- 『虚偽王』作者：一徹 / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角3539文字一人の男が島にやってきた。
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原稿用紙約8.85枚
「おお、いい感じの場所だ」
男は島を見渡す。南北、歩いて五分ほどで対岸に着く。東西、同じようなものだろう。
島の真ん中には木々が立っていて、果実がなっていた。材木としても使えそうだった。
「じゃ、なんか建てますか」
男は半月かけて家を建てた。
家、というよりは、寄り合わせで出来たジャンク。
「ん〜、トレビアーン。立派な城だね」
一人、男は拍手をし、
「じゃ、今日からここは俺の国、とまあそういうことで」
次に男は畑を耕すことにした。
「王様だけじゃ国とはいえんからなあ」
ひと月かけて、王と自称する男は城という名の家の周りを耕し、たくさんのカカシを立てた。
「どうだァ、なんか国っぽくなってきただろ〜」
腰に手をあて自慢する。
「なに？ 子供がすべってころんで大怪我しただとォ？」
虚空に向かって王は驚き、脱兎のごとく飛び出した。
「おおい、子供が怪我しているとは本当かあ」
向かった先には、小さなカカシが置いてあった。右足が奇妙な方向に曲げられている。
「こ、これはたいへんだ、立てなくなるかもしれないな」
大丈夫、とその隣の父カカシをなだめる。
「私は王様だ。王様はな、国民を護れる凄い人なんだ、分かるな、だからこの子も大丈夫、きっと私が治療してみせる」
はッ、と手近にあった木の棒を取り、自分の服を破いて急いで添木にした。
「なに、服ぐらい構わんさ。先も言ったろう、王様とは国民のためにある、と」
「悪いね、お招きいただいて」
先ほど助けたカカシ一家が王の前に座っている。返事は、無い。
「はは、なかなか豪勢な食事ですな、城ではあまり贅沢はしていないのですよ」
何も無いところにフォークを付きたて、ナイフで切って口に放り込んだ。
「いやなかなかのお味です」
その後王はカカシ一家と楽しく団欒のときを過ごした。
畑仕事はたいへんか、かわいい娘さんだね、とてもよい家族だ、と。
カカシに向かって褒めたてた。
夜。
王は一人、城という名の家の周りをあるいている。
「どうでしょうか、とても豪華な踊り場でしょう？ 月末になると、ここで舞踏会が開かれるのですよ」
姿の無い隣国の諸侯に、形の無い城を案内する。
「ほら見てください、あのシャンデリアは高かった。けど、その代わりとてもキラキラと光るでしょう？」
王が示す先には星空がある。
ふと、自分が言ったことが、実に的を得ていることだと思った。
暗幕に散りばめられた宝石のように、見えた。
「高かったのです、ええ本当に。ですがこうも心を落ち着かせてくれる」
微笑はもはや自嘲であろう。
「みんなァ、城の中に入れェ、津波だぁ！」
王は叫び、いくつかカカシを担いで家の中に運び込む。
海を見ると、確かに微妙にふくれている。波と区別は付けにくいが、しかし王はその眼を持って津波と見抜いた。
長い間海の間近に住んでいたのだろう。
「やばいぞォ、こんな島なんて沈んじまう」
ぽぽい、と放り込み、次の国民カカシを回収に向かおうとして、
「……来た」
津波と波はまったく違う。
波は一時のふくらみだが、津波は永遠の段だ。
他とは違う一段高くなった海が、その体積自重でもって王国に打ち寄せた。
墓がある。
たくさんの墓だ。
津波がやってきて三日。どうにか海水は引いてくれたが、カカシたちのほとんどが海の藻屑と化した。城に放り込んでおいたカカシたちも、城ごと流されてしまった。
「ああウイルソン、君は良い友人だったのに……」
『ウイルソンの墓』
「かわいかったラミナも死んでしまった……」
『ラミナの墓』
こういった具合に、王は流されたカカシたちの墓を、延々作っていった。
曇り空が晴れ、夕陽が浮かぶまでに全ての墓を作り終えていた。
歩いて五分の円形の島の大半が、カカシたちの墓となっていた。
赤々と、斜光は王の瞳をさした。
王は泣いていた。
まぶしいのではない。
「俺は、誰も護れなかった……」
悔恨。いや、惨めなあまりの落涙だった。
作物は流されてしまった。
土地は多量の塩を含み、以降塩に強い植物といえど、そうやすやすと育てられぬはずだ。
王は魚を捜し、沿岸を歩いていた。
そこで、一人の女性を見つける。うつぶせに倒れている。死んでいるかと思ったが、息はしていた。
女性はすぐに目を覚まし、助けてくれた男に感謝した。
「それで、ここはどこなのですか？」
「ここはね、俺の国だった」
周囲にある墓を見て、女は言葉を失った。
「こんなにたくさんの人を……」
「まァ、みんな生きてなかったけどな」
「？」
「それより、ここは陸から結構離れているぞ。帰るなら帰るで、ある程度の船を造らないと……」
しかし周囲には木々は無い。伐採しあるいは流されて消えうせ、船を造ることは困難なような気がした。
王の危惧に、女は首を振る。
「私は、帰りません。帰れません」
「なぜだね」
「私は罪人なのです」
「何を犯した？」
「人を、殺しました」
そうか、と王は相槌を打った。
「……軽蔑しないのですか？」
「言っただろう、私、いや俺は王だと。一つ聞くが、それは私怨かね？」
「いえ……襲われて……」
「誰に」
「貴族、です」
「殺してしまったか……」
ふむ、と王は数秒思案し、
「ならば住むがよい。王として認めよう。君は二〇一人目の移住者だ」
二人で城を建てた。
数年前に流されたものより、一回り大きい、しかし家屋である。
「ようし、今日から君は俺の后だ。異論は無いな」
女は恥ずかしがりながらも頷き、二人は簡単な結婚式をした。
「今日は、少しだが向こう側が見えるな」
ある晴れた日に、王は屋根に上って、遠くを見た。うっすらと、山のような建築物が見える。
「危ないですよ」
「それにしても大きい城だな。一段と大きくなったんじゃないか？」
「貴方は知っているのですか？」
「知っているも何も……この城はあれを似せて造ったんだ」
「あれ？ ご冗談が上手いですね」
「冗談じゃないさ。いや、まあ、似てないけど、ねえ」
どこが違ったかなあ、と頭を抱える。
「雲と泥、月とスッポンですって」
「言うようになったな」
二人、仲良く笑った。
子供は作らなかった。
だんだん、歳を取っていった。
女が死んだ。
老衰なので良かったです、といいながら死んだ。
そうだね俺もすぐに行く、と泣きながら笑った。
まだ、閉められてない墓がある。
そこに女を横たえ、さあ入ろうとしたとき。
島に、一隻の船がやってきた。
それは、対岸にある大国の王族専用の巨大な船だ。
「私だけでいい」
そこから、立派な服装に身を包み、物腰の穏やかそうな老人が降りてきて、
「兄さん」
墓の前の王に、そう呼びかける。
「……お前か」
「……捜すのに、時間がかかりました。さあ、帰りましょう」
「構わん。もう死ぬ」
「……なぜですか」
ぽそ、としかし怒りに声を震わせながら、老人は問い詰める。
「なぜ、国を捨て出て行ってしまわれたのですか兄さん……」
「くだらなかったからだ」
はき捨てるように、言った。
「俺はね、王子に生まれて本当に嫌だった。だってお前のほうが優秀だし、人望もあるし、なにしろ国を治めようという意気込みがあった」
「しかし、それは長男の継ぐもので……」
「黙れよクソ餓鬼」
ねめつける。
「…………」
沈黙。
王は相貌を崩し、頭をかいた。
「いや、クソ餓鬼は俺のほうだったな」
へへ、と笑う。
「そうだそうだ、義務をお前に押し付けて、こんな辺鄙な島で暮らしてた」
「…………」
だがなあ、と一息。
その死に体からは考えられぬような大声量で、
「俺はァ！ 幸せだったんだよォ！」
墓がある。その中に男女が二人、並んでいる。
「待たせたな」
今から、閉められようとしている。
「頼んだぜ」
墓の中から、王が、言って、外の人が閉めた。
暗黒の中、笑う。
「へへ」 - 2005-08-29 18:05:56公開 / 作者：一徹
■この作品の著作権は一徹さんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
ども、初めまして、でいいのかな？（久しぶりかも）
なんか破綻してたらごめんなさい。ＳＳです。ぱぱっとまとめてみました。これを読んで、じ……んまでは行かなくても、ちょっと「いいなあ」と思ってくれれば幸いです。
率直な意見・ご感想お願い致します。
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いいね。見たことのない形式だけど、受け入れられる。昔からある童話のようでもある。面白いんだけど、どこか示唆を含んでいて、そして滑稽であり、不条理だ。
ホントのこと言うと最初「描写力がないんじゃないのか？」と思ったんだけど、この書き物にはそれがないほうが栄えるね。実にＳＳらしい。
ところどころポイントを押さえていて、いい感じなんだけど。全体を通してみると少しアンバランスな感じもする。后の殺人と弟とを絡ませてほしかったかな。
こういう書き方、うん、盗ませてもらおう。
ちょっと疑問。【長い間海の間近に住んでいたのだろう】平民であれば、住んでいるだけでそれらは生活の知恵として知っているだろうけど、王子の立場だとどうなのかなぁ。もし知っていたら、それは自分の意思で学んだことであって、立派な王になる素質があるように思えるのだけど。2005-08-29 20:44:47【★★★★☆】clown-crown悲しく、そして美しい。表現することのできない、後味の良さが込み上げてきました。clown-crownさんと同じようなことですみませんが、女性の存在がちょっと薄かったかなぁ、と思えました。
次回作に期待しております。2005-08-29 21:34:07【★★★★☆】むぅ初めまして、座席です。
後味が良いです。例えるなら"大人の童話"といった感じのものでしょうか。
ただ穏やかに流れているように見えてちゃんと起伏はできていましたし、良いシナリオだと思います。
ただ、やはり女性の存在が薄いです。王と恋仲になるまでの過程を一行でもいいから描写して欲しかった。
そんでもって、それを踏まえた上で、良い作品。純粋に好きです。2005-08-29 22:02:18【★★★★☆】座席ちょっと突っ掛かったので、すみません。
“大人の童話”ってどういう意味なんでしょう。セクシュアルな童話なのかな。でも、これはそーゆー話ではないし。童話というのは子どもへの読み聞かせを目的としたものだけれど、その内容は大人に都合がいいようにできている。それは、子どもに約束を守らせるためだとか、欲を張るといけないとか、勇気をもてだとか（『本当は怖いグリム童話』とかの受け売り）。それを踏まえると“大人の童話”とは大人へ警句を鳴らす内容の童話だと思える。さて、何だろう。この童話に含まれる“教え”とは。そう、権力に驕るものへの“教え”だ。だとしたら大人への“教え”であり、ピッタシだ。──そう思ったけど、違う。ここで驕るものと言えそうなのは、誰もいない。いるとしたら、男。では、男に罰が下ったのだろうか。ラストに見せる絶対的な死は、確かに贖いの儀式にも思える。が、最後の最後に、この男は笑う。満足しているのではないだろうか。直前でも、「幸せだった」と言っているではないか。これは、わかりやすい形での罰ではないだけなのかもしれない。狂気を滲ませることによって、死よりおぞましい罰を与えるに成功しているのではないだろうか。であれば、やはりこれは“大人の童話”ということになるだろう。狂うことについて、子どもが恐怖をもたないとは言わないが、正常を重んじる大人であれば、狂気は断固忌避するべき対象だ。
と、ここまで書いた時点で思った。
【じ……んまでは行かなくても、ちょっと「いいなあ」と思ってくれれば幸いです】。
あぁ、これは大人への示唆を含んだ書き物では全然ないね……。2005-08-29 22:45:13【☆☆☆☆☆】clown-crown長々としてますがまあ、そんな感じでもいいですよ。別に示唆とかそういったものも含んでいるとかそんな細かいこと言うつもりは全くありませんし、比喩的なものと考えていただければ。
んでもって、ここは感想欄なので謝りつつも議論的なものを、しかも作者の作品に対してではなく、読者である私の感想に対してこの場で書くのは、どうかと。過剰反応的なものを感じます。
あなたがあなたの意見を出すのは構いませんが、時と場所を選んでもらいたいなと。正直、ひきます。2005-08-29 22:58:40【☆☆☆☆☆】座席どうもこんにちは。メイルマンと申します。コンパクトで読みやすかったです。男と男の「へへ」に好感を持ちました。満足している男の一言でさっぱりした読後感が得られました。2005-08-30 21:39:24【★★★★☆】メイルマンはじめまして。拝読いたしました。
女性の存在感ですが、作品がこのようなテイストなので、決して薄いことはないと思います。自分勝手な好みを申し上げますと、これくらいがちょうどいいです。何でもかんでも、書けばいいというものでもないでしょうし。
また、皆さんの仰る通り、童話的な風景が広がっていると思います。ただ、教え？ 罰？ 大人への示唆？ うーん。たとえそういうものが含まれていたとしても、これには決してかなわないと思います。
“愛情”（ひかないで、みんなっ（大汗））
彼が自分の愛情を奇妙に表現していることは、カカシに接する姿を見れば一目瞭然。しかし、表現は奇妙でも、彼は人間らしい素直な愛情を持っていると思うのですよ。規律に従った王であれば、民の身心の一つ一つを、こんなに丁寧に見ることはできないでしょうし、ましてや、相手が人ならなおさら（生身の人間の中には、彼を嫌う人もいたかもしれませんし、彼自身が誰かを嫌っていたかもしれませんし）。彼は、自らの愛情を余すことなく民に振りまき、心地よい幸福を感じていたことと思います。
「俺はァ！ 幸せだったんだよォ！」
このセリフは本当に美味でした。
それでは、長々と失礼しました。2005-08-30 22:59:27【★★★★☆】エテナ読ませていただきました。はじめまして、有栖川と申します。
シュールなんだけどこの絶妙なあっさり具合がなんとも良かったです。バックグラウンドが明かされるタイミングや話運びもきれいですし。うん、確かに童話っぽいですね。女性の描写ですが、私もいらなかったと思います。エテナさんの『何でもかんでも書けばいいというものでもない』に勝手に乗っかってしまって申し訳ないですが＾＾；賛成です。「俺はァ！幸せだっただんよォ！」で、なんだかもう無条件に胸がつまりました。面白かったと思います。次回お待ちしております。2005-08-30 23:28:08【☆☆☆☆☆】有栖川初めまして、京雅と申します。拝読しました。意図的か執筆の過程に於てそうなったのかは能く解りませんけれど、軽く纏められておりましたね。わたくしはカカシの見立が遠回しな心情描写になっていて、うん、わざだなぁと。妙な位置でリアリティの無い人間味が御座いました。次回作御待ちしております。2005-08-31 01:55:43【☆☆☆☆☆】京雅作品を読ませていただきました。描写が少なく淡白な感じながら、読んでいるこちらには寂しげな情景が浮かんでくる作品でした。御伽噺とも寓話とも違うとは思いますが、読む者に何らかの思考を働かせてしまう独特の作りは良いですね。特に最後のセリフが物語を見事に締めていたと思います。では、次回作品を期待しています。2005-09-02 23:10:49【★★★★☆】甘木計：24点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。