『カイザーナックル 第一話〜五話』作者:Blaze / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 第一話 「ひでぶっ!」

「ここで待ってろ」
 金髪のヤンキーが言った。俺は今日、バイトの面接のために夜の街の静かな路地裏に来た。何のバイトかって?巷ではストレイドッグハント(Stray Dog Hunt)通称SDHと呼ばれている。まぁ直訳すれば野良犬狩り。この繁華街は夜になると凶器を持った不良共が屯する暗黒世界へと変わるらしい。俺は夜の繁華街なんてよく知らないが、俺をこのバイトに誘った奴がそう言ってた。そいつらを掃除するのがSDHの役目らしい。なんでそんな組織があるのか知らないが、とりあえずバイト代はいいらしい。今は金が欲しい。大学へ行くためだ。…は?誰がヤンキーだって?俺はただのガリ勉の受験生だ。家が貧乏ゆえに大学の学費は自分で稼ぐしかない。ガリ勉イコール非力ってイメージが強いかもしれないが、俺は違う。昔、近所のごみ置き場で古びたサンドバッグを拾ってから俺は変わった。サンドバッグを家の倉庫に吊るし、殴ること一日4000回。走りこみだって毎日やってる。目的なんて無いが、とりあえず気晴らしがしたいからやってる。勉強は学校オンリー。連れがいないから休み時間はずっと勉強している。
 
「得物は?」
 戻って来たヤンキーが言った。
「得物?」
「武器だよ」
「ああ、使わねぇ」
 武器使っても良かったのか。まぁ俺は武器なんて持ってないが。
「ふん、死ぬぞ。それじゃ、面接開始だ」
 そう言うと暗闇からのそのそと大男が現れた。スキンヘッド、黒い革のジャケット、ゴツイ顔。身長は200はありそうだな。
「こいつが新しい志願者か」
 大男が金髪のヤンキーに言った。
「ああ、死なない程度にやってやれ」
 ヤンキーがそう言うと、大男がポパイのような腕を振り上げた。え〜っと、こいつどっかで見た覚えがあるんだよな。俺は考え事をしながら男のパンチをかわした。考え事しながらでもよけられるほど奴の動きは遅かった。
「ほう、命拾いしたな。俺の一発目をよけたのはお前が初めてだ」
 こいつはいつもカメを相手に遊んでいるらしい。それにしてもどこで見たっけ、こいつ…。ブンブンと太い腕が飛んでくるが、遅い。俺は懐に飛び込んで奴の腹にボディを叩き込んだ。
「おうっ」
 奴は腹を抱えてうずくまった。見かけ倒しってやつか。腹の感触はまるでプッチンプリンだ。ついでに俺は思い出した。こいつ、なんたらの拳とかいう漫画で見たぞ、酷似だぜ。
「やりやがったな」
 奴が顔を上げた瞬間、そのゴツイ顔を蹴り上げた。
「がっ!」
 奴は動かなくなった。どうやら失神したようだ。それにしてもノリの悪い奴だ。ひでぶっ!とか言えねーのか。
「へ〜なかなか…」
 ヤンキーが倒れこんだ大男を見て言った。男のケツがピクピクと動いてやがる。
「合格か?」
「ああ、もちろんだ」
 ヤンキーが深くうなずいた。
「それと、質問があるんだが…」
 俺はヤンキーに言った。
「時給いくら?」
「一人やったら500円。いいだろ?」
 どうやら、やった不良の数だけもらえるらしい。まるでゲームだ。
「んじゃ、明日の0時から働いてもらう」
「ああ、わかった」
 俺は夜の街を後にした。さぁ、明日からバイトだ。…あ、いけね!うちの学校、バイトするのにいちいち教頭の許可がいるんだよな〜…なんてな。




 
 第二話 「雨上がりの桃色キャミ」


 雨の降っている朝。窓の外は薄暗い。こんな朝ほどだるいものはない。俺はベッドから起きて制服に着替えた。居間に行くとテーブルの上に食パンが一枚、皿の上に乗っている。俺の両親は毎日朝早くから働きに行く。共働きといえども母親はパート、父親はギャンブル。後者は働いているとはいえないか。俺は昔から父親の姿を見て育った。だからこそ父親の様にはなりたくないと思った。俺はなんとか大学に行って出世したい。そして母親を養いたい。まったく、親孝行な息子だ。
「さて、行くか」
 俺は玄関の黒い傘を持って外へ出た。



「白川、また休み時間も勉強してるぞ」
「考えらんねー!何が楽しくて学校来てんだよ」
 周りの奴らが勉強する俺の姿を見て何かほざいてやがる。学校なんて楽しいはずがない。俺にとっちゃ、ただの勉強部屋だ。それにしても俺のクラスはアホばかりだ。休み時間と授業時間の区別がつかないほど騒ぐ。俺みたいに真面目に勉強している奴は……いた。教室の隅の席でいかにもガリ勉って感じの女子が勉強している。センスの無い眼鏡をかけていて、髪は真っ黒、後ろで一つにくくっている。名前は知らない。クラスの奴なんて眼中にねえからな。こういう風に教室を見回したのも久しぶりだ。…おっと、授業が始まる。俺は古典の教科書を用意した。




「初仕事だ」
 0時が来た。野良犬狩りの始まりだ。俺は昨日の路地裏に来ていた。周りには金銀に光るアクセサリーをしたイカツイ面々が揃っている。こいつらも雇われているんだろう。
「おう、新入り」
 その中の一人、鉄パイプを持った男が俺に話しかけてきた。夜にもかかわらずサングラスをかけていて、体はひょろっとした感じ。よく面接に合格できたな、その体で。まぁ、面接官があれだから不思議もないか。
「なんすか?」
 俺は面倒くさそうに答えた。
「お前、生身で大丈夫か?」
 武器を使わないのがそんなに珍しいのか、こんな質問をしてきた。
「ま、大丈夫でしょう。俺はチンピラにやられるほどトロくないんで」
「へぇ、どこからその自信が湧いてくるのか知らないが、がんばれよ」
 俺は軽くうなずいて腕を回した。
「あ、言うの忘れてた」
 鉄パイプの男が振り向いて言った。
「獲物、やったらネックレス盗って来い。大抵の獲物はネックレスをしている。集めたネックレスの数だけ報酬をやる」
「やるって、あんたは?」
「ああ、俺は一応SDHの頭だ。よろしくな」
 どうやらこいつがSDHのボス。もっとゴツイ奴を予想していたが、以外だ。こんな弱そうなやつが…。
「おっと、話しすぎた。そろそろ始めるぞ」
 ボスの声でゆっくりとメンバー達が腰を上げ始めた。路地裏から通りに向かう。雨で濡れたアスファルトが街灯に照らされ、不気味に光っている。空気は湿っていて、雨の臭いがする。この臭いはなにか危険な臭いにも思えた。
「よし、ゲームスタート。時間は1時まで。終わったらさっきの路地裏に集合だ」
 メンバーが散り始めた。皆、手には鉄パイプ、木刀、警棒、金属バット。俺は素手。武器など無くともチンピラくらい余裕でやれる。そして俺は腕を鳴らしながら通りを歩き始めた。前方の暗闇から何かを感じる。

――数分後、なにやら金属の音がする。…ああ、これは金属の何かがアスファルトを擦る音だ。

 おそらく、獲物だ。
 
 俺は全力で地面を蹴り、前方の暗闇に飛び込んだ。先制攻撃でやる。最初に顔面パンチを食らわせれば優位な立場に立てる。そしてひるんだ所を徹底的に攻める。俺のストリートファイト理論だ。まぁ一般的な考えかもしれないが。
「ん?」
 暗闇の獲物の声がしたがもう遅い。俺の間合いだ。奴は俺のものだ。俺は拳を全力で突き出した。湿った空気を切り裂き、俺の拳は暗闇に突き刺さった。

 だが、手応えがない。

 …かわされたのだ。俺は勢い余って奴の横を通り過ぎてしまった。まずい!カウンターが来る。案の定、背中に衝撃が走った。おそらく金属の棒のような物で殴られたのだろう。意識が飛びそうになったがなんとか体制を立て直した。…く、まさか俺が一太刀食らうとは。チンピラごときに。
「へ〜威勢がいいねぇ。私、そういうの嫌いじゃないよ」
 女!?目を凝らして見てみると、そこには茶髪ショートの女がいた。しかもかなり整った顔立ちだ。薄ピンク色のキャミソールに水色のブラウスを羽織っている。胸には十字架のネックレス。ただ、かなり違和感があるのが右手の金属バット。
「お前、何?」
「何って何よ?君こそいきなり殴りかかってきたじゃん!」
 なんだこいつは?チンピラには見えないが……金属バットを除いて。
「やるの?やらないの?君、SDHでしょ?」
 女が眉をしかめて問い詰めてきた。
「え?なんで知ってんだよ」
「大体見当がつくし。だってさっき路地裏に入っていくの見たもん」
 路地裏イコールSDH。どうやらそういうイメージが定着しているらしい。

「そっか、SDHか。じゃ、潰しとこ」
 



 第三話  「授けられし武器」


 
 バイト初日の最初の獲物。

 予想もしなかった…。こんなに可愛くて強いとは…。俺は奴の前にひざまずいていた。俺のパンチはことごとく金属バットで打ち落とされ、一度も奴に触れることができなかった。拳はかなり腫れ上がっている。これ以上戦うのは無理だ。
「君、バカだね。ここに素手で来るなんて」
 奴は俺を見下ろして言う。蜜柑のような柑橘系の香りが漂う。きっとこいつの香水だ。こうして見ると普通の女だが、奴の動きは普通じゃない。奴の振り回す金属バットは全く見えないのだ。勝ち目など無かった。俺はこの仕事をなめていたのかもしれない。自分の力を…過信していたのかもしれない。

「さて、仕上げ仕上げっと」

 金属バットが振り上げられる。俺は恐怖で顔を上げることができなかった。いつの間にか俺の肩は激しく震え、暴れる心臓の音が聞こえてきた。

 …怖い。俺、殺される…?死ぬ?

「ぷっ、震えてる。かわい〜」
 奴が笑った。俺は恐怖と屈辱で胸がいっぱいだった。


「だから生身で大丈夫かって言ったんだよ」
 
 その時、俺の後方から男の声が聞こえた。聞いたことのある声…。
「この獲物は俺にパスな」
 振り返るとSDHのボスがいた。鉄パイプを肩に担いで仁王立ちしている。…助かった。体の中の何かが抜けた…。
「あ〜、君はSDHのボスだね?」
 奴が嬉しそうな声で言った。ボスに会えたのが嬉しいのか…。
「いかにも、俺がSDHのボス。以後お見知りおきを、お嬢さん」
 サングラスのフレームに中指をあて、余裕いっぱいの声でボスが言った。だが、こいつはお嬢さんなんかじゃない。金属バットを振り回す姿はまるで鬼神だ。
「そんなジェントルマンな自己紹介したって容赦しないよ。君のそのサングラスには賞金がかかってるんだから!」
 やはりSDHのボスともなれば賞金はかかるものなのか…。奴がボスに向かってバットを振り上げ、目にも留まらぬ速さで振り下ろした。

「見かけによらず速いんだね、お嬢さん」
 ボスは余裕で鉄パイプでバットを受け止めていた。俺の真上で。
「君なかなかやるね〜。私のバット受け止めるなんて、神業だよ」
「そりゃどーも」
 そう答えて、ボスはすっとバットを奪った。

「あっ!」 

 奴が叫んだ。バットを奪われるなんて予想もしていなかったみたいだ。
「美しい君にはこんな危ない物は似合わない。さっさと帰れ」
 ボスがダンディな声で気取って言った。
「なっ!」 
 奴の顔が真っ赤になった。照れているのか…。
「ち、畜生!覚えてろ!…それと私は奴じゃない!ナツミだ!」
 ナツミは顔を真っ赤にしたまま、暗闇に走り去った。俺が使っていた代名詞に気づいたのが奇妙だが、あの鬼神があんな顔を見せるなんて、かなり意外だ。


「…おい、新入り。こういうのは今回だけだぞ。次からはお前一人でやれ」
 ボスが厳しい声で言った。俺はただ黙っているしかなかった。これほどの屈辱を味わったのは初めてだ。
「今日は帰って休め。それと…」
 ボスは黒のジーンズのポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。
「これ、お前なら使いこなせそうだな」
 ボスの手の平には、黒く輝くカイザーナックルがあった。カイザーナックル…手の親指以外の四本の指にはめる武器だ。拳を守り、なおかつ金属の重みによりパンチの威力を高める。使用者によっちゃ、凶器にもなる。
「…どうも」
 俺はそれを受け取った。この世界で生きていくにはこれが必要だと思った。
「じゃーな、明日はしっかりやれよ」
 ボスは俺の肩をポンと叩いて闇に消えた。俺はカイザーナックルを右手にはめた。腫れた拳に金属の冷たさが効いてちょっと気持ち良い。そしてストレートを打ってみる。拳に重みがかかる。これがあれば、俺は生き残れるのだろうか…。ナツミに会ったら、今度は勝てるだろうか…。
 
 
 俺は家に帰って朝までサンドバッグを殴り続けていた。カイザーナックルを手にはめて…。





第四話 「やってやる!」


 破れたサンドバッグからサラサラと砂が流れる。
 砂は倉庫の床へ流れ落ち、辺りに広がる。腕時計を見ると朝の7時。俺は一晩中、カイザーナックルを手にはめてサンドバッグを殴っていた。汗を吸った服は重く、冷たかった。

 俺は弱い。

 昨日、それを自覚させられた。俺は大抵の不良は倒してきた。肩がぶつかっただけでからんでくる不良、街中でかつあげをしようとする不良、SDHの面接官。
 …俺は自分が強いと自覚していた。誰とやりあっても勝てる自信があった。だが、世界は広く、残酷だった。強くなければ生き残れない暴力に溢れた夜の街。あんな危ない場所で不良狩りなんて仕事をしようとしたことに後悔している。
 …でも、やめられない。やめようと思えばやめられることなのに俺の何かがやめさせてくれない。…だから俺は今夜も行く。

 
 

「なぁ、あいつ目付きやばくね?」
「うわっ、なんだあれ。目が真っ赤だ」
「勉強のし過ぎじゃねーの?」
 教室の野郎共が俺を見る。別に良い…俺はお前らなんか眼中にねえ。

 俺は机にうずくまって眠りに入った。夜のために体力を温存しなければ。今夜はやる。今夜は…やってやる。






「君は昨日の?」
 昨日、俺をやろうとした金属バット女、ナツミ。奴が俺の前に立ちふさがった。水色のワンピースを着て、金属バットを肩に担いでいる。茶色のショートヘアが夜風になびいて綺麗だった。だが、こいつは見た目からは予想できないような動きをする。そう、鬼神のような。
「…やってやる」
 俺はすでにカイザーナックルを装備していた。今日は負けない。

「やめよう…」

 …予想もしなかった奴の発言。ナツミはそう言って金属バットを地面に捨てた。地面に落ちたバットがカランカランと音を立てた。
「は!?何を今更っ!俺はお前を狩る!」
「だって…」
 意味不明だ。あんなに好戦的だったこいつが戦闘放棄なんて…。

「早く起きないと、学校閉められちゃうよ!」

 顔を真っ赤にして、ナツミがわけのわからない事を言った。


 
 
 
 
ん…誰だ、俺の肩を叩くのは。
「あの…白川君?」
 ナツミとは違う、か細い女の声だ。ああ、そっか。
 この感覚、俺は夢を見ていたのか。俺を起こしてくれる奴がいるとはな。しょうがない、返事をしてやる。
「…何?」
 俺は顔を上げて返事をした。暗闇の世界の住人だった俺の眼が光の世界へ引っ越す。そのときに受ける光というカルチャーショック。それが邪魔して女の顔が見えるまでに少し時間がかかった。
「5時だよ?帰らないの?」
 そこにいたのはセンスの無い眼鏡に黒髪を一本に束ねた女。ああ、こんな奴いたっけ。確か…俺と同じガリ勉だ。
「余計なお世話だ」
 俺は冷たく言い放った。こいつ、俺を自分と同類だと判断して話しかけてきやがったに違いない。
「目が真っ赤だよ?…大丈夫?」
「ああ、そうだよ。俺はお前と同じガリ勉だからな!勉強のし過ぎなんだよ、悪かったな!」
 寝起きのイライラ炸裂。俺の寝起きは機嫌が悪い。
「あ…ごめんなさい」
 女は今にも消えそうな声で謝って、教室を出て行った。
「はあぁ」 
 ため息が出た。さて…帰るか。帰って飯食って、シャドーして、バイトだ。俺は眠い目を擦って学校を後にした。


 

「おう白川、調子はどうだ?」
「まあまあっす」
 0時。俺は路地裏に来ていた。ボスが鉄パイプでゴルフのスイングをしながら俺に訊いた。周りに集まった奴らも今か今かと狩りの始まりを待っている。昨日より数が減ったような気がするのは気のせいだろうか。
「白川〜、今日は負けるなよ」
「はい、今日はやります」
 俺はびしっと返事をした。そういえばどうしてボスが俺の名を?俺はこのバイトを始めてから自分の名前を口にしていなかった。


「よし、ゲームスタート」
 ボスの声でメンバー達が動き始める。昨日も見たこの光景。あのときの俺は軽い気持ちだった。だが、今日は違う。今日は俺がデビューする日だ。
 

 ―――俺は昨日と同じルートを歩き始めた。あいつに会うことを期待して…。





 
 第五話  「弁慶と壊れ始める牛若丸」

 
 
 「来た来た」

 俺はナツミの事を考えながら真夜中の繁華街を歩いていた。その時、右の方から男の太い声が聞こえた。右を見ると、閉店した店のシャッターにもたれかかっている影があった。今日の最初の獲物はこいつか。
 男が街灯の明かりの下に出てきた。金の長髪、身長は俺より少し高いくらい。175ってとこか。銀色の大きいドクロのネックレスをかけている。服装はダボダボの黄色のTシャツ、ジーンズ。俗に言うB系ってやつか。武器は……薙刀!?刃は付いておらず、木製だがかなりリーチの長い武器だ。普通は男の使う武器ではない。薙刀とは確か戦時の女学生が習っていたものだ。俺の祖母からそういう話を聞いたことがある。
「早速だが、仕事をさせてもらう」
 男の珍しい武器に少し驚いたが、俺は拳を構えた。もちろん右手にはカイザーナックル。今日は失敗するわけにいかない。
「おお、お前もSDHとかいうやつか」
 どうやらこの街でSDHを知らない奴はいないようだ。
 そして、男も薙刀を構える。それにしても…長いな。この武器からは突き、打ち、二つの攻撃パターンが考えられる。だが具体的にはどういう動きをするのかわからない。少し様子を伺うことにしよう。
「それじゃ、やるぞ」
 
 男が接近してきた。…と、思った瞬間、俺の鼻の先には薙刀の先端があった。

――紙一重、俺は頭を下げてかわした。俺の髪の毛の中を薙刀が走った。パラパラと目の前に髪の毛が落ちてくる。一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 俺は後ろにステップして奴との間合いを空けた。ああ、やっぱ強え…。この街は化け物揃いか?それとも運悪く二度も化け物に出会っただけか?やべぇ、足が震えている。怖くない…怖くないはずなのに、体が怯えている。
「逃げんなよ!」
 男が急接近してきた。俺は動くことができず、頭を腕でガードした。周りは見えないが、左横腹を打たれたことに気づいた。だって、かなり痛えし…。
「あぁぁ」
 あまりの激痛に声が漏れた。声を出さずにいられない、重く込み上げてくる痛みだ。なんとかこれをこらえて、両腕の隙間から前を見ると、薙刀を振り上げた男の姿があった。

「やべっ!」
 俺は何とか左方向へ飛んだ。逃げ遅れた右足に薙刀が当たった。どうやら痛みはない。軽く当たっただけだ。
「ぬん!」
 安心している暇はねえ。男が薙刀を大きくスイングした。無論、右横腹にヒットする。
「かはは、弱え〜」
 男が笑った。くそっ、この武器は厄介だ…。弱点、弱点探さなきゃ…。ってか弱点あってもこの臆病な足で動けるかどうか…。俺は細長い薙刀を改めて見た。

 …そうか。こんな簡単なことを忘れていたとは!長物は…間合いを詰められると何もできなくなる!

「この勝負、俺の勝ちだ!」
 俺は震える両足を思いっきり叩いて一気に走りこんだ。そのドクロ、俺がもらう!!

 俺は薙刀の暴風域を越え、台風の目に飛び込み、核にボディを叩き込んだ。俺の力にカイザーナックルの重さが加わり、人の力を超えた力が男の腹に突き刺さる。

「がはッ!」
 男が大きくひるみ、隙を見せた。俺はすかさず男の顔にストレートを打ち込んだ。グシャっとした衝撃が拳に伝わる。これは鼻が折れる感触だ。…やった。ここまでくれば俺の勝ちだ。

「チェックメイトだ!この野郎!!」

 俺はさらに男の顎に渾身のアッパーを入れる。男が夜空を仰ぎ、後ろに倒れた。男の金の長髪が地面に広がり、主人を失った薙刀の倒れる音が大きく響く。
 やったぜ…。俺はやった!初めての手柄だ。やっぱ俺は強いんだ。もっと自信を持っていいんだ。さぁ、ネックレスを頂くぜ。俺は倒れた男を見下ろした。

 倒れた男は白目を剥き、顔が血だらけになっていた。

 俺はこんなになるまで人を殴ったことはなかった。
 だが…何だろう。この、体中から湧き上がる快感。気がおかしくなりそうなほど、俺は興奮し、心臓が暴れだしていた。俺は…人を痛めつけて興奮しているのか?まさか、そんなはずはない。それじゃ快楽殺人者みたいじゃねえか…。いや、これは初めての手柄だから興奮しているんだ。そうだ、そうに違いない。これはただのバイトだ。好きでやってるんじゃ…ない。

 でも…普通より喧嘩が強いと言えど、俺はどうしてこのバイトを選んだ?

 俺は怖くなり、倒れた男のドクロのネックレスを奪ってその場を去った。


 六話に続く

 



2005-08-18 02:16:11公開 / 作者:Blaze
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■作者からのメッセージ
少しずつ更新していこうと思います。量が少なすぎたらごめんなさい。
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