『拝啓、窓辺の君 第1話』作者:アカツキ カナエ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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しがない中学生である僕らにとって、それはなかなか大きな冒険のタネだった。

学校から程近い、高級住宅街の中で堂々と、王者のように、と言うよりは妖艶な女王のように、そびえ建つ優雅な洋館。
広大な敷地は、荒れ放題と呼ばれるのを、ギリギリで免れている感じだ。

そこに、どうやらイギリス人の家族が引っ越して来たらしい。
その一家は、誰が働くでも学校に行くでも無く、ただ紅茶を嗜み読書を楽しんで暮らしているらしい。
どうやら。


どうやら、その一家は幽霊らしい。


「俺が見たのは、オレンジっぽい茶髪の外人だったぜ」
「馬鹿、金髪だって言ってるだろ」

時間を持て余している中学生達が、『探検に行こう』と言い出すのに、さほど時間はかからなかった。
この年頃のオトコノコにとって、探検ごっこは何とも甘い果実なのだ。

そしてそれは、もちろん僕にもぴったり当てはまる定義だった。
陽治から誘われた時、僕は答えを渋りながらも、開ける事のできるかも知れない不思議の国への扉を、乏しい想像力で必死に思い描いていたのだ。

何も無くても良いのだ。幽霊なんか居なくても良いのだ。
いや、そりゃぁほんのちょっと、何かあったって良いけれど。
とにかく、この辺では珍しいネズミを見るとか、屋敷の中で以前の住人のささやかな痕跡を見つけるとか、そんな事で良いのだ。

2、3時間本気で駆けずり回って、結局何も無かったじゃねぇか、と軽口を叩きあう。
そんな無駄な時間を過ごしてみるのが良いのだ。






「懐中電灯、全員持ってきただろうな」
いつの間にかリーダーをしている陽治が、それらしい顔をして僕らの顔を見回した。

煌々と輝く街灯が、2、3立っている普通の街角だ。
広い敷地で、光の届かない所くらいあるだろうが、懐中電灯など、本当は要らない。
神妙なその様子に、隣にうずくまって居たカズがぶっと吹き出し、それに釣られて何人かが続けて吹いた。
陽治が、芝居がかった動作でしッと短く叫ぶと、カズは両手で口を覆ってガクガクと頷いた。
それでもまだ、目元に細かいシワが寄っていて、なんだか妙に微笑ましい。

うん、良い。なんか良い感じだ。
こんな雰囲気が良い。懐中電灯も、要は気分だ。
一人悦に浸っていると、陽治はさっさと歩き出してしまった。
置いて行くなよ、と叫ぶ訳にはいかず、僕は不服を示す為に、ちょっと大袈裟にふて腐れて後に続いた。


まず現れたのは、大きな鉄の門だった。
迎え入れる、という本来の目的よりは、寧ろ拒絶する事に重点を置いたような、そんな門だ。
高く、広く、そして黒い。

僕らは誰が特攻役を買ってでるかと、探る様に顔を見合わせた。
つい先程までは、あんなに澄まして先頭を突き進んでいた陽治は、気圧されたように押し黙り、その背中には一種の哀愁まで漂っている。
カズは、小さい身体をさらにコンパクトにして、僕の顔を見ている。明らかに縋る視線で。
そして気がつけば、カズに釣られたように皆僕の顔を見ている。

やれやれ、だ。
ここで勿体ぶってはいけない事を、僕は知っている。
こういう場面でかけられる期待という物は、焦らす時間と正比例するのだ。
しかも、結構大きな数値で。

わざと大袈裟に溜め息をついて見せてから、僕は目の前の黒いエベレストを攻略しにかかった。
どうせ遅かれ早かれ越えなければならないのだ。これは、まず第一の試練だ。
シレンと口の中で繰り返し、うん、なんか良いな、と僕はまた呟いた。
複雑な紋様は意外に足をかけやすく、大きさの割に早い時間で、僕はエベレストを制した。

普段馬鹿やってる友達に、尊敬を含めた目で見つめられるのは、確かにくすぐったかったが、別段悪い気分では無い。

と、陽治が早速登り始めた。全く持って調子の良い奴だ。
呆れ半分で見上げると、陽治は山頂で一回にぃっと笑ってこちら側に下りてきた。

十分程待てば、残りの仲間も皆、その難関を越える事に成功した。
何事も、最初こそ勇気が要るが、後に続くというのは案外楽で簡単なものだ。
それにしても、まずまずのタイムだ。

「なかなか良いスタートじゃないか」

陽治が満足気に頷くのを見て、カズがまたぶふっと吹き出して笑った。
2005-04-13 23:05:34公開 / 作者:アカツキ カナエ
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■作者からのメッセージ
初めまして、アカツキ カナエと言います。
サイトのほうではやおいモノで進行しているのですが、こちらではノーマル恋愛モノで進めて行こうと思っていますので、ご安心下さい(笑
未熟者ですが、よろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
どうも初めまして、京雅と申します。拝読しました。まだ全く展開が読めないので感想は続きを読んだ後という事にしまして……気になった事なんですが「〜だ」という表現が異様に多い様な気がしました。もう少し描写を多くしてもいいかな、といった位で気になるのは中途半端に神経質なこの京雅だけかもしれません。それと4,5行目に「〜らしい」と続いているのもおかしく感じられました。些細な事ですので私の戯言だと思って下さい。では次回更新を待っています。
2005-04-13 23:13:21【☆☆☆☆☆】京雅
貴重なご意見有難うございます。
語尾には気を配って居たつもりなのですが、まだまだですね(^^;
4〜5行目の『らしい』は、根拠の無い無責任な子どもの噂、と言うニュアンスを臭わせてみたのですが、失敗だったようです…
情景描写等と共に、今後の課題としたいと思います。
有難うございました。
2005-04-13 23:17:19【☆☆☆☆☆】アカツキ カナエ
初めまして甘木と申します。作品拝読させていただきました。プロローグとしては素直にすーっと読めました。これがどう恋愛物語になるのかは見当がつきませんが……と言うか、やおいでしたら不思議はありませんが。だって男しか出ていないでしょう。別に私はやおいでもかまわないのですが(私は男なのでやおいの場合は受の方を女に置き換えて読みますけど)。戯れ言はおいて、プロローグの段階でイギリス人の女の子(違うかな?)を出した方が良いのではないでしょうか。後ろ姿や声だけでもかまいません、それだけでも読者は続きに期待感を持てると思います。それと文章が2、3行ごとに行間を空けていますがあまり必要性を感じませんでした。なんだか妙に軽く感じられ主人公の緊張感などが損なわれる感じがします。長々と失礼なことを書いてすみませんでした。では、次回更新を楽しみにしています。
2005-04-14 00:22:07【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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