『一歩素直に。  (読みきり)』作者:朱雀 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約3.24枚
 一番難しいことは
 自分の気持ちと正直に向き合うこと。
 そう教えてくれたのは
 誰だっけ。
「あ、今日は幸助の誕生日だったね」
 学校の帰り道、親友の亜由美とゆっくりと歩いていて
 さりげなく私はつぶやいた。
 赤くなり始めた空を見上げて、亜由美の顔をチラリと見た。
「そうだね。なんか言ってあげたの?」
 亜由美はぶっきらぼうにそう言った。
 少し不思議に思ったけど、笑って言葉を返した。
「うん! オメデトウって言ってあげた」
 亜由美の顔が少しゆがんで見えた。
「なんかハルさ、最近幸助の話多くない?」
 最後の方の言葉が濁っていたけど、なんとか聞き取ることができた。
 そうかな。
 と聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいて、しばらく沈黙が続く。
 時々チラリと亜由美の顔色をうかがってみるけど
 夕日の赤色でうまく見えなかった。
 こんなに静かな帰り道はあっただろうか。
 なんで幸助の話に反応するんだろう。
 お腹の音が亜由美に聞こえませんように。
 いろんなことを考えていた。
 だんだん沈黙に耐えがたくなってきた私を救ってくれたのは
 亜由美の一言だ。
「幸助って……嫌われてるって知ってる?」
 その一言に私は眼を丸くした。
 亜由美は私の顔をわざと見ないようにしているのかわからないけど
 道路に転がってる小石を下を向きつつちょっとずつ蹴っていた。
 沼地幸助。
 顔は良くない。ニキビだらけで縦長だった。
 かなりの面食いの私だけど、友達としてはすごく仲が良かった。
 男子、女子なんて関係なく、幸助といると楽しかった。
「知らなかった」
 普通に答えたつもりなのに、声は一オクターブ低く感じた。
「まさかハル、幸助のこと好きとか……ありえないよね?」
 亜由美がくるりとこっちを見た。
 心配しているのかも知れない。
 親友として心配してくれてるのかも知れない。
「やっぱりね。ありえないでしょ! だって私も嫌いだったし」
 いつもの声で
 いつもの明るさで
 心の中で意識しながら話した。
「良かった。幸助の好きな人ってハルだって言ってたから…心配でさ」
 亜由美は笑った。
 私は別に驚かなかった。 
 結構噂になってたことだし
 でも自分でいうと、うぬぼれてるだけだと思われるから黙ってたけど。
 昔からリーダー的だった亜由美は、気に入らない人がいると
 すぐに敵にまわすような子だった。
 でも普通に話しているぶんには凄くいい子で
 私は亜由美が大好きだった。
 だから、亜由美に嫌われるのが怖かった。
 幸助を
 好きだと言って
 亜由美に嫌われるのが怖かった。
 みんなにハブられるのが怖かった。
 ――。
 いつか……貴方に伝えられるといいな。
 私がまわりを気にせず
 真っ直ぐに貴方を好きといえる日がくるといいな。
 顔の悪い貴方を愛せた自分を誇りに思える日がくるといいな。
 それまで――
 私を好きでいてくれますか。
2005-07-11 21:30:56公開 / 作者:朱雀
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■作者からのメッセージ
実話です。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、喪黒福造です。
どことなく切ない感じなんだけど後味がすっきりするいい話でした。ただどこにでもある2人の会話なんだけど内容が深くとても読みやすかったです。色々と言いましたが次回作楽しみしています。
2005-07-11 22:01:58【★★★★☆】喪黒福造
羽堕です(o*。_。)o読ませて頂きました♪うーん、確かに私もクラスに馴染んでいたいと思う気持ちは強かったと思うので、自分が嫌われるなら他人を一緒に嫌ってるふりをしてしまえと私も、そう言う状況になっていたら思ったかもなぁーとo(TωT )( TωT)o考えてしまいました(・_・。)(._.。)では次回作、楽しみしています(。・_・。)ノ
2005-07-12 00:22:42【☆☆☆☆☆】羽堕
初めまして、短くて読みやすくて…書きたいことがちゃんと決まっているからか心に残るものがありました。
実際ハルは幸助が好きだったんでしょうか…?
2005-07-12 15:07:12【☆☆☆☆☆】イヨ
初めまして、チェリーと申します。読ませていただきました。いやぁこういうお話好きです♪大好物です♪食べたいです♪←危険 よくいますよねクラスに。そしてなんだか嫌われたくないから一緒にいる、とかねぇ。たしかに このような状況はきついかと。う〜ん、でもなにか中途半端な改行がちょっと気になりましたかな。それを直せばもっともっと良かったと思います。しかも実話ですか!?ちょっとびっくり。ではでは、次回作期待してお待ちしております。 
2005-07-12 18:18:37【☆☆☆☆☆】チェリー
 お初お目にかかります(?)スズノと名乗っている者です。一番の感想はとても読みやすく解りやすかったです。普段なら「改行が多い! 」の一言をお見舞いしてくれるところですが(何様だ、コラぁ)改行により雰囲気が出ていて「あぁ、こういうのもいいなぁ」と思いました。
 ストーリーの方に口を出しますと「学生の社会なんてこんなんだよな」って頷いてたり(笑)確かにクラスの中心部は敵に回すとウザイですよねぇ…。特に悪いと思うところはなかったのですが、親友を敵に回すことの出来る親友は親友と呼べない気がしてなりませんでした。
 次回も頑張ってくださいw
2005-07-13 15:01:50【☆☆☆☆☆】鈴乃
作品読ませていただきました。以前「女の子って大変」というアメリカの児童研究者が書いた女の子の苛めの本をふと思い出しました。亜由美に嫌われると大変なんだろうな、女の子のイジメって結構精神の方ダメージきそうだし。ま、男の私には女の子の人間関係は分かりませんし、他人とつるむのが嫌いな私は頭だけで理解していただけですが……でも、2人の微妙な関係が上手く書かれていたと思います。では、次回作品を期待しています。
2005-07-13 22:33:28【☆☆☆☆☆】甘木
初めまして、如月夜宵(きさらぎやよい)と言います。
読んだ後の余韻が残っていい感じでした、そう言った形式の書き方でも充分伝わるんだなって勉強させていただいています。実話という事なので少し驚いている面もありますが、私も少なからず親友と呼べる人は現在います。嫌われたくないし、離れていってほしくないと言う気持ちもありますが、それに向かって今自分が何が出来るのか、そう思わなくてもいい方法があるのではないかと模索中です。最後から四行目の「私がまわりを気にせず真っ直ぐに貴方を好きといえる日がくるといいな。」と言う文章通り、私もそう言う人間になっていけたらなと思いながら読んでいました。
とても良かったです。次回作を楽しみにしています。
2005-07-15 23:49:49【★★★★☆】如月夜宵
拝読しました。社会という特異な空間において人間関係というものは己が主義主張を曲げても維持しなければならない時もあり、その本質においては生きてゆくという事に付随する必要な妥協と申しましょうか兎に角厄介なもので御座いまして、心の内にある感情を隠さねばならぬというのも多多あるもので御座います。その観点から言えばハルと亜由美の微妙な線を巧く表せていると思いました。ただ、命題に文量が伴っていないように感じます。冒頭の四行と最期の六行、これは唐突であり浮いているのですね。本文の内容に含ませるかたちをとればもっと入り込めたかなと。失礼な事を書き込んでおります、申し訳御座いません。対人関係を平たくするというのは思いのほか大変であるなぁと感慨深く漏らしつつ、次回作期待しております。
2005-07-16 01:56:37【☆☆☆☆☆】京雅
計:8点
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