『GoodLuckGame 読み切り』作者:炎天下9秒 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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『世界を構築致します。少々お待ちください』

『構築完了致しました。世界を展開します』

『Good luck』


 痛みを感じないこの世界で、私はただただ歌い続けます。
 痛みを感じないこの世界で、私はただただ戦い続けます。

 嗅覚も、触覚も、味覚も、聴覚も、視覚も作り物のこの世界で、私は生き続けています。

 作り物の世界に、作り物の体、私のココロは、作り物なのでしょうか?










                『Good luck』









「衛生兵っ! 衛生兵はまだか!」
「おいっ、こっち包帯足りねぇぞ、支援魔法まだか!」

 血の匂いがする戦場に、私は立っています。地面には赤黒い河が流れ、辺りを暗く埋め尽くしています。嫌な気分です、服に匂いがついてしまいそうで、嫌な気分です。
 肉塊がいくつも重なり積もっています。中には私の知り合いも居ます。しくしく、しくしく、悲しいので涙が出ます。しくしく、しくしく、悲しいから涙が出るのです。

「おい、お前、何泣いてんだよ」

 一人の男の人が、私に話しかけて来ました。その風貌からして、軽戦士の部類に入る職業でしょう。おかしな事を聞いてきます。なぜ泣いているかとのこと、仲間がやられたから悲しいのです。彼らは大魔法の狙い撃ちによって、一瞬にして、何もすることが出来ずに、死んでいったのです。
 しくしく、しくしく、それが悲しくないのですか? あなたは悲しくないのですか? しくしくしくしくと、涙は流れ出ないのですか?

「は? お前、頭大丈夫か? うっわ、なりきりもここまで来ると病気だな」

 なりきりとは何ですか、悲しくはないのですか。

「何言ってんだよ。時間切れればどうせ元通りだろうが。レベルが少し下がるが、そんなもんすぐに取り返せるだろうよ。それにしてもお前、先遣隊だろ、良く生き残ってたな」

 この人の、言っている意味が分からない。
 取り敢えず、首を刎ねておきました。しくしくと、悲しくないなら人ではない。

「ッテメェ! 何考えてんだ、まだバトルフィールド内だっつの!」

 男の人の怒鳴り声が、響きます。
 知っています。知っています。私が誰よりも熟知しています。
 バトルフィールド内だから、首を刎ねたのです。もし、バトルフィールド外だったら、ペナルティがつくでしょう? だから、バトルフィールド内で殺したのです。この人は、人の事を人と思わないような、とても酷い考えを持っていました。だから、首を刎ねたのです。

「あ!? 何言ってんだ、同族殺しったら目ぇ付けられて終わった瞬間デスエンドだっつの」

 知っています。知っています。私が誰よりも熟知しています。
 だけど、私は死にません。絶対に私は死にません。この世界にいる限り、私は私を失いません。

 私はこの世界のマスターだから。
 私はこの世界を統べているのだから。

「おまっ、名前なんていう」

 男の人の声が、少し恐怖の色を帯びました。
 私の名前は高橋ナナコ。私の名前は高橋ナナコ。それ以外に名前はありません。例え誰が何と言おうと、私の名前はこれ以外に存在しないのです。敢えてもう一つ名前を言うなら、私の名前は坂本ナナ。この世界の名前、坂本ナナ。私は世界で世界は私、私の名前は高橋ナナコ。

「……やっべ! お前ら早くログアウトしろ!」

 何人もの人達が、私の目の前から去って行こうとします。
 そんな寂しい事、させてはなりません。みんなが行ってしまったら、寂しくて、寂しくて、しくしくしくしくと、涙が零れ出てしまいます。しくしく、しくしく、考えただけで涙が出て来てしまいました。
 涙が流れるのは、とても悲しいことです。だから、この人達は、涙を流さないためにも、私と一緒にいなければならないのです。
 強化魔法の詠唱が聞こえます、攻撃魔法の詠唱が聞こえます、回復魔法の詠唱が聞こえます、商人のさきがけスキルの発動を感じます、軽戦士の早駆けスキルの発動を感じます、重戦士の不可視の壁の効果を感じます、暗殺者の姿暗ましのスキルの発動を感じます、弓使いの鷹の目が私を捉えます。

 だけど、そんな事無意味なのです。

 世界は私で、私は世界。
 強化魔法は自動解除され、攻撃魔法は相殺される。回復魔法は解呪され、商人には足枷がはめられます。軽戦士には重力5倍が付加され、重戦士の壁は硝子の破壊槌によって砕かれます。暗殺者の姿暗ましは瑠璃の鏡で暴かれ、鷹の目にはメドゥーサの瞳が映り石と化します。
 誰もこの世界から逃れる事は出来ません。

 私は世界で、世界は私。
 誰もここから逃がさない。









爆弾魔:おい、また例のあれが出たって
エミリア:例のあれ?
爆弾魔:この前散々聞いてただろうが、荒らしだよ。今一番有名な荒らし
エミリア:あぁ、あれだろ。「高橋ナナコ」っていうプログラム
爆弾魔:それなんだがな、ただのプログラムじゃないらしいんだよ
エミリア:?
爆弾魔:坂本ナナって名前聞いた事あるだろ?
エミリア:あぁ、あれで植物人間状態なのに意識はあるって証明されたやつ。知ってるに決まってる、有名過ぎ
爆弾魔:そうそうそれ
エミリア:しかし植物人間によくログインさせたなー、会社も
爆弾魔:それなんだよ
エミリア:あ?
爆弾魔:だから、それなんだよ。高橋ナナコって
エミリア:は? 何を根拠に(笑)
爆弾魔:ハッカーの中では有名な話らしい
エミリア:え、まじか
爆弾魔:まったく化け物だよ。あれだけプロテクト硬い所に侵入して自分のプログラムに塗りつぶす
エミリア:ま、本人には会いたくないがなw
爆弾魔:噂だけどな、高橋ナナコに会って植物人間状態にまで引きずりこまれたネトゲ廃人もいるんだってよ
エミリア:ハハハ、どんな都市伝説だよ
爆弾魔:まったくだ、折角育てたPCを取られちゃたまんねぇよ
エミリア:ま、どのみち俺ら大型管理サーバーなら小分けとは言え大丈夫だろ
爆弾魔:そういこっちゃな。お、通信チャット切るぞ、GM連絡はいった。

















 痛みを感じないこの世界で、私はただただ歌い続けます。
 痛みを感じないこの世界で、私はただただ戦い続けます。

 嗅覚も、触覚も、味覚も、聴覚も、視覚も作り物のこの世界で、私は生き続けています。

 作り物のその感覚は、私そのものなのですから。


 でも、一人では寂しいので、お友達を沢山沢山作りたいと思います。












 次は、あそこがいいかなぁ。








2005-06-09 20:41:29公開 / 作者:炎天下9秒
■この作品の著作権は炎天下9秒さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ

 clown-crownさんの独自の世界観を持つ短編に影響されて一気に書き上げた一般短編です。

 少しでも不思議な感じを持っていただければ幸いです。
 目指せ、不思議世界感。

※GM ゲームマスターの略。ゲームの中に起きる不備に対応するサポートなど運営に大きく関係する。
 
 PC プレイヤーキャラクターの略。自分の操るキャラクターなどの事を言う。
この作品に対する感想 - 昇順
あれを読んだら書きたくなりますよねぇと世間話から入りつつ京雅で御座います。うん、不思議と言うか素直に面白かったんですが。オチは驚かせるという機能ではなく物語を締めるためであって、そしてそこへ辿りつくまでの書き方が呼んでいて心地好かったです。これに世界観や描写がどうとか、そういうのはおそらく野暮ってもんでしょう。まあ人によりますが、私には息抜きにぴったりでした。最期の一文は……正直どっちか解りません。合ってないような気もするし、一気に呼び戻す効果があるような気もするし。うん、自分の莫迦さを露呈してしまってますね。長長と語りました、申し訳御座いません。次回作と連載の続き期待しております。
2005-06-09 20:54:09【☆☆☆☆☆】京雅
 恐縮です。私が目指すのは影響を与えること。揺さぶりをかけ、狂わすことです。私の書き物から影響を受け、新たな書き物を生んでいただけるとは、私にとっては『極み』にあたるのかもしれません。恐縮と共に感謝の意を表します。
 さて、感想ですが。一気に書き上げたにふさわしいストレートに読み終えました。でもそのせいで、せっかくある『ネット世界』と『ゲーム世界』の二重底を感じさせるには少し弱かったように思えます。そして『現実世界』との遊離も。この三つの世界を頭に入れた上では、ナナコの違和感が引き立ち、また一味変わったものに変わると思います。辛口に書いてしまいましたが、ファンタジーにどっぷりと浸かっていながら、冷めた視線を感じるこの書き物は確かに不思議でありました。
2005-06-09 22:22:33【☆☆☆☆☆】clown-crown
羽堕です(o*。_。)o読ませて頂きました♪少し前までネットゲーをやってたので、未来のネットゲーなら有り得る話なのかもなぁーと思いながら読ませて頂きました( ̄∇ ̄*)ゞ私は、ある小説を読んで、ゲーム内(カプセルに入って、直接、脳とゲームをシンクロさせる)の死は実際の死に繋がると言うのを納得していたので(≧∇≦)ノ世界観とか、大分違うとは思いますが、ナナコの行動に切なさと同時に恐怖を感じました(/ー ̄;)話、面白かったです!では、連載&次回作を楽しみしています(。・_・。)ノ
2005-06-09 22:53:05【☆☆☆☆☆】羽堕
読ませていただきました。最初は悲しい歌姫さんの話かと思いきや、魔法とかネットとか、ごちゃごちゃで、それでいてしっかり纏まっている、凄い作品だと思いました。前半全てが伏線とは、驚きです。植物状態の人が、他者のシステムに介入して弄繰り回す。何年経ったら可能になるんでしょうね。なんというか底の知れない主人公ですね。恐いですが、かわいそうにも思います。酷く孤独を感じてしまうのでしょう。そのために他者を傷つけ自分も悲しみ、仲間を増やそうとする。悲しいです。 余計な事も言った気もしますが、これにて。次回作大いに期待しております。
2005-06-09 23:16:04【☆☆☆☆☆】ずっぽぱ
何となく、何となくですがclown様に影響されたんだなぁというのを感じました(笑 すっと読めてぱっと終わる。厳しい意見を言うならばショートならではの物語の終幕、どかんと殴られるような衝撃が欲しかったです。まぁ不思議感を目指してる方に何を言っているのでしょう(すいません もっともっと冷めまくった視点で書いたらもっと面白く独創的なものになったと思います。他者なんてついてくんな的な。次回作期待しております。
2005-06-09 23:40:18【☆☆☆☆☆】影舞踊
拝読いたしました。良かったです。ストーリー自体もわかりやすくて。ナナコの自我がもう少し異常で一貫していればさらによかったかなと思います。誰かが死ぬと悲しい、でも悲しまない相手は簡単に殺すというのは、わからなくはないのですが、個人的にはもう少し強固な(読み手が疑問を差し挟めないような)価値基準が欲しかったな……と言いつつ、そこに疑問感じたのは自分だけかとも思うのですが。バーチャルの世界を舞台とした小説は多々あると思いますが、今作のような話は僕自身は初めて目にしました。おかげで楽しく読むことができました。
2005-06-09 23:42:22【☆☆☆☆☆】ドンベ
作品拝読しました。読みやすい分、ラストのインパクトが弱く感じられました。ナナコの異常さは伝わりますが、それを生かし切れていない感じがしました。もう少し他者との絡みを描いて異常さ、世界に固執する姿など強調していただけた方が、私のような理解力のない読者には分かりやすかったです。失礼なことばかり書いてすみませんでした。馬鹿な読者の戯れ言と聞き流して下さい。では、次回作品を期待しています。
2005-06-10 00:02:15【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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