『明日』作者:koro / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約5.18枚
「悩んでるだけじゃなんにも変わらないんだぞ。今すぐ学校に出て来い。」
遠くの方で先生の声がする。聞こえているのにすごく遠い所で喋っているみたい。
電話のコード越しに伝わるそれはなんだかとても寂しく思えた。
学校に行かなくなって5日目―今日も私は朝の日差しを受けながらどうやったら
学校に行かないですむのかということを延々と考えていた。
階段を上る音がして私は咄嗟に仰向けの体勢をとり片方の手をお腹にあてながら
うずくまるような形でベッドに寝た。部屋のドアが開いていつもの様にお母さんが入ってくる。
「今日からは普通の授業も始まるんだから早く下に降りてきなさい。」
私は弱ったような声で「お腹が痛い・・。」と言った。母としばらく話して、
私は結局今日も学校をサボることにした。もちろんお腹が痛いなんていうのは真っ赤な嘘で、
私は演技中バレないかどうかヒヤヒヤしていた。
もうすぐ1時間目が始めるなぁ。とぼんやりそんな事を考えていた時、部屋の電話が
勢いよく鳴った。私の心臓は次第に早くなり私は母が受話器を取るのを黙って待っていた。
――またかかってきたんだ。今度は誰?副担?担任?私は何事もなく終わってくれるよう、
必死に心の中で祈った。「先生が変わってって言われたわ」私の願いは通じず母は      そういいながら私を必死に立たせて電話に出させた。もしもし・・私はいかにも病人そうな声を
だしながら電話に出た。受話器の向こうからとても懐かしい声が聞こえてきた・・担任だった。
私が黙っていると急に先生は話し始めた。「学校に来い。なにか悩んでいるそうだが?」
私はドキッとした。なんで知っているんだ?私は少しして母が言ったのだと思った。
それから先生はなんで休んでいるんだとか今日は模試だから来いとかそんな類のことを
延々と言っていた。受話器を持つ手が震える。知られてしまった。という強い思いが
私の中を駆け巡る。理由を聞かれ、私は体調がすぐれなくて・・ともっともらしい声で言った。
それだけじゃないだろうと言われ、私は仕方なく本当の事を言った。
先生は部活という答えを聞くとそれについてまた詳しく聞いてきた。
…やめて。言いたいけど言えなかった。だって隣りには母がいる。
イスに座って本なんか読んでいるけど絶対聞こえているんだ。部活という言葉を出すだけでも
嫌だったのに、これ以上私に恥をされせというのだろうか。
今さら手伝ってもらわなくたって自分でなんとか出来る。今までだってそうだった。
全て自分で解決してきた。私は自分の弱い部分を人に見られるのがひどく嫌だった。
そのため、人前で泣いたことは一度だってない。私はプライドが高かった。

もうすぐ夕飯という頃になって玄関のチャイムが鳴った。
私はため息をついて仕方なく玄関のドアを開けた。途端、顔面パンチをくらったような衝撃が
私を襲った。そこにいたのは先生だった。手に色紙をもっている。
私は急に病人らしくせきをしたり苦しそうな顔をしてみたりした。
まさか家までやって来るとは…先生は私を黙ってみている。
ばれた??私の心臓は前にもまして激しく動いた。先生は少したったあと
手にもっていた色紙を私に向けた。「今日休み時間などに書いてもらったんだ。」
その言葉を聞いた瞬間私の中のなにかがストンと落ちていくのを感じた。
――先生私ただ5日休んだだけだよ。なんでこういうことするの。休み時間って…
私たちにとっては唯一勉強から離れられる時なのに。私なんかの為に
貴重な休み時間をさいてもらって。――やめてよ。皆に迷惑じゃん。
それでいい先生になったつもりなんだろうか。私は激しい嫌悪感を抱いたまま
洗濯をしていた母の所に行って先生が来ていることを伝えた。
母は全く気付かなかったらしく、慌てて身なりを少しばかり整えると
いそいそと玄関へ向かった。私は色紙を手にもったまま二階に上がった。
読み進めて行くと皆が私に気をつかっているのがわかる。
この人には変な冗談は言っちゃいけない。傷ついてしまうかもしれないから。
そんな思いがあちこちから伝わってくる。女子は流石に文字も上手くて
文のまわりなんかにかわいらしい絵なんかが書いてあった。
男子は頑張って下さい。とか早く良くなってください。とかそういったものを書いていた。
これじゃあまるで私が重病人みたいじゃあないか…私はますます学校に行きづらくなった。
部屋にさしこむ夕日が暖かい。今日先生と別れるときに明日は行くという約束をしてしまった。
私はそれを思うとなんだかとても怖いような気がしてきて一人ベッドで泣いた。
泣きつかれて私は夕ご飯も食べずにそのままベッドで寝てしまった。
明日行ってなにが変わるとも思えない。でも行かなければいけない。
私は皆と一緒に夜があけるのを待った。

月が皆を照らして私はなぜかまた泣いてしまった。
2005-08-29 11:35:29公開 / 作者:koro
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■作者からのメッセージ
シリアスみたいなのを書きたくて書きました。
が…違うやつになってしまいました;
―まぁいいか。
この作品に対する感想 - 昇順
拝読しました。心情描写を主軸に置いて、フラストレーションは伝わってきますけれど、そこに達した経緯を提示されていないので共感等の感情移入は出来得ないのではないかなと思います。まあ、しかし、物書きは筆をとっていると時として制御をはずしもともと伝えたかったもの魅せたかったものから離れてしまうことが御座います。それを「まぁいいか」とすませてしまうのではなく、足掻いて、何とかかたちにしてゆこうという気持は、常にもたなくてはならないのだろうなぁと京雅なんかは考えております。
2005-08-30 12:39:02【☆☆☆☆☆】京雅
作品を読ませていただきました。主人公の心情は解るのですが、読者がその心情と同期できない感じです。一方的な感情の吐露という印象ですね。もう少し読者サイドに寄って、共感できる部分を描くと感情移入がしやすくなっていいと思います。なんだか辛口の感想になってしまいすみませんでした。では、次回作品を期待しています。
2005-09-02 22:14:22【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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