『世知辛い世の中』作者:メリオ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 あいつがやって来たのは先月だった。
 学び舎からの帰りに通る、川に架かる木製の丈夫な橋の隅の方にあいつがいた。貧相ながら防寒をして、そこにぽつんと哀愁を漂わせて、存在していた。目を合わせると同時に僕らは仲良しになった。
 どこから来たのかわからないからか、僕の周りの奴はあいつを毛嫌いして、仲が良かったのは僕だけ。そんなあいつがどうして僕と家族ぐるみの仲になれたかっていえば、よくどこかで見るパターン。泣き落とし。親父は、ちゃんとした奴が良いって言うんだけど、僕にはこいつ以外は考えられなかった。
もちろん、その代わりに僕が忙しくなったのは言うまでもない。
あいつは僕の生活を乱し始めた。こんなことを僕が言うもんじゃないけど、思ってたよりきついことってよくあるんでしょ。言ってる時は、充分出来ると思ってたことが出来ないことなんて、多々ある。しかも、あいつは我儘なんだ。そのせいで、朝が苦手な僕が歩行に何度、付き合わされたことか。
 あいつは舌に敏感でもある。
「なぁ、これを何で食わないんだよ? 今日はこれしかないんだよ。我慢しろって」
 あいつに飯を与える時は、いつも四苦八苦する。
「なぁ、よく考えてみろよ。例えば、果汁ゼロ%のオレンジジュースを飲んだとして、それが俺らが普段認識しているオレンジジュースの味だったら、誰か文句言うか? 逆に果汁百%のオレンジジュースだったとしても、俺らの予想外の味だったら、それこそこれはオレンジジュースじゃないって罵るだろう。そんなもんだって。世の中は理不尽なもんさ。これだって食べてみたら、最高級の牛肉の味でもするかもよ」
あいつはうんともすんとも言わずに息を荒げているだけだ。こいつって教養ないなって僕はつくづく思うが、そんなこと考えている自分が、教養がないのかもしれない。
 そんなこんながあって、あいつが来てから半年が過ぎようとしていた頃から、僕にはあいつを生かしているという意識が芽生え始めた。あいつには、僕がいないとダメだ。あいつを見つけたときからそうだった。あいつは僕がいなければ、死んでいたに違いない。だから、あいつは僕に奉仕をしなければいけない。その代わり僕はあいつを生かしてやる。今の政治体制だ。
 ある日、あいつが僕にいきなり噛み付いた。そりゃあ、三日間、友達と旅行に行ってて、放っていかれたんだからその気持ちはわからないでもない。僕の周りの奴はあいつの世話をしてくれないしな。でも、おまえは僕に生かされているんだぜ。そのことをわかっているのか? 僕はお前のご主人様なんだぞ!
 そう思ったら、僕は周りが見えなくなり、我が家伝統の刀を持ち出し、ほとんど無意識にあいつを切り殺していた。
 あいつはキャウウンと鳴いて息をひきとった。これも仕方がない、主人に逆らう奴なんて、殺されて当然だ。僕は、そう言い聞かせた。
 しかし、時代が残酷なもので、あいつを殺したことが役人に知られると、僕は処刑されることとなった。あんな奴、拾わなければ良かった……。
 
時、江戸時代。将軍、徳川綱吉。
2005-07-12 20:32:05公開 / 作者:メリオ
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違和感ありますかね? 感想待ってます。。。
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こんばんわ、菖蒲です。
ああ成る程、「泣き落とし」は立場を変えると「鳴き落とし」でもあったわけですね?噛まれたなどの行為を人間にあてはめますと半ば大変なことになるので、想像すると笑えます。ただここで、冒頭の説明からですと時代背景がよくわからず、本当に最後の部分だけに一揆に結末が詰め込まれているように思います。「学び舎」という言葉や「木製の橋」などから、既成に沿った考え方を捨て時代の趣をくんでいたなら確かに気づくことなのですが、それでも描写などがまだ物足りないように感じました。オレンジジュースの例えなどでさらにそれが混濁したように思えましたので、理解には困らない例えでももう少し江戸の感に有り得そうなものに変えてみるとよいやもしれません。失礼なことを申しましてすみません。もしもそれらを狙ってお作りになったのなら、私はとても余計なお世話となることを致したと思います。私的には、綱吉の生類哀れみの令は見習いたいものがありますので、まとめは良かったと頷きました。それでは、次回の作品に期待しております。
2005-07-12 21:54:10【☆☆☆☆☆】菖蒲
はじめまして。こんばんわ。トロサーモンと申します。
オチを先に見てしまって冷静な判断をできませんが、なるべく冷静に判断しますと、個人的にオレンジジュースの下りの部分は面白かったです。町田庚という作家がおりましてその人の『パンク侍斬られて候』と言う話に時代劇なのにロックの話が出てきて面白かったのを思い出しました。
話は結構面白かったので次回作も頑張って下さい。
2005-07-12 23:17:16【☆☆☆☆☆】トロサーモン
拝読しました。なるほどなるほど、そうで御座いますか。オチを軸に構成された物語を書ける人が羨ましい京雅で御座います。私はそういうものが苦手な質で御座いまして……さて、そんな私で御座いますけれど気に掛かった事があります。オチを軸に展開させるという事は練りに練る必要があると思います。オチを悟らせないように遠回ししなければならない。文章が時代に合っていないのはそのための意図的なものであるのかどうか判断はつきませんけれど、それにしてはちょいと組み合わせが悪い。もっと古風な書き方をしてもよかったやもしれません。それとそのオチですが、この長さで魅せるには些かパワー不足であったかと。あと一転はほしい、若しくはもっと文量がほしかった。失礼な事ばかり書き込んでおります、申し訳御座いません。生類哀れみの令、動物を殺す事はいけない事で御座いましょうねぇ。仇をうつのも然り。殺生で何かを解決しようとすれば自ずと遺恨を生みそれがさらに遺恨を生む。ううん、何語っているんだろう(苦笑)。次回作期待しております。
2005-07-13 05:20:10【☆☆☆☆☆】京雅
感想ありがとうございます!! オレンジジュースや旅行が時代背景にそぐわないことはわかっていたんですが、江戸時代っていう雰囲気を出したくないって言うか、ギャク漫画的要素で、何でもありだろ!的なものを出したかったんです。 だから、軽い感じで、さらっとなるほどねみたいに読んでくれればいいかなぁって思ってました。  しかし、皆さんの意見は大変参考になりました。やはり、筆者の一方的な押し付けみたいな話は個人によって価値観が変わっちゃいますよね。。。
2005-07-13 23:52:48【☆☆☆☆☆】メリオ
初めまして、読ませて頂きました。生類哀れみの令。あの時代は綱吉がいくら愛犬家とはいえ、やりすぎですよね。オチとしては新しくて私は面白かったです。次回作も期待しています。
2005-07-14 02:28:37【☆☆☆☆☆】鈴木太郎
作品読ませていただきました。綱吉の時代は大変だったろうなぁ。でも、犬の管理は森家が管理しており、御犬小屋は東京の中野に造られていました。管理は森家そのものがやっていたので個人が犬の管理をしていたものは少なかったと記憶しています。などと真面目ぶったことを書いても仕方ありませんね。感想を書きましょう、もっとはっちゃけた感じで書いても良かったのではないでしょうか、その方がラストがより生きてくると思います。とことん江戸時代らしさを排除して(現代風をより強調して)書いた方がいいのでは……勝手なことを書いてすみません。では、次回作品を期待しています。
2005-07-14 08:39:46【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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