『死体と遊ぶ子どもたち 前編』作者:森川雄二 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約3.4枚
 何もかもが色あせた風景だったように思う。ずいぶん前に壊れて錆付いてしまった自動販売機、めったに人の通ることのないじゃり道、電灯が少ないため月明かりがとても美しく感じられた夜道、それらは今でも鮮明に覚えている。
 ただ僕の記憶の中の風景はどれも白黒で色彩はなく、どこか悲しげで儚く、そして美しく感じられた。
 
 彼女は川内美奈といった。雪のように白い肌と、流れるようにきれいな長い黒髪がとても印象的だった。彼女は僕の隣の席に座っていた。僕は時々授業中に彼女のことを盗み見たが、いつも彼女はノートもとらずに頬杖をつきながらじっとどこかを眺めていた。
 でも彼女の瞳には何も映っていなかったように思う。ただその瞳はどこまでも深い闇のようで、ぞっとするほど空虚なのに、幼児のように純粋でとてもきれいだった。

 彼女は小さいころから体が弱く、実際学校に来る日より休んでいる日のほうが多かった。ほとんど学校に来てなかったからというのもあるけれど、無口でいつもつまらなさそうな顔をしている彼女にはおよそ友達といえる存在はなかった。
 僕は彼女が誰かと話しているところを見たことがないし、彼女自身それを望んでいるようにも思えた。
 
 内向的な僕は彼女に話しかけることはできなかった。一度だけ教科書を忘れたときに見せてくれるように頼んだときがあったけど、彼女は黙って教科書を僕に手渡すと、またいつものようにどこかをじっと眺めていた。

 ある日帰り道で川内美奈を見かけた。その道は彼女の家とは逆方向の道だったので僕は不思議に思いすこし後をつけてみた。彼女は道をはずれて傾斜面を降りていった。
 そこは木や草が生い茂っていて、誰も立ち寄らない場所だった。僕は彼女に気づかれないように木に隠れながら少しずつ斜面を降りていった。
 やがて彼女は小さな洞窟のような穴に入っていった。たぶん昔使われていた防空壕のあとだろう。僕はその穴をおそるおそるのぞいてみた。
「わっ!」
突然川内美奈の顔が目の前に現れたのでびっくりして思わず声をあげてしまった。
「ごめんね、びっくりした? 大橋くんだよね? 後をつけてきたの?」
僕が返答に困っていると、川内美奈はじろじろと僕の顔を眺めた。彼女の顔が近づいたので僕はすこしドキドキした。彼女はそれから何か納得したように頷くと言った。
「ねえ、絶対に誰にも言わないって約束してくれる?」
「ここのこと?」
「うん。約束してくれるならいいもの見せてあげる」
彼女はそう言ってすこし微笑んだ。彼女のそういった表情を見るのは初めてで、ずっとそんな顔をしていてくれたらいいのにと思った。僕が黙って頷くと彼女は僕の手を握った。彼女の体温が体中に伝わった気がした。
「それじゃあ、中に入って」
僕は彼女にいわれるがままに穴の中に入っていった。穴の中は真っ暗で、何かが腐ったようなひどい臭いがただよっていた。
「ちょっと待っててね。明かりつけるから」
彼女が懐中電灯をつけると、あたりがすこし明るくなった。そこにあったものを見て僕は思わず、声をあげそうになった。
 それは人間の死体だった。死後どれくらいたっているのかはわからないけど、もうだいぶ腐っていた。
2005-06-12 15:57:10公開 / 作者:森川雄二
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■作者からのメッセージ
最近カルト映画しかみてない森川です。タイトルは某ゾンビ映画から。一応初の恋愛モノです。
この作品に対する感想 - 昇順
羽堕ですm(._.*)m読ませて頂きました♪オオーw(*゜o゜*)w初のラブストーリーですか、書き始めからは、なんだか切ない感じのラブストーリーを想像できて文章も巧くて良かったと思います( ̄∇ ̄*)ゞそして前編のラストとしてのシーンで後編が凄く楽しみなりました(*¨)(*・・)大橋くんの死体を見た時のリアクションをもう少し丁寧に書かれたら良かったかなぁーとこれは後半にあるのかもと思いますが(^-^;では続き楽しみしています(。・_・。)ノ
2005-06-12 16:18:47【☆☆☆☆☆】羽堕
>羽堕さん
読んでいただいてありがとうございます。
>大橋くんの死体を見た時のリアクションをもう少し丁寧に書かれたら良かったかなぁ
ええ、ちゃんと後編(中編になるかもしれないけど)に書くつもりですよー。
2005-06-12 16:40:01【☆☆☆☆☆】森川雄二
どうも初めまして。こんにちは、菖蒲と申します。
実は、森川さんの作品はすべて読ませていただいているので、初めましてというのは感想フォームで、ということですね。今回は恋愛ものということで。何だか題名から悲しげな雰囲気が漂い、後編が気になりますね。前編においては、大橋君自身についての描写がもう少し欲しかったです。初めの前置き部分と本文との区別が、改行が同じということで少し見分けにくかったのも気になりました。どの話でも、いつも登場者の心模様の表現が実に素直で率直でいらっしゃるのが良いところだと思います。今回はそれがさらに際立つ感がして、更新に期待です。長々とすみません。私個人の戯言ですから、お気になさらず。
2005-06-12 17:59:20【☆☆☆☆☆】菖蒲
恋愛ものかぁ……ええーっ!?題名もあわさって、どう展開するのか全く解りませんよ。美奈とのやりとりは確かにあるだろうし、でも死体ですよ。読み易い文章も雰囲気あるように思えました。けれど意図的なのかな、「〜だった」等で締められる事が多く淡々とした印象が。いやいや、それで雰囲気をつくっていると思うので、おそらく意図的で御座いましょう。ちなみに私はエルム街の悪夢が好きです。
2005-06-12 21:01:18【☆☆☆☆☆】京雅
こんばんわ〜、上下です〜。
ええ〜、最初はまるで恋愛物を思わせる感じがあり、題名はウソなのかな〜っと思ってしまいました。それにしても、入った瞬間にその光景を見るのは、実際に見るとマジで洒落になりませんよ〜♪
更新楽しみにしています
2005-06-13 23:20:54【☆☆☆☆☆】上下 左右
作品読ませていただきました。恋愛物? 確かに前半部分はそれなりの雰囲気はあるけれど、ラストで死体ですか……どんな展開になるのだろう? 大橋君が川奈さんと防空壕で出会ってからの感情をもっと丁寧に書いて欲しかったです。だって気になる女の子が目の前にいるんですよ。死体を見た時の感情も弱い感じがします。なんだか辛口の感想になってしまい、済みませんでした。では、次回更新を期待しています。
2005-06-14 21:21:16【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。