『読書の裏切り』作者:勿桍筑ィ / z[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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    読書の裏切り

  


 俺は漫画とか、アニメとかが嫌いだ。ましてや、オタクなんかを見るとイライラしてくる。何でそんなに、漫画が面白いんだ。アニメのどこが良い。そんなの見ても何の利益もない。無駄な時間を過ごすだけだ。それに周りからも気持ち悪いと思われるだけじゃないか。
 街で、漫画や本を読んでいる人を見かけると馬鹿らしく思えてくる。みんな気持ち悪い。そんなに真面目になっちゃて。変人ばっかり。

 
 俺は、小学校の辺り頃から漫画には興味は無くなっており、いつも漫画ではなく小説の方が興味があり、いつも読んでいた。休み時間になったらすぐに本を読む。漫画を読む奴よりかっこいいと思ってさえいた。
 そんな時、友人からこんな事を言われた。
「お前、いつも本読んでて暗いし、気持ち悪いよ。そんなに面白いかよ」
 この言葉を掛けられて、俺は小説を読む事も止めた。ただ、気持ち悪いとは思われたくなかっただけで。
 だから、小説を読むことでも、気持ち悪いと思われるのだから、漫画なんてまさにだ。
 だから、家には本棚がない。本など無い。俺は読み物は何でも気持ち悪いと思われると感じている。
 だから、新聞もない。だから、今までの教科書も買ったその日のうちに全部捨てた。もちろん漫画なんて無い。


 ある日、家に俺の唯一の同い年の大学に通っている友達が来た。そいつは、俺の漫画嫌いを知っていた。俺に、「小説を読むことは気持ち悪い」と言ったのも此奴だ。
「なんだよ。急に呼び出したりして」
 そうだった。来たのではなく来てくれたのだ。
「いや。急に人と喋りたくなって」
「そう、か……」
 友人も俺と同様、本を読むのが嫌いである。だから、俺は此奴と友人になった。だが、今日は此奴と会うのは小学校以来だった。
「久しぶりだけど、お前の家って本棚ないんだな」
 友人は、首をくるくる回しながら何故か不思議そうに言っていた。
「そうか……。昔はお前の家もそうだったじゃないか」
 そう言って。少し間があった。
 そして、友人が何か楽しそうに話をし出した。
「なあ! それより、お前昔小説読むの好きだったよな」
「昔はな。でもお前の言葉で嫌いになったよ」
 すると、友人は顔色を変えて言った。
「お前少し‘本読んだ方が良い’ぞ! 本じゃなくてもいい。新聞でも何かの資料でも良い。何でも良いから読んで、情報を集めなきゃ生きていけないぜ」
「お前が言ったんじゃないか。本を読む事は気持ち悪いって」
「確かにあのころはそう思った。でも高校生になって変わったんだよ。本を読むこと、新聞なんかを読むことは今後の人生のために良いって。お前もこれからでも遅くはないよ。な! 何か読むようにしろって」
 俺は裏切られた。小学校の頃からずっと騙され続けていたのだ。此奴の言葉に。許せない。
「俺の人生を返せ!」
「は!? 何、言ってんだよ?」
 と、此奴の手に本が握られていたことに気づいた。
「それは何だよ!」
 俺は、それに指をさしていた。
「あっああ。これは、お前に読ませようと思ってな」
「……お前って奴は……」
 俺の目からは涙が出ていた。俺は俯いたまま床に両手をつきながら続けた。
「本当に、良い奴だな」
「あ、ああ。今からでも遅くはないよ。一緒にこれから一杯本を読もうぜ」
 友人は俺の手を持った。俺は顔を上げて、相手に対して笑っていた。
「……ありがとう。ははは、お茶でも飲んでいけよ」
「ああ」
 俺は台所に行き、棚からカップを二つ出し、お茶を沸かした。
 向こうでは、友人が楽しそうに、持ってきた本と漫画がどれくらい面白いか喋りまくっていた。
「そんなに面白い物なのか。早く読んで君に感想を送るよ。後で、メルアド教えてくれ」
「そうだな。ははは! 良かったよ、お前に笑顔が戻って」
 俺は台所から、おぼんに載せたカップを二つ持って友人に渡した。
「さあ、単なるお茶だけど、飲んでくれよ」
「ありがとう」
 友人は、あぐらを掻いて、そのお茶をがぶ飲みした。
「はあ! 喉乾いてたんだよ」
 友人は笑っている。俺も笑っている。俺は楽しかった。
 俺の人生を狂わした男が、俺の作ったお茶を飲んだのだ。俺は楽しかった。愉快だ。
 きた。
「う……何か気持ち悪くなってきた」
 友人の顔色が変わった。
 ははは! 俺は心の中で笑っている。爆笑ものだ。ははは!
 友人は何かを言いながら涙を流し始めた。ははは! 楽しい! 惨めだな。
 さてと、ゆっくりと友人を観察するか。初めての漫画でも読みながら。
 友人の飲んだお茶には、たっぷり漂白剤を入れておいた。
 嬉しい。





2005-09-19 16:08:31公開 / 作者:勿桍筑ィ
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■作者からのメッセージ
どうも、皆様勿桍筑ィです。
この作品は、とても短いです。一応ホラーとして書きましたが。決してお化けが出るとかという物ではありません。
実際に有りそうで無いような……。
友人の言葉にも力を入れましたので。


久しぶりなので、文章が前より更に稚文な物になってしまいました。それでも読んでいただければ幸いです。
読んでいただけたならば、感想を御願いいたします。±点だけとかを入れるのはご遠慮下さい。
では失礼いたします。
この作品に対する感想 - 昇順
読みやすかったです。最後の嬉しい。が怖いですね。
私は漫画読んでいる人が気持ち悪いとは全く思わない(内容によりますが)ので、主人公には全く感情移入できませんでした。主人公の思考が気持ち悪いよ。という言葉を残して失礼します。友人良い奴だなぁ。
2005-09-19 22:38:24【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
早速こんな稚出な作品読んでいただきありがとうございます。
この作品は、もしかすると『読書の裏切り』ではなく、『読者を裏切る』作品かもしれません。
そして、「感情移入できなかった」っといえいえ感情移入しない方がよろしいかと…。普通は感情移入させないといけないかもしれません。けど、この作品は……。
どうもです。失礼します。
2005-09-19 23:30:21【☆☆☆☆☆】勿桍筑ィ
こんばんわ〜。読ませていただきました。いや〜、怖い作品でございますね。漫画を読む人が気持ち悪いと思うことはありませんが、本やらをみて人前で笑っている人を見るとちょこっとひいてしまいます。でも、それ自体は特に思いませんね。しかし、主人公恐るべし、よくもまあ漂白剤を入れようと思いましたね(そっちか!)自分は恐ろしくてできませんよ……。最後のうれしいって……。それでは、次回も楽しみにしています。
2005-09-19 23:38:24【☆☆☆☆☆】上下 左右
お久しぶりです。作品を読ませていただきました。面白い発想と、ラストの『嬉しい』の怖さが良いですね。ただ、主人公に対して感情移入できる作品ではありませんでした。どうせなら、主人公の『読む』と言う行為への嫌悪感をもっと強調した方が不気味さが増して良かったかもしれませんね。友人に裏切られたと感じた時の心情、表面上の和解をもう少し丁寧に書いて欲しかったです。その方がラストの『嬉しい』が生きてきたと思います。長々と戯れ言失礼しました。では、次回作品を期待しています。
2005-09-20 07:49:51【☆☆☆☆☆】甘木
拝読しました。他者に言われるまま自己のあり方を変えた思考の流れが曖昧に感じられ(本を好きな時に本を嫌いな人と友達になったと言う件・小学生以来深い交流も無い)、主人公の心情に同調出来得ないと思います。感情移入させるなら理由付のイベントを精密に書かないといけません。若しくは書き手にその意図が無いケース、物語の調子が淡淡としておりますから、随所の表現にオーバーさも要るかな。軽く読む分には面白かったです。次回作御待ちしております。
2005-09-20 08:35:51【☆☆☆☆☆】京雅
皆様ありがとうございます。
大変稚出な作品なのに、こんな感想をくれて感謝いたします。
では、
上下 左右さん>
おそらくこの人は、どうやって楽しもうか考えているときに、丁度そこに漂白剤があったのだと思います。>自分は恐ろしくてできませんよ……。
ははは。できないではなく、しないで下さい。
次回もよろしく願います。

甘木さん>
お久しぶりです。いつも読んでいただきありがとうございます。今回ショートショートで頑張ってみたんですけど、そうですか。主人公の行為への嫌悪感をもっと強調した方がよい、と。分かりやすく、批評を書いていただき助かります。今度こう言うのを書くときは、ここも気を付けます。
次回もどうかよろしく願います。

京雅さん>
甘木さん同様、いつも読んでいただきありがとうございます。そして、いつも厳しい評価感謝いたします。 もう少し、この人と友人の関係も書くべきだったなと思いました。>軽く読む分には面白かったです。 それだけでも助かります。しかし、本当に面白いと思わせるほどの物を書いてみたです。(希望かい!)
次回もよろしく願います。
 
自分でもこの文を読み直してみて、有ったら怖いと感じたので、読者に感情移入して欲しくはなかったのですが、やはり(どんなに短くとも)小説としては読者に感情移入させないと駄目かもしれないです。次回作また、現在連載中の物でそれができるよう頑張りたいです。
それでは長くなりましたが、失礼いたします。
2005-09-23 17:04:52【☆☆☆☆☆】勿桍筑ィ
こんにちは♪
ラストの「うれしい」が怖かっったです!漂白剤入れるなんて私にはできません。でも発想が面白いです。
では、失礼します。
2005-11-05 15:05:32【☆☆☆☆☆】おひめ
拙稿に感想をありがとうございました。

この友人のような身勝手な理屈をこねる人は周りにもいますね。
高校時代は写真部キモイとか言いながら、大学生になったらちょっとアートに触れてみようなどと写真部に入ったりする人とか。

何が「何でも良いから読んで、情報を集めなきゃ生きていけない」「今後の人生のために良い」でしょうか。私もこう言われたら腹が立つと思います。

ここまではさすがにやりませんが、そういう軽薄な人間にお仕置きをしてやりたい、とは私も思わないでもありません。

主人公の怨恨の深さに共感できました。

誤読でしたらごめんなさい。
2012-02-25 16:13:46【★★★★☆】天野をぶね
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。