『モザイク 前編 後編』作者:森川雄二 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約10.24枚
 ある日いつものように登校し、いつものように教室に入り、いつものように自分の席に着こうとしたがいつもとは少し違う教室の雰囲気に気づいた。
 何やら騒がしい。しかも人だかりができている。ちょうど山口がいる席のところだ。山口はいわゆるいじめられっ子で毎日殴られたり、恐喝されたり、机の中に虫の死骸を入れられたり、とにかくいじめられていた。そして数ヶ月ほど前にある事件があってから、ぱったりと学校に来なくなった。
 その事件は山口がいつものようにいじめられ、いつものように恐喝されているときに起こった。そのときの山口はちょうど千円しかもっておらず、いじめていた連中は他に隠していないかと彼の財布をあさっていた時だった。山口の財布の中から一枚の写真が見つかったのだ。それがアイドルの写真とかだったらまだ笑い事で済んだのだろうが、その写真に写っていたのは同じクラスの河野さんという娘でしかも着替えているところが写っていた。あきらかに盗撮だった。
 この噂は学校中に広まり、当然先生たちの耳にも入った。山口は停学になったが停学が解けたあとも学校には来なかった。
それにしても山口がきたからこんなに騒いでいるのだろうか?まあ、あんな事件があったのだから当然だろう、とも思ったがそれにしては少し様子が変なように思えた。
 あまり野次馬というのは好きではないが少し気になったので見に行った。そして山口の席に座っているそいつの顔を見て我が目を疑った。そいつの顔には比喩でもなんでもなくモザイクがかかっていたのだ。
 一瞬昨日友達から借りて深夜にこっそり見た、やたらとモザイクの濃いAVのせいで目がおかしくなったのだろうかなどと本気で心配したが、騒いでいるところを見るとどうやらほかの皆にもちゃんと見えているらしい。
 それは確かにモザイクだった。よくテレビ番組やAVで使われるあのモザイクである。それはちょうどそいつの顔が隠れるくらいの大きさで、角度を変えて見たり近づいて見たりするやつもいたがどうやってもそいつの顔は見れないようだった。
 当然ながらなんで顔にモザイクがかかっているのか聞くやつもいたが、そいつは何も答えなかった。業を煮やし暴力を振るって無理やり聞き出そうとするやつもいたが、何度殴られてもそいつは沈黙を守り続けた。

 他のクラスから友達を連れてくるやつもいた。
「ホントにすごいんだって」
「うそだあ」
 などといいながら内田が隣のクラスからぞろぞろと友達を連れてきた。
「ほら、ホントにモザイクかかってるだろ?」
 と山口の席に座っているそいつを指さしていった。しかし隣のクラスの連中は怪訝そうな顔をして互いに顔を見合した。
「どこがさ?そいつこの前の盗撮事件起こした山口とかいうやつだろ?モザイクなんかかかってないじゃん」
 これには内田だけじゃなくうちのクラスの全員が驚いた。
「何言ってんだよ!よく見ろよ!ちゃんと顔にモザイクかかっているだろ?」
と内田は必死に説明したがどうやら彼らには本当にモザイクは見えていないらしかった。その後も他のクラスの連中を連れてきたり、先生を連れてきたりもしたけれどどうやら僕らのクラスの生徒以外にはモザイクは見えないようだった。
 僕らにはそいつの顔が見えなかったので確信はもてなかったが少なくとも、他の連中にはそいつの顔は山口に映っているようだし雰囲気なども山口そのものだったので僕らはそいつを山口として扱うようにした。
 僕らのクラスは山口のモザイクのことで話が持ちきりだった。なぜ山口の顔にモザイクがかかっているのか?なぜこのクラスの生徒以外には見えないのか?さまざまな憶測が飛びかったが当然ながら答えはでなかった。もちろん山口本人に直接聞くものもいたが山口は何も答えなかった。
 ぼくらのクラスの生徒以外には見えなかったので他のクラスの連中や先生たちはこのことをまったく信じず、悪質な冗談としか思わなかった。誰も信じてくれないのでいつのまにかモザイクのことは自分たちのクラスの生徒以外とは話さないことが暗黙の了解となった。
 そしていつしか誰もモザイクのことをあまり話さなくなり、僕らはこの非日常的な出来事を毎日の退屈な日常の一部として受け入れることにした。

 山口の顔にモザイクがかかったからといって何か変わるわけでもなく、したがって何か変えられるはずもなく山口はまた以前のようにいじめられ続けた。
 変わったことといえば以前より山口に対するいじめがひどくなったことくらいだ。その原因の一つは当然あの盗撮事件のことだろう。特に被害者の河野からは陰湿ないじめを受けていた。もう一つの原因はモザイクのことだ。人は自分では理解できないもの、自分とは異質なもの、不可解なものほど傷つけなければいられないらしい。

 ひさしぶりに山口と一緒に帰った。山口とは小学校からの付き合いだ。といっても特別仲がよかったわけでもなく、家が近かったのでたまに一緒に帰っていたくらいだ。でも山口が誰か友達と話しているところは見たことがないので、おそらく山口にとって友達は僕くらいのものだろうと思う。
「なんというか……ごめんな。助けられなくて」
別に僕は山口と特別仲がいいわけでもないので、特に悪いとは思っていなかったのだが一応謝った。
「別にいいよ。ぼくはいじめている連中のことは大嫌いだし、いつか必ず復讐したいと思っている。でもね、それ以上に偽善者みたいなやつはもっと嫌いだ。そういう連中を見ていると吐き気がする。だから……別に謝らなくていいよ。それに、本当は悪いなんて思っちゃいないんだろう?」
「……そんなことないよ」
僕は内心どきりとしたが平静を装ってそう答えた。しばらく気まずい沈黙が続いた。
「あの、さあ……その、モザイクのことなんだけど」
僕はその気まずい雰囲気に耐えられず、また、自身の好奇心に負けてそう聞いた。山口は黙ったままだった。僕はひょっとしてなにか怒っているのだろうかと思い、そっと山口の顔を見たがモザイクがかかっているのでどんな表情をしているのかはわからなかった。またしばらく沈黙が続いた。
「そうだね……なんでこうなったのかはよくわからないけど、原因はなんとなくわかるよ」
沈黙を破ったのは意外にも山口のほうだった。
「原因は多分あの盗撮のことがばれたからだと思う。あのことは僕にとって今までいじめられていたどんな時よりもつらかった。いじめのことは、いじめている連中が馬鹿なだけだと思えばいいけど、こればっかりはね……。あれはぼくにとって絶対に知られたくない秘密だったんだ。誰にだってあるだろう?知られたくない秘密って。僕のことをいじめている連中も、優等生ぶっている奴らも、君にだってね。……恥ずかしくて死にそうだったよ。家でね、鏡で僕の顔を見るたびに思うんだ。僕はこの醜い顔をさらにいやらしく、醜く歪めて写真を撮っていたんだと思ってね……とてもつらかった。そしてクラスのみんなもぼくの顔を見るたびにそう思っているのかと思うと……。だから、せめてこの醜い顔にモザイクでもかかってみんなに見られなくなればいいのにって……そう思ったんだ」
「そうしたら、本当にモザイクがかかっていた?」
「ああ」
「治るのかな?」
「さあね、でも別にぼくはこのままでもいい」
そんな会話をかわしたあとぼくらは別れた。山口はこのままでもいいのだろうか?このままだとクラスの誰からも顔を忘れられるんじゃないか?それでも本当にいいのだろうか?

 ぼくはどうして山口がいじめられると判っていて学校に来るのかを考えた。山口は誰ともしゃべらないし、何か楽しみがあって学校に来ているようには、とてもじゃないが見えなかった。山口はなんで学校に来るのだろう?山口にとっての世界があの教室だけだからだろうか?だからモザイクはあのクラスの生徒にしか見えないのだろうか?ぼくにとっての世界があの平凡で、退屈で、なんのおもしろみのない教室であるのと同じように……。

 その日も山口はいじめられていた。ただ、その日はいつもよりも執拗にいじめられていた。きっといじめている連中も機嫌が悪かったのだろう。
「それにしてもお前さあ、生きてて恥ずかしくないの?」
「盗撮なんかして、変態だろお前。お前みたいなのが犯罪犯すんだよ。」
「それにしてもさあ、いい加減になんで顔にモザイクかかってんのか教えろよ。あんまし顔がキモイからモザイクかかったのか?十八歳未満にはグロすぎて見れないとか」
いじめている奴らはそんなことを言いながら、山口を殴ったり蹴ったりしていた。

 それからしばらく山口はまた学校に来なくなった。もう一ヶ月ほどになる。山口がいなくてもこの世界は、この教室は何も変わらず、平凡で退屈だった。このクラスにとって山口はいてもいなくても変わらない存在だ。でも山口にとってはこの世界はどういう存在なのだろう?そんなことを考えていたとき、突然放送が流れた。それは山口の声だった。
「えーみなさん突然ですが、よくお聞きください……」
山口はうちのクラスの連中の知られたくない秘密を次々としゃべり始めた。それは誰々が万引きとしているか、売春しているとか、そういう内容だった。クラスの連中は全員真っ青になって、放送室に一斉に向かった。これほどクラスのみんなの心が一つにまとまったことは初めてではないだろうかと思う。放送室には鍵がかかっていたがドアをぶち壊して入ると、中にはやはりモザイクのかかった山口がいた。当然のことだがその後山口はクラスのみんなからボコボコにされてしばらく入院することになった。山口を殴っている間もみんなの顔は真っ赤になっていて誰も一言もしゃべらなかった。
 
 次の日いつものように教室に入るとクラスのみんなの顔にモザイクがかかっていた。

2005-05-08 07:20:30公開 / 作者:森川雄二
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■作者からのメッセージ
おそくなってすいません。しかもイマイチな出来。
この作品に対する感想 - 昇順
どうも、サラ玉といいます。クラスの人は山口を見たくなかったんじゃないのかな?と思いました。モザイクの役割(別の役割もありますけど)としてあってるし。個人的には三人称のほうが雰囲気出るかな、と思います。素人なのに出すぎた台詞をお許しください。続きを楽しみにしてます。
2005-04-30 18:56:41【☆☆☆☆☆】サラ玉
あはははは〜顔にモザイクかよ〜俺も人に言ったことあるけど(「キモイからモザイクつけて俺の前に来い、クソが【笑」)と、貴志川です。
笑える。そうか、いきなりモザイクつけた奴が来たらビビルよなあ……。なんだか、いかにも小説って感じです。アイディアで遊んでますね〜これはいい。
ちょっと気になったんですが、山口君は一切喋らなかったんでしょうか? なんだか、何も言わなかったのか、それであるならどんな表情で? とか気になったので。それくらいでしょうか。文章が重い気もしましたが、アイディアもさることながらいい感じでまとまっているので気にならなかったです。
ではノ
2005-04-30 18:57:35【★★★★☆】貴志川
拝読しました、(たぶん)初めまして、京雅と申します。前後編と言う事でこれからどう展開するのか楽しみです。モザイクなんて題材あまりないですからね、嬉しい限りと言えば嬉しい限り、いや素直に嬉しいんですが。短編……それともSSになるのかどうかは解りませんが、そのせいか描写が少なく内容は受け入れられても場面を想像し難いです。って、こんな未熟者に言われては気を悪くするかも知れませんが、そこはどうか抑えて下さい。何せ展開の読めない話は大好物なので。では、次回更新楽しみに待っています。
2005-04-30 20:10:55【☆☆☆☆☆】京雅
森川さんの文章を読むのは久しぶりですね。今回の題材が良いですね(前回が悪いワケじゃありません。葬式のあの少女のことも凄く気にかかっているのですから)。顔にモザイクがかかっていると言うことは、もし山口君が喋ればボイスチェンジャーで処理されたような声になるのかなぁ、などと変なことにまで気にかかってしまいます。展開が読めず次回が非常に楽しみです。これだけ楽しみにしているのですから「葬式」の二の舞だけは勘弁してくださいよ。では、次回更新を期待しています。
2005-04-30 20:56:02【☆☆☆☆☆】甘木
なんだか不思議な世界ですな。それでいて読み手を納得させてしまう。たったこれだけの文章で。お主、なかなかやるな(私何様? なぜモザイクがかかっているかも納得させてくれるよう、お願いしますよ。
2005-04-30 21:21:09【☆☆☆☆☆】clown-crown
貴志川様も仰っているように、小説で遊んでるって感じの面白いテーマだなぁと思いました。この発想いいなぁ。どんな感じなのか、実際にいたらかなり面白いだろうな(笑 過去形が多用されてるのがちょっとだけ気になりました。(ちょっとだけです モザイクかかってる山口の秘密が俄然楽しみ。次回更新をお待ちしてます。
2005-04-30 22:25:20【☆☆☆☆☆】影舞踊
>サラ玉さん
三人称のほうがいいですかね?一人称のほうが書きやすいんでそうしただけなので……。
>貴志川さん
読んでいただいてありがとうございます。
>京雅さん
はじめまして。やっぱ描写少ないですよねえ。練習しなければ。
>甘木さん
お久しぶりです。お葬式も近いうちに出したいと思います。ただし、内容とかかなり変わるかと思います。
>clown-crownさん
読んでいただいてありがとうございます。納得していただけるかわかりませんが。
>影舞踊さん
>過去形が多用されてるのがちょっとだけ気になりました
確かに多いですね。気をつけます。
2005-05-08 07:38:56【☆☆☆☆☆】森川雄二
納得。するしかないよな。それにしてもラスト、そんなクラスになってたら大変だな。誰が誰やら。では、自分もそうなったんでしょうか。なってるとは思いますが、その辺の心情は書かれていなかったので。それと、山口は自分の行為に罪悪感はもってなかったのかな、と不思議になったり。
2005-05-08 08:44:04【☆☆☆☆☆】clown-crown
あ、もう書かれている……。後編拝読しました。あまり見ない題材の結末、素直に頷く京雅で御座います。ラストですが、主人公の彼も暴露されたり殴ったりしたのでしょうか。そこら辺も描いたりすると、もっと惹き込まれたんじゃないかな。心情描写や背景描写を書き加える事でもそうです。山口君は盗撮(と言うか人の抱えた秘密)についてひどく肯定的というか、「やってもいいんだぁ」と思っている様な気がしてなりません。長長と失礼な事を語って申し訳ありません、何せ新感覚だったもので。では次回作にも期待しております。
2005-05-08 10:43:06【☆☆☆☆☆】京雅
遅かった、お二人にほとんど書かれてしまったよ。でもめげずに同じこと書いてやる。やはり山口君の罪悪感を描いて欲しかったです。苛めるクラスメイトも問題あるけど、盗撮の罪悪感のない山口君なら苛められても仕方ないかなんて気持ちになってしまいます。でもこのクラスってこれから大変だろうなぁ。主人公はモザイクかかっていないのだろうか? ちょっと気になります。では、次回作品及びお葬式の更新を期待しています。
2005-05-08 11:20:39【☆☆☆☆☆】甘木
はじめまして、ユズキと申します。実は前編の方も少し前(になるのかな)に読ませて頂き、面白い題材だなぁとこの続きがどうなるか楽しみにしていたものです。ただ、前編で楽しみにしすぎていたせいか自分は少し物足りなく感じてしまいました。そこらへんは多分他の方と同じ理由だと思うので書きませんが。うん、でも題材などの目の付け方は上手いというか面白いので次の作品も楽しみにしております。
2005-05-08 11:29:27【☆☆☆☆☆】ユズキ
こんにちは〜。毎日クルクル回っている上下といいます。
とはいっても、皆さんがいろいろと書かれて、単に面白いというしかないのですが……。でも、どうして山口が学校に来たのかが知りたいですね。それと、最後のみんなが殴りかかったところではえらく客観的だったのが気になりました。それとも、ほんとに見ていただけ?
え〜、失礼なことをいってすみませんでした。それでは、次回作を楽しみにしています
2005-05-08 11:46:27【☆☆☆☆☆】上下 左右
おお、後編お待ちしておりました。なるほどこういう締めですか。メッセージ性が結構強い作品だなぁとひたすらに頷いております。皆様が書かれているので、もうあまりないのですが、山口は仕方ないですね。役柄上そういう羽目になったのでしょうが、盗撮を悪びれてはいないし、みんなの嫌がることをするし、しょうがないやつです(笑 次回作も頑張って下さい。
2005-05-08 14:17:49【☆☆☆☆☆】影舞踊
>clown-crownさん
>京雅さん
描写不足ですよね、やっぱり。
>甘木さん
>ユズキさん
>上下左右さん
>影舞踊さん
読んでいただいてありがとうございます。次からはもっとみなさんが納得のいくような作品を作れるように努力します。
2005-05-08 18:55:22【☆☆☆☆☆】森川雄二
……おもしろい。これ、ツボですよ。マジで。そういう意味か、と納得できたわけじゃないですが(これは作品がどうのこうのというよりも俺がどうか、といううことでネ)結構感心してしまったり。メッセージ性が色濃く出ているような、ぼんやりと……それこそモザイクのかかったように(←ウマイ)書かれているのが気に入りました。山口君の真意はさっぱりですが、クラスのみんなはいったいなんなんでしょうね〜いわれて恥ずかしいことをばらされて、殴ったのか。酷いとはイワンが、自分的にはもっと、恥ずかしくて死にそうになるくらいですよね。……あれ、なんかいいアイディア浮かんだ。おお、コリャいい。
ではノ
2005-05-09 01:47:26【★★★★☆】貴志川
>貴志川さん
読んでいただいてありがとうございます。
2005-05-09 19:27:38【☆☆☆☆☆】森川雄二
前のレスはすいませんでした。僕の介入するところじゃありませんね。……実は僕もいじめられていた経験があって、山口の気持ちはわかります。いじめられる原因があっても不当な暴力や辱めは許しがたい。正直、終わり方は最高だと思います。
2005-05-09 21:45:19【★★★★☆】サラ玉
>サラ玉さん
読んでいただいてありがとうございます。謝る必要は別にないですよー。
今週中にSSを一つ書くつもりなのでそちらもよかったら見てくださいね。
2005-05-10 22:16:10【☆☆☆☆☆】森川雄二
計:12点
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