- 『初恋【1】』作者:否命 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角1784文字
容量3568 bytes
原稿用紙約4.46枚
初恋は実らない。
誰がこんな無責任な言葉を作ったんだろう。
もちろん、ぼくだってこんな話を完全に信じているわけじゃない。
でも、
それでもこの言葉が思い浮かんだのは、
自分の初恋が叶わないことを知っていたからなのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ぼくは大型スーパー内のある部屋で、中年の男性店員と向かい合って座っていた。隣には担任の綾乃先生が心配そうな表情で立っている。理由は簡単、万引きの現行犯逮捕というやつだ。
「ご連絡したとおり、おたくの生徒さんが万引きをされたんですよ。でも、清算を忘れていたの一点張り。自宅の電話番号を聞いても親はいないとしか言わないし……」
店員が疑うような目付きでぼくを見ながら、さっき学校に伝えた電話の内容を繰り返す。
そう、ぼくには万引きするつもりなんてさらさらなかった。店員に話したことは全部本当で、単純に清算を忘れただけだったんだ。といっても、店員がそんな話を信じてくれるわけはない。当たり前だ。ぼくが店員でも信じないし。
でも、綾乃先生は違った。
「それで、勇介君は謝ったの?」
こっちを向いて真剣な眼差しで質問してくる。
ぼくはためらいながら、首を小さく横に振った。すると綾乃先生は少し怒ったような顔をして言った。
「ダメじゃない。いくら間違って持っていってしまっただけでも、悪いのは勇介君なんだから。ちゃんと謝りなさい」
その言葉に、ぼくと店員は少しの間ポカンとしていたが綾乃先生が「ほら早く」と言ってきたので、ぼくは少し迷いながら店員に頭を下げて「ごめんなさい」と言った。
すると先生は満面の笑顔で、
「よし。じゃあ帰ろっか」
とだけ言って部屋を出て行こうとする。
そこでようやく店員がハッとして口を開いた。
「ちょっと先生! こういうのは癖になりますから厳重に注意してください。」
今度は綾乃先生がポカンとする番だった。
そして先生は困ったようにぼくの方を見て、
「えっと……勇介君、今度はお金を払うのを忘れちゃダメよ?」
と簡単に注意した。
それを見ていた店員はイライラした様子で文句を言う。
「先生、本気で言ってるんですか? 清算し忘れたなんて嘘に決まってるでしょう! 万引きした奴は皆そう言うんですよ!」
綾乃先生は最初、何を言っているのかわからないという顔をしていたが、店員の話を聞いているうちにだんだんと表情が険しくなっていった。
「この子はそんな嘘をつく子じゃありません!」
そして、いつもの優しい先生からは考えられない大きな声を出した。
綾乃先生、本気で怒ってる……。
こんなに怒ってる綾乃先生を見るのは初めてだった。
「失礼します!」
先生はそれだけ言うとぼくの手を引いて、つかつかと部屋から出て行く。閉まるドアの向こうに呆然としている店員の姿が見えた。
ぼくはそのまま手を引かれながら店の外に出た。
綾乃先生の手は冷たくて気持ちいい。離したくないな。そんなことを思ったけど、他の人に見られるのが恥かしかったから自然と手を離してしまった。
けど、綾乃先生はそれを別の意味で受け取ったらしい。
「ごめんね。先生、怖かったよね?」
そんな質問をされるとは思っていなかったので、ぼくは慌てて力いっぱい否定した。
「ううん、怖くなかったよ! かっこ良かった!」
これは本当のことだ。確かに綾乃先生が怒ったのにはびっくりしたけど、それ以上に自分のために怒ってくれたのが嬉しかった。そんな先生がとてもかっこ良く見えた。
「ふふっ、そっか! かっこ良かったか! ありがと」
綾乃先生は嬉しそうに笑うと、腰を曲げてぼくの頭にポンポンと手を乗せた。なんだか子供扱いされている気がしたけど、先生の手に触れていると気分が良かったので何も言わないでおいた。
「じゃあ、今日は特別に先生の車で送ってあげる。皆には秘密だからね?」
そう言って綾乃先生がウィンクする。
秘密という言葉の響きが妙に楽しくて、家に帰るまでの間はなんだか落ち着かなかった。 - 2005-08-23 12:20:20公開 / 作者:否命
■この作品の著作権は否命さんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
プロットは決まっているのに文章は遅々として進まない。小説道とは奥深いものだなぁ、と今更ながらに感心している今日この頃です。
否命にとっては今回が記念すべき小説初投稿となるわけですのでちょーーーっと緊張気味……最初はSSで練習するべきなんじゃないかとも思ったんですが勇気を持って連載に挑戦させていただきました。そんなに長くはならない予定ですが、がんばって更新しますので感想などあったら書いてくれると嬉しいです! 書いてくれた人には豪華賞品が届くかも(笑) それでは♪
- この作品に対する感想 - 昇順
-
こんにちはあ、はじめまして、おんもうじと申しまする。
まだ短いのでなんとも言えないですが、この主人公の先生に対する、なんというか温暖で淡い、そんな感じな気もちが伝わって来たんでよかったです(^○^)まだ登場人物のキャラとかも確定されてないわけですが、綾野先生には頑張って欲しいです。(僕好みの伽羅になるよう笑←変態?
あと清算忘れるなんて天然な主人公もスキですよ〜。^^
主人公の台詞が子供っぽいのでこれは小学校くらいの話なのかな?とおもいましたが、違ったらすいません。違うのだとしたら、台詞を直したほうがいいかな?
偉そうに指摘すいません、これからどのような話に発展していくの楽しみにお待ちしますね!では!2005-08-23 12:36:57【☆☆☆☆☆】おんもうじ初めまして、緋陽と申します。以後お見知りおきを……堅苦しい挨拶は置いといて。
綾野先生の勇介君に対する優しさがなんともいいものだなぁ、と思いました。清算し忘れたのか、万引きかと思っちゃったよ、などとふざけてみたり。ほのぼのとしたキャラクタがこれからも活かされていく事を期待して次回更新を楽しみにしています。
指摘するならば、何時ごろの話なのか時間などを書いて欲しかったりもします。
そのくらいですかね。私的にはわりと好きな小説です。
短いですが、失礼します。では2005-08-23 12:53:12【☆☆☆☆☆】緋陽こんばんわ〜〜、上下です。読ませてもらいました。
本当に清算忘れていただけだったとは。やるな主人公よ!!自分も今度その手を使ってみるか(何事もないかのように捕まります)題名と際最初の部分からして、もしかすると……。おっと、予想はここまでにしておきましょう♪こういうものは口に出して言わないものですね。さてさて、これからどうなっていくのでしょうか。それでは、次回も楽しみにしています2005-08-23 22:42:07【☆☆☆☆☆】上下 左右おはよう御座います。ミノタウロスです。おおっ豪華商品ですか!首を長くして待ってますよ! 万引き横行するショップで働いていた事があって店員の気持ちがもっとも良く分かるのですが、ボーとして清算せずに持って出てしまう人ってマジでいますからそれを頭っから信じてくれる女先生は、勇介君にとっては○○○。冒頭から切ない展開を予期させてますが、初恋なんて、殆どの方が切なさと共に思い出す物ですから……。
初投稿だったのですね。緊張しておられるようですが、文章はきれいだし、冒頭の文もいい感じなのでそれ程心配しなくても貴方様の想いのたけをお書き下さい。ただ一点、主人公や、綾乃先生の人物描写(容姿等)が無かったので、惜しいなと思いました。地の文が主人公視点なので、かなり主観に偏った描写になってしまうかもしれませんが、読者を惹きつける意味でも、この描写はあった方がいいと思います。まだ、書き始めたばかりなのに、色々書いてすみません。後から出す予定だったのでしたら、ご容赦下さい。続きを楽しみにしていますので、どうぞ、のびのびとお書き下さい。お待ちしております。2005-08-24 06:01:18【☆☆☆☆☆】ミノタウロス初めまして、京雅と申します。拝読しました。冒頭の文章は惹き込まれてよいと思います、こういう言葉の羅列は物語性の確立されていない初期の段階にあると、意識化にすりこまれますからね。勇介の主観から覗く文章構成にはなっておりますけれど、心情面をあまり映していない気もします。筆に勇介という人格の感性がのっていないのです。客観的に観ているわけではないので、いくつかの側面を切り落とす事になります、そのかわりに彼の感じた事を主観的なかたりで提示出来得るのですよ。容姿・背景、ぬくもり・つめたさ、そういうものは外側と内側では見え方も違ってきますゆえ、そこを意識・意図して書くとこの書き物の様相は身近で感じ入れるものになるかな。偉そうに語りました、御容赦を。次回更新御待ちしております。2005-08-24 15:13:14【☆☆☆☆☆】京雅初めまして甘木と申します。作品を読ませていただきました。文章そのものは読みやすかったです。一文一文も丁寧に書かれていて良かったです。ただ、作品の設定というか、登場人物の社会的立場がわかりません。勇介は小学生なのでしょうか? 綾乃先生の態度が幼い子供に接する感じを受けたものですから。全体的に人物に対する描写が少なすぎる感じです。また、勇介の心情をもう少し描いても良かったと思います。長々と戯れ言を書いてすみませんでした。では、次回更新期待しています。2005-08-24 21:23:04【☆☆☆☆☆】甘木計:0点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。