『裏庭の殺人鬼』作者:水芭蕉猫 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1239文字
容量2478 bytes
原稿用紙約3.1枚

 うちの庭には、殺人鬼が居る。
 手入れの届いていない三畳と少しの小さな裏庭の、草むらの中に、その殺人鬼はいる。
 ぼくの背丈ほどもあるあの草の中で、殺人鬼は息を潜めて目だけをギラギラと光らせているのだ。
 ぼくがそのことに気づいたのは小学三年生のころ。
 冬になっても自分の庭の草が枯れない事を不思議に思って近づいたら、草むらの中で赤い目玉がぎょろりとこちらを向いた。そして、ザワリと草が動いた。その瞬間、ぼくの前髪がスパッと切れ落ち、額から真っ赤な血が滴って白い雪に数滴落ちた。
 ぼくは驚いて尻餅をつくと、慌てて部屋へ逃げ込み、母親に泣きついた。
 しかし、母親は何を言っても取り合ってもらえず、結局ぼくが勝手に草で額を切ってしまったということになった。
 母親はきっと何か知っていると思う。
 ぼくに物心が付いたころからあの庭の草むらは手入れされていない。それどころか、誰も近づいてさえ居ない。
 母が庭に出る時といったら洗濯物を干すために、草むらの手前くらいまでしか行かない。
 それでも、ぼくは母に聞くことが出来なかった。
 もしそんなことをしたら、大切な何かが壊れてしまうような気がしたから。


 そしてある夜、ぼくは目が覚めた。
 本当に、虫の知らせとしか言いようが無い。ぼくはカーテンを少しだけ捲って、何となく窓の外の庭を見た。
 月夜の下で、そいつを見た。
 草むらの中からのっそりと這い出してくるそいつ。
 そいつの頭には、牛みたいな角が生えていた。
 そして、その傍に倒れているのは――おそらく人間だろう。
 それっぽいカタチの人型が一つ。
 ぴくりとも動かないその人間は、きっともう生きてはいないのだろうと言うのが、直感的に解る。
 顔が見えないから誰だかはわからない。
 そいつはヒトよりも大きな手で、その人型っぽいのの頭を鷲摑みにすると、草むらの中にぽいっと放り投げ、そしてぼくの方を見た。
 瞬間、ぼくは戦慄した。
 全身の毛が逆立って心臓が止まってしまったような気がした。
 ぼくとそいつは目が合ってしまった。そいつは、薄暗い月明かりでも判るぐらいにごった赤い目で、にやりと笑った。唇からは、大きな歯が覗いていた。
 顔は解らないのに、それだけが妙に印象付いた。
 それからそいつは、ぴょいと草むらの中に入ってしまった。


 そして、その翌日のニュースでぼくは近所の山田さんという人が、一晩のうちにどこかに消えてしまったことを知った。
母は、ぼくの隣で、そ知らぬ顔でご飯を食べていた。
それからというもの、ぼくは近所で行方不明になる人が出るたび、あの殺人鬼の仕業なんだなぁと思いつつも、母には何も聞けないでいる。
 もしも聞いてしまったら、もしかしたらただじゃ済まないかもしれないから。


 今日もきっと、その殺人鬼はうちの庭の草むらに居る。


2005-08-14 21:26:54公開 / 作者:水芭蕉猫
■この作品の著作権は水芭蕉猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
不毛な話です。
聞きたいけど聞けない典型パターン。
ジャックの方が進まず、昔書いたものを引っ張り出して、手直ししての投稿です。
何かあれば、お手柔らかにお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、菖蒲と申します。
とても興味をそそるお話ですね。SSということで、わかりやすく受け入れやすく作られていると感じました。文面が丁寧で、理解をするにたやすいこと。しかしその分殺人鬼に対する謎が大きく、続編があっても面白いだろうなぁ、と思いますね。最後の一文は、簡潔にまとめられた内容を上手く閉めていまして、正体のわからない何かによせる子供の恐怖心ですとか、大人の知らないもの(もしくは知らないふり)を見つけてしまう感性の高さなんかを想像致します。そういえば昔、箪笥の裏を覗くのが怖かったなぁ、とか。何にしても、不思議な雰囲気が好かったです。次回も期待しております。
2005-08-15 12:11:42【★★★★☆】菖蒲
始めまして、おんもうじというものでございます。
抽象的な話ですねー。いやいや、短いながらも何か感じるものを残すような感じですね。でも、僕はなんか殺人鬼は実は虫とかの勘違いだった、みたいなオチを読んでいたので、ストレートに殺人鬼だった、っていうのはびっくりしました。逆に笑 ですから僕からすれば物語に取り残されてしまった感覚ですねえ。あれ?みたいな。まあ、それはそれでそういうオチ、という形で受け取れましたけど(^○^)(^○^)てなんかえらそうに失礼しました(^○^)ではではー。
2005-08-15 17:50:07【☆☆☆☆☆】おんもうじ
作品読ませていただきました。冒頭の庭に殺人鬼がいるというのはインパクトがあって凄く良いですね。文章の淡々としたところが逆に作品の世界の異常さを強調しているようで私のツボにはまりました。一度心に住み着いた違和感というものは消えないんですよねぇ。それを短い文章で見事に表していたと思います。物事が解決しないまま終わっているのが余韻というか、主人公の恐怖がまだ続いていることを表していましたね。素直に面白かったです。では、次回作品を期待しています。
2005-08-15 23:11:31【★★★★☆】甘木
拝読しました。ふむ。書き方や流れは読み易く引っ掛からなかったのですが、些か淡白な気がします。綺麗に纏め過ぎたのかな。京雅の個人的な意見としましては、この展開でよいから緊迫感を織り込んだ短編にしてほしかったですね。全体的に巧く統制がきいていて、ラストの一行もよい味を醸し出していたと思いますよ。文量によってはもっと余韻のでる書き物で御座いましょうね。勝手気ままな事を語りました、御容赦を。次回作と、ジャックも御待ちしておりますね。
2005-08-16 00:06:44【☆☆☆☆☆】京雅
読ませていただきました。上下です。発想が物凄くいいですね。裏庭に殺人鬼ですか。貴様、何故そんなところに!!っという突っ込みはSSなので無しにしましょう(もちろん!)でも、凄いですよね。母親はいることがわかっておきながら近くで洗濯物を干すのですから。自分なら絶対にそこに近づきません。いや、その家に絶対にすみません。どこか遠くに引っ越してしまいたいです。おっと、感想でないものを書いてしまってすみません。それでは、次回も楽しみにしています
2005-08-16 11:20:44【☆☆☆☆☆】上下 左右
菖蒲様>
始めまして。水芭蕉猫と申します!
昔自分も箪笥の裏を覗くのが怖かった覚えがあります。大人の内緒にしてることって何となく解ってしまうんですよね。そんな話を書きたかったのです。受け入れやすいとの評価は素直に嬉しいです!!続編は…自分の力量じゃかけなさそうです;

おんもうじ様>
始めまして!水芭蕉猫と申します。
確かに超抽象的ですよね;自分でも痛いぐらい解ります。虫の勘違いオチは全く考えてませんでした;きっと自分がヒネクレてるからなんでしょうね。ストレートに鬼でした。評価と感想有難うございました!

甘木様>
勿体無いお言葉有難うございます。
世にも奇妙な物語っぽい感じを目指していたので、半端にして恐怖感の持続というのを狙ったのですが、甘木様のツボにはまって良かったです!心の奥でくすぶる違和感は次第に大きくなっていくものですしね。
感想有難うございました。

京雅様>
短くまとめすぎた感がありますか。ふむふむなるほど。初期は絶対短くしたくて、あちこち削りまくってしまって雑なことこの上なかったのを手直ししたもので、その頃の名残が残ってるのだと思います;;ただ、手直し後もコレが自分の限界だったもので、まだまだ精進が必要だなと改めて思いました。
良い感想・評価有難うございました!!

上下 左右様>
始めまして!
裏庭に殺人鬼が居たら楽しいなってぇ浅い考えで出来たものなので、突っ込みはご容赦を(笑)私もこんな家住みたくありません!!!出来ることなら引っ越してしまいたいものです;大きくなったらまず最初は引越しですね。
では、感想有難うございました!!!
2005-08-17 23:16:11【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
計:8点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。