『きもだめし』作者:時貞 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2480文字
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原稿用紙約6.2枚

 去年の夏休み、僕らは隣町にある古ぼけた墓地できもだめしを行った。
 僕は小さい頃から大の怖がりで、お化け屋敷や心霊番組なんかが大の苦手だった。
 そんな僕をいつもからかっていた、同級生のケンジ。このきもだめしも元はと言えばケンジの発案で、その魂胆は僕を思いっきり怖がらせてからかってやろう、というものだったに違いない。僕は、何とか言い逃れをして参加を拒否しようとしたのだが、最終的にはケンジに強引に連れ込まれるかたちとなってしまった。
 きもだめしに参加したメンバーは、僕とケンジを含めて五人だった。皆、僕と同じ学校のクラスメイトたちである。
 ジャンケンで順番を決めて一人ずつ墓地の中を通り、一番奥にある松の巨木の下に置いてあるお札――これは昼間のうちに、ケンジがあらかじめ用意しておいたものだった――を取って帰ってくると言う、きわめてオーソドックスなスタイルのきもだめしであった。
 ジャンケンの結果、一番最初は僕に決まってしまった。今から思えば、このジャンケンにも僕が一番にあたるように、他の皆で策略を凝らしていたのかも知れない。
 ケンジに背中を押され、懐中電灯を片手に僕は一人とぼとぼと墓地の中へ足を踏み入れた。ひんやりと冷たいような、それでいて妙に生暖かいような夜風がそよそよと流れてくる。僕は歩き始めてすぐに心細くなり、そのまま引き返そうかと思った。しかし、このまま引き返してはケンジに後で何をされるかわかったものではない。僕は周囲にきょろきょろと目を走らせながら、足早に目的の松の木へと急いだ……。
 それにしても、あの時代掛かった大きな墓石の裏から白狐の面が現れた時は、本当に息が止まるほど驚いた――! 
 それはちょうど、僕が何とか墓地内を通り抜けて、ようやく目的の松の木にたどり着いたときであった。
 なにやら背後でがさがさと物音が聞こえてきた。
 驚いた僕は思わず、その場で飛び上がりそうになってしまった。急いで木の下に置いてあるお札を引っ掴み、踵を返したそのとき――近くの巨大な墓石の裏から、ぬっと現れた白い狐の面!
 僕のあまりの驚きようを見て、白狐の面を外して小躍りしていたケンジの得意げな表情を思い出す。ケンジは先回りをして、僕を脅かすために墓石の裏で待ち伏せていたのだ。
 この時だけは、本当に心から悔しかった――。
 だから僕は、今年の夏休みに再度行われるきもだめしで、ケンジに去年の復讐を果たしてやろうと決めたのだ。
 
  ●

 午後十一時、去年と同じ墓地にケンジたち五人の姿があった。
 僕は入り口にある古井戸の裏に隠れて、彼らの様子をうかがっていた。ニヤニヤと意味深な笑顔のケンジが見える。
 僕が不参加の今回のきもだめしで、ケンジが次のターゲットに決めたのは、僕の次に臆病だったダイスケくんのようである。
 ジャンケンの結果、ダイスケくんは二番手に決まった。一番手に決まったミツオくんが、懐中電灯片手にすたすたと墓地内に入っていく。
 しばらくして、ミツオくんは勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら、お札を高々と振りかざして戻ってきた。ケンジがわざとらしい喝采をおくる。
 そして、次はいよいよダイスケくんの番だ。
 はたから見ても、ダイスケくんは気の毒なくらいにびくびくと怯えている。何とか時間稼ぎをしようとするダイスケくんの背中を、ケンジが張り手で思いっきり突き飛ばした。のけぞりながら、落ちそうになった懐中電灯を慌てて胸に抱える。ダイスケくんは、後ろを何度も振り返りつつ墓地内へと向かっていった。
 ダイスケくんの姿が見えなくなって、一分ほど経った時である。
 ケンジが他の皆の顔を見てにやりと笑うと、おもむろに持参した手提げカバンからある物を取り出した。僕にとっても忘れようもない、あのいやらしい白狐の面である。
 ケンジはそそくさとその面を被ると、懐中電灯を片手にダイスケくんの向かった方向と逆の方向へ、一気に駆け出しはじめた。僕も古井戸の影からそっと立ち上がり、あらかじめ調べておいた最も近道となるコースを静かに移動しはじめる。風はそよとも吹かなかった。
 僕の視線の先に、去年と同じ墓石の影に隠れるケンジの後姿が見えている。そして、その少し先には、ダイスケくんの手にした懐中電灯の灯りがゆらゆらと揺れている。僕は静かに、ゆっくりケンジの背後へと近づいていった。
 ケンジはまったく僕に気づいていない。ダイスケくんの近づくのを待って、うずうずしている様子である。やがて、ダイスケくんが目的の松の木の下へとたどり着いた。ケンジは足元においた夏草のかたまりを、スニーカーの底で荒々しく踏みつけた。
 がさがさと、乾いた物音が辺りに響く。
 ダイスケくんが、びくりと肩を震わせるのが見えた。おどおどした表情で振り返ると、ケンジの思惑そのままにきょろきょろと辺りを見回している。
 お札を握り締めたダイスケくんが、その場から小走りに立ち去ろうとする。それを見計らったようにケンジが身を乗り出しかけた、そのときだった――。
 僕はケンジの肩にぽんと片手を置いた。
 一瞬、びくりと跳ね上がるケンジの体。ケンジは白狐のお面を被ったまま、ぐるりと背後を振り返った。僕も思いっきり首を伸ばし、お面越しのケンジの両目を覗き込む。
「――ひぃっ! で、で、で、でたぁぁぁぁぁ――! た、た、た、た、たすけ、たすけてくれぇ――っ!」
 ケンジは僕の顔を見て絶叫すると、その場にそのまま失神してしまった。
 僕はそっと、ケンジの顔から白狐の面を取ってみた。目が裏返り、口の端から白い泡を吹いている……。

 さすがのケンジと言えども、やはり《本物の幽霊》を見た恐怖は大きかったようだ。
 僕が去年のきもだめしで白狐の面を見て、《息が止まるほど驚いた》ように、ケンジももしかしたら本当に息が止まってしまったのかもしれない。 


   了
2005-08-24 14:26:19公開 / 作者:時貞
■この作品の著作権は時貞さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
もうじき夏も終わってしまうということで、なにか夏らしいSSを書いてみたいと思ったのですが、どうやら違う路線にはまってしまったようです(汗)こんな拙作ですが、ご意見やアドバイスなどをいただけたら嬉しいです。よろしくお願い致します。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして☆
こ…これはコワイですね…「本当にあった怖い話」とかに出てきそう。テンポもよく、読みやすかったと思います。
2005-08-24 14:35:05【★★★★☆】那都
読ませていただきました。いや〜怖いですね〜。自分はおそらく、誰からなんといわれようとも肝試しなんかしません。物語のように作られた者ならドキドキしながら楽しく見たり読んだりできるんですがね〜。自分が同じ立場だと、確実に心臓が止まって地縛霊になってますと〜。ひ〜!!オチもしっかりと纏っていると思います。それでは、次回も楽しみにしています
2005-08-24 16:40:55【☆☆☆☆☆】上下 左右
 ちょっとコメディの入ったきもだめしでしたね。シンプルで面白かったと思います。
 ただ逆説的にいうと、シンプル過ぎたかな、というのも。時貞さんのおっしゃる通り、違う路線になっているようですので、もっとそこを強調しても楽しめたんじゃないかな、などと。オチがオチだけに、強調すればするほど、ラストで背筋がひやりとする作品だと思います。
 ホラーな肝試しは良くても高所での肝試しはショック死確定だと断言できる座席でした。
2005-08-24 19:02:26【☆☆☆☆☆】座席
こんばんは、おんもうじです!
これは……、、、生身にあったら怖いな!でも物語としては楽しめましたあ(^○^)コメディアンなかんじで、さり気なく最後のための伏線をはってあったんですね。すごい。幽霊視点なんで怖さはあまり残らなかったですが面白い作品でした(^○^)恐らくそれが狙いなんでしょうけど、楽しめたんで良かったですよ!では、次回作期待しております〜
2005-08-24 19:13:55【☆☆☆☆☆】おんもうじ
拝読しました。ユーモアもあり、文章もすらすらと流れて心地好かったです。書き手側の意図は怖がらせる事もありつつ、意外性にあったかと思いました。するとね、この筆の(感性の)のらせ方じゃあ打撃力に欠けるのではないかな。シナリオはよいのですよ、ストレートながらも能く想像すると、うん、怖いね。しかしだからこそ、先ずは冒頭から続くシーン一にて、語り部の心情面を際立たせる。怖さ。無音のなかに潜む怖さ、見えないものから伝わる怖さをもっと押し出す。そこにキャラクター性、つまりは主人公の位置をつくりだす。そこでね、つくられた性質・心情をシーン二にも重ねる。幽霊になったのだから少しくらいは怖がらなくてもいいけれど、復讐するぞという緊張感を波にして読者側を惹き込む。まあ、ここまで書いたのはあくまで京雅ならこうしますよってもの。言いたいのは、ラストに軽くオチを置く系統は、それに至るまでの前置きに力をそそぐべきなのですね。長長と語ってしまいました、御容赦を。次回作期待しております。
2005-08-25 03:29:06【☆☆☆☆☆】京雅
那都様>
お読みくださり有難うございました。お褒めのお言葉、嬉しい限りでございます。これからも頑張っていきたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます!!
上下 左右様>
大変励みになるご感想、有難うございました。自分も怖い話しやテレビ番組などは好きなのですが、実際に肝試しをやったことはないですねー(笑)楽しんでいただけて嬉しいです!!
座席様>
お読みくださりまして誠に有難うございます。また、貴重なご意見には本当に感謝です。確かに自分でもシンプル過ぎたという印象は持っておりまして、もう少し物語を膨らませられなかったのは力不足でございます。的確なご指摘、ありがとうございました!!
おんもうじ様>
今回もお読みくださり誠に感謝しております。おんもうじ様のご感想には、いつもながらつくづく励まされます。これからも少しでも楽しんでいただけるような作品作りを目指していきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます!!
京雅様>
いつもながら、自分の拙作に対する懇切丁寧なご感想をいただく事が出来まして、京雅様には本当に頭が上がりません。現在の自分の甘さ、また、妥協してしまった点などをズバリとご指摘いただけて、言葉では表せないほど勉強になっております。少しでも京雅様からいただいたアドバイスを活かせるように精進していきたいと思っておりますので、今後ともご指導いただけたら幸いでございます。ありがとうございました!!
2005-08-25 10:26:41【☆☆☆☆☆】時貞
うおっ!こりゃ怖い!ホラーって自分の中ではかなり難しいものなんですよ。文字だけで人を怖がらせるなんて信じられないw
文章も丁寧で笑いもあってよかったです。
次回も楽しみにしています!
2005-08-25 13:26:12【☆☆☆☆☆】朱色
おお!!怖いです。肝試しは本当苦手です。テンポの良い文章に混じってその肝試しな感じがヒシヒシと伝わってきます。いやもうホントに。怖いですね;スプラッターなら平気なんですが、やっぱりオバケものはてんで駄目です。次回も楽しみにしてますね!
2005-08-25 14:35:14【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
朱色様>
お読みくださり誠にありがとうございます。お褒めのお言葉、飛び上がらんばかりに嬉しいです!!おっしゃるとおり、ホラーって思った以上に難しいですね。自分も結局、ユーモアで逃げてしまった部分もあります。ご感想ありがとうございました。
水芭蕉猫様>
貴重な、そしてとても励みになるコメントありがとうございます!!少しでも怖がっていただけたのなら幸いです。最近では季節柄心霊番組が多かったので、それに便乗したかたちで書いてみたのですが(汗)お読みくださり、本当にありがとうございました。
2005-08-25 15:23:39【☆☆☆☆☆】時貞
作品を読ませていただきました。シンプルな作りでいいと思います。ホラーと言うよりはコメディ要素が強いですが、文章のテンポの良さがオチを読んでニヤリとさせてくれました。ただ主人公の恐怖心がありきたりだった感じがします。墓地の墓石がつくる陰影とか、草がなびく音とか、小道具を使って主人公の恐怖心をもっと描いて欲しかったですね。そして翌年の肝試しのシーンでは、主人公が死んでないように見せるため、恐怖を堪えて古井戸の陰に隠れているようなシーンがあっても良かったのでは……というか、仲間が死んだ場所でほぼ同じメンバーで肝試しをやるケンジ君の精神の方が怖いな。では、次回作品を期待しています。
2005-08-25 22:49:15【☆☆☆☆☆】甘木
初めましてのはずです。buchiMです。怖い、怖すぎる。仲間を事故とはいえ、殺して、来年にまた同じことをやるケンジの人間性が怖い。意外性があり、おもしろかったっす。理解力のない僕は一瞬落ちの意味がわかりませんでした(苦笑)主人公が死んでいるとは。本当に想定外っす。次回作期待してます。
2005-08-25 23:58:48【☆☆☆☆☆】buchiM
甘木様>
今回もお読みくださりまして、誠にありがとうございます!!書きはじめた当初はもっとホラー寄りの路線で行くつもりだったのですが、途中から徐々にレールを外れてコメディ色の強いSSになってしまいました(汗)ご指摘いただいたように、作風に適した描写の不足が自分の大きな課題ですね。ご丁寧なご感想、本当にありがとうございました!!
buchiM様>
はじめまして。時貞(ときさだ)と申します。お読みくださりまして、誠にありがとうございました。お褒めのお言葉、大変励みになります!!少しでも驚いていただけたのなら、作者として本当に嬉しい限りです。まだまだ未熟者ですが精進していきたいと思っておりますので、ご指導お願い申し上げます。
2005-08-26 09:46:23【☆☆☆☆☆】時貞
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。