- 『いたみ。』作者：邪悪の化身ダリオ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角1846文字俺は走っていた。硬いアスファルトに、足の皮がめくれ激痛が走る。肌にできた無数の切り傷に汗が沁みている。痛い、痛い、痛い、痛い――！だから、殺す。
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原稿用紙約4.62枚
痛覚がタナトスへ転化する。その感情を途絶えさせないように、いったん走るのをやめ上着のポケットから極太のサインペンほどの円筒を取り出した。上程から三センチほどの金管が突き出ている。缶のひやりとした感触を楽しむあたり、俺にはまだ余裕があるのかもしれなかった。しかし、その余裕も今は憎らしい。円筒を顎の下まで持ち上げ、管を鼻の穴にあてがった。そして、捨て去るように、溶け合うように――俺は鼻から息を吸い込んだ。
「――――！」
息が詰まる。体は軽い。血液が沸騰する。
「ギイイイイイイッ」
俺は走行を再開した。速く、疾く、ハヤク。十メートル置きの常夜灯が、五本流れていく。六本目の手前で左に折れ、二階建ての家の群に入る。――ココだ。そう確信した。
後は、五十メートルほど正面に行くだけ。そう思うと、俺の顔は毒キノコでも食べたように歪んだ。それは、悦びに。そして、憎しみに。肺と声帯が暴走し始める。
「うひゃひゃはははははッッ」
両手を左右に大きく開き、哄笑する。気分がいい。実に、気分がよかった。背筋を反った姿勢から、反動を利用して前屈する。陸上のクラウチングスタートのような姿勢から、思い切り脚を前に運んだ。が。
「――――ギ――――」
足がもつれ、先走った上体は前方に投げ出された。手の平でアスファルトをはたき、起き上がる。左手から血が噴き出した。痛い。血が傷に沁みる。痛い。
「痛い痛い痛い痛いッ」
許さない。俺は、殺す。俺をこんなふうにまでした張本人を、殺す。切り刻み、刺し貫き、焼き尽くす。胸ポケットに金属を確認して、俺は改めて走り出した。
街灯を五本走り抜け、首を捻って左を向いた。こみあう家屋の中に、その一軒を見定めた。白い壁面、屋根を挟んで上下に二つ。二階に一つだけ光る窓がある。それを睨みつけ、幅一メートル半ほどの簡易門に手をかけた。ノブを毟り取るように回し、奥に開け放つ。玄関の引き戸に走りより、迷わず取っ手に右手をかけた。力を込めて左に引くと、何の抵抗もなく扉は開く。俺はいよいよ、奴に近づいた。
「すぐに殺し――」
痛い。脛をしたたかに打ちつけた。土間からうまく上がれなかったのだ。手を突いて起きあがり、土間につながる段差を睨む。こんな物に俺が。こんな奴に俺が。俺は拳を振り上げた。
「この下衆がッ」
振り下ろす、振り下ろす、振り下ろす。十回を超えたところで、段差が赤く濡れているのに気づいた。血。俺が、血を流させた。俺が、こいつを、傷つけた。
「ああああああッ！」
痛い。痛い。痛い。痛い。……けれど俺の勝ちだ。
ぐしゃぐしゃに割れ、白いものがむき出しになった拳を左手で庇いながら階段を駆け上った。右に木製の引き戸。迷わずそれを開け放つ。六畳間、天井に蛍光灯、正面に勉強机。そこに、座っていた。麻薬の売人が、こちらを向いて。黒の長髪に、細い体躯。彼女の薄い笑みは、能面のようだった。
「ふうん。来たんだ」
台詞はそれで十分。俺は胸ポケットから飛び出しナイフを取り出した。指ではじき、刃を出す。
憎い。二重まぶたも、組んだ細い足も、紅く薄い唇も。その眉も、瞳も、頬も、うなじも額も耳も鼻も顎も喉も鎖骨も胸も腰も上腕も前腕も掌も親指も人差し指も中指も薬指も小指も腹も尻も腿も膝も脛も脹脛も踝も両足も。全部、俺が。
――――殺してやる。
「でも――」
体勢を低く。右手の痛みはとうに消えた。
「――残念――」
上体を捻る。ナイフは後ろへ、左手は前へ。
「――貴方は私を――」
振りかぶる。ナイフを上から、そして。
「――殺せない」
振り下ろす。上から下へ。上から下へ。上から下へ。
視界は赤。血の色。眼前には女。麻薬の売人。微動だにしない。笑っている口元。嘲笑している目元。白桃色の肌が、今は赤。絹糸の髪が、今は赤。背景が消えた。黒の中に、赤二つ。赤い彼女と、赤い俺。
赤い、彼女。俺の、好きだった女。俺の、大好きな女。俺に、薬を売った女。俺が、殺そうとした女。美しい女。美しすぎる、女。
その彼女は――返り血を、浴びていた。
痛みなど、とうにない。左手のナイフも霞んできた。ただ、今は彼女を知覚するだけで、せいいっぱいだ―― - 2005-07-02 00:07:20公開 / 作者：邪悪の化身ダリオ
■この作品の著作権は邪悪の化身ダリオさんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
どうも、邪悪の化身ダリオです。授業中に書いた小説をアップしてみました。初めてのSSでしたが、わりとすらすら書けた印象があります。しかし長編のほう進まないな……。がんばって書くので、どうか見放さないでください(泣
では、コメントをよろしくお願いしますっ。
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拝読しました。ふむ……ダークな雰囲気はいいと思うのですけれど、これを小説として見た時物語性に欠けていると思います。何て言えばいいのだろう、ダークな一場面だけ切り抜いてきたような感じ。文章も区切り区切りで読み難い箇所がありました。すみません、失礼な事ばかり書き綴っております。連載と次回作待っております。
2005-07-02 03:07:12【☆☆☆☆☆】京雅作品読ませていただきました。主人公の疾走感というか、勢いは伝わってきます。でも、物語性が弱いですね。長い映画のほんの１０分間だけを見せられたように背景が伝わってこないので、読んでいて愛憎があったんだねという感じしか受けませんでした。また、視点が主人公視点と第三者視点が混ざっていたのも少々気になりました。なんだか辛口の感想になってしまい済みません。では、次回作品を期待しています。2005-07-03 01:22:56【☆☆☆☆☆】甘木京雅さん、甘木さん、羽堕さん、感想ありがとうございました！「短い文量で多くの事柄を描写する能力」が僕には足りないのかなぁと書いてみて思いました。それが身につけば、少ない枚数で物語性を出すことができるのだろう、と。難しいっすねぇ……。
落ちはホントに思いつき（発想力の低さが窺い知れる）でした。あーでも、フツウに読めちゃいますかねぇ。。自殺って。2005-07-03 03:12:28【☆☆☆☆☆】邪悪の化身ダリオ上下です。自分も一日一回、薬をやっております。ビタミン剤を粉のまま血管に…。嘘ですよ！そんなことをすれば今頃上下は空に浮かぶお星様のひとつになっています。しかし、麻薬というものは痛みまでおかしくなってしまうものなのでしょうか。おそろしやおそろしや。絶対に自分はしない（たぶん）なんか、周りの人に「あの人、顔が逝っちゃってるよ」っていわれるのが怖いので。おっと、感想になっておりませんでした。しかし、この辺でおいとまします（こら）
次回も楽しみにしています2005-07-03 05:16:00【☆☆☆☆☆】上下 左右お久しぶりです。恋羽です。SSということで読ませていただきました。うん、なんだか小説として、というかSSだから仕方の無い事なのかもしれませんが、もう少し掘り下げるなり起承転結をつけるなりしたならばもう少しなぁ、と思ったんです。文章自体が狂ってしまっているのもいいんですが、それならそれでもう少し書き方に気を使わないと読み手が引くこと必至ですよ。僕がもし異常心理のようなものを描くならば、必ず三人称を使うと思います。そっちの方が読者にも理解されやすいだろうし、何よりも書きやすいですよ。素直さは伝わってくるのですが、もう少し客観的な視点を身につけてみてはいかがでしょう、なんてえらそうなことをのたまう僕は、実際大した力は無いのでお気になさらずに（笑 それでは。2005-07-04 23:55:07【☆☆☆☆☆】恋羽初めまして、ミノタウロスです。ダークネタのSSと言う、私の大好きジャンルだったので、興味深々で読ませて頂きました。印象としては、思いついた言葉と情景をバーと書いてポンと投稿してしまったって感じがします。バーと書いた作品は自分が読者視点に立ってもう一度読見返してみると、もっと良くなると思います。私には解り難い内容だったので。私の理解力のなさを棚に上げてしまってるのは、ご勘弁下さい。また、SSに挑戦してみて下さい。2005-07-05 02:22:19【☆☆☆☆☆】ミノタウロス上下 左右さん、恋羽さん、ミノタウロスさん、ありがとうございました。
さて、自分で読み返してみて思ったのが、「詩」みたいだなぁということでして、皆さんのレスを読んでみると、やはりそう見えるのかと納得しかつ落胆したりしました。客観的な視点で推敲することが大事なようですね。
ありがとうございました。2005-07-05 19:46:16【☆☆☆☆☆】邪悪の化身ダリオ計：0点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。