『最高の幸せ』作者:夢幻焔 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約5.44枚

 でっかい化け物が恐ろしい武器を持って俺に近づいてきた。
 まだ若いのにハサミで生命線を切られ、他の仲間と一緒に透明な檻に入れられた後、監獄行きの真っ暗な船の中へ…。
 俺はてっきり殺されるものと思っていた。
 生命線を切られたからには、そんなに寿命は長くない。
 ある場所にたどり着くまでは暗闇の中でそんなことを考えていた。
 すると、いきなり光が差し込み、でっかい化け物に檻ごと鷲掴みにされた。
 「もうだめだ」と思ったが、化け物は何故か俺を透明な檻から出した。
 (うわぁ…握りつぶされるのか…)
 そんな考えが空っぽの頭に過ぎった。
 しかし、その考えとは裏腹に、冷たく、白い光がまぶしい場所へと俺を置いたかと思うと、そのまま立ち去っていった。
「おう、兄ちゃん。新入りかい?」
 後ろから良い声が聞こえたので振り返ってみると、真っ赤に輝き、艶々と光沢のあるおじさんがいた。
「あ、あの。ここは一体何なんですか?」
 とりあえず、自分のおかれた状況を把握するために、質問した。
「ここはさっきの化け物が、紙切れや変な円盤と引き換えに俺たちを連れて行く場所さ」
「どこに?」
「さぁ、連れて行かれる所のことなんざぁ誰も知らない。なんせ帰って来た奴は一人もいないんだからな」
 どうやらとんでもない所につれて来られたのは間違いないようだ。
 すると、今度は右から少々芝居がかったような声が話しかけてきた。
「お兄さん。随分とお若いですね」
 声のした方を向くと、眩しいくらいに輝く黄色いおじさんがいた。
「この辺りでは特に、私達のような黄色や赤といった方々が主に連れて行かれるようですよ」
 聞きも尋ねもしないのに、次から次へと色々教えてくれる。

 ――数分後、ようやくネタが尽きたのか、一人独走状態で話していた黄色いおじさんは、最後に気になることを言った。
「聞いた話によると、どうも連れて行かれた先では、私達にとって最高の幸せが待っていると聞いたことがあります」
「最高の幸せって?」
「いえ、私も詳しいことは分からないのですが…」
 どうでもいいことは山のように話す割りに、肝心なところだけ抜けていることに少し腹を立てたが、ここまで詳しく教えてくれたことには感謝している。
「まぁ、お兄さんもその『最高の瞬間』とやらを知りたければ、私達のように早く赤や黄色になることですね」
「そうですか…」
 早く赤や黄色にと言われても、俺はまだ成長途中で生命線を切られたため、長い間繋がっていたおじさん達とは訳が違う。
 それこそ、赤になれるか黄色になれるか、ギリギリのラインなのだ。
「けど、『最高の幸せ』って言うのは一度味わってみたいよなぁ…」



 次の日から、俺は『最高の幸せ』とやらを味わうために、ただひたすら赤か黄色に変わるべく、化け物どもの手から逃げ回るサバイバルが始まった。
 だが、逃げるというよりかは、俺を掴んでいく化け物どもが、勝手に手を離していくと言ったところか。
 ここへ来て、すぐに話しかけて来てくれたおじさん達も数日前に笑顔でこの場を去って行った。
 そしてさらに数日の時が過ぎた。
 俺はまだ生き残っていたが、寿命が残りわずかなのか、かなり老いたような気がしてならない。
「くそっ、まだなのか。まだなのか……」
 すると、目の前に銀色の大きな檻みたいな物を手で押しながら化け物がやってきた。
「もう、いいだろ…」
 心身共に疲れ果て、半ば自棄になっている状態で、何気なしに目をやった先には、銀色の大きな檻があった。
 そして、檻の鉄格子の一本に、ぼんやりと赤く染まった自分の姿が湾曲して映っていた。
「はっ、ははは…。やったぞ! これでようやく俺…も…っ」
 長い間、この時を待っていた。運良く化け物の手から逃れ続け、日に日に去っていく仲間達を見送りながら。
 そして実も心も疲れきっていた俺は、二度と目の覚めることの無い長い眠りについた。




「ちょっと! 店員さん!?」
 小さな店の入り口近くにある野菜売り場で、おばさんの声が高々と響いた。
「ど、どうかなさいましたか?お客様」
 銀色のカートを手にしている派手な服装で厚化粧気味のおばさんが、周りの人の迷惑も省みず大声で喚き散らしている。
「どうしたもこうしたもないわよっ! ピーマンがこんなに腐ってるじゃないの! おまけに変な臭いまで出てるし!」
 店員が赤や黄色、緑といったピーマンを置いてある売り場に駆け寄る。
「あっ、すみません。今すぐ片付けますので!」
「まったく、こんなものを平気で置いておくなんてどういう神経しているんでしょっ!? せっかく夕食にサラダを作ろうと思っていたのに、これじゃ作る気もなくすわよっ!」
 かなり個人的なことで文句を言っている客をなだめるのもほどほどに、店員は慌てて店の奥へと走っていった。
 しばらくすると、ナイロン手袋とゴミ袋を手に戻ってきて、妙に赤っぽく変色し、異臭を漂わせているピーマンだったモノを回収し、持ってきたゴミ袋の中にポイッと放り込んだ。


〜〜〜終わり〜〜〜
2005-07-06 23:18:48公開 / 作者:夢幻焔
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■作者からのメッセージ
どうも、ご無沙汰してます。夢幻焔(むげんほむら)です。
 いや、今回もまた短いです(^^; 単に長いのを書くのが苦手なだけだったりもしますが…。
 今回は、友人と2人で勝手に「お題を決めて書いてみないか?」と話合った結果、うやむやのうちに何故か『赤ピーマン』というお題になってしまいました(爆)
 そして書いていくうちに、こういう話になってしまいました。 経緯はふざけてますが、中身は真面目に書いたので是非読まれた方々がおられましたら、感想や酷評を頂けると幸いに思います。それでは失礼しますm(_ _)m
この作品に対する感想 - 昇順
途中まで、本当に何のことだかさっぱりわかりませんでした。まさか、ピーマンだったなんて……。
夢に憧れ続けて、朽ちていった緑のピーマン。かっこいいようなそうでないような。でも、『最高のしあわせの瞬間』は経験できなかったけど、彼は最後最高に幸せだった、とそう思いたいです。
最後、オチの部分で
“店員が赤や黄色、緑といったピーマンの”
ととぎれているのは、なにか意図があってのことなのか。少し、違和感を感じました。
次回作期待してます!!
2005-07-04 14:43:24【☆☆☆☆☆】umitubame
読ませていただきました。ああ、普通に騙されました――普通に。思わず二回読み返して笑ってしまった次第です(コラ 先に仰っていますが、”店員が赤や黄色、緑といったピーマンの”のところで途切れているのに「?」を感じてしまったというのがひとつ引っかかっているところですかね。個人的には『檻の鉄格子の一本に……』の一文が気に入りました。軽く読めたっていうのがあたし的にgoodだったので、酷評っていうかただの感想になってしまいました。申し訳ありません(´∀`)次回作もお待ちしてます♪
2005-07-04 15:08:13【☆☆☆☆☆】ゅぇ
あぁぁ、すみません。ご指摘いただいた『店員が赤や黄色、緑といったピーマンの』というところは単なる脱字です(汗)凡ミスです。すみませんでしたm(_ _)m陳謝
2005-07-04 17:09:54【☆☆☆☆☆】夢幻焔
ほうほう、まさかピーマンのことだったとは思いませんよ。「空っぽの頭」「赤や黄色」少しピンときたんですがやはり確信にはいたらず、気が付けば最後になっていました。しかし、かわいそうですよね、腐ってしまうなんて。自分もこのまましわがれて、腐っていってしまったらどうしよう!?うう〜、おそろしやおそろしや…。それでは、次回も楽しみにしております
2005-07-04 20:44:11【☆☆☆☆☆】上下 左右
拝読しました。ああ、おお、なるほど。と読み終わって微笑みつつ、もう一度読み返しました。こういった感じの作品は読み返すと面白いですよね。私は前に同じようなものを書いたのですが、オチへ辿りつくまでの道が厳格過ぎて後味が悪くなってしまいました。これは軽やかでよかったです。次回作期待しております。
2005-07-04 21:31:51【☆☆☆☆☆】京雅
あぁ、切ない……。どうも、恋羽(ここは)と申します若輩者でございます。作品の方、読ませていただきました。やばいですね、これからもう軽々しくピーマン食べらんないですね(苦笑 でもふと疑問。ピーマンって緑のやつをほったらかしてたらその内赤や緑になるもんなんだろうか、という夢の無い疑問ですが、まぁほったらかしておいてやって下さいな。ピーマンに劇画風の顔が付いてるイメージが離れず(ゴルゴ風な(笑 きついです。堪能させていただきました。それでは。
2005-07-05 05:19:38【★★★★☆】恋羽
作品読ませていただきました。ピーマンとは想像していませんでした。なんとか逃げ切ったら……腐って捨てられるというオチはニヤリとさせられました。赤や黄色がよく売れると言うことは、サラダを作る人が多いのかな。私はやっぱり緑色のピーマンがいいです。では、次回作品を期待しています。
2005-07-06 07:58:41【☆☆☆☆☆】甘木
こんにちは、菖蒲です。
そういうオチですか!ああそういうことかぁ…と、感心やら謎が解けたやらで読後嬉しくなりました。初め、一体どういう状況なのだろうと、完全に登場者が人間だと思い込んでおりました私です。生命線を切られたという部分で、手相の生命線かと思い、どうやってそれだけ切るんだろう…赤いオジサンってどんな人なんだろう…と混乱しておりましたが、最後のまとめできっちりと納得いたしました。どうしても掲示板の方で、こういったまとめ方をしてしまう私としてはこういうのもいいなぁと思ってしまいます。それでは、次回も期待しておりますね。
2005-07-06 11:37:21【☆☆☆☆☆】菖蒲
いやはや、感想をしていただいた皆様に感謝しますm(_ _)m
『緑のピーマンをほったらかしたら赤に変わるのか?』とい疑問を頂いてますが、バッチリ変色しますよ、それも皮に張りが無くなってシワシワになってき始めた頃くらいに(ぇ)普通はそれまでに処理しちゃうのが普通なんでしょうが…(汗)
 また納得できる作品が出来たら投稿したいと思ってますので、その時はよろしくお願いしますm(_ _)m
2005-07-06 22:37:14【☆☆☆☆☆】夢幻焔
始めまして。おんもうじともーします!!
拝読いたしました!とっても楽しい作品ですね!それもすぐおわるんで気軽に読めちゃう。
この短い間に話しが頭を流れて行くのがなんだか心地良い感じがしました!ピーマンかい!!って感じですよー笑 最初は何が何だかわからなかったんすけどね、
こういうはっちゃけたやつもなかなかいいですよねー!
2005-07-07 00:29:49【☆☆☆☆☆】おんもうじ
最初はなんのことかわからなかったですけど、途中から動物かとは思いしました。でもまさか野菜だったとは…w
軽く読めてよかったです!!
2005-07-07 18:50:47【☆☆☆☆☆】イヨ
初めまして。中々面白い視点でお話が進んで行き、軽い最後が良かったです。自分だったら、きっともっと重たい話にしてしまって、つまらなくしてしまうだろうなと思い、見習いたいなと言う感じですね。SS好きなので、また次のお話も楽しみにさせて頂きます。
2005-07-09 22:02:21【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。