 自分が嫌いだ。自分が嫌いで、殺してしまいたい。どうしようもなく大嫌いだ。
 眠りに落ちる度に、代わる代わる記憶が、本能が俺を慰撫する。吐き気のする賛美の言葉を交えて、やさしく。傷つけられた心を直そうと懸命に傷口を舐める。
 眠りに落ちる度、俺はそれらのやさしい言葉と語らう。

「あなたは美しい心を持っているんですよ。間違っているのはこの世界の方なんです。もっと自分に自信を持ちなさい」
 
 大抵そういう言葉が聞こえてくるのは、俺が意識の表層を漂っている時だ。灰色の海の中で俺は裸で海面を見上げている。そうすると聞こえてくる。そして尋ねるのだ。

「美しい? 何故だ」
「あなたの純粋さはこの世界にはそぐわない。だからあなたの心は疲れてしまうんです。美しい心はこの世界では生きられない」

 そう言われる度、僕は問い返す。

「何故そんなことがお前に言える? お前は誰だ?」
「私はあなた。傷つき疲れているあなた自身です」

 そして、俺は自分を慰めようとする自分自身に吐き気を催す。意識である俺が無意識である「私」に癒されゆく構図を思い、心の底からの苛立ちを感じる。

「死んでしまえ」
 
 そんな甘い自分自身にそう言う。それ以上、自分とは何も語らない。何を言われてもそれ以上答えようとしない。もう心の傷などどうでもいいのだ。
 「私」よ、甘さよ、死んでしまえ。




 
 姉の親友の家へ連れ込まれた。そして彼女の昔の服を着せられ、「かわいい」という言葉を連呼された。枯葉に似た色になってしまった記憶の中の日差し、窓から降り注ぐ日差し。
 かわいい、そう呼ばれる度、当時中学生ほどだった少女は、少女の格好をした俺との距離を縮めた。咽帰るような安い香水の匂い。俺自身の記憶の中で、最も妖艶と呼ぶのに相応しい綺麗な顔立ちが、不気味に俺に詰め寄ってくる。

 しばらく記憶が飛んで、次に思い浮かぶものは不気味な生き物。薄桃色の肉の色。少女が俺の眼前に広げた粘膜。生臭いイキモノの臭い。そして自分自身の陰部に感じる違和感。頭の位置を逆にして、妙にスプリングの利いたベッドに仰向けに寝転ぶ俺の上に覆い被さった、少女。

 そしてまた記憶が飛び、俺は自宅の食卓でテレビを見て笑っていた。
 あれはきっと、俺がこの世に生を受けた為に下された幾度目かの罰なのだと思う。






 次の罰の生き物は醜悪だった。
 小学校からの帰り道。上り坂の向こうから駆けてくる男。

「今僕はかくれんぼをしているんだ、だから隠れるのを手伝って」

 そう言い物陰へ連れ込んだのは、家畜の様に無様に太り、秋の寒い風の中には不必要なほどの汗をかき、表情など何も見えてこない奇怪な生き物。それは既に自分と同種の生物とは考えられなかった。
 車の陰、少しでも声を上げれば打ち破られる物陰。
 ジトリ。汗で湿った白いシャツが俺の体に触れた。仰向けに寝かされた俺に、その生物はのしかかった。股関節を無理に開かれた俺は何一つ抵抗など出来ないまま、男の顔を見つめていた。

 しゅっしゅっしゅ。布の擦れる音が聞こえてくる。記憶がはっきりしているのはきっと、その時間が短く、そして大した衝撃が無かったからだろう。体重が百キロを超えた醜い男が、布越しに俺の股間にペニスを擦り付けている。ただそれだけのことだったからだ。だが、男がどの瞬間に果てたのかは定かではない。男が残した言葉だけが、今も記憶の片隅に存在している。

「ごめんね」

 あの頃の俺は何も答えず泣いていた。
 ……いいんだよ。これは俺に下された罰なのだから。今の俺ならそう答えるだろう。
 ただ、これからもしお前が罪も無い少年少女を手に掛けるのから、俺はお前に唾を吐きかける。







 ――記憶の裂け目から我に帰る


 そして叫びそうになる。――もう罪はさんざんな罰によって購われたではないか!? これ以上俺に何を望む!?
 だが俺の手は未だ、自分を殺しはしない。手首を切り刻もうとはしない。首を吊る縄を用意しようとはしない。
 だから多分俺の罪はひたすらに重いのだろうと考えている。底が知れぬほど重いのだろうと思う。だから生きなければならないのだと。


 もしかしたらそれは、生きる希望というのに似ているのかもしれない。






         完
2005-10-17 07:32:32公開 / 作者:恋羽
■この作品の著作権は恋羽さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 ミステリ作品を書こう書こうと思っていたのですが、ふと記憶が浮かんできたので載せさせて頂きました。あまり、完成度は高くありませんが、その方がよりはっきりと見せることが出来るかと思いましたので。これが事実であるか虚実であるか、という質問は残念ながらお答えできません。
 それではお読み頂きありがとうございました。出来ましたら感想等お聞かせ願えたら幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
拝読させていただきました。時貞です。とても重い読後感ですね。この主人公の背負った翳に、そして、彼の思う罪と罰に現代社会の暗部を覗き見るような感覚を覚えました。彼に対して同情心が沸いてこないのは、この主人公が心の叫びを秘めながらもどこか超越したような心理を感じさせるからでしょうか。具体的に上手く言い表せないのですが、胸に何かがチクリと刺さるような作品でした。余談ながら恋羽様の手になるミステリ作品、ぜひ読んでみたいと思います。それでは、次回作を楽しみにお待ちしております。
2005-10-17 13:00:32【★★★★☆】時貞
読ませて頂きました。「俺」の心の中のグニャグニャとしたものがずっしりと感じられますね。内容は重いのに、すっと最後まで読む事が出来ました。
個人の罪なのか人間の罪なのか、というのはむつかしい問題なんでしょう。でも私は、とりあえず死ぬまでは生きていなければならないと思います。う〜ん、ところで希望ってなんでしょう。……むつかしいし重たいですね。何だか普段考えないようなテツガク的な事をたくさん考えさせられるお話です。頭がぐるぐるしてきたので、この辺で失礼します。次回作、ミステリということで、楽しみにしています。
2005-10-17 19:57:06【★★★★☆】シルヒ
 コメントしづらいね〜。
 シルヒさんも感想に書いてるようにさ、『罪』の方が詳しく書いてないから、何の贖罪なのかよくわからないね。
 自伝なら自伝でこーゆー書き方もありだろうけど、読み物としてはどうかなーって感じ。私の場合は積極性がないから“死にたい”と思うより“生きたくない”と思うんだよね。この書き物に限っては感情移入したくないし、できない。
 この『やさぐれ感』は好きだけどさ、登竜門に投稿するのには適した書き物でないと思う。悪いけど『悪い』をつけさせてもらうよ。素直に。
2005-10-17 21:14:09【★★☆☆☆】clown-crown
 お読み頂きありがとうございます。恋羽です。
 時貞さん。ありがとうございます。ニュースの中で気軽く流され消えていくショーとストーリーの一つ一つに人間が存在しているんですね。一切れ一切れを拾い集め、どうにか苦しみながら形にしました。作者自体の思考が痛みを伴って展開された為にこうなったのだと思います。そう感じて頂けて嬉しいです。ミステリ作品については気長にお待ちください、実際に書いてみると結構大変だったりしますので。お読み頂きありがとうございました。
 シルヒさん。ありがとうございます。重さと軽さのバランスを少し考えました。読んでいて遅々として進まない苦痛の場面を描かれると辛く感じてしまうということが何度かありましたので。彼の罪、それはきっと、彼が生まれたことによって崩された家族の調和や、彼が惑わし罪人に仕立て上げられた人間達に当然感じるべき、苦しみの意識、とでも言いますか。いつかその罪が晴れる日を待つこと、そして許されたときもたらされるはずの自由なる死、それを待つことこそが彼にとっての希望なのかもしれません。お読み頂きありがとうございました。
 clown-crownさん。この作品は本当に「悪い」を付けられることをどこかで感じていました。それがきっと本来なんだろうな、と。それで何故投稿したのか、と聞かれたところで答えられることは何もありません。この作品は自伝ではないし、読み物としての完成度はほとほと低いと自分自身感じています。だが、たとえ机上の空論とは言え、人殺し、人を殺す術、恐怖と憎悪の交錯を描く上で、どうしてもこの段階は必要だったんです。自分の身の内に溜め込んだものを一旦吐き出してしまわないと、感情を殺して文章を構成するということが出来ないという欠陥人間ですから、僕は。お読み頂きありがとうございました。

 ただただ感情のみでここで文章を書き付けました。だから、次は感情をひたすら押し込めて文章を書いていきます。多分それがゆえに雰囲気が硬くなるのは否めないでしょう。
2005-10-18 07:14:39【☆☆☆☆☆】恋羽
読ませていただきました。なんというか、主人公って物凄くネガティブ思考?っといいたくなってしまうような作品でしたね(それは違うだろ……)でも、確かに人生で一度は自分は生まれてきてはいけなかったのではないかと思ってしまった時期はあると思うんですよ。まあ、今までに思ったことがない方はこれからあるかもしれませんよ。おっと、どうでもいい話になっていましたね。それでは、次回も楽しみにしています。
2005-10-18 21:40:31【☆☆☆☆☆】上下 左右
うーん…考えさせられました
何だかんだといいながら、結局は生きていくことを決めた(決めさせられた?)主人公。
読み応えのある作品でした
2005-10-18 22:18:24【★★★★☆】黒ネコ
拝読しました。感情の羅列は悲観さ(と言うと少し違うのかな)を表し無造作にそして随所にあるのですが、物語背景と言うものが見えてこなかったがためにラスト一行へ感じ入られませんでした。ううん、読み取り不足やもしれませんが、敢えて統御せず書き綴ったらこうなるのかなとも思います。記憶だから断片的なのでしょうか、判然としませんでした。失礼な言葉、御容赦を。次回作御待ちしております。
2005-10-20 05:21:44【☆☆☆☆☆】京雅
何を目指して書かれた物かわかりませんでした。とりあえず主人公が読み手から遠い存在すぎると思います。主人公が何を伝えたいかがわかりません。足を失った身近な人ではなく、地雷を踏んで死んだ遠い外国の人に心情を吐露されている気分でした。その人の悲しい感情や伝えたいことを理解するには時間が(文章量と適度な情報が)足りなかったです。
2005-10-20 12:21:59【☆☆☆☆☆】メイルマン
 これは明らかに定型的な小説とは違っている。僕の感覚では詩に近い。というよりはまあ虚構の構成をとった上でその内部での因果的な連鎖を展開するということが小説であるならば、明らかな逸脱になると思う。
 だけれどもぶっちゃけちゃうと、正直最近の僕は定型的な小説とか小説の骨法とか、どうでもいいのね(笑) むしろ定型的な作品のうちに何ら生気のない、小説というフォーマットのモノマネの方がイヤなのですよ。安直に用いられる一人称語り形式とかね。これは前から延々と繰り返しているのだけれども。そういう意味からするとこの作品は挑戦、というより恋羽さんの最近の他作を見て思うに、定型的な作品に対する否定というか、何かハッキリなのかボンヤリなのか直面している目の前の壁をぶち破ってやりたい衝動のようなものというかね。そういうものを感じるのですよ。
 この作品を小説作品として評価するとなるとさ、それはお作法守ってませんよ(笑) お茶会に招かれて脱ぎ始めるようなものでね(笑) だけれども作法を徹底的に遵守していれば茶道のこころに通じるのかというと、それは絶対に否であってさ。心底、タマシイというやつがホンモノなのか、俗物のそれなのか、そこが難しいところだ。
 定型文が自分の想いを乗せるに不十分であるという苛立ちを感じた場合、荒ぶる想いを表現しようとすれば、どうしても八方破れの過渡期に突入せざるを得ない。荒れ狂うだけ荒れ狂えばいいのだ。作品の完成度なんてクソクラエですよ。それがいつも人の心を打つとは限らないのだからね。そういう意味からすれば、この作品はでもまだスタティックだと思う。作品に仮託された想いはこんなものじゃないと思う。個人的にはね、これは絶対にスタティックに、冷静に客観的にそういう「自分自身」(判別不明ながらあえてこう書かせてもらうね)を見つめて、何らかの判定を下したって、そんなのちっとも面白くないと思うんだね。結論なんてつまらない。煮えたぎった何か、生々しい何かを、最小限のコントロールで展開するギリギリ感というものが魅力になるんじゃないかと思うんだよ。それはまだ足りないと思う。どこまで行っても不十分かもしれないっていう世界になるかもしれない。でもそれに挑戦してもらいたいと思うんだ。
 この作品が全て書き手の本質を指し示しているとも思えないし、表現する人間の振り子運動の中のひとつのパッシングポイントであるという風に思うことができる。むしろね、袈裟の下から鎧を垣間見せたようなこういう隙だらけの作品にね(笑) 失礼な言い草だけれども、読者は食いついて、書き手のハラワタを引きずり出した方がいいんだよ。巧妙な隠蔽、端整な装飾、そういうものの皮膜の向こう側にあってなかなか正体を見せない書き手というもの、読者に正体を見せないということは書き手自身でも自分のことをわかっているつもりでわかっていないのだ、そういうものに対してね。もし読者が書き手のこういう暴挙(笑)をとめたいと思うのならば、この作品の体裁云々を論破しようとするんじゃなくてさ、むき出しとなった(ように思われる)書き手の内腑を食いちぎってやる方がよほど抑止力があるのだ(笑) それをやられると書き手はおそらくすさまじくシンドイと思うのだけれどもね。
2005-10-20 22:50:25【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
 おなか痛いです。お読み頂きありがとうございます、恋羽です。
 上下 左右さん。そうですね、僕がネガティブ思考な為に主人公までネガティブになってしまいました。自分は生まれてきてはいけなかったんだ、そう考えるとなかなか精神的に苦しい部分がありますね。世の中って言うのはまあ、苦しみの上に成り立っていますからね。ありがとうございました。
 黒ネコさん。初めまして。お読み頂きありがとうございます。考えさせられたとのこと、なるほど。主人公は生きることを決めたのでしょうか、ね。暫定的な生を繋いでいく為の決心、人生というものは案外そういった曖昧なものに繋ぎ止められているのかもしれません。ありがとうございました。
 京雅さん。失礼などと、とんでもございません。むしろこの心情吐露の羅列を載せたことそのものが失礼なことなのだと思います。統御というものはリアリティとは全く無縁の存在だというのに、統御が存在しないものにはリアリティが無い。要するに現実には全て統御が働いているということなのでしょうね。ありがとうございました。
 メイルマンさん。何を目指して書いたのか、一体どこを目指して進んでいるのか、作者がそれ自体を理解出来ていないために読んで頂いた方を混乱させてしまったこと、本当に申し訳なく思います。不幸というものは、やはりリアリティが存在しないと結局は虚構に終わってしまうものなのですね。もう少し時間をかけてゆっくりと、今度からは気をつけて書かせて頂きます。ありがとうございました。
 タカハシジュンさん。因果の連鎖が小説だとするならば、小説とは小さな現実なんでしょうね。そう考えるならば、作者とはなんてちっぽけな存在なんでしょう。形式論とか方法論とか、まあはっきり言ってしまえば「見た目」を綺麗にするための方法ですね。それらを吐き捨てたら、余りにも独特になり過ぎた、そんな感じです。挑戦、ではないんでしょうね、きっと。ただ、恋羽という表現者の根源を辿っていくと、結局は技術で塗り固められた虚構に行き着く。それがすごく空しいことのような気がします。技術ってなんなのだろう、表現ってなんなのだろう、どこまで突き詰めていけば小説は極限に達するのだろう、そんなことを考えているうちにこの話ができた気がします。定型文を憎んでいるわけじゃない、何故ならありふれた表現とは全て成り立ちとして同じ部分を持っていたはずだから。だけど信じていた表現の基本というものが、本当に真実であるのか、僕にはよくわからなくなってきているんです。そして、こうして形式を無視していく内、頭に浮かんだのは、アイヌの古老が皺だらけの顔で僕に語ったあの拙い口ぶりでした。表現する、ということは、すでにこの世に存在している全ての名表現者と肩を並べるということになるんですね。だからこそ、自分を探ってみた。探って探って、とやっていくうちに、自分の中に何かよくわからないモヤモヤした妙なものがあることに気がついた。それを吐き出してみたんですよ。「自分自身」その表現でいいですよ。これは「自伝小説」ではないけれど、そこに存在しているものは全て僕自身なのですから。難しいですね、表現って。ものすごく混沌として、行き着く先がわからなくて。目の前に現れる明らかな課題はすぐに見えるのに、問題の本質はすごく深い。それゆえに追う価値があるってもんですけど(苦笑 食い破ってもらってもよかったのに、タカハシさんに。食い破られてブッ潰れた方がこの作品の意味が増すのに、なぁ(まあ後から気づいた事で、そういう狙いがあった訳じゃないんですけどね)。ありがとうございました。
2005-10-21 14:13:48【☆☆☆☆☆】恋羽
 こんばんは。遅ればせながら拝読しました。
 うーん、僕はしんどいです、これは。こういう存在論的不安(っていうのかな)みたいな精神状態って、理性的思考から出てくるんじゃなくて、もっと原始的な、身体的なとこから来るものでしょうから、言葉で伝えるのって難しいですよね。分かる人にはわかるけど、わからない人には全然わからないかも。でも小説として書くなら、ある程度の普遍性は必要だと思うし……。文章それ自体はリアリティがあっていいのですが、あまりにも個人的過ぎる(事実であれ、虚構であれ)感じがしてしまって、僕はちょっとついていけなかったです。作品、というより、スケッチみたいな感じがしました。
 冷たい言い方になってしまうかもしれないですけど、こういう内面的・心理的(って言っていいんでしょうか)なアプローチって、なんだか作者ご自身の中でぐるぐる回ってるみたいで、読者の現実世界につながる出口が無いような気がするんですが、いかがでしょうか。
 それとも、僕には人の痛みに対する想像力が欠けているのかなあ。
2005-10-22 01:21:57【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
 中村ケイタロウさん。お読み頂きありがとうございます。
 しんどいですか。そうだろうなぁ、と安易に頷いてしまいます。そんなんじゃあ作者としていけないのはわかっているんですがね。でも現実ってなんでしょうね、小説ってなんでしょうね、もっと言えば、作者ってなんでしょうね?それが僕の中ではっきりしていないからこんな感じになってしまったんだと思います。すみませんでした。スケッチみたいな感じ、とのこと。受け止めさせていただきます。やはり作者と読者の距離が遠すぎてしまいましたか。本当に表現って難しいですね(汗 
 ありがとうございました。
2005-10-22 19:19:05【☆☆☆☆☆】恋羽
今晩は。最近かなり読むのが遅すぎるミノタウロスです。
さて、個人的にこの話好きですね。はっきり言って、かなり入り込んで読んでたし、もっと読みたかったなと思ってしまったし。私は、かなりの捻くれ者で、へそ曲がりな者ですので、この話に全く嫌悪感を覚えないし、それどころか、この主人公にかなり興味がある。この主人公が言うところの罪はなんだったのか、構想があったのであれば是非それを書いて頂きたかった。私は想像が逞しい方なので、色々想像できるが、自分の稚拙な想像力など及びもしないぞっとする現実を、恋羽様になら書けたであろうと思うとここで終わっているのは残念です。心の闇とはさらけ出す時痛みを伴います。恋羽様の心の闇の一端を垣間見た気がしたのです。(自叙伝ではないのは解ってます。ただ、自分を嫌う主人公はまさに貴方様だと感じたので)
登竜門ではこう言う書き物見かけませんが、私は大好きなんですね、こう言う書き物。詩的な感じはありますが、これは小説ですね。ミステリを書き始めたようですが、忙しくて中々読めません。この書き物読んで、興味深々なので、必ず読みに参上します。面白かったです。
2005-10-23 00:52:16【★★★★★】ミノタウロス
今日は。言い足りなくて、再び参上しました。読み返したんですが、やっぱり面白い。そしてもっと広げて欲しいですね。この分量では、大抵の方は理解し得ないでしょう。私は多感な頃に非常に変わった詩集を読み漁っていた為か、小学生の頃に優しくする大人達に不信感しか持てず、世の中を嫌悪していた為か、この書き物に深く傾倒してしまっています。今回、入り口が入りやすかったしね。最後の5行、堪んないね。叫びが突き刺さってくる。
最近怒涛の作品アップ。そのせいか、こなれてきて読みやすくなっていると思います。十代の感性でしか書けない物、二十代になってみないと書けない物ってあると思います。悔いの無い書き物をして下さい。
一箇所ご報告【俺】と書くべきところ【僕】になっていました。【古いアルバム〜】の下り以降で。些細な事ですが気になって。では。
2005-10-23 12:12:22【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
 ミノタウロスさん。お読み頂きありがとうございます。恋羽です。お返しが遅れてしまって申し訳ありません。
 さて。この中に登場する主人公、七割方僕自身ですよ。多分この作品を改めて見る人はいないだろうから言うのですが。事実が結構混ざっています。それゆえ、嫌悪感を覚えなかったという貴方の言葉、とても嬉しく思いました。どれが事実、どれが嘘、それについては言及しません。罪について、第二部でも書いて語ろうかとも思ったのですが、この作品と同じ系統の作品にはどう考えてもならないだろうと思い、これはこれとして終わらせておこうと思っています。いつか自分でサイトでも持ったら別の作品として囲うかとは思いますが。怒涛の作品アップ、ですが、ミステリを書き始めたのでかなり更新も遅くなるでしょうし、結構小説以外にもやらなきゃいけないことややりたいこともあるので、今後はだいぶ落ち着いてくると思います。年齢のことはあんまり気にしてないんですけどね。
 誤字報告ありがとうございました。でもここまで後ろに行ってると誤字修正でアップするのも気が引けてしまいますね(苦笑 お読み頂きありがとうございました。
2005-10-29 16:21:09【☆☆☆☆☆】恋羽
計:19点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。