『どんぐりな日常』作者:clown-crown / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約6.7枚
どんぐりな日常





 我輩はどんぐりである。
 名前がどんぐりだ。
 決して木に生(な)っている訳では無い。その分類で言えば我輩は犬である。コーギーである。
 団栗眼(どんぐりまなこ)だから、そう名付けられた様だ。我輩の目は大きく、愛らしいのである。
 犬の習性に違わず、我輩も群れを形成している。無論、我輩が大将である。たった二匹の群れではあるが。此れから規模を大きくしていく所である。


 丁度良い所に、群れのもう一人がやって来た。
 紹介しておくとしよう。今、我輩に朝食を献上したのが、マキ 二十一歳 雌である。歳の割には美人であるが、従者の癖に馴れ馴れしいのが玉に瑕である。今も我輩の許可を得ずに頭を撫でようとしている。
 今回だけは、高級銘柄おにうまのドッグフードに免じて、不問に付してやろう。


 所々海綿(スポンジ)のはみ出した、此の洋長椅子から眺める景色は格別である。
 見える景色は総て我輩の縄張りだ。


 先ずは、此の洋長椅子のある居間。
 三つあった洋長椅子は総て我輩の牙の前に下った。海綿がはみ出しているのは、その戦果である。然し、あの骨を噛み砕く事が中々出来ない。敵は徹底的に攻め滅ぼすことが我輩の信条である。何時か、あの鉄の骨を引き千切ろうと思う。昨今、歯形を付ける事に成功しているので陥落は近いだろう。


 右手に見えるのが寝台である。
 其処で毎晩、マキと寝るのである。マキは眠りに就いたまま我輩を内臓破裂させようとする時があるが、其れよりも頻繁に我輩がマキの上で寝ている事があるのでお互い様だ、と寛容な態度を示している。
 寝台より高い位置にあるのは出窓である。


 今、マキがいる所が勝手場である。
 平気な顔をして勝手場に立っているが、マキは鼻が利いているのだろうか。生臭くて、とても佇んでいられる場所ではない。匂いの元は、あの枯葉色の屑篭である。色彩からして匂うのである。


 縄張り内の戸を全制覇しようと意気込む我輩であるが、後一つの所で達成出来ずにいる。
 立ち塞がるのは冷蔵庫の戸である。正確には冷蔵庫の戸は戸では無い様である。けれども完璧主義者である我輩は、其れも突破しなければ気が済まない。鉄の骨に並び、此れもまた我輩当面の課題である。


 出窓の窓掛けが波打った。
 縄張り内の風向きが変わって、屑篭の臭気が此方に漂って来る。その臭気には耐えられない。我輩は別の場所へと避難する。


 通り抜ける脇には便所の戸がある。
 此処も注意すべき場所である。三日に一度臭くなる。マキは便秘であるからだ。便秘でなければ、もっと臭くなる日が増えるそうである。
 永劫、マキが便秘である事を願うばかりである。


 玄関には木が生えている。観葉植物である。
 鉢植えである上、模造の植物である。マーキング行為には相応しくない。然し、そうであっても本能からの欲求は生まれるものである。其の命令は絶対である。幾度か試み、引っかける事に成功している。其の度にマキは怒るが、大将が従者の命に従わなければならない道理は無い。此れからも我輩は本能の赴くままに行動するであろう。


 他にも、我輩が吼えてもマキは怒り出す。
 オーヤサンが来て、縄張りを奪いに来るからだそうだ。我輩よりも大きな身体をしているというのにマキは臆病だ。オーヤサン等とやらが来ても、我輩が追い返してやるから堂々としていれば良いのである。


 辿り着いたのは脱衣所である。
 マキの残り香がするので、此処は我輩のお気に入りの場所である。


 此の奥は風呂場である。
 風呂場の戸は折り畳み型の戸である。戸の真ん中に体当たりすれば簡単に開ける事が出来る。
 我輩は風呂が好きである。他の犬は風呂嫌いな者もいるが、其れはマキの様に優しく身体を拭いてくれる、献身的な従者がいないからだと推察する。
 我輩は幸せ者である。


 然し、我輩が風呂に入る時には、マキは決して風呂に入ろうとしない。
 我輩の身体を拭く時、服を着ているのである。着衣など我輩の信条第一条に於いて言語道断である。其の信条は我が身に於いてのみであるのでマキの着衣については黙認しているのだが、我輩にはマキの心情が理解し難い。
 マキは服を着る事を半ば必然と捉えている様である。信じられない事であるが、マキは一日をほぼ着衣で過ごしている。動き難くは無いのだろうか。そもそも邪魔であろうに。如何とも理解し難いものである。


 そんな疑問もつい先日、払拭された。
 我輩はマキの湯上がりの姿を見てしまったのである。マキの胸は張っていた。其れはもう巨大に膨れ上がっているのだ。それも、其の大きな胸は左右二つしか付いていないのである。実に合理から外れた、奇怪な胸である。あのような胸では人前に露出する事など躊躇われる筈である。
 我輩は納得すると共に、マキを可哀相だと心底同情した。


 さて、此処までが我輩の縄張りである。
 立派であろう。


 立派過ぎて問題がある。余所者が侵入してくることである。其れだけなら未だしも、マキを誘惑している。マキも満更ではない様子なので始末に負えない。
 其の雄は清明という。
 清明が来るとマキは慌てた様に御茶を出そうとする。我輩が清明を必死に威嚇している時に、である。暢気なものである。清明は余りに頻繁にやって来るので我輩も少々疲れた。停戦協定を持ち掛けようかと思案している。完璧主義の我輩にしては珍しいことである。
 縄張り内への進入を許可する代わりとなる、此方の条件を考えた。清明が我輩の群れに入ることである。其れはマキと番(つがい)に為る事を認める意味もある。我輩の群れは小さい。マキが清明にとられてしまうのは口惜しいが、群れを大きくする為にも子作りは欠かせないのである。


 我輩がマキを孕ませれば良い、と思うだろうか。
 出来る事なら我輩は直ぐにやっている。マキの胸が膨れているから伴侶として気に入らない訳では、決してない。其の程度で嫌うのなら、我輩は群れの大将になる器ではない。底が知れていると言うものだ。問題はもっと根本的な部分にある。
 其の問題とは、







 我輩も雌なのである。







2005-05-24 00:29:15公開 / 作者:clown-crown
■この作品の著作権はclown-crownさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 みなさんこんにちは。
 はじめましてのおともだちもいるかな。くらうんくらうんです。よろしくね。
 『どんぐりな日常』おもしろかった?
 このお犬様のなわばりは、わたしのへやによくにています。わたしには【どんぐり】も【清明】もいないけどね。ひとりでくらすのってつらいんですよ。たまに、なきたくなるときがあります。
 まえのネコのおはなしをよんでくれた、こころのこいびとさんたちへ。つぎは、ながいおはなしをかくっていったけど、まっこうからせいはんたいのショートショートになっちゃいました。ネコのおはなしをかいたらどうしても、お犬様のおはなしをかきたくなっちゃったの。ごめんね。
 さいごまでよんでくれたしんせつなおともだち、ありがとう。そのしんせつしんをわすれないうちに……



 「感想くれ」(男声)
この作品に対する感想 - 昇順
ニヤニヤしながら騙されたーと読後に叫ぶアホ。コメントにも味が利いてて、再び騙されたー(もういいって 読みはじめから気持ち悪いぐらいに微笑んでいました。我輩はで始まるのがツボにはまりまくりで、読みやすいったらありゃしない(笑 なんかもう、コメント欄がキモ面白すぎて感想が書けない。ていうか特に不満もないし、面白かったとしか言えないです。
2005-05-24 00:46:09【★★★★☆】影舞踊
念願のclown-crown様の作品を観覧することができました♪なんだか作者からのコメントの欄をみてなんだか女性のイメージが漂ったと思ったらいきなり「男声」で感想くれときたのでびっくりしましたw いやぁこれを読んで一本取られましたねぇ。なんだかシメの最後の一文がすごく好きです♪面白かったぁ。それでは次回作を期待してお待ちしております。
2005-05-24 01:03:02【★★★★☆】チェリー
【影舞踊様】あれ、もう感想がきていますね。点数までもらえて、とてもうれしいです。私の書き物に騙されてくださる読み手さんには、いつも感謝しています。騙されてくれない読み手さんは、もっと純粋な心をもちましょうね。面白かったと言ってもらえるのが何よりなのです。感想を書いていただき、ありがとうございました。夜更かしは肌に悪いし、私はもう寝ます。おやすみなさい。
2005-05-24 01:07:30【☆☆☆☆☆】clown-crown
コメントまで作品の続きになっている、凄いな。ニヤニヤ系作品は良いですね。読んでて幸せになれますよ。と言うか。私のアパートは壁が薄いので、この時間に大笑いしていたら隣や上の部屋から文句がきてしまうので。我輩のテリトリーは狭いし、それを自慢気に語る我輩も良い味出しています。純粋に楽しめました。これで心おきなく寝ることができますよ。でも、猫、犬ときたのだから、今度はどんな動物で書いてくれるのだろう? 個人的にはオカメブンブク(棘皮動物。早い話がウニの仲間)で書いて欲しいです……無理だ! 自分で書いて自分で突っ込んじゃいましたよ。では、次回作品を期待しています。おやすみなさい。
2005-05-24 01:10:44【★★★★☆】甘木
羽堕ですm(._.*)m読ませて頂きました♪お犬様の習性がよく描かれてて、家の犬を見てるようでした(*^^*ゞ覗き趣味のある人には、かなり受けるのではないでしょうか?wそうじゃない私でも(←本当ですよ!)、面白かったです(*゜ー゜)(*。_。)あとメッセージ、最後に読んで正解でした(`0´)ノ爆笑と言うよりは、ホントにニアニアしちゃいましたwでは次回作、期待しています(。・_・。)ノ
2005-05-24 01:20:49【☆☆☆☆☆】羽堕
あはは……ツボ。さすがclown-crown様、またもや私の記憶に素晴らしい作品を刻みつけてくれましたね。語りが巧い(犬ですが)、オチがいい(オチは何だろうと予測して当たらなかった。京雅は純粋じゃありませんけれど)、と言うか面白い! あー……もう一度楽しもう。えっ、と言うかですね、clown-crown様は男性なんですか女性なんですか、それがかなり気になっています(失礼は承知で御座いますが、私はここへ来て未だ久しい身の上故)。次回作も期待しております、かなり感想書くの遅くなりましたがおやすみなさい。
2005-05-24 02:44:51【★★★★☆】京雅
ね…眠い…(個人的)面白っ!!っていうか可愛い〜♪やわらかくていいです〜(><)なんか幸せに睡魔に身を任せられそうです。何より見せ方がうらやましいくらい美味いです。いや、上手いです。なんでしょう…すごいやられた感のある作品を久しぶりに読んだ感じします。次回作頑張ってください!!せつに願っています。
2005-05-24 03:18:29【★★★★☆】姫深
どわっ。いつも間にやら感想がめちゃくちゃ増えてるっ!
【チェリー様】念願でしたか。それはどうもありがとうございます。これを書くのは結構辛かったんで、面白いと言っていただけてよかったです。
【甘木様】幸せにまでしちゃいました? この書き物が。私は書き手としての死を見てきましたけどね。今度は猫・犬同時出演させる気ですが、確約はしませんよ。おやすみなさい。ありがとうございました。
【羽堕様】読んでいただき、ありがとうございます。私にも覗き趣味はありませんよ。面白いとのお言葉、支えになります。次回は期待しないでくださいね。
【京雅様】ツボでしたか。それはよかったです。clown-crownに性別を訊くというのは、アメーバに性別を訊くようなものです。今回はパンチ力がないと思ってましたが……。京雅様も連載がんばってくださいね。ありがとうございました。
【姫深】読んでいただき、ありがとうございます。面白いをもうひとつ、いただいちゃいました。見せ方は苦労しましたからね。そこをうまいと言っていただけると、うれしい限りです。

ああ、やっぱり。こういう書き方のほうが受けがいいんだなあ。ちょっとフクザツだな。
2005-05-24 07:21:31【☆☆☆☆☆】clown-crown
あ、くらうんくらうんって読むんだとまずそこに目がいってしまった英語が苦手、ネコが飼いたい今日この頃な私でござんす。文章に関して言えば、細かいところでありやすが、最初に二匹と書いてあって、あとで一人と書いてあるのは間紛らわしいのではないかと思いやンス。それの所為で私、ははん、これはもう一匹後で出てくるという罠の可能性あり、と勘違いして、とても恥ずかしい思いをした所存です。そうして読んでいて、最後のところで、「ふふ、解っているよ、君にはもう妻が居るというのだろう」と笑いながら、こーぎー雌の登場を待っていた私の心は痛く傷つきますタ。とかなんとか言っておりますが、正直、これらの考えは後から考えたものであり、読んでいる最中は、「あ、なるほど」と普通に相槌を打ち、面白かったなぁ、と思っていたので、まぁ別に気にせんでいいですよ。長いこと喋ってきましたが、私が言いたいことは唯一つ「猫が好き」。
2005-05-24 13:22:10【★★★★☆】うしゃ
【うしゃ様】うしゃ様からも高評価を得るとは正直思いませんでした。「もっとグロを〜」と叫びだすかと思っておりましたのに。あてが外れましたわ。おほほほほほ。変な深読みをさせてしまったようですね。ごめんなさい。私は猫より犬のほうが好きです。でっかい黒犬を飼ってみたいです。では、この辺で。ありがとうございました。
2005-05-24 18:35:48【☆☆☆☆☆】clown-crown
安定した筆致はいつもながら、のほほんなオチが落語のようで楽しめました。しかしマキさんは完全に犬のしつけを誤っているなあ。猫と違い、犬は蹴り鳴かすくらいの覚悟でかからないと、マジに自分が主人になってしまうからなあ。でもどんぐり君(嬢?)には、さらなる暴君ぶりを期待してしまいます。続きはないのだろうか。
2005-05-24 18:51:20【★★★★☆】バニラダヌキ
素直におもしろかったです。どうもッ!!
理屈っぽい文章よりも、こういう朗らかなもののほうが読みやすいです。続編が欲しいなぁ、と思ってみたり。
2005-05-24 19:37:35【☆☆☆☆☆】ゅぇ
こんばんは。読ませていただきました。犬の視点でも違和感無く読むことができました。凄いなー。一人称が我輩なので勝手に雄かと思っていたらなーるほどって感じです。上手いなー。全体的にのほほーんな感じでとてもよかったです!
2005-05-24 22:01:34【☆☆☆☆☆】ずっぽぱ
コーギー。たぶん知らない人多いんじゃないかな。コーギーとは、どんな犬なのか、そういった説明が欲しかったです。ちなみにコーギーは足が短いユーモラスな体型をした犬。もとはイギリスで牛や羊を負う役割を担っていた。愛想がよく、元気がよいので誰からも愛される。よくほえ、抜け毛が多いのが欠点。断尾を行うのが一般的だったが、虐待であるとの批判から行わない場合も増えてきた。生まれつき尻尾が短いか、全くない「ナチュラル・ボブ」もいます。私はコーギーは飼った事ないですが、むっちゃ可愛い♪ 猫より犬派です。この犬の偉そうな態度がいいですね。面白い。スポンジに読み仮名が振ってあったのは、いいですが、他にも読み仮名を振って欲しい漢字がいくつかありました。文章が淡々と進むため、一工夫欲しかったですね。〜である。で文章が終わる事が多いから、そう思えるのかな。全体的に味があって良かったです。ラストはちょっと弱いかな。次は更に良いものを期待しています。
2005-05-24 22:03:02【☆☆☆☆☆】あいか
あっという間に感想が!
【バニラダヌキ様】よお。狸の旦那ァ。納豆キムチ丼、一緒に食わないかい? ──そうか、残念だなぁ。ん、続きかい? 考えてたんだけどよ、つまらなくなりそうなんだよ。すまんな。これで終わりだ。また今度、飯行こうぜ。
【ゅぇ様】おっす! ゅぇ様のためにこの文体を選んだようなものだい。喜んでもらえたようでおいらも鼻が高いやい。続編書くと、clown-crown死んじまうんだよ。アイデンティティー欠如によって死滅しちまうんだ。
【ずっぽぱ様】おいらに騙されちまったのかい。人が良いってこった。おいらだってたまにはのほほーんとしたもんが書きたくなるのさ。
【あいか様】そういう細かいところまで駄目出しをされるのは私、初めてですね。わざわざコーギーの説明を入れていただきありがとうございます。読み仮名をつけるとよいのは屑篭のことでしょうか? ここの人たちは博識だから、自然と難解漢字が多くなってしまうのかもしれませんね。
2005-05-24 22:54:08【☆☆☆☆☆】clown-crown
うーん、と唸り声を上げながら猛り狂う(意味が良くわからない)恋羽です。仕事が早く終わって、さぁ何しようと言いながら特に何もやることが無く、ボオゥ、とした感じで読んだためか、純粋な心で読めなかったのが非常に残念です。clown-crownさんのことだから(失礼ですか)何か切れのあるオチを用意されているのだろうと疑って掛かっていたのですが、ユーモラスな語り口に飲まれてしまったのは口惜しい。きっとその時の自分の顔を見ると吐き気がするぐらいに気持ち悪かったでしょう(汗 ……文句付ける所も無いし、結局飲まれてしまったし、そしてなぜかこの雰囲気が気に入ったので、「良い」にしましょう。犬→毛むくじゃら→蚤だらけ→痒い痒い→皮膚科に行く→そこで若先生と運命の出会い→玉の輿に乗ってにんまり……、という意味のわからない連想ゲームを残して去っていく恋羽でした。次回作も期待しております。
2005-05-26 15:51:37【★★★★☆】恋羽
【恋羽様】感想ありがとうございます。その感想を見て恋羽さんが混乱しているのはわかったのですが、何を書いていいのやら。「玉の輿良いね!」とか。読んでくださり、点数までくださり、ありがとうございました。
2005-05-26 20:41:52【☆☆☆☆☆】clown-crown
計:32点
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