『偽りの悪態』作者:mad-clown / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「ほんと、あんたって奴はバカとしか言いようがないね。」

あたしは植物人間に向かって矛盾していて嘘ばかりのを悪態をつく。

「あ〜ぁ、あんたがそんな風になって、まだ一年だよ。」

この植物人間はあたしの恋人で、こんなんになってからもう一年も経つ。

「もっと注意深くしてればこんなことにはならなかったのにさ。」

ただのバイクと乗用車の接触事故で、乗用車のおっさんは無傷。

バイクの彼にも外傷なんてほとんどなかった。

「そんなんになっちゃって、これからどうすんのさ?」

だけど、彼はバイクから投げ出された時、運悪く頭を強打した。

「仕事も何もできないじゃんか。」

彼に残された感覚は、聴覚と右手の人差し指の触覚。あとは、わずかにその人差し指が動くばか

り。

「あの事故、被害者は確かにあんただけど、あんたにも非はあるんだからね。」

実際悪いのはおっさんだ。彼に非なんてこれっぽっちもない。

飲酒運転、それ以外の原因はなかった。

「あんたがあんな事故になんて遭わなきゃあたしだって毎日見舞いに来る事なんてないのにさ。」

最初のうちはたくさんの見舞いが来てた。

でも、今じゃあたしひとり。

「親戚とか普通見舞いに来るもんじゃないの?」

彼は幼い時に両親を亡くしてる。

「差し入れ持ってさっさと来やがれってーの。」

だから他人からの同情には人一倍敏感で、とても嫌う。

「あんたさ、ここ食べ物何もないけど腹減らんの?」

最初のうちに来ていた見舞い客達はみな彼に同情していた。同情ばかりで他に何をする気もないく

せに。


「ちぇっ、その管から栄養は全部摂ってるってわけ。」

彼はそれを嫌がっていた。それがつらかったのだ。でも、その気持ちを伝える事はできなかった。

「見舞い客の配慮もしやがれってんだ!」

だからあたしが彼の見舞いも含むすべてを引き受けた。同情の余地をなくすため。

「あんたさぁ、あたしが来なくなったら寂しい?」

私は彼に同情なんてしない。

「それともあたしなんて必要ない?」

彼はちっともかわいそうなんかじゃないから。

「あんたはあたしのこと、好き?」

彼は強い人で、たくさんの人に好かれてて…あたしの憧れだから。

「冗談だってば!あたしは嫌と言われようとも毎日来てやるから!」

彼に好かれたくて、同情じゃなく、ホントに好きなんだってことをアピールしたくて……

うまく愛情表現の出来ない不器用なあたしは今日も矛盾と嘘にまみれた悪態をつくことしかできな

い。

「何?今日はやけに黙ってんじゃん。」

彼の耳にちゃんと届くよう大きな声で…。

「ちょっと、聞いてんの?なんか言えっての!!」

彼は悪態からあたしの本当の気持ちをちゃんと汲み取ってくれる。

彼の人差し指が空気をなぞる。

ーき・よ・う・は・や・け・に・う・れ・し・そ・う・だ・ねー

「ばか。今日はあんたの誕生日だよ。」

彼の人差し指が照れながら笑った。
2005-08-05 19:59:17公開 / 作者:mad-clown
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