『一夏の物語』作者:マッハピザ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約7.22枚
 雨にも負けず、風にも負けず、ただひたすらに私は伸び続けた。
 何百回、何千回踏まれてもただひたすらに私は伸び続けた。
 臭い煙を吸っても、犬に小便をかけられても、ただひたすらに私は伸びつづけた。
 道路の隅で私は精一杯に生きた。どんな苦しみにも耐えながら伸び続けた。
 そんなある日あなたは現れた。
 暑い日差しの中あなたはしおれた姿の私に水をかけてくれた。
 来る日も来る日もあなたは私に、道路の隅の日陰に生えているこんな私に水を持ってきてくれた。
 数日後、初めて私は花を咲かすことができた。黄色い小さなかわいらしい花が私の頭の上に咲いた。
 そしてあなたは呟いた。顔に満面の笑みを浮かべ、
「きれいだ」と。
 
 

「暑い」
 太陽が燃え上がる炎天下の下で俺はやけになって呟いた。夏なので暑いのは仕方の無い事だと分かっているが流石にここまで暑いとむかついてくる。
 タオルで顔にほとばしっている汗を拭い、恨めしい太陽を一睨みした後、俺は再び赤い自転車をひき始めた。
 しかしこの自転車というものが重いったら重い。
 自転車の籠の中には大量の封筒、封筒、封筒、封筒……そして稀に謎の小包。一目見ただけで無意識に溜め息が出てくる。
 俺は今日中にこれら全てを宛先の各家々に届けなくてはならない。それが今日の朝俺に出された指令であった。
 俺は夏休みの期間だけという条件で市内の郵便局でバイトを始めた。本当は涼しい局内で仕事をしたかったのだが「男は配達だ。」という意味不明の理由でちゃっかり配達に回されてしまいこのありさまだ。今の時代は男女平等だろ?とついつい突っ込みたくなる。
 おかげで俺はこの炎天下の中、ただひたすらに自転車を引きずってさまよい歩いている。水も生気も太陽に奪われ、もはや俺の中には自転車を支える力しか残っていない。
 俺の頭上で自由気ままに燃えている太陽が本当に恨めしく思った。

 夕刻、恨めしき太陽がやっと沈みだし籠の中の郵便物少なくなってきた頃、ちょうど石井さん家の角を曲がった所で今日も俺はあるものに目線がいった。
 コカコーラの自動販売機からちょっと離れた道路の隅でなんとなく生えている雑草だ。
 隅っこで何気なく生えている雑草。
 俺はその雑草がなんとなく好きだった。
 普通の人だったらまずこんな道路の隅っこになんか目線はいかないだろう。ましてや雑草、100円玉とは訳が違う。普通の人なら気づいたところで何の感情もわかずにさっさと通り過ぎてしまうだろう。
 俺がこの雑草の存在に気がついたのももしかしたら奇跡かもしれない。それだけに雑草の存在感というものは薄いのだ。
 でも俺はそんな雑草がなんとなく好きだった。
 実はこの雑草、見る度見る度少しずつ大きくなっているのだ。最初に見た時は地面からちょろっと姿を見せていた赤ん坊が、今になってみるとうちの庭に生えている雑草くらいにはなったろうか、まあ雑草として一人前になったようだ。
 人知れぬところで努力をしているのだなあ、とつくづく思う。
 だから俺は毎日ここを通り過ぎるたびにこいつに水をかけてやっている。枯れるな、がんばれという気持ちを込めて飲みかけの水をかけてやっている。
 これはすでに俺の日課だ。逆にこの雑草を見ないで帰ろうとすると何かやりきれない気持ちを感じてしまう。
 
 そんなわけで今日も俺の目線はこの目立たぬ雑草にいったわけだが、次の瞬間初めて俺の目線は完全にこいつに奪われてしまった。
 ――花が咲いていた。黄色い小さなかわいらしい花が……
 俺は驚きを隠せなかった。あまりの驚きに一瞬時が止まったような感じさえした。
 雑草でも花を咲かすことができるのか。こんなきれいな花を。美しい花を……
 気がつくと俺は呟いていた。顔に満面の笑みを浮かべ、
「きれいだ」と。


 ☆

 今日も私の頭には花が咲く。黄色い色の小さな花が。
 道路の隅で花は咲く。日差しをうけて生き生きと。
 それは私だけに咲いた花。世界に一つしか存在しない私だけの花。
 あなたは気づかせてくれた。私にも花を咲かすことができるということを。名も無いような雑草の私にも花を咲かすことができるということを。
 道路の隅で私は願う。叶わぬ夢に私は願う。
 できることなら伝えたい。水を持って来てくれたあなたに、
「ありがとう」と。
 
 
 
 天気は快晴。
 雲一つない青い空。恨めしいほど輝く太陽。
 夏の午後の炎天下の中、今日も俺は赤い自転車を引きずりまわしていた。
 相変らず今日も暑い。暑いったら暑い。太陽は今日も自由気ままに燃え上がる。
 時刻はちょうど午後の2時。恐らく本日の最高気温を叩き出している時刻だろう。
 鈴木さん家のポストに封筒を入れた後、俺は自転車を止めタオルで汗を拭い落ち着かない様子で腕時計を見つめた。
「まずい……」
 直後、俺は呟く。
 珍しく、いや初めてと言っていいだろう、俺は焦っていた。
 籠の中には大量の封筒、封筒、封筒、封筒……
 午後になってこんなにもたくさんの郵便物が籠の中に残っているなんて初めてだ。初日でさえこんなには残っていなかった。
 どうも今日は調子が悪い。いつものように体がいうことを聞かない。それに今日に限っては暑さよりも空腹感が遥かに俺の中で勝っていた。
 ああ、失敗した……と俺は心の中でぼそっと呟く。
 一日三食を欠かさない俺が朝から何も食べていない。米もパンも何もかも。口にしたのは公園の水のみ。流石に水だけではこの重労働は耐え切れないだろう。朝寝坊したことを今さらになって深く後悔した。
「あ〜気持ち悪い……」
 力のない声で俺は呟いた。
 それでも俺はひたすらに次のポストへ向かって前進を続ける。延々と続くきりがない作業。まるで砂漠の中をさ迷い歩いている様だ。
 自転車を支える手が震えている。暑さと空腹感が同時に襲ってきて、吐くものも無いのに思わず何かを吐きそうになる。次第に意識がもうろうとし瞼が重くなってくる。

「あの」
 
 声。突如俺の後ろから声がした。意識がもうろうとしていてよく聞き取れなかったが確かに誰かの声が聞こえた。

「あのう」

 声。再び俺の後ろから声がした。誰かの声が。きれいな声が。

「あのー……」

 声。またもや俺の後ろで声がした。これで三回目。くらくらする頭の中で疑問に思う。一体誰だ?何で俺の後ろで話しているんだ?一体なぜ……?
 引きずっていた自転車を止め生気の無い顔で俺は後ろを振り向く。ぐらぐらと合わない視点を何とかその声の主に合わせる。
 
 ――麦藁帽子。

 俺が道路に倒れこむ前に見たのは麦藁帽子を被った黒髪の美しい女性だった。


 続く
 




 
 
2005-05-05 09:25:45公開 / 作者:マッハピザ
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■作者からのメッセージ
初めまして、マッハピザと申します。
読んでくれた方ご感想、ご指摘の方よろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして。ユズキです。自分もこの間、初めて投稿した未熟者ですが、よろしくおねがいします。
読んでみての感想は正直まだよく判らないでした。文章の表現の仕方はイイ感じだと思いました。まだ始まりのせいか、どこか詩のようでキレイだなと思ったのですが、これからこの物語はどう進んでいくのか想像がつくようなつかないようななので、マッハピザさんがどんな作品を書かれるのか楽しみにしてます。
2005-05-01 22:07:09【☆☆☆☆☆】ユズキ
初めまして。冒頭部分に惹かれて読ませていただきました。少し切ない匂いのする感覚を受けましたが、小さな雑草に目を向けるというひとつの行為に何かこうちょっぴりグッとくるものが。もう少し『俺』の心情描写等々があれば、最高なんではなかろうか、と思ったりもします♪続くんですね、次回をお待ちします。あ、あと「…………。」→「…………」と。「」の中の最後、句点いれないのが正規表現みたいですよん★ではでは。
2005-05-01 22:09:18【☆☆☆☆☆】ゅぇ
続く。続くのかあ。このレヴェルで続いてください。雑草とは、とてもいい着眼点だと思います。よきかな、よきかな。
2005-05-01 22:15:51【★★★★☆】clown-crown
初めまして、京雅と申します。雑草にスポットをあてられて、冒頭部分は惹き込まれる感じがしました。文章も整ってますし。疑問に思ったのは郵便局の仕事で、私にその知識がないので何とも言えませんけど、バイトの人に自転車で配達はさせないだろうというイメージがあります。あくまでイメージです。これからどの様に展開させてくれるのか気になります。次回更新も頑張って下さい。
2005-05-01 22:52:25【☆☆☆☆☆】京雅
初めまして甘木と申します。作品拝読させていただきました。冒頭のシーンだけで私にとっては評価ものです。いい。これからどのようなストーリーが展開され、この優しい雰囲気が続くのか、それとも大きく変わるのか、続きが待ち遠しいです。ただ主人公の心情を「なんとなく」だけですまさないで、もう少し丁寧に書き込んで欲しかったです。読んで昭和天皇の「雑草という名前の植物はない」と言う言葉を思い出しました。では、次回更新を期待しています。
2005-05-02 00:13:53【☆☆☆☆☆】甘木
拝読いたしました。有栖川(ありすがわ)と申します。うーん、綺麗な物語です。別に花好きでもないけどなんとなく道端の雑草に惹かれる心情、なんとなくわかります(笑 なんとなく飲みかけの水をあげていて、ある日ふと気づいたら咲いていた、いや綺麗ですね。この何気なさが私は好きです。雑草視点とこのお兄さん視点、ふたつが上手く絡み合ったらものすごく『読ませる』話になるのではと今から期待です。次回更新も頑張ってください。
2005-05-02 00:20:10【★★★★☆】有栖川
みなさん感想ありがとうございます!返事遅れてすみません。
【ユズキさん】初めまして。どうも、マッハピザです。感想ありがとうございます。確かに読んでみると詩に肉をつけたような感じの文になってますね。これからもきれいな文を書いていくようにしたいものです。あと実は自分も最近になって小説を書き始めた者です。こちらこそよろしくお願いします。
【ゅぇさん】初めまして。マッハピザです。感想及びご指摘の方ありがとうございます。確かに俺の心情描写全然入ってませんな。次はもう少し練りこませてみようと思います。あとかぎカッコの中の最後って。いれないものだったのですか!ご指摘ありがとうございます。
【clown-crownさん】初めまして。感想どうも。とてもいい着眼点とは……いやいやそんなことないですよ。これからもこのレヴェルで続けるようにしたいものですな。
【京雅さん】初めまして。マッハピザです。感想ありがとうございます。郵便局の仕事については僕自身が体験済みなのでご安心を。本当に自転車で配達をさせられます。自分がやったのは冬だったので暑くはありませんでしたが極寒の寒さだったのを身に覚えています。
【甘木さん】初めまして。感想ありがとうございます。やはりもっと主人公の心情描写が必要でしたね。次はもっと丁寧に書き込んでみようと思います。昭和天皇の「雑草という名前の植物はない」、昭和天皇はそんな言葉を残していたのですか、知りませんでした。とても勉強になります。
【有栖川さん】初めまして。感想ありがとうございます。雑草視点と主人公視点を絡み合わせる……簡単そうに思えて難しそうなことですね。自分にそれができるかわかりませんがこれからもよろしくお願い致します。
2005-05-02 20:15:58【☆☆☆☆☆】マッハピザ
雑草に花が生えてるときは余計に綺麗に感じますよね。普通の花だったら咲くのが当然の花が雑草だとなんだか特別に思えて綺麗に見える。錯覚に過ぎない感情なのにそれが大切なわけで……。まあ、戯言は置いといて、話の流れはいい感じですよ。続きが気になるので早めに更新してくださったらうれしい、などと自分勝手なことを書き綴る天風でした。
2005-05-02 21:24:59【☆☆☆☆☆】天風
【天風さん】初めまして。いやはや感想どうもありがとうございます。普通の花だったら咲くのが当然の花が雑草だとなんだか特別に思えて綺麗に見える。
いい事言いますね。自分もそう思います。次回更新できるかぎり速くしようと思いますので首を長くして待っていてください。
2005-05-02 22:05:06【☆☆☆☆☆】マッハピザ
読ませていただきました〜(6∀6)あの、『米もパンも何もかも』ってとこ、微妙に笑いました(笑。朝寝坊だけのくせになんか飢餓状態みたいな言い方すんなぁ、と一瞬吹き出した(笑、いや全然かまわないんですが(笑。ちょっと更新分が短い気もしますが、それでも何か心洗われるような優しい雰囲気は伝わってきます。ちょっとした漫画を見てる感じかなぁ◎ともかく次回をお待ちしますねっ♪
2005-05-05 09:39:38【☆☆☆☆☆】ゅぇ
今回もキレイな文章ですねぇ。心理描写から背景描写までひとつひとつがいいなぁと感じました。麦藁帽子の黒髪の美しい女性、これはやっぱり・・・・・・?などと一人想像して楽しんでます。うあー、続き気になります。次の更新、心待ちにしておりますので。では。
2005-05-05 10:08:57【☆☆☆☆☆】ユズキ
えーと、愚か者でも重症の類の京雅は、「私の頭には花が咲く」の文で喩えだと思い男の視点だと勘違いして一寸読み進め、あ、雑草の視点でほんとに咲いてるって事なんだなと一人で大爆笑しました。いえ、マッハピザ様のせいではなくこちらの読解力が劣っているせいです。淡く温かな雰囲気が(男にとっては暑くて死にそうだろうけど)いい感じに醸し出されていると思います。麦藁帽子の女。雑草かな、それとも雑草が二人の天使になってくれるのかな、何て今から展開を気にしています。次回更新も待っています。あ、既に体験していたのですね。それは失礼しました、私の知識不足でした。
2005-05-05 10:28:18【★★★★☆】京雅
読み足りない……もっと読みたい。読者の我が儘全開です。今回も綺麗な描写に堪能させていただきました。主人公の「暑いったら暑い」は解りやすいのですが、この前に炎天下、暑いの表現があるので違う表現で嫌になる熱さを描いても良かったのではないでしょうか。と、同時に熱さに苦しんでいるだろう雑草のことを思い浮かべても良かったのではないでしょうか。ま、馬鹿な読者の戯れ言ですので気にせず流してください。それと前回ポイントを入れ忘れましたので今回得点させていただきます。では、次回更新を期待しています。
2005-05-05 17:51:53【★★★★☆】甘木
ゅぇさん、ユズキさん、京雅さん、甘木さん感想、ご指摘の方ありがとうございます。皆様の言う通り今回の更新はとても短かく物足りなかったことを深く反省しております。次回はもっと話を発展させて描写も増やしていこうと思う今日この頃です。アドバイス等を参考にして精進していこうと思います。
2005-05-05 18:38:24【☆☆☆☆☆】マッハピザ
読ませていただきました。うん、いい感じ。面白いです。文章も読みやすくて、続きが気になります。雑草からどんな話に持っていくのかなぁと興味津々で読み進めておりましたが、こうなるのか。ありがちといえばありがちですが、それが心地よいです。次回も頑張って下さい。
2005-05-06 02:10:47【☆☆☆☆☆】影舞踊
前回に引き続いていい感じですね。皆さんが言っているように一回の更新の量が少なくて読み足りない気がしますが、次回から描写などを増やしていくそうなので描写がくどくならないように気を付けてください。それでは次回の更新を心待ちにしております。
2005-05-06 21:16:01【☆☆☆☆☆】天風
いつになったら更新されるのでしょう………。続きが気になります。お早いお帰りを期待しております。
2005-06-09 23:23:56【☆☆☆☆☆】天風
計:16点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。