『雨の下の僕ら?』作者:空羅 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角3996文字
容量7992 bytes
原稿用紙約9.99枚
シトシトと降っていた雨の中
 血だらけの筈の彼女は、 血なんか出ていなくて
 ただ雨に濡れながら小さく笑っていた。
 僕は、 ただ彼女を見ながらすごく綺麗だと思った。












 僕は普通の中学生で
  どこにでもあるような普通の学校へ行って
  どこにでもあるような普通の授業を受けて
  どこにでも居るような友達とつるんで
  どこにでもあるような普通の日常を送っていた。
 今日も例外じゃない。
 そろそろ昼休みも終わりに近づく。
 僕は時計に目をやりつつもすぐに視線を手に持っている本に戻した。
 友人は教師に何かの用事で呼ばれていたらしく、 
 教室に戻ってきてすぐさま、 僕の机の前に身を屈めてきた。
「昨日お前、 あの後どうなった?」
 昨日の事…。 そういえばコイツもあの子の事見たんだっけ。
「別に…どうもしてないけど。」
 僕は本を閉じて目を泳がせながら面倒くさそうに答えた。
 何だか、 コイツにはあの子の事を教えたくなかった。
 何故だかはわからないけど、 何となくそう想ったんだ。
「どうもって…。 あの子死んでたのか?」
 友人の突拍子のない言葉に僕は目を見開いた。
 教室のざわめきが一瞬静まったかと想ったが、 すぐに元に戻っていった。
「え…縁起でも無い事言うなよ。 ちゃんと元気そうだったよ。」
「でも、 血だらけだったじゃねーか。」
 どうやらコイツは興味津々らしい。 僕に視線を合わせようとする
 昨日は怯えながら逃げてったくせに…。
 僕は小さなため息を吐きながら机を立って、 ドアの方へと歩きながら答えた。
「そんな事知らないよ。 血じゃなかったんじゃないのか?」
 ドアを開けて僕は廊下を歩き出す。
 後ろの方で友人が何かを言っているようだが、 聞こえないフリをしよう。
(面倒くさい…。午後の授業はサボろう。)
 どうせ今日は練習問題などを適当にやらされるだけだ。
 出る意味もないし、 出る気もない。
 授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。
 皆が騒ぎながら走って行くのを横目で見ながら
 僕は1人、 皆とは違う方向へ足を進める。
 さっきまで五月蝿かった廊下が静まり、 チョークの音が響きはじめる。
 この雰囲気は嫌いじゃない。
 そんなことを考えながら、 屋上へと続く階段を上っていった。
 屋上のドアを開けると心地よい風が僕を出迎えてくれる。
 いつもなら、 すぐに寝そべって寝息を立てる所だが
 今日は違った。
 ずっと昨日の事を考えていた。
 昨日の女の子のこと…。
   あの子は、 どうして血だらけだったんだろう。
   あの子は、 あんなところで何をやっていたんだろう。
   あの子は、 一体だれなんだろう。
 浮かび上がってくる数々の疑問に、 僕は困惑する。
 でも、また会えたら何かわかるかもしれない。
 もう一度、 会って話がしてみたい。
 たかが女の子1人だろ?
 そう思う自分が心の片隅に居たような気もするが気にしなかった。
 こういうのを一目惚れとでも言うんだろうか?
 いや…そんなはずが無いか。
 僕は1人で苦笑しながら
 結局その時間は彼女のことを考えながら
 放課後になってすぐに、 一目散で駆け出した。
 目的はただ一つ。
 




「昨日の…人だ。」 
 突然放たれた細い声
 僕は、 汗を掻きながら息を切らして振り返る。
 そこに居たのはまぎれもなく、 さっきまで頭の中に居た彼女
 僕は少しばかり戸惑ってしまった。
「あ…えっと、 こんにちは。」
 何を話したら良いのかわからず、 とりあえず挨拶を交わす。
 彼女に会いたかったのは事実だけれど、 
 実際に目の前に居ると何から話したらいいのかわからず
 暫くの間、 苦しい沈黙がつづいた。
 それがやりきれなくなった僕は、 その沈黙を破る。
「あっ…!ちょっと話せる?」
 傍にある海辺を指差して、 彼女に問いかける。
 彼女は小さく微笑んで、 僕より先に海辺へと駆けて行き
 砂浜に腰を下ろした。
 そして僕の方へと振り返って、 隣の砂を叩いてみせる。 
 僕はゆっくりとそこに腰を下ろした。
「どうして、 またここに来たの?」
 潮風が吹いて、 彼女の赤みがかった髪が靡いている。
 昨日は夜で、 髪の色はよくわからなかったので
 今始めて、 彼女の髪の色を知った。
 外国人か何かだろうか? でも顔はもっぱらの日本人だ。
 全く質問と関係のないことを考えてる自分に気付いて
 すぐさま、 質問の答えを考え始めた。
「えーっと…君と話がしたかったから…?」
 想ったことをそのまま言った。
 それ以外に言葉なんて思い浮かばなかったから
「変な人…。」
 彼女はクスっと笑って、 視線を海の方へ移した。
 僕はそんな彼女を数秒見つめて自分は目を閉じて下を向く。
 どのくらいの時間がすぎただろうか。
 話したいなんて思っておきながら、 ちっともちゃんと話せてない。
 ただ、 長い沈黙が続いて
 自然の音しか聞こえない。
  海の方から聞こえる波の音
  空を飛んでいる鳥の声
  風が吹いたら聞こえてくる木々の音
 ふと僕は顔を上げて、 海の方を見ていた。
 今にも無くなりそうな夕陽が、 僕たちを照らしている。
 もうすぐ陽が暮れるんだな。
 そんな事を考えながら、 また目を閉じようとすれば
 彼女が突然立ち上がった。
「私… そろそろ戻らないと。」
 足に付いた砂を払いながら戻ろうとする彼女を僕は無意識に引きとめた。
「あっあの… また…来てもいいかな。」
 自分でも突拍子の無い事を言った。
 彼女も目を丸くしている。 
 でも、 掴んだ手は後戻りできない。
「私と話しても楽しくはないわよ?」
「いっ…いいよ、全然!僕が話したいだけだから」
 掴んだ手に少し力を入れつつ相手に対し粘る
 もっと話してみたい。
「じゃあ…うん…。」
 彼女は笑顔で答えてくれた。
 僕も笑顔になる。
 そして、 掴んでいた手を離した。
 陽が完全に沈んで真っ暗になる。
 今度は月だけが、 ぼんやりと僕らを照らしていた。
「あ…僕は陸って言うんだけど、 君の名前は?」
 僕はまだ、 彼女の名前を知らないことに気付いて問いかける。
「如何して名前を聞く必要があるの?」
「え…。」
 彼女の思いがけない言葉に少し困惑した。
 何でこんな事言うんだろう。
「名前なんて…知らなくてもいいじゃない。」
「良くないよっ!名前呼ぶときとか不便じゃないか。」
 彼女は僕から目を逸らして海を眺めている。
 名前くらい教えてくれてもいいのに。
「じゃあ…陸が決めて。」
「は…?」
 今度は何だ? 僕が決めろだって?
 犬や猫じゃあるまいし
 そんなに教えるのが嫌な名前なんだろうか。
「不便なんでしょう? ほら、 早く」
 そんなに早く思いつく筈がない。
 僕はいろんなところに目を泳がせながら考えた。
 ふと海が視界に入る。
 海か…。
「ミウ…は?」
 静かに僕は呟いた。
 何だか恥ずかしさがこみ上げてくる。
「いやっ…その、 ここ海だし。ひっくり返してミウって…。 でもやっぱり単純かな、 別のを…。」
 言いかけた僕の口を彼女は小さな手で塞いだ。
「いい。 ミウで…。」
 彼女はすぐに手を離して屋敷の方へと駆けて行き振り返った。
「私の名前はミウね。 よろしく。」
 小さく微笑んで行ってしまうミウを僕は見えなくなるまで見続けた。
 彼女の笑顔がよみがえってくる。
 波の音がきこえてきて、 心地よい風が吹いた。
 僕は暫くその場に立っていた。
 初めて自分が名前を付けた女の子の事をずっと考えていた。
 いつかは、 本当の名前を教えてくれるだろうか。
 その名前を僕は呼ぶことができるだろうか。
 それまではこの名前を呼ぶことにしよう。
 僕は自分に約束した。







 僕は自分に約束したとおり、 毎日のようにミウの名前を呼んでいた。
 いつも放課後になるとあの海辺まで走って行き、夜になるまで二人で話し続けていた。
 話す内容ははっきり言ってとてもたわいのないものだった。
 そこにいる虫や、空の話、海の話など、ずっと彼女は笑顔で話していた。
「それ…なぁに?」
 彼女は僕の鞄から出ているパンを指差して聞いてきた。
「何って…パンだけど?」
「パンって何なの?」
 この子パンすら食べた事が無かったのか?
 彼女は一体どんな生活を今までしてきたのだろうか。
 世間知らずも良いところだ。
「おいしいよ…。食べてみなよ」
 そう言いながら、パンの封を切って彼女に渡す
「おいしい…。」
 気に入ってくれたみたいで僕は嬉しかった。
 どうやら彼女は本当に何も知らないらしい。
 スポーツの事や、学校の事などを話しても、ただ首を傾げるだけだった。
 僕は彼女に毎日何かを持っていって教えて見せた。
 それは食べ物だったり、 ゲームだったり、 勉強だったりといろいろあったがすぐに彼女は覚えていってすごく楽しそうに笑っていた。
こんな風なのがずっと続けばいいのに、と僕は心の底から思っていた。




続く



2005-05-08 02:23:30公開 / 作者:空羅
■この作品の著作権は空羅さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
一応?話目です。
皆さんのアドバイスはとてもいい勉強になります。それを達成するのには時間がかかりそうですが、今回も何卒よろしくお願いします。
中途半端な文章で申し訳ありません!
この作品に対する感想 - 昇順
続き読ませていただきました。まず、連載物は前作に編集で書き加えて一本にしましょう無暗に掲載物を増やすのは他の書き手さんに失礼です(これは利用規約にも書かれていますので御一読下さい)。感想は次回かこの作品が一本に纏まった時にさせていただきます。
2005-05-08 17:50:17【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。