『AlicE』作者:紅月 薄紅 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約3.79枚
「お姉さま。お話しを読んで?」
「昨日の続きね? アリス」

-AlicE-


 あたしの2つ違いの妹は、今度の誕生日で16になる。
 もう子供扱いされることを拒む、大人へと近づく年頃だ。
 そんな歳の妹に、あたしは毎日絵本を読んでいる。
 あるときは一冊だけ。
 あるときは半日も。
 もう何年も前からずっと読みつづけていた。
 今日もまた、いつものように庭の大きな木の下で並んで座り絵本を読んであげる。
「―――そしてウサギの兄弟は幸せに暮らしました。はい、終り」
 ぱたりと本を閉じると、妹は楽しそうに話し出した。
「よかった。ウサギさん達幸せになったのね」
 よかったよかった。
 何度もそう繰り返し、ニコニコと笑っている。
 

 アリスは幼い頃に自分のなかの時を止めてしまった。
 体が成長しても、心の中はいつまでも小さな頃のまま成長することがない。
 両親もあたしも、お医者さんに連れていったり、必死に原因を探したりした。
 でもなにも見つからなかったし、お医者さんに見せても治ることはなかった。
 

「あ・ちょうちょ」
 見て見てと指を指し、左手であたしの袖を引っ張る。
 本当ね。
 あたしは半分適当に答えて、無邪気に騒ぐ妹の横顔を見た。
 本当なら今、2人で好きな人や将来のことについてはなしているはずなのに―――。
 そんな姉妹での少し大人な会話はもうできないのか。
 ちらっと横目でアリスを見ると、いつの間に寝たのか、小さな寝息を立てていた。
「アリス……」
 太陽の光で輝く金色の綺麗な髪を手でなでる。
 同性で、しかも姉であるあたしから見ても可愛いと思えるほど、整った顔立ち。
 あたしとは姉妹なのに全然違う。
「アリス……あたしはときどき、あなたを疎ましく思えるのよ」
 あたしは小さく呟くと、絵本の表紙を開いた。
「ウサギの兄弟か……あたしもあなたみたいに、おとぎの国へ逃げてしまえたら良いのに」
 そうしたらどんなに楽なのだろう―――。
 絵本の中、楽しそうに微笑むウサギのお兄ちゃんの顔を、指でなでた。
「お姉さま……?」
「アリス……起きたの?」
 目をゴシゴシ擦りながら、アリスはあたしの腕にくっついてきた。
「お姉さま……夢を見たの」
「どんな夢?」
 そう聞くと、アリスは思い出すのも恐い、という顔をして話し出す。
「時計を持ったウサギさんが出てきたの……あたし追いかけて、それで―……」
 アリスは長い夢を語った。
 夢の中でも、アリスはおとぎの国にいる。
「それでね。あたしトランプの王女さまに殺されそうだったの……」
「そう……恐かったわね」
 話し終えたアリスの頭をなで、あたしは絵本の表紙をゆっくり閉じた。
「さぁ、そろそろ家に戻りましょう。おやつの時間だわ」
「おやつ!?」
 やったぁ、と大きな声を出しながら、アリスは背伸びをして立ちあがった。
「ご本、明日も読んでね? お姉さま」
「えぇ」
 頷いてあたしは、お尻についた土をパンパンとはらった。
 アリスは先に家の中へと入って行く。
 その後ろ姿は、16歳の女のこの物で。
 でもあの子の心は幼いまま、おとぎ話の中。
 明日も明後日も、きっと。
 アリスはおとぎの国で夢を見る。
 あたしの絵本を読む声は途切れない。
 だから、おとぎ話は続いていく。
 ―――でもそれはまた別のお話。


            end
2005-06-14 22:41:47公開 / 作者:紅月 薄紅
■この作品の著作権は紅月 薄紅さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんばんわ。薄紅でふ。
今回はSSを書かせて頂きました。
これはある時、「あ・アリスの話し書いてみたいなぁ」と思い書いたお話です。だいぶ短く少し痛い話しで、そのくせ上手くまとまっていないでしょうが……読んでやってくださると嬉しいです。でわでわ。
この作品に対する感想 - 昇順
羽堕ですm(._.*)m読ませて頂きました♪姉妹かぁー確かに自分に無いものを持っている又は、自分と同じ場所にいてくれないというのは、辛いのかもしれませんねー(・へ・;;)SSの中にもお姉さんの心が見え隠れして上手書かれているなぁーと思いました( ̄∇ ̄*)ゞでは次回作、楽しみしてます(。・_・。)ノ
2005-06-14 23:12:05【☆☆☆☆☆】羽堕
どうも、菖蒲と申します。
不思議の国のアリスが題材なのですね、お姉さんを視点に置いた作品とは思いませんでした。無垢な心、その外見が歳をある程度重ねた人ならば尚更に、幼い言葉や仕草は他人を傷つけるのでしょう。
もう大人の話ができない、というのは二人が共に幼かったときのことを指してそう言っているのでしょうか?そうでなければ若干不自然な感じがしてしまいます。では、次回作でお会いできたなら。
2005-06-14 23:48:13【☆☆☆☆☆】菖蒲
拝読いたしました。不思議の国のアリスを読んだことのない自分が感想など……とも思ったのですが、でもなんとなくあらすじくらい知っているし、ということで感想を書かせていただきたいと。
もっとコテコテの演出をして欲しかったなぁ、というのが真っ先に浮かんだ感想です。切なさをあおる土壌としてはかなり魅力的な舞台が整っているのに、案外姉が淡々と現状を受け入れており、それがもったいないなぁと。たとえ妹がおとぎの国にいても、姉にとっては全てが現実……という形で話が進んでいれば、僕はかなり楽しめたかなぁと思いました。しかし、そもそも作者様が切なさなど演出するつもりはなかった、ということでしたらこの感想は忘れていただければ(苦笑)。自分の読解力にはどうにも自信がないので……。
2005-06-15 00:24:21【☆☆☆☆☆】ドンベ
拝読しました。短過ぎるのか心情が書き込まれていないのか、読後多少の消化不良感を味わっております。読解力に劣る愚か者の京雅にとっては、書き手側の書きたかった何かを掴む前に物語が閉じてしまったように思えました。失礼な事を書きました、申し訳御座いません。次回作期待しております。
2005-06-15 12:00:13【☆☆☆☆☆】京雅
作品読ませていただきました。切なくて痛いです。でも……ちょっと美化し過ぎかな。器質的知的障害者や精神的な障害者関係の本は興味があって読んだのですが、彼等は純粋無垢の天使ではないです。狡いしワガママだし、私らと何ら変わらない人間です。そしてお姉さんも普通の人間ですよね、色々な負の感情もあると思います。思い切って負の感情まで踏み込んで欲しかったです。勝手なことを書いてすみませんでした。では、次回作品を期待しています。
2005-06-15 23:49:43【☆☆☆☆☆】甘木
ぱくり?
2005-06-18 08:30:33【★★☆☆☆】小郷
計:2点
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