『僕と彼女』作者:風間新輝 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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人は何の為に生き、何の為に死ぬのだろうか?俺は日が暮れかける様子を2階の自分の部屋から眺めながら、そのような事を考える。ここで暗いと思ったやつは生きている時間をただ浪費するだけの馬鹿だ。結論が出ないことに時間を費やすほうが愚かだって?う〜ん、そう言われると確かにそんな気もする。では、有意義に生きるとしよう。困った。有意義とはなんなのだろう?ますます、思考という甘い罠に嵌る俺。なんかかっこいい気がする。
「な〜に、かっこつけて夕日なんか見てんのさ。ガンダムのくせに」
「ガンダムじゃないって言ってるだろ!僕は岩田武(いわたたけし)だ!」
俺を某機動戦士扱いした無礼者は木津手春子(きづてはるこ)。俗に言う幼馴染みだ。自分も切手張る子と読めないこともない変な名のくせに俺を馬鹿にする酷い女だ。でも、気の小さな俺にはそんなこと言えやしない。いつも勝手に部屋に入ってくるし、実に嫌な女だ。
でも、美人だから羨ましがる友達は多い。多少、その時だけは春子の幼馴染みだということに優越感を感じる。だが、基本的には話しているだけで疲れるので、できれば代わって欲しい。
 最近やたらと彼氏ができたと俺のところに自慢しにくるが、毎日ここに来ているので、おそらく嘘だ。本当なら、彼氏がいるのに、幼馴染みの家に毎日来ていることになる。そのことからも万に一つ程度の可能性しかないと思うのだが、本当だとしたら、俺は日本の女性の慎ましさは何処にーと叫んでいるだろう。どこではなく、いずこと読んでいただきたい。別に俺が、女性は慎ましくないといけないとか差別するつもりではまったくない。俺の好みがそういうタイプなだけだ。あしからず。
「別にいいじゃん。もう、クラス中に知れわたってんだし」
「誰のせいだよ」
「知らな〜い」
 お前のせいだっての。わかってるくせに白々しい。俺が高校に入り、気分新たに、これから始まる高校生活を期待してたのに、春子のやつが「ガンダムも同じクラスなんだ〜。よろしく」って大声で叫んだせいで、入学式からあだ名はガンダムで定着したんだ。死ぬまでこの屈辱を忘れないでおくこと決意したのは言うまでもない。
「何をしに来たんだ?また頭の中だけに存在する彼氏の自慢か?」
 あっ、やべ!思ってることがでちゃった。春子、気を悪くするかな〜。
「やっぱ、気づいてたか。ガンダムの部屋ってクーラー効いてるし、お菓子ただだからね。偽りの彼氏の話はここに来るこ・う・じ・つ」
 なんだよ、それ。マジで帰って欲しいんだけどな。
「はいはい。もういいから、食べたら帰って」
「ガンダムのくせに生意気だよ。あ〜あ、あの事ばらしたくなっちゃったな〜」
 ま、まさかあれか!?
「中学3年にもなって雷が怖くて泣いてるんだもんな〜」
「春子さま、すみません。いくらでも、僕の汚い部屋でおくつろぎください」
「わかればいいのよ。あ〜あ、喉乾いたな〜」
 さっき、俺のジュースを勝手に飲んだのに、なんてヤツだ。やっぱり嫌いだ。
 でも、ジュースを取りに行く情けない俺。ふっ、皆、惨めな俺を笑えばいいさ。
 1階の冷蔵庫からジュースを持って、自分の部屋に戻ると、春子がなにかを読んでいる。
「あんた、性格悪いわね〜。なにが佐藤のゴリラは自分が霊長類にすぎないからテストを難しくして優越感に浸っているよ。自分の頭が悪いだけでしょ」
 春子はけらけらと笑いだす。あっ、良く考えたら、人も霊長類だ。確かに頭はわるいかも。
「な、何、勝手に読んでんだよ!」
「見てわかんない?あんたの日記」
「出ていけ!2度とくるな!」
 無理矢理、日記を奪い返し、俺は怒鳴る。プライベートを勝手に覗くなんて最低だ。
「な、なによ。本当にばらすわよ」
「いいから、出ていけ!2度と来るな!」
 俺は春子の腕を引っ張り、部屋の外に追い出し、鍵をかける。暫くして、階段を降りる音がする。やっと帰ったようだ。もう、絶対に口をきかないと決め、ベッドにうつ伏す。小学校の時は、優しくて、おとなしくて、よく笑う子だったのにな。ちなみに初恋の相手だったりする。俺は春子のことを考えていた。あんな嫌なヤツのことなんか考えたくないのにな。おかしなもので頭の中は春子でいっぱいだった。

 僕は学校へと自転車で急ぐ。変な夢を見たためか、寝覚めが悪かった。誰かが泣いていて、僕は身動きをとれず、立ち尽くしているという夢だった。いつもの長い坂を下り、学校の門をくぐる。ギリギリでセーフ。後続の連中は指導部の先生につかまってやがる。俺はくだらない優越感に浸る。地下鉄にギリギリ乗れた時もこの優越感を感じる。つい、にやりとしてしまうのは俺だけではないはずだ。
 一階にある自分の教室に入る。一瞬、春子が視界に入るが、気にしないことにする。
 中年太りとはほど遠いが、後頭部は取り返しのつかないデンジャラスな展開になっている担任が教室に入ってきて、ホームルームを始める。春子が日本史の授業中に教科書のフランシスコ・ザビエルに多少の改造を加え、担任に変貌させていたのを思い出した。いつもは思い出すことなんてないのに。春子にペースを乱されている自分に嫌気がさす。担任がくだらない諸連絡をして、ホームルームが終わった。誰も聞いてないのに未だ気づかない、可哀想な担任。でも、俺にはまったく聞く気がなかったりする。
 春子がこっちに近づいてくる。俺は意識的に目をそらした。
「武、武。ねぇってば」
 俺はちらっと横目で確認はしたが、春子を無視をする。俺は気は小さいが、強情だ。許す気はさらさらない。
「ごめんなさい。私が悪かったわ。本当にごめんなさい」
 ちらりとだけ、春子を見る。瞳がきらっと光っているように見えた。涙だ!あの春子が泣いているのだ。俺は思わず椅子から立ち上がってしまった。
「い、いいよ。こっちこそ言いすぎたよ」
 春子はにっこりと笑顔を見せた。春子の制服のスカートのポケットから目薬がちらっと頭を出している。
 春子の作り物の涙は頬をつたる。
 俺は呆然と立ち尽くす。
 夢の通りに。
 やっぱり、嫌な女だ。

2005-08-04 16:28:58公開 / 作者:風間新輝
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