『大好き』作者:大屋なつの / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
ずっと言いたかったけどいえなかった言葉。それが永遠にいえなくなるなんて思ってもみなかった。この世の理からから離れてしまった今、私はどうすればいいのだろうか。
全角2624文字
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原稿用紙約6.56枚
ずっと言えなかった言葉がある。
言いたくないわけじゃない。どちらかといえば素直に言いたい言葉。
背の高い君はいつも私を見下ろして嬉しそうに笑うから。
つい、言わなくても伝わっていると思っていたんだ。
だから、私は…。


「大好き」


けたたましい目覚まし時計のベルの音と朝の眩く清い光。いつもの部屋でいつもの時間に目を覚ます。
仕事も今日は休み。それでも体はいつもの癖で早い時間にシャッキリと目覚める。
大きく伸びをして、カレンダーを見る。
今日の日付に大きな赤い丸。それは特別な日を知らせる印。
「よしっ!!」
掛け声とともにベッドから起き上がる。
にこにこと微笑みながらステンレスのジョウロでそばにあるベンジャミンに水をやった。
いそいそと朝食を食べ、お気に入りの服に袖を通す。
部屋を鼻歌を歌いながら掃除して、お昼前には部屋を出た。
今日は、君と私が出会った日。
そう、日常の行動は変わらずとも今日はいつもと違う。
集合場所は、いつもの喫茶店。そういえば二人ともここの常連で、それで親しくなった。
慣れないヒールを履いているのを無視して走る。
交差点に差し掛かる。ここまでくればもうすぐだ。
ふと、横断歩道の向こう側を見ると誰かが手を振るのが見える。
「沙紀ー!!」
だなんて大きな声を出して叫ぶ人影が君だと分かって、私も大きく手を振り替えした。
眩しそうに微笑む君に早く近づきたくて信号待ちの時間が何十分にも感じる。
いい加減にかわればいいのにな。
信号が赤から緑に変わる。私は思い切り走る。
我ながら子供みたいだ。
きっと向こうに渡ったら君は笑うだろうな。ガキだななんて言いながら…。
そのとき足がグキッとなった。次の瞬間には派手にアスファルトに叩きつけられる。
足を見るとヒールの止め具が壊れていた。
君の目は大きく見開かれていた。口は何かを言おうとパクパクしている。
どうやら、このお転婆に驚いているようだ。私は舌をちょっぴり出てピースサインをする。
大丈夫だよ。
そう叫ぼうと思って口を開いた。でも、君の悲鳴が聞こえてつぐんでしまった。
「沙紀ッ、危ない!!!!!」
え、何が?そう言おうと思ったとき空気を切り裂くようなブレーキ音がすぐ側で聞こえた。
音に視線を向ける。大きなトラック。
それが、目の前に迫っていた。
「沙紀ぃぃぃぃぃッ!!!!!」
何も考えられないまま、痛みも感じないまま。
私の意識は途切れた。

どれくらい時間が経っただろう。
私は暗いところにただ突っ立っていた。
私は、死んだのだ。
なんとなく、それは理解できた。
でも、私には意識があった。死んだのに、どうしてだ?
「死」というのは自分自身が消滅してしまうことじゃないのだろうか?
ふいに君の事を思い出した。胸がずきんと痛む。
そして、唐突に思った。
君に会いたい。声を聞きたい。
ここにとどまっているのは未練があるからかもしれない。
突然、眩しく辺りが光って眼を細めた。そこは君の部屋だった。
君はテーブルに倒れていた。頬に涙の筋を何本も残して眠っている。
手には私の写真なんかを持って…。
いまさら、死んだという実感がわいた。
来なければ良かった。
余計辛くなったと俯くと、君は小さい声で寝言を呟く。
「沙紀…」
聞こえていないのは分かっているが、つい相槌を入れてしまう。
「何?」
「気長に、待つから…。絶対、言わせてみせる・・から」
途切れ途切れのその言葉は私の記憶をよみがえらせた。

いつもの喫茶店でコーヒーを飲んでいたときだ。
「沙紀は言わないよね」
「何を?」
「大好きだって」
「!」
唐突な言葉に私はコーヒーを肺に入れそうになった。
むせて咳をする。
「どうして? 僕のこと、嫌い?」
私は慌てた。
「ちがう! 違うの。ただ…」
「ただ?」
「…恥ずかしいのよ」
そう顔を真っ赤にして答えると、君はあきれた声を上げた。
「はぁ?」
「わ、悪い?」
「いや純情だなって…」
君はくすりと笑った。
「ごめん」
「イイよ、気長に待つから。沙紀がいつか大好きって言ってくれるのを。絶対、大好きだって言わせてみせる」
君は笑いながらつぶやいた。

私の頬を大粒の涙がぼろぼろと流れ落ちる、嗚咽もこぼれた。
なんで、言えなかったんだろう。
恥ずかしいからといって何も言わずに…。
彼は待っているのだ。
私がいなくなっても、私が「大好き」と言ってくれるのを。
でも、いまさら嘆いても無駄なのだ。
触れないとは分かっていても私は君の頭に手を伸ばす。
子供をあやすかのように撫でた。
「ごめんね…」
聞こえないと分かっていても呟く。
私はあの暗闇の中へ戻ろうと思った。
あそこで悲しみに耐えながらとどまっていれば、君への報いになると考えたから。
背を向ける。すると君は目を覚まし、上半身を起こす。
私は再度、呟いた。
「ゴメンね…。さよなら」
「沙紀…?」
君の言葉に驚いて、私は驚いて振り返る。君はあたりを見渡しながら叫ぶ。
「沙紀、沙紀なんだろう?どこにいるんだ!!!」
声も聞こえないはずなのに、姿も見えないはずなのに、君は私を感じ取っていたのだ。
君が私をちゃんと想っていてくれているから、いまでも大事な人でいさせてくれているから感じ取れたのだ。
涙と同時に暖かいものがあふれ出す。
私は君に近づいて、そっと後ろから抱きしめた。
姿は見えなくても、きっと君は感じ取ってくれるだろう。
声が聞こえなくても、君は理解してくれるだろう。
君は動きを止め、叫ぶのをやめた。
「ありがとう。大好きだよ」
私がそう囁くと、君はからした声で呟いた。
「沙紀…?」
「大好きだよ。…大好き」
「僕もだ」
君はかすれた声で続ける。
「僕も、君が大好きだ!!!!」
そして、笑う。
「やっと、言ってくれたね」
「やっと、言えたよ」
体が軽くなるのを感じた。
もう、未練とやらは消え、私は本当に世界から消える。
でも辛いとは思わなかった。
君と私は通じているから。

体が消える瞬間、私も君も微笑んでいた。
2005-09-03 11:20:47公開 / 作者:大屋なつの
■この作品の著作権は大屋なつのさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めての投稿でした。
なんか文構成も表現も、なんだかなー。な感じですね。
これから精進しようと思います。
なんだかありがちなストーリーになってしまって、申し訳ないです。10枚もいかなかったですし…。
この作品に対する感想 - 昇順
こんちわ、冬扇という者です。感想なんですが、少し泣きそうになりました。こういう、感覚を持ったのは初めてなんで、ありがとうございます(何が?)私は、小説初心者なので、適当に聞き流してもいいっすよ。
2005-09-03 16:12:42【★★★★☆】冬扇
はじめまして。純粋に恋愛物好きなので、核の部分は良かったと思いますし、何かこう滲み出てくる爽やかさにも好感がもてました。ただ一文ごとに改行する必要はないと思います。改行を減らしてもう少し描写を増やすなど肉付けをすると、さらに読み応えのあるものになるんではないかと思ったりも。しかし切ないなぁ(笑)
2005-09-03 17:57:57【☆☆☆☆☆】ゅぇ
読んでくださってありがとうございます。
本当に嬉しい限りです。

冬扇さんへ>>>
ありがとうございます。本当に嬉しいです。
あまりほめられたことが無いので正直とても嬉しいです。これからもがんばるのでよろしくお願いします。

ゅぇさん>>>確かに改行が多すぎました。後から見るとえらいことになっているなぁ・・・なんて思いました。もうすこしこれからは描写を増やそうと思います。ありがとうございました。
2005-09-03 20:59:30【☆☆☆☆☆】大屋なつの
初めまして、こんばんわ。短い文章の中にストーリーが綺麗に収まっているので、感心しました。もちろん内容にも感動しましたよ。
むしろ、この長さだからこのテンションが維持できたのかなと思ってみますが、兎に角感動しました。私は恋愛系の小説を書くのが非常に苦手なので、素直に凄いと感じます。
基盤がしっかりしているので、ゅぇさんも言っていますが、心理描写に沿った描写を加えると、より読み手を引き込めると思います。それと、台詞が続く場面がいくつかありますが、そこに少し間を入れることで、もっと台詞が生きてくると思います。元の台詞が良いだけになおさらに、です。
なにやら偉そうなことを言ってしまいましたね、すいません。しかしこれも、あればですがなつのさんの次回作をより感動して読みたいが故……、…………。結局自分の為か(遠い目
次回作、楽しみにしています。余りご無理をなさらぬように頑張ってくださいね。
2005-09-03 23:16:20【☆☆☆☆☆】turugi
初めまして、京雅と申します。拝読しました。物語性はストレート、綺麗に纏められていたと思います。唐突に見えたのは文量も御座いますけれど、ここへ至るふたりの遣り取りをもっとシーンとして魅せておいてほしかったからかな。背景描写等は、この程度の長さなら心情描写と絡めて感性的に制御すると感情移入の度合を高めます。背景→心情と言うより、心情→背景に軸を置いても伝わりましょうや。次回作御待ちしております。
2005-09-04 05:10:51【☆☆☆☆☆】京雅
皆さん本当にありがとうございます!

turugiさんへ>>>
ご意見ありがとうございます。私もまだまだ未熟なのでもう少し今度は描写を入れるようにがんばりたいと思います。次回作もよろしくお願いします。

京雅さんへ>>>
即席でつくったので量も、二人の過去とかも少なかったですね(汗
心情→背景というのがなんだか難しいような気がしますが、がんばります。
2005-09-04 12:17:43【☆☆☆☆☆】大屋なつの
初めまして甘木と申します。作品を読ませていただきました。綺麗に纏まった恋愛話で良かったです。欲を言えば、もう少し文章量を増やして(死ぬ前までの二人の日常とか、事故に遭う前までの状況など)、物語に肉付けをして欲しかったです。緩やかな日常と、死んだ後の日常の比較のような部分があると嬉しかったなぁ。なんやかやと書きましたが、静かな温かさが染みる作品で良かったです。では、次回作品を期待しています。
2005-09-04 23:06:15【☆☆☆☆☆】甘木
はじめまして。これからもよろしくお願いします。

甘木さん>>>
ご意見ありがとうございます。事故の前を当初、私は全然考えても居ませんでした。みなさんがそういって下さるので「あ、それもそうだ」といまさらになって思いついたりしています。今度はきちんと考えて投稿したいです。
2005-09-06 09:21:55【☆☆☆☆☆】大屋なつの
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。