『勇者』作者:ずっぽぱ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1370文字
容量2740 bytes
原稿用紙約3.43枚
 俺は立ち上がった。無論、ただ立ち上がっただけではない。奴らを倒す為に、「勇者隊」に志願したのだ。
 最近になって、人間と魔物の争いは激化してきた。最初俺たちは数の上でも上回っていたが、最近は大勢殺されて数が減ってきている。
 この状況を見かねた我らが王、ゼット様は、精鋭を集めた討伐隊を組織する事を決めたのだ。それに志願するため、俺は立ち上がったのだ。
「よう、お前も勇者隊に入るのか?」
 志願者受付の有る役所へ行くと、体のやたらデカイ熊の様な男が話し掛けてきた。
「ああ、そうだ。あんたもか?」
「おうよ。奴らときたら好き勝手やりやがって、頭きてたとこだ。たっぷりいたぶってやるつもりよ」
 その男はそう言って、よだれを啜るように口からズズッという音をたて、にやりと笑った。その仕草を見て、ああ、コイツは俺の嫌いなタイプだな。と確信した。
 男は薄汚い微笑と共に去っていった。

 翌日、首都ゼテストで、志願者の最終受付や、敵の弱点、有効な武器・戦法などの講習会がひらかれた。生々しい写真や映像つきで、中には途中で吐く者もいた。俺は、何とか耐え抜いた。
 講習会が終わると、一週間後の出発の為に各々、散らばっていった。さて、何をしようかと、ぼんやり立っていると、昨日の熊男に出会ってしまった。逃げたかった。
「おう!やっぱり来てたか。探したぜ。この後一杯どうよ?」
「…………」
 どうやらこいつ、昨日ちょこっと話しただけで俺と友達になった気でいるらしい。こっちとしては、とても迷惑だ。しかし、断る理由が見つけられず、半ば強制的に飲むことになった。
「ここだけの話だけどよ……」
 男はまだ酔ってもいないうちから話し出した。
「俺の仲間に奴らを喰ったことがあるやつがいるのよ」
「なんだと!?」
 俺は正直、驚いた。あんな連中を口にするとは……
「なかなか、不味くはなかったらしい。どっちかって言うと美味いらしいぜ」
「俺は……喰わんぞ」
「はっはっは。別に喰えとは言ってねェよ。ただ、そういう物好きもいるってこったよ」
「…………」
 その後は他愛ない世間話をして時が経った。

 一週間後、ついに俺たち総勢百四十八名は、憎き奴らを滅ぼすため、首都を出発した。
 俺は知っている。ずっと先の山の中に、奴らの隠れ里があることを。遠いが、何のことは無い。三日も走れば着くだろう。ちなみにその隠れ里には、俺好みの女がいる。奴らにしては、すこぶる美人だ。どうにかして、てごめにしたいものだ。一体どうすれば……
 などと考えているうちに、隠れ里に着いてしまった。俺は、その女を探した。俺はちょっと心配な事があった。他の奴らにやられてはいまいか。この里を、逃げ出してはいまいか。俺の姿を見て、ショック死してしまわないだろうか。この愛のあまり、彼女を喰ってしまわないだろうか。
 俺はもう一度、自分の姿を川に映して確認した。なかなか、自分でもまんざらじゃないと思っている。
 引き締まった無駄の無い体。絶対折れなそうな屈強な腕。俊敏な足。よく聞く鼻。よく見える目。何でも切り裂く鋭い爪。何でも噛み砕く頑丈な牙。風になびく、勇ましいたてがみ。
 俺は用意した花束を取り出し、里へ入った。
2005-05-07 23:19:35公開 / 作者:ずっぽぱ
■この作品の著作権はずっぽぱさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ちょっと書いてみたくなったので書いてしまいました。出来が良いのか悪いのか……判断は皆様にということで。
誤字脱字などがあったら言ってください。以後気を付けます。
この作品に対する感想 - 昇順
食ったという話で、相手は普通の魔物じゃないのかな。と思ったのだけど。主人公のほうが人間ではなかったのか。しっかし、主人公が何だったのかわからん。私が馬鹿だからか? そうなのか?
2005-05-07 23:54:06【☆☆☆☆☆】clown-crown
拝読しました。もっと途中の文章を解り難く(読み難いと言うわけじゃなく、人間に思わせるって意味で)すれば最後の部分に辿り着いた時、「ああ、なるほど」と感じられるのに、物語半ばで気付いてしまったのが惜しかったです。偉そうに語る私をお許し下さい。主人公が魔物か何かは理解出来ましたが、描写の中にもっとナニカを想像させる言葉を入れれば疑問もなくなるかな、と思っております。では次回作に期待しております。
2005-05-08 00:13:42【☆☆☆☆☆】京雅
はじめまして。ユズキです。以後、お見知りおきを。と挨拶はおいといて。
あぁ、主人公のが普通でなら敵の方に回る方か、と最後で納得。初めの方ではてっきり何かモンスターでも倒す勇者かと、奴らを喰った辺りでアレ?と思い始めたのですが。うん、最後で納得。(うるさいって)ショートなのでこういったどんでん返しでいいと思うのですが。ただ、ひとつ残念だったのは主人公の全体像が掴めないところですかね。「引き締まった〜」と説明はありますが、結局のところどんなのだったのだろうと疑問に残ってしまいました。自分は勝手に想像してますが。全体を通して少し物足りないかなという感じがしました。
2005-05-08 00:20:47【☆☆☆☆☆】ユズキ
読ませていただきました、上下です。
確かに納得してしまいますね。そっち側からすれば確かに彼らは勇者ですからね〜。不満な点は他の方々が言ってくれているのでいいません♪
それでは、次回作楽しみにしています
2005-05-08 01:28:18【☆☆☆☆☆】上下 左右
ふーむ。と貴志川です。
なるほど、コイツ敵かぁ。そういうオチか。と思って読み終わると、意外と途中の文章が気になる。なんだか欲しいような、欲しくないような、そんな展開泣きがします。でもオチはよかった。
ではノ
2005-05-08 04:09:16【☆☆☆☆☆】貴志川
作品拝読させていただきました。題材の使い方が面白かったです。読みやすくスイスイ読めるのですが、ラストまで読んでしまうとなんとなく昼間部が物足りなく感じてしまいました。もう少し記述(主人公の敵に対する憎しみや恐怖)があっても良かったかなぁなんて思ってしまいました。誤字で気がついたのは「絶対折れなそうな屈強な腕」(折れちゃダメでしょう)ぐらいです。では、次回作品を期待しています。
2005-05-08 10:28:06【☆☆☆☆☆】甘木
皆様感想有難うございます。
皆さん言われるように、もっと勘違いさせるような文章を多くすればよかったなと思いました。夜で、焦っていたのでしょうか。もうちょっと書きたいと思いつつ風呂に入りました。
次は皆さんをちゃんと騙せるようにしたいと思います。
2005-05-08 21:32:09【☆☆☆☆☆】ずっぽぱ
面白かったよー。こういう物語大好きだよー。
まさか、主人公が魔物だったとはねー。
次回作も期待してるよー。以上猫舌ソーセージだよー
2005-05-10 21:05:15【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。