『嘘に始まり・・・・・・。』作者:ユズキ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 嘘に始まり終わった恋だと思った。

 始まりは高校三年生のとき。
 当時、同じクラスで気の合う友達だった彼が、そのとき付き合っていた彼女と別れるための嘘の恋人役からだった。
 まんまと彼の思惑通り彼女とは上手く別れられ、そのあと二人でカフェで話したとき、すぐのことだった。
 「付き合わない?」と言ってきたのは彼の方から。それに私は「別にいいよ」と軽く返事をした。
 ハッキリ言ってその場のノリみたいなものもあった。
 それでもそれから付き合い始めて、デートもして、それから体を重ねて・・・・・・。
 いつのまにか本気になっていた。
 高校最後の一年間、視線が合えば愛の言葉を交わしあい、休みのたびに二人で遊んで。また、二人でいれば何をしていてもしていなくても楽しかった。
 幸せだった。
 だけど大学に入り、彼は「浮気」をするようになった。
 それも度重なる浮気。そしてそれが発覚する度に私は問い詰めて、彼はお決まりのセリフ。

 ――もう、しないから。
               そのセリフはもう何回目?
 ――お前が一番だよ。
               何人のコに同じコトを言ってたの?

 その頃の私、彼のコトが本当に好きだった。
 浮気をされる度に泣いて、怒って、でも好きだったから彼が頭を下げる度に最後には私は許した。
 「もう、しない」と言われ、それを信じて彼の腕に抱かれ眠った。
 そのくり返しが続くたび、段々と彼の言葉が信じられなくなってきていることには気づかないフリをして。

そうして付き合い始めてから六年。大学を卒業して同棲し始めてから一年。今――。
 「海外出張が決まった」と彼は言った。
 「一週間後発で、帰りがいつになるかはまだ判らない」と彼は言った。
 それを聞いて私は内心嬉しく感じたのだと思う。
 やっと終れると。そう、嬉しく。
 何故か胸の奥がジクリと痛んだ気がしたけれど。
 それから一週間はいつも通りあっという間に過ぎた。
 いつも通り。私は彼と二人一緒に選んだ大きなベッドに一人寝て、彼は残業と言って毎日朝帰り。そして帰ってきた彼の少し皺の付いたシャツからは嗅ぎ飽きた私じゃない誰かの香り。

 「ごめんな、一人にして」
 出発まであと少しのとき、ホームにて彼は言った。
 「いつになるか判らないけど、絶対帰ってくるから」
 帰ってくる場所は私のところじゃないんでしょう?
 「帰ってきたら結婚しよう」
 この人は気づいているのかしら。
 嘘を付くとき髪をかき上げる癖。
 ほら、今もまたしてる。
 嘘だと決め付けて聞いていると目の前で話している彼の声も周りの雑踏もどこか、水の中にいるときの様にボワンと遠くから聞こえてくる。
 ―――ケッコンシヨウ。
 髪をかき上げ、彼は呪文のようにまた唱える。


 ――デンワ、マイニチカケルヨ。
                       ウソツキ。

 ――ホントウハツレテイキタインダケド。
                       ウソツキ。

 ――カナラズ、ムカエニイクカラ。
                       ウソツキ。

 ――ソレカラハズットイッショニイヨウ。
                       ウソツキ。

 あなたの唇はいつも嘘ばかりつむぐ。
 「ああ、そういえば」
 彼はふと思い出したように言った。
 「おみやげにお前の好きなチョコケーキ買ってきてやるよ」
 チョコケーキ?
 彼は一体誰と間違っているのだろう?私が彼に前、好きだと話したものはそんなものではない。
 間違えに気づかず彼は微笑んでいた。
 誰と間違っているの?
 言おうとして口を開き、しかしその口から出たのは
 「うん、楽しみにしてる」
 全く違う言葉。
 私もまた嘘をついた。しょせん私もウソツキなのだ。
 その嘘を聞いて彼は満足そうに微笑むと私の額にキスを落とした。
 終わりの時間が来たとアナウンスが告げた。
 「それじゃあ、行ってくる」
 彼が手を振るのに私は返さなかった。
 嘘に始まり、今、終る・・・・・・。
 彼は私に背を向け飛行機へと向かっていった。
 彼が階段を上っていくのが見える。飛行機に乗り込んだ。彼の姿が見えなくなる。そして最後の客までが乗り込み、扉がゆっくりと閉まっていった。飛行機が、彼が飛び去った。私から。
 終ったのだ。終った。そう、やっと解放されたのだ。いつの日から願っていた別れがやっと訪れたのだ。
 なのに・・・・・・、どうして?
 胸がジワリと痛んだ。だんだんとそれは全身へと広がっていく。それは昔、彼が浮気する度に感じた心の痛み。
 何で?今と昔は違う。だって・・・・・・。
 追うことさえもしないのに、涙の一粒さえも流れないのに。  (しょせんその程度の気持ちでしょ?)
 自然と額へと手が伸びた。
 どうして。どうして、私に触れる唇は、手は、あんなにあたたかく優しかったのだろう。
 額によみがえるあたたかさに体が、脳が侵食されていく。ドロドロに蝕まれ、犯されていく。
 否、とっくに私は侵食されきっていた。
 何故気がつかなかった?
 自分は終わりたいと願っていた、終るときを待っていた。終らせるコトなどすぐにいくらでも出来たハズなのに。
 嘘に気づいて、判っていながら気づかないフリをして、自分もまた嘘をついて。嘘ばかりで塗り固められた幸せに醜くも縋りついて。それを守りたくてまた嘘をついて。

 あぁ、何て愚かなのだろう。
 飛行機が飛び去り、さっきまでの客が次の客と入れ替わる人の波の中、私はその場に一人立っていた。
 そこには、もうあるハズのない飛行機を見つめ、
 あの人が帰ってくることを期待し待っている自分が確かに          いた。

                      
                        end?
2005-05-09 14:47:13公開 / 作者:ユズキ
■この作品の著作権はユズキさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
すみません。とりあえず謝ります。後味悪めですみません。謝るぐらいなら書くななのですが。
それにしても明るくて楽しいものが書きたいっていったのはどこの誰だったのでしょうか?初めは明るくてフワフワしてたの書いてたんですが、途中で行き詰まりまして(ぇ とりあえず先に「ウソツキ」と「額に〜」だけが先にあってそれに肉付けしてこの作品ができました。自分、まだ人をちゃんと好きになったことさえも怪しいぐらいなのにこんなの書いてどうしましょう?(聞かれても)騙す男はこんなコトするのかとか、コイツ手が甘いんじゃなかろうかとか、疑問は一杯なのでこんなこと思わんとかしないっていうところがありましたらお教え下さい。あ、それでいったらこの作品自体ダメなんじゃ・・・・・・。と、言い訳&戯言はこのへんにしておいて。
読んで下さった方ありがとうございました。感想も下さると嬉しいかぎりです。書いてくださる心優しい方はどうぞ辛口でかつ少し甘いことも言ってくださると嬉しいです(笑

追記:少し、改行を詰めました。また、変なところなどやここはこうした方がいいと言う場所があれば教えてくださると嬉しいです。
またまた追記:指摘された誤字直しました。
この作品に対する感想 - 昇順
end?って、どっちかにしてくれないと感想に困りますよー。浮気は絶対に許せない京雅としては女性に感情移入し難かったです(性格の問題です)。物語の内容としては種類的に「魅せる」タイプですよね?それなら心情だけじゃなくもっと描写を書き込んだほうが、私みたいに嗜好の違う人にも受け入れられると思います。主観を抜いて語れば女性の切なさと、あと一番初めの行の文がいいですね。途中、カタカナで男の言葉と「ウソツキ」を綴った箇所がありますが、「ウソツキ」は兎も角、男の科白は別に普通に書いてもよかったのかな、とどうでもいい事を言い残して、ここは去ろうと思います。意味不明な感想を長長と書いて申し訳ありません。次回作に期待しております。
2005-05-07 15:39:14【☆☆☆☆☆】京雅
京雅さん>ショートなのでこれで終わりです。浮気、自分も許せない派です。なら何でこんなん書いてるのか(^^;)描写書き込むべきかどうするか悩んであんまり入れなかったんですけど、裏目に裏目に(汗 ウソツキの辺りは水の中からという感じでカタカナにしたのですが普通のが良かったですかね。最後まで一番悩んだのはそこでした。女性の切なさ少しでも感じて頂ければ嬉しい限りです。
2005-05-07 16:00:56【☆☆☆☆☆】ユズキ
作品拝読させていただきました。作品そのものが女性の立場で描かれているので男の私には頭で理解しても感覚で分からない作品でした。男の嘘をどうしてこんなに我慢できるのだろう? 尽くす女ってヤツか? 馬鹿じゃないのなら別れればいいじゃん。など男サイドの感想しか浮かびません。ま、私が本当に人を愛したことがないせいかもしれませんが。二人の生活描写(付き合い描写)を描いた方が彼女の心情に同調できたのかも知れません。ともかく私にとっては男女の感情の差を知れた興味深い作品でした。では、次回作品を期待しています。
2005-05-07 22:09:54【☆☆☆☆☆】甘木
甘木さん>男の嘘をどうして我慢できるのか。うーん、一応そこには根底に女の方は「諦めてる」って言うのを先に出して、最後に「ああ、今でも本気で好きだった」みたいな雰囲気にしたつもりだったのですが、甘かったですかねぇ。ちなみに自分だったらいくら好きでもこんな男とは別れてますね。自分自身も本当に人を愛したことってないので実際そうなったらどうするかは判らないのですが(^^;)生活描写は自分が書くとグダグダしそうだったのであえて、入れなかったのですが、ここでもやっぱり裏目に(汗 男女の感情の差はこの作品の事をあまり当てにしない方がイイですよ〜。本当全て想像で書いたので。実際の女性(子供でも大人でも)はもっと怖い人も結構いますし。ともかく少しでもこの作品を読んで頂いて、何かを感じて頂けたなら幸せな限りです。感想もつけて頂いたし。本当幸せです。感想ありがとうございました!
2005-05-07 22:23:54【☆☆☆☆☆】ユズキ
最後の心理描写なのですが。あれは改行しないほうがいいですな。せっかくあれだけ書いても、改行しまくっては軽く感じてしまうものです。いや、あれだけ書けるのもすごいと思うんですがね。見せ方も必要かな、と。
2005-05-07 22:58:29【☆☆☆☆☆】clown-crown
読ませていただきました〜♪テーマは浮気ですか。いいですね〜。心の中の表現がとてもはっきり書けていてとてもうらやましいです。その文章力を少しでも分けてほしいぐらいですよ。
後味は全然悪くないですよ。むしろ、ちゃんと本当の心がわかってよかったな〜と思っています。
それでは、役に立たない感想でしたがこれで失礼します。
次回もがんばってくださいね〜♪
2005-05-07 23:09:28【☆☆☆☆☆】上下 左右
clown-crownさん>最後の心理描写・・・・・・。え、どこ?(阿呆)「あぁ、何て〜」でしょうか。すみません、このレスに気付かれたらヒマな時でいいんで教えてくださると嬉しいです。どこどこというだけでいいので。本当すみません。見せ方も頑張りますね。
上下 左右さん>テーマは浮気ともうひとつあるのですが言ってしまってはもったいないというかガッカリさせてしまったら自分がイヤなので読んでくれた人がこういうテーマなのかな?と思ってくだされば嬉しいです(^^)ぶ、文章力!?な、分けれる程ない、米粒ほどあればいいなぁぐらいで。むしろこちらが分けてもらいたいですよ。うーん、心の中の表現も全て想像ですからね〜。それでも何か私の文で感じて頂ければいいですね。後味悪くなかったですか、それは良かったです。役に立たないだなんてとんでもないですよ、生きる(?)活力になってますから!

p.s 作者メッセージのところに「甘いコトも〜」と書いたせいか皆さん甘めに書いてくださって嬉しい(−v−)(イヤ、だからって厳しくしてくれないと困るのですが)感想書いて頂けただけで天に昇りかけですから、少しでも甘くされると天に昇りますよ。何回か実際召されたかも(笑 あぁ、何だかみなさんの優しさが身に染みるなぁ。と思うユズキでした!
2005-05-07 23:31:41【☆☆☆☆☆】ユズキ
はじめまして。タカハシと申します。作品読ませていただきました。読了後の感想は、ああ勿体無い、なのです。心理描写の移り変わり、やわらかい文体がその吐露にマッチしていると思う。だけれどもディティールが。
あの、細部の描写はですね、すごい個人的な考え方なんですけど、作品のオマケじゃないと思うんですよ。単なるリアリズムのための演出でもない。ちいさな描写を作者の思惟がなぞっていくとき、作品の構想段階では思いもよらなかったイメージが湧き出てくるんですね。書いているときは先に進みたくてどうしようもなくて、ついそういう立ち止まりを億劫がってしまうものなんですけど、実はそういう作品のかけらから湧き出たイメージというのは、書き手にとってゼニでは買えない大切な自分自身の鉱脈だと思うのですよ。だって、作品のプラン、構想って、書く時間に比べたらあまりに短い。書き手が作品と付き合う時間って、圧倒的に書いている時間の方が長いんですね。書く上でクロスオーバーする様々なイメージと、それを誘発するためのディティールへの意識は、極めて重要なことだと思います。
もちろん、わきあがったイメージを全て描写するかどうかはまた別次元の話です。ただそういう視点から見て、ちょっと駆け足気味だったので、本当に勿体無い。惜しいなあと。センス、文体、ユズキさんに十分資産はあると思うのですよ。それだけにね。さてさて、好き勝手を書きまして大変もうしわけありません。できましたらご容赦ください。
2005-05-08 03:16:58【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
タカハシジュンさん>思いもよらなかったイメージ・・・・・・。うん、何となく判る気がします。初めにこういったの書きたいなって思ってても段々とそれに肉付けしていくうちに「あ、これもいいな」とか。書いてるときはそうですね、どうしてもここが書きたいってところまで急ぎ足になりがちです(^^;)あぁ、それにしても暖かい言葉ありがとうございました!これからに生かしていきたいと思います。とりあえず自分の作品に足りないのは背景などの描写が一番足りないと思っているので(汗 が、頑張ります!
2005-05-08 10:59:52【☆☆☆☆☆】ユズキ
【終ったのだ。終った。そう、やっと解放されたのだ。】から【嘘ばかりで塗り固められた幸せに醜くも縋りついて。それを守りたくてまた嘘をついて】まで。
「がんばれ〜」と無責任な応援をしつつ去っていくclown-crown。
2005-05-08 16:04:28【☆☆☆☆☆】clown-crown
clown-crownさん>わざわざもう一度書き込み、ありがとうございました。はい、頑張りたいと思います!
2005-05-08 22:06:21【☆☆☆☆☆】ユズキ
軽く読めてよかったです、と。何か簡易感想みたいなことを書いて申し訳ありませんが(汗)ああ、こういう男普通にいるよね、と渇いた笑いを洩らしつつ読ませていただきました。友人にいるんですよ、これがまた。ホントいつか女に刺されるよ、っていう男が。なんというか、こういう女視点の作品を読むと、そういったあたしの個人的人間関係も考えてしまって何とも複雑な気持ちになります(笑)でもまあ、軽く読むには良かったかな、と。次回作も楽しみにしています◎
2005-05-08 23:07:01【☆☆☆☆☆】ゅぇ
ゅぇさん>こういった男にはそのうち本当何か起きそうですよね。女は本当怖いですからね(何 
軽く読めましたか。それは良かったです。みなさん感想書きにくかったらどうしよう!?と慌ててたもので(汗 今回毎度書いているような気がしますが本当に想像だらけなので軽く読んで流してくださいね。複雑な気持ちは他の方の良い作品に吹き飛ばしてもらってください(他力本願)感想ありがとうございました!
2005-05-08 23:20:14【☆☆☆☆☆】ユズキ
うん、楽しめました。海外主張は海外出張の間違いでしょうか?
好きだけど報われず、だったら相手に期待しない。そう思っていても心の中で何か期待してしまっている。そんな女性の心理が巧く書けてたのではないでしょうか。とても読みやすかったです。浮気は……される方にも責任ありと思っている猫舌ソーセージでした。
2005-05-09 11:03:17【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
猫舌ソーセージさん>あわわわ、海外出張の間違いです。直しときました。教えて下さってありがとうございました!浮気はされる方にも>でしょうね。でも、浮気がそれで許されるかどうかといったら別ですけどね。女性の心理は上手く書けてるか心配だっただけにそう言ってもらえると一安心です。それだけでもう書いた方としては十分です。感想ありがとうございました!
2005-05-09 14:52:59【☆☆☆☆☆】ユズキ
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