『断ち切られる逃避』作者:恋羽 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2325文字
容量4650 bytes
原稿用紙約5.81枚








※作品の一部にグロテスクな表現を含みます。精神、肉体の如何に関わらず損害を被る可能性をお持ちの方は閲覧を中止して下さい※













 ――その部屋には、光が差さない。
 時計は男の苛立ちを助長するように、ほんの一寸たりとも動きを見せようとはしない。いや、黒い壁に取り付けられたその壁時計はもしかしたら確かに時を刻んでいるのかもしれない。ただ事実を受容する男の感覚が軋んでいるだけで。
 コンクリートで塞がれた扉の跡。窓の跡。外部と完全に遮断されたこの世界は余りにも黒い。安物の壁紙は安物のカラースプレーで安物の漆黒に塗り潰されている。黒い壁を照らすのは弱々しいブラックライト。星の輝きを忘れた宇宙が今この世界に広がっていた。
 その暗がりに、一組の男女がいる。一組、という表現は適当ではないかもしれない。が、その四畳程の空間には確かに一人の男と女がいた。
 二十四、五くらいに見える男は黒く塗られた壁に背を凭れ掛け、どことも知れぬ中空に視線を投げていた。瞳に輝きは無く、何一つとして意思が感じられない。痩せ細った右の手で見苦しく伸びた不潔な髪を、左手で地肌が見えぬ程に増殖した髭をそれぞれ乱暴に引き抜いていく。抜けども抜けども伸び続ける体毛が、時の失われたこの空間で唯一時の流れを感じさせていた。時折苛立ちに満ちた舌打ちをし、露になった頭皮を掻き毟る。その音が不愉快な静寂に包まれた世界に満ちた。時は男の髪を引き抜き、肌に蚯蚓腫れを残して去っていく。
 男より幾分若く見える女は、見る者に不快感を抱かせる疲れ果てたような表情をその恵まれない顔立ちに浮かばせながら男の反対側の壁に背を預けていた。施してからどれだけの時間が経ったのかさえ見当のつかない崩れきった化粧の跡は幾筋もの醜い線を描いている。過剰に分泌され続け、除去されることの無い皮脂は汚らしい光の乱反射を起こし、乱れ絡まった髪は怠惰に染まっていた。女は膝を立て、その内腿を直線的な炎を吐くガスライターで炙る。いや、彼女はその炎で絵を描いているのだ。青白い肌に引かれる赤く焼けた肉の曲線が形成され、糜爛し腐りかけた数々の火傷は女を通り過ぎた時間を刻み続けている。人の焼ける臭いが狭い空間に漂い、既に痛覚を失った女の静かなる慟哭が音の無い世界に響き渡っていた。
 美しく、時の過ぎぬ世界。ああ、もしもこの世界に二人の人間が存在しなかったなら、それは今よりも遥かに美しいのに。私は心からそう思った。




 私は脳裏の片隅に存在する空間から二人の人間を除去し、漆黒に満ちた心地良い世界を一旦閉じることにした。




 飛躍し逃避していた意識を現実世界に向ける。世界は退屈に満ちていた。歩みを忘れた時の流れは私の苛立ちを只管に助長し、既に常軌を逸してしまった私は黒い壁に背を凭れ掛けながら時の無情を憂えている。何一つとして進むことの無い停止世界で、私は進まない壁時計を眺めている。
 





 ……? 何かがおかしい。何かが。
 目の前に広がる黒い世界、ブラックライトに照らされる陰鬱な世界が、まるで逃避世界に満ちていたあの情景と重なって見えたのだ。あの美しい怠惰なる世界とこの退屈な世界が似通って見えてくるのだ。そう、それは丁度あの不愉快な二人の人間が、遅々として進まない時間に苛立ちを感じて無為な時間を過ごしている、あの研ぎ澄まされた宝石の様な世界にそっくりなのである。
 ……もしもこの世界があの世界と同じものなのならば。私はそう考えるだけで吐き気がした。余りの吐き気によって、私は髪を引き抜いていた右手を口に当てる。


 ――私はあの汚らしい男そのものではないか……!
 

 だとしたなら。私は中空に投げていた視線を、空間の反対側に向ける。
 そこに、一人の女がいた。
 彼女は自らの足をライターの炎で焼いている。人間としての尊厳はその姿には感じられず、ただ私の目に痛みだけを伝えていた。
 私は心から恐怖してしまう。


 ――私は、もしかしたら、誰かの脳裏にほんの一瞬だけ留まっている下らない逃避の切れ端なのか……?


 私が生きているのは、誰かがその現実逃避を終えるまでの時間なのか。誰かが自分自身の退屈な日常へと戻っていくまでの、その時間なのだろうか。私は、絶望に苛まれた。




 どのくらいの時間が流れただろう。私は終わらない絶望を断ち切り、不毛な思案に逃避するのでもなく、眼に力を込めた。
 視界の中心に女を捉え、僕は立ち上がる。
 もしも私が誰かの逃避の中に生きているのだとしたら、もしも私の存在がふとした瞬間に断ち切られるのなら。私を脳内に住まわせている人間もまた、誰かの現実逃避の中に生きているのだとしたら。
 私は、無為に続くこの連鎖を断ち切るべきなのだ。
 衰えた足の筋肉は体を運ぶには弱過ぎた。しかし、私は必死で足を前へと運ぶ。
 私の、ほんの数メートルの長旅は、足を焼く女が初めて私を発見したことでその半ばを過ぎる。だがそれが終わりではない。
 永久が幾ら長くとも、私の存在がどれだけ希薄なものであっても、私は確かに私としてここに存在し、私の思いの向くまま自らの口を開くのだ。ただ私自身の意思によって。
 さあ、言霊を宙に放とう。




「         」




 永遠は終わった気がした。




        <了>

2005-10-09 08:23:28公開 / 作者:恋羽
■この作品の著作権は恋羽さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ

『闇と神は同じ語源から生まれたものである』
 僕はあと数週間で二十歳になります。人よりも少しばかり入り組んだ事情を抱えた人間である僕にとって、その区切りは一つの重要な境界線になるでしょう。
 人は二十歳を過ぎるまでに幽霊を見なければ、それ以降の人生でそういったものを見ることが無いそうですね。そう聞く度、僕は少し寂しいような気がしてしまいます。いえ、幽霊を見られないことが残念なのではありません。
 冒頭の言葉、どこで聞いたかは忘れてしまいましたが、正に僕の今の気持ちにふさわしいと思います。数週間の後、僕は畏怖すべき闇と、縋るべき神と、巡り合うことが出来ないまま退屈な日常をはじめるのか、そんな感じです。二つのものを同時に失う、それがひどく寂しい。
 そんな気持ちのまま、十一月某日、僕は二十歳になります。



 なんて意味のわからないことはどうでもいいとして(笑 お久しぶりの方、お久しぶり。はじめましての方はじめまして。恋羽です。ひたすら暗いこの駄文に目を通していただき、誠にありがとうございます。
 いつもの僕ならば暗いまま終わらせるところなのですが、あえて少し明るい方向へ進んで終わらせることにしました。きっと明るい気持ちで書いたからだと思うのですが。本当ならもっと綺麗な短編を書ける精神状態だったのですが、こういうのもいいなぁと思いまして。

 「」の中を空白にしてみましたが、ここにはどうぞ貴方様のお好きな言葉をお入れください。そして、貴方のお力で闇の連鎖を断ち切ってください。……なんて意図です。

 それではお読みいただきありがとうございました。できましたらどんなに短くとも構いませんので、またどんなに乱暴でもどんなにやさしい言葉でも甘んじて受けさせて頂きますので、ご感想をお聞かせください。本当にありがとうございました。


 そういえばタカハシさんの居酒屋に入れなくなっていた。うーん、何があったんでしょ?
この作品に対する感想 - 昇順
『永遠は終わった気がした』……まぁ、まさにこの一文に集約される話ですよね。終わった気がしただけで、事実終わってない。こういった連鎖(私的には無為じゃないと思う)からは抜け出せないんですよねぇ。時の進みが全く感じられない場所でも、髭は伸び、化粧は崩れる。空虚な時間、無為な生の象徴である四畳程の空間は、決して時の流れを止める事は出来ないという警告の様にも感じられました。
多分、私だったら「」の中身は空白のままです。失敗は怖いものなんで……可能性だけ残して希望にすがっておく、臆病者の月海でした。
2005-10-09 15:31:05【☆☆☆☆☆】月海
 月海さん、お読み頂きありがとうございます。
 現実として、自分は誰かの中に生きている記憶や一瞬の閃きなのではないか、そんなことを思いながら書いたこの作品でしたが、例えお一人でも目を通して頂けて、本当に救われた気持ちです。誰しもに必ず存在する退屈や怠惰な瞬間、それは一時、永遠にも思えてしまいますね。だからこそ、無限ではない、読者様自身の御手で有限な時間を取り戻してほしかった、そんな小難しいような面倒くさいような、そんな感じの作品でした。警告、確かにそれもありますが、捻くれ者の僕に出来る精一杯の応援、そうも言えますね。「」の中を空白にする、それも素敵だと思います。失敗を恐れる気持ちは大切ですものね。本当にお読み頂いてありがとうございました、それでは。
2005-10-09 17:08:17【☆☆☆☆☆】恋羽
こんにちは、読ませていただきました。この雰囲気にあう文体。物凄くマッチしておりますね。なんかこう、完璧にお話の中に入り込めてしまうというのでしょうかね♪やはり、文章表現が上手い人はいいですね〜。羨ましい限りです。しかも、このような静かな雰囲気を出すことができるとは!?すいません、なんだか意味のわからないことを言っていますね。しかし、とにかく面白かったのは明らかです。それだけは言わせてください。次回も楽しみにしています。
2005-10-09 17:43:59【☆☆☆☆☆】上下 左右
 上下 左右さん。お読み頂きありがとうございます。
 題材と文体を意識して重ねた訳ではなかったのですが、自然にそれらの細かい要素が重なって見えてくれたなら本当に嬉しいです。面白いという言葉、僕は大好きですね。美しいよりも、綺麗よりも大好きです。そう言って頂けただけで天にも昇るような気持ちが致します。文章表現が上手いというのはみすぼらしいこの駄作には余りある言葉ですので受けられませんが、面白いは甘んじて受けさせて頂こうと思います。意味がわからないなんてとんでもない、ただ貴方に目を通して頂けたそれだけで嬉しく思います。本当に、お読み頂きありがとうございました。それでは。
2005-10-09 18:32:53【☆☆☆☆☆】恋羽
 これは私のために書かれたと思って読ませていただきました。
 書き物中、【私】と【僕】が混在していますが意図的なものだと理解しておきます。私(clown-crown)が僕であれば、言葉は用いずに無言でライターを奪い取るでしょう。いや、はたき落とす、か。
 闇の中でライターという小物をもってくることに疑問を感じました。これが闇を照らす希望を示すものであるのなら、読み手に求めるものが言葉であってはいけないと思うのです。ライターが希望の象徴であるなら、解答欄には物理的な明るさ以上の言葉をもってこなければいけなくなり解答の幅を縮めます。ライターが不気味さを演出するものだとしても同じです。道具を持っているということは背後に、部屋からの脱出を感じ取らせます。脱出をしても一向に構いませんが読み手に言葉の解答を求めるものであれば、やはり邪魔だと思います。
 構造は読み手の立場を揺さぶる私の好きなタイプな書き物です。しかしいかんせん短く、わかりづらい。配慮はなされていると感じ取れますが、まだまだ確固とした足場が築かれていないために、その足場が崩れてもそれほど読み手は被らない。もう少し文量を増やしたほうが倒錯感を味わわせることができたのではないでしょうか。
 これはココハさんの精神にダイレクトに繋がった書き物なので、私も書き手に対しダイレクトに語りましょう。
 闇。私にとってはそれだけで恐怖の対象となりうる。純粋な闇の恐怖を細やかに描き出してほしかったと思う。自己の存在を疑う装置としての闇は私も構想としてもっていますが、それは闇が無に近いことを書いたほうが装置の働きを期待できるのではないでしょうか。…………。はぁ〜、疲れた。これ以上は以降の執筆に関わるので感想書くの中止。
 点数は甘めにつけてみました。鋭き鋭きココハさんの自意識が自身に渦巻く自己愛をどうように感じているのでしょうか。それを欺瞞と見るのか、それとももっと別のものとして見るのか興味深いところです。そんな野次馬根性を込めて一点。
2005-10-09 22:30:00【★★★★☆】clown-crown
 clown-crownさん、お読み頂きありがとうございます。
 練りが甘い、それは確かにありますね。本来なら書くべき、より強調すべき怠惰さやしつこいぐらいの終わらない感覚、それを描くべきか迷って結局やめたんですけど、失敗でしたかねぇ。点数は本当に甘かったですね(苦笑 
 ライターが希望の象徴であるか、ですが、これは全く。ライターを小道具としてすら見てはいませんでした。というよりは、この部屋を暗く狭い密室として描いたのは「誰か」の脳内というイメージを強めるため、という感じです。「誰か」の内に生まれたジレンマや葛藤。それを触れ合わぬ二人の人間として描いてみたのです。ちなみに僕は「」内に「愛しています」と入れました。確かにこれは自己愛、いえ自己偏愛ともいえる感覚なのかもしれません。しかし表現というものは絶対的に他者に描くべきもの、とは思わない。自己を否定することに地盤を築いた表現が必ずしも美しかったり優しかったりするとは思えない。「私」は「私」を、「僕」は「僕」を、そして「貴方」は「貴方」をまず嫌うのではなく認めてみませんか、ということです。続くべきではない永遠を断ち切りませんか、的な。再びわけわかんないですね(苦笑 分量的な問題が最近随分気になってきています。なんだかんだでゆっくり小説を書ける環境にいないのでしっかりとした作品を書けない気がしています。十一月中旬にはきちっとした環境が整いますので、それからですね、本格的に書いたり賞に応募したりするのは。お読み頂きありがとうございました。それでは。
2005-10-10 20:51:19【☆☆☆☆☆】恋羽
『私が私であるために』若しかすると己と言う存在はほんの刹那的な時間の空想の産物であるやもしれないし、若しかすると己と言う存在は他者には全くの狂人に見えていて私のみが己をまともと認識しているのやもしれない、なんて思考の渦に偶にはまってしまう鬱病な私には少しきつい書き物で御座いました(笑 まあ、でも、人間はそういうものを背負って生きなければなりません。いま在る意識のみが存在を肯定し得るし、自然界(物質界)に於てその枠外の心と言うものはほんとうに曖昧模糊で御座います。信じてあげられるのは自分自身だけ、何とも悲しく、儚く、けれどそこから逃げては一歩も前へは進めず、私が私であるために、私は己を信じ何事からも守ってゆき、ただ突き進む。真実なんて見えない世の中で、自分くらいは信じてあげないと、何一つ勝ち取ることはできませんよねぇ。とまあ、思ってみたり。面白かったです。次回作御待ちしております。
2005-10-11 04:55:10【★★★★☆】京雅
 おおう、何気無く自分の作品を最後に見ておこうと思ったら一分も違わずに京雅さんの感想が。吃驚。お読み頂きありがとうございます。
 さて、本当に鬱な話題でした。「私」から見た「男」は自分自身でありました。「私」から見た「女」もまた、「誰か」の中に共存している自分自身でした。痛みを感じる度、悩みを抱える度、人は痛みに依存します。猿はストレスで指を噛み千切りますし、髪の毛を引き抜く男は実在します。人は弱い。弱いがゆえに傷つけ合う。今までには書いたことの無いメッセージを込めました。形而上学など全くと言っていいほど知りませんし形而下学もそれほど理解しているとは思いませんが、これだけは言えるというメッセージ、受け取っていただけたようで嬉しく思います。本当にありがとうございました。お返しが硬っ苦しくてすみません。
2005-10-11 05:06:27【☆☆☆☆☆】恋羽
おはよう御座います。今回、初めて感想を残させせて頂きます。わたくし、グロネタ好きですが、好みとしてはもっとストレートな物の方が―――。と言うか、このお話、わたくしは、グロイと感じなかった。私の感覚がおかしいのかも知れません。ただ、心の闇を見せ付ける内容はある意味グロイのかもしれません。自分の存在の不確かさを、もどかしく、どうにもならない小さく弱い己と言う存在に対する不安を、この男女の存在に置き換えて思考させられて、その作者様の思惑に暗闇を強く感じます。
以前の書き物、【濁流へ】【月夜の出来事】を読んだ時にも感じた、何か入り込めない隔たりのような物をわたくしは恋羽様の作品から感じてしまうのです。全作品を読んだ訳ではないので、今後成人された貴方様が発表されるであろう書き物で、貴方様を知りたいと思います。
責任と言う名の暗闇を十一月某日迎えられた後、何か光明を見出せれれば良いですね。   変な感想で申し訳御座いませんでした。
2005-10-11 05:31:40【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
はじめまして、だと思います(汗)時貞(ときさだ)と申します。作品を拝読させていただきました。冒頭の注意書きを読んでもっとサイコ色の強い作品を想像してしまったのですが、人間の内面世界に深く入り込んだ、暗部を炙り出すようなとても深みのある作品だったのですね。まるで石田黙の絵画を観ているような錯覚を覚えました(意味不明で申しわけございません(汗))。読み終わった今、とても独特な余韻に浸っております。自分が保っていると信じ込んでいる均衡が、実はどれだけ危うい綱渡りなのであるか、と。この短さの中でここまで読み手にうったえる文章力に、恋羽様の才を感じました。あまりご参考にならない感想で申しわけございません(汗)それでは、失礼致します。
2005-10-11 10:56:31【★★★★☆】時貞
 こんばんは。恋羽です。
 ミノタウロスさん。お読み頂きありがとうございます。ええ、ミノタウロスさんの作品に対する感想に書かせて頂いたように、読み物としてはストレートなものが好きです、僕も。ただ、書くとなると果てしなく精神的につらくなるんです。弱いものですから。恋羽という作者の心は混沌とした闇に染まっています。それは紛れも無い事実で、それが故に読んで頂くことを拒んでしまっているのかもしれません。成人を迎えるまでにはまだ随分と時間がありますが、といってもすぐに過ぎ去ってしまう時間でしょうが、それまでに出来る限り成長し、胸を張って作品を書けるようになりたいと思います。本当にありがとうございました。
 時貞さん。初めまして、で多分大丈夫でしょう、お読み頂きありがとうございます。異常心理を表出するのは苦手で、暗示のような形でしかそれを描けない自分の執筆能力の低さを痛感させられました。石田黙さんという方の絵画を見たことは無いのですが、参考にさせて頂きます。破れた鏡で自らを見る猿は、その鏡が破れているということには気付けないのでしょう。鏡に映る姿が自分と信じることすら彼等には難解なことなのでしょうから。などと、意味わからないですね。短いが為に練りこみが甘かったかと感じてもいましたが、そう言って頂けると、と言っても素直に受け取ってしまうには勿体無いお言葉ですが、謹んでお受けさせて頂きたいと思います。ありがとうございました。
2005-10-12 18:32:40【☆☆☆☆☆】恋羽
 申し訳ないが、作者のコメントのほうが実に魅力的で目を引いてしまうのだなあ。これは小説書きとしては悲痛なことだと思うからこう書くアタシ自身も痛いのだが(汗) 何ていうんだろうね、この作品の文体と恋羽さんの心象における言語とね、まだちょっと乖離のある段階なんだと思うんだよ。だからこういう文体を用いるな、っていうことじゃない。どういう文体であろうとも自分の心の中に浮かび上がりあぶりだされる言葉と実際の文体との間の乖離を埋めるには、ただひたすらに誠実に書き続けていくしかないのだ。だからアタシとしてはひたすらに誠実に書き続けてくれいと言いたいのだね。意匠も構成も体裁も、小説はたくさんのものが必要だけれども、いま真心がないということではなく、より、より、よりもっと書き手としての真実を凝縮させて言葉に載せていくこと、この作品の作品世界における思惟をこの作品の文体において成すこと、単なる形式としての難文体ではなく、それを真実己がものにすること。志を高く持ってご尽力されんことを。
 さて、違うということを最後に言いたい(笑) 僕は幽霊も神様も二十歳を過ぎてから見たし感じたし信じた(笑) 今ね、マジで聖書読みたいもんね。二十歳前なんて僕はコナマイキなクソガキで訳知り顔の小才子だったよ。そういう実のない人間でも、心の持ちようで自分も自分が見つめる世界もドラスティックに変わることもあるものさ。
2005-10-13 19:50:03【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
 あ、オレ肝心なこと書いてなかったよ(汗) 酒場はね、改装しようと思って取り掛かって力尽きたの(汗) 問題といえば相変わらずおねえちゃんに相手にされないっていうくらいで、問題にされていないのが問題だっていう。ともあれ元に戻しました。どうぞまたものとおりのご愛顧を。
2005-10-14 00:16:56【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
 お読み頂きありがとうございます。
 タカハシさーん、と抱きつく振りをしながらフライングクロスチョップを見舞う恋羽です(笑 一体何があったのかと吃驚しましたよ。お元気そうでよかったです。
 さて、感想のことなんですがね。最初に書いてあるそれ、正しくその通りだと思いますよ。ただ作品において僕が背伸びをしていたのかというと、それはまあ難しい。文体として難しいとは自分では思っていないし、もちろん書き始める時に「小難しくしてやろう」なんて企図していたなんてこともありません。乖離があるのは、作品の中に描いている「私」という人格、「男」「女」という人格が、僕自身とはかなり距離のあるものだからなんだと思います。少なくとも自分自身の精神を描いたつもりは無いのです。後書きの書き方は心底自分自身を書いたので、ある意味では邪魔だったのかもしれないですね。浮かび上がった、というよりは眺めていたものを描いた、そういう感じなんです。
 うーん、宗教的なことについては無知なのもあり、また聖書って雰囲気的に嫌いなのもあり(新約聖書のいいようにまとめた感じ、とか)。僕もこなまいきな部分があるかもしれないですが、非常に残念なことに皆さんの様に健康的な人生を歩んできていませんから、その意味では精神が練磨され研磨されてきているということなんだろうと思います。社会人歴長いですからねぇ、かなり(笑 
 あ、あの居酒屋復活ですか(笑 このまま滅びてしまったら十一月末ぐらいに自分で部屋を作ろうかと思ってたくらいでしたよ(笑 今度また顔を出しますねぇ(笑 ありがとうございました。
2005-10-14 20:32:19【☆☆☆☆☆】恋羽
 うん、この作品、この文体ね、背伸びじゃないと思う。そういう水準はとうに突破していると思うのね。それに等身大の「わかりやすい」文体であっても、やっぱり熟練しなければ乖離は出てくるしね。だから、もし仮にこれが背伸びであったとしても、とことんやってもらいたいんだよね。伸び盛りですから。技量も感性もね。
 ところでね、知性や感性が研磨されるというのは、絶対的なこと、神秘的なものを排除し、そういうものを信奉し得ない或る「リアル」に突き進んでいくという方向性ばかりじゃないと思うのだよ。今見えている或いは幾何学的な光景に見えるかもしれないもの、僕らはそれをこれから長い時間をかけてより精密に見ていくとは限らないんだ。そして精密に見ていくこと、事実を積み重ねていくことが、ひとつの方法、ひとつの方向性であっても、決して絶対ではない。それは神様を信じないといって別の神を信奉することでもある。無論僕とあなたとはまったく違う人間であるわけだから、あなたが見ているものと僕の見ているものとは合致はしない。だけれどもその自分自身という意識が自分に対してひとつの限界を築き上げもするものだね。
 自分自身を抜け出すこと。自分自身を捨てることはできないが、自分自身の皮膜の一枚をめくり上げてその外に出ることくらいは、そこにまた新たな皮膜が覆っていたとしても、できるのではないかと思うのだ。僕にとってはその一枚か二枚くらいめくったその向こうに、多分神様のあいまいなる姿なり霊魂なりが、神であるとか霊魂だとかという言葉からやや自由になって漂っているのだと思う。それを否定するということはとらわれるということでもある。自分自身に対する信奉は、自分に対する限界、というより鋳型の限界性を示すということでもある。人というものの感性でありその内的な世界とはそんなにちっぽけなものではないよ。自分でも底知れぬ奥の奥に、恐ろしいほど豊穣な、暖かな闇が横たわっているのだと思う。それは決して暗黒であるとか邪悪であるとかということではない。ただ光を当てられず眠っているというだけのことだ。多分書くということは、その領域につながっている道程のひとつなのだと僕は信じている。そこに行くとき、自ずから文に乖離無く、また闇に向かって光を照射し、散文的な、幾何学的なというひとつの神話を脱して、新たな豊穣なる神話を手にすることができるんじゃないかな。そしてそれは才能ある特定の人間にだけ備わったものではない。誰にでもそれがある。それぞれの世界がね。そして本物の表現者は、どのような俗塵の中にあってもそこへ飛翔しうると思う。自分、自分の生い立ち、自分の環境、自分のこだわり、あらゆる自分という意識を超越してそこにいたることができると思う。その翼が、画家にとっては描くことだろうし、物書きにとっては書くということなのだと思うのだよ。
 ともあれ、くたばるまで自分自身を規定してはいかん。自分の中のさまざまにある鉱脈を虚心に求め続けることと、他人の中にある自分とは別種のそれを虚心に敬し続けることだよ。
2005-10-14 21:02:34【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
 うーん、マジに語れるほど頭が覚めてないので何を言っていいやら訳わからないんですが(何故ならついさっきまで仕事をしてたから(朝六時からって、変態的ですよね(笑 
 言葉というもの、映像という固有の、それ以上の何物でもない「物」ではない、曖昧で代替的な非現実的、多元的「しるし」。これを用いる時、僕はほとんど無心になります。自分の内から自然に流れ出てくるもの、それを物質的な何かに変質させる、そういった意味ではかなり正直に自分の思いに従っている為、文体云々というものが最近どうでもよくなってきた、というのが実際です。というか、今自分で読み返してもこの文章が「難しい」というほど難読であるとは思えない。それが何か、すごく悲しくも思えていますね。
 作品を描く時、僕は何かを演じていることが多いです。言葉という媒体に乗っかるために、自分自身をまず変化させる、つまり語り手になるなり主人公に同化するなり。その時、僕自身が僕自身であるかどうかははっきり言ってどうでもよくなる。いうなれば、それは紛うこと無き現実逃避なのでしょう。そして、リアルであるかなどということは心の底からどうでもよくなる。写実的に世界を描くことに使命感を感じているなんてことは無いし、上の発言で精神が練磨されている、と言ったのは全く別の話。つまり、現実問題と直面することが同じ年齢の人間よりも多かったというだけのこと。これは真実ですよ。
 うーん、否定的に思えますかね? ええと、神様なり仏様なり、そういったものに全く興味が無いわけではありません。そして「俺は無神論者だ、ええお前ら神様がいると思ってんの? 馬鹿じゃねぇ?」と言っている訳でもない。ただ、無知であるだけ。僕には宗教はファンタジーにしか思えない、ただそれだけのことであって、敬虔な何らかの宗教の信者の方を中傷する気も卑下する気も無いですよ。聖書を否定したのが悪かったです? ただ単純に読み物として嫌いなだけですよ。タカハシさんが文章がうまいという江國香織氏、彼女の文章も読めない。駄目。全然駄目なのです。何が駄目なのか? それは執筆者が駄目なのではなく、僕自身が駄目なのです。嫌いというのはそういうことだと思います。
 もし神がいるならば、それは月並みだけど己の内にいるのだと思います。闇という言葉には、そういった凄くいとおしいきれいな響きがあると思う。「光と闇」という対比によって表現される為に、似たような関係性である「善と悪」の比喩に使われてしまうことがとても悲しい。闇、暗黒、邪悪、……やっぱりヤミという響きは綺麗だと思います。後書きに畏怖という言葉を使いました。これは、ええと、どこかで見かけた「畏怖すべき全知全能の神の名において」という言葉から取ってます。要するに、どちらかといえば畏敬というのに近しい。タカハシさんがまじめに作品を書く道程、それは多分僕のある時の執筆の方向性に近いのかもしれない。それは感じますよ。ただその内にある、言葉に出すことも憚られる様な気恥ずかしい情熱的な言葉を普段から吐けるほど、僕は純粋ではない。それがまあ事実。自己を卑下する気はないし、他を卑下する気なんて全く無い。むしろ自分が劣った人間であり、すぐにでも首を括って死ぬべき人間であることも重々理解しているし、実際その通りであると思う。そこには何の慰めも挟まれるべきではない。しかし実はその苦しさこそが暗く只管に長い回廊の途中に立ち尽くす僕が前へ進む為の灯火である、そう思ってます。それゆえに見えるものがあり、それゆえに聞こえてくるものがある。だから今それを精一杯書こうと思っているし、それが書けないのなら、何一つ生むことの出来ない肉塊の僕は滅びるべきであると思う。以前に言った、表現することが人生そのものというのはそういう意味であって、必ずしも商業小説家になりたい、とかそういうことではないんですよ。
 ええと、とりあえずなんだかめちゃめちゃ長くなってすみません。疲れてるのもあり、また、はっきりと自分の考えていることを書くべきかと思ったのもあり。まあ、そういう感じです。自分を規定してしまう気はありませんよ? だから言ってるじゃないですかぁ、文体に拘らなくなったし、もともと確固とした作風なんて持ってないんですからぁ。
2005-10-15 16:10:42【☆☆☆☆☆】恋羽
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。