『今日も伊藤さんは不敵に笑う』作者:新先何 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
二十歳の高三伊藤さんは今日も不敵に笑う。彼には悩みもないし常識もない伊藤さん。町であったら伊藤さんて呼んであげてください。
全角1086.5文字
容量2173 bytes
原稿用紙約2.72枚
 僕の通っている高校には二十歳の高三がいる。二年だぶっている男なのだが、彼はこの学校では伝説と呼ばれている。
 この学校で最初に大食いでチャレンジしたのも彼だし、この学校の窓ガラスを一夜で全部障子に変えたのも彼だ。校庭の隅にある飼育小屋を彼のプライベートルームにした事もあるし、学年主任の小澤のカツラを全校朝礼の時に引っぺがした事もある。
 なぜそんな事をするのかを聞いても「おもしろいから」としか答えない人。
 まあ馬鹿なのだが、そんな彼を僕たち生徒と教師は尊敬とあきらめの意味を込めて伊藤さんと呼んでいる。

 今日も伊藤さんは不敵に笑う。

 偏差値三十という落ちこぼれ高校に通う僕は今日も伊藤さんを見ていた。
 高三になって進路などを考えなければいけない時期なのだが、落ちこぼれの僕たちはそんな事はどうでもいいのだ。ただ毎日が楽しければいいのだ。これは伊藤さんの受け売り。
 だから僕たちにとって伊藤さんは大切な存在だった。
 運がよく、僕は伊藤さんと同じ教室になれた。だから為にならない授業より、今どっかから持ってきたペットボトルでロケットを作ろうとしている伊藤さんを見ていた方がお得なのだと思う。
 ロケットの制作段階は発射準備にかかっていた。床に設置したロケットを見ると伊藤さんは満足げな顔をしてから、鞄の中に入っていた空気ポンプを取り出した。ロケットの軌道上であろう場所にいた生徒達は一斉に机ごと端による。教師も教室の隅に移動しどっかの誰かが書いた随筆を投げやりに読み始めた。
 伊藤さんは大きな声でカウントダウンを始める。それに合わせて僕たちも声を揃えた。
 5・4・3・2・・・
 ロケットは1のコールを待たずに勢いよく飛び上がった。伊藤さんと僕たちの1コールは歓声と雄叫びに変わった。
 ロケットは軌道を大きくそれ障子を突き破り青い空に吸い込まれていった。教室には拍手と教師の怒鳴り声が鳴り響いた。
 その後僕たちは伊藤さんに賞賛の声をかけたが、伊藤さんは軌道がそれた事を不満に思ったのか二号機の制作にかかり始めていた。
 びしょぬれになった教室では小一時間騒ぎがやむ事はなかった。

 それから、今日伊藤さんはショックな事があったらしい。
 空に打ち上げられたペットボトルロケットは伊藤さんのプライベートルームに落ち、伊藤さんのDVDデッキが壊れたそうだ。
 それにより二号機は作るのを断念したらしいが、今度は安全な気球を作るそうだ。

 青い空と青春が似合う伊藤さん。
 今日も伊藤さんは不敵に笑う。
2005-09-23 18:42:57公開 / 作者:新先何
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■作者からのメッセージ
学校でタイトルが浮かんでそのまま一気に書いた作品なのでパンチが弱いです。自分の中で格好いい人を書きたいと前から思っていたので頑張ったのですが、やや不満足の格好良さです。出来れば伊坂幸太郎の「チルドレン」に出てくる陣内や「アヒルと鴨のコインロッカー」に出てくる河崎やドルジが目標です。
でも結構このタイトルと伊藤さんが気に入ってます。
あっこの話に出てくる伊藤さんと今これを読んでる伊藤さんや皆様の近くにいる伊藤さんとは何の関係もありません。当たり前ですが。気分を害された方が居ましたらここで謝ります。どうもすいませんでした。
以上、新先でした。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、ミノタウロスと申します。いいですね。伊藤さん。高校って所は、学校によってはとても自由でそれでいて、少し義務教育っぽさが残っている分、こう言う人がいる学校は楽しいでしょう。私の通っていた高校は自由がモットーの素晴らしい教師達が揃っておりましたゆえ、伊藤さんがいても可笑しくなかったなあ…なんて思いながら読みました。頭悪いようで、実は奥が深い、天才は凡才に理解されませんし―――偏差値だけでは頭の良し悪しの判断出来ませんからね。この不適に笑う伊藤さんが何かをやろうとしてる奥の深い人だったたら、……と想像を逞しくして、楽しく読ませて頂きました。
では、また別のお話で。(この話膨らませても面白いかな、なんて余計なお世話ですね)
2005-09-23 19:28:39【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
はじめまして、走る耳です。以後よろしく。
伊藤さんのような人は好きです。たしかに何も気にせず、楽しいからやる、という行動概念を持つ人は沢山の人に魅かれるでしょう。ただ、主軸に置いた話を授業中にペットボトルロケットを飛ばす、といった小さなことにせずもっと大々的なことをしてもらいたかった感があります。
次回策もがんばってください。
2005-09-23 20:04:41【☆☆☆☆☆】走る耳
はじめまして!!聖と申します!!こんな人がうちの学校にもいたらなぁ、と言う考えが読後出来てしまいました。伊藤さん。次はどんなことをやらかしてくれるのかなぁ、とか、そんなことを楽しみにする毎日なら、学校も楽しくなるだろうに…。
次回作も頑張ってください!!
2005-09-23 20:57:15【☆☆☆☆☆】聖藤斗
拝読しました。短過ぎて、書き手の意図(真意)に達しなかったのが少し悔しいです。伊藤さんを書くことによって真実どの言葉を際立たせたかったのか、前半そういうメッセージ性の端を提示されているだけに、着地が簡素になっているのが気になります。それとも、そういうことではなく、イベントの一寸した奇異性を見せたかったのでしょうか、判然としませんでした。次回作御待ちしております。
2005-09-24 07:55:08【☆☆☆☆☆】京雅
 はじめまして。拝読しました。
 面白いと思います。伊藤さん、いいじゃないですか。こういう人なら、何年かけて卒業したって、その後の人生を大らかに生き抜いていけそうじゃないですか。これは短いものですので、小説というよりスケッチという感じですが、このキャラなら、長いものに膨らませてストーリー性を持たせても、ちゃんと動いてくれそうな気がします。
2005-09-24 11:13:27【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
拝見させていただきました。伊藤さん!いったい貴方はなんてことをしているんですか。というか、一夜で窓を全て障子にしてしまうとは。いやはや、取り替えた窓はどこに……。そして、何故学校はそれをそのまま障子にしているのか。台風がきたらおわっちゃいますよ。教室……。自分の高校にもこのようなユーモアのある人がいればもう少し楽しかったんですけどね。またこの掲示板に強烈なキャラクターが一人……。それでは、次回も楽しみにしています
2005-09-24 14:15:41【☆☆☆☆☆】上下 左右
作品を読ませていただきました。伊藤さんの破天荒ぶりは楽しかったです。しかし、伊藤さんが起こした事象を見ているだけで、作品の意図というものを掴みきれませんでした。この作品は単発で終わらないで、伊藤さんの奇行を通じて主人公の立ち位置を明示していく方が良いのではないかと思っています。キャラクターとしての伊藤さんは本当に良い味を出していました。では、次回作品を期待しています。
2005-09-24 21:05:58【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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