『無題』作者:五月 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約4.46枚
「会いたいよ」
いつのまにか由紀の手がケータイへと伸びて、メールを打っていた。
ピッ 送信しました
由紀はそれをみてふぅーっとため息をつく。
そして意味もなくケータイをパカパカ開けたり閉めたりする。
「………」
どうせ返ってくるわけないのに期待してしまう。
もしかしたら、起きてるのかもしれない。わざと見てみぬふりしてるのかも。
由紀はちら、と部屋の時計を見た。
午後5時。
「向こうは今、……深夜3時か」
起きているわけがない。
由紀はガックリと肩を落とした。

あなたに、会いたい。
あなたは私のこと、どう思ってる?
アメリカへ行っても、少しは私のこと、思い出してくれてる?
私に…会いたい?

机の上にある、健二と向こうでの友達との写真を指ではじく。
1週間前、健二から届いた手紙に入ってた。
「…楽しそうね……」
こんなに楽しくしちゃって。私のこの気持ちなんて知らないんだろうな。
そう思うと、なんだか無性に悲しくなって。
由紀はベッドに倒れこんだ。
そして、ケータイをぎゅっと胸におし当てる。
「…健二」
そして、顔をくしゃくしゃにして毛布をがばっとかぶった。

毎日会えない事がとても苦しい。
まだ、帰ってくるのに1ヵ月もあるじゃない。
早く、健二に会いたいよ。
早く、その日焼けをして、八重歯を少しみせるような笑顔が見たいよ。
どうして私とつき合ったの?
置いてかれるのなら、ほっておいてくれたらよかったのに。
つき合ってすぐ留学なんて。
私の悲しみもそっちのけ。
もうやだ、別れたい…。
……でも、好き…。

ぴろろろろろろろ
ケータイが鳴った。電話だ。
由紀はがばッと起き上がってケータイを耳におし当てた。
健二!?
「もっもしもし!?」
「あっ由紀ー?」
由紀はガクッと肩を落とした。
「…、加奈?どしたの」
「なによー、テンション低ぅ」
「……今ちょっとブルーなの」
「そーいや、声が少し震えてるね。健二君のことぉ?」
「……だったらなに」
「もう別れなよ。もっといい男いるよ?しかも身近だしぃ」
「…うーん、でも……好きだから」
「あっそ。んじゃ」
「あっちょっと、何のために電話かけたの」
「何って…。暇つぶし」
「えぇ!?」
「だって今暇なの。だから。じゃねv」
「え?うん」
切れた。
一体なんなんだろう。
由紀はケータイのディスプレイを見つめた。
そして、目をめいっぱいに開けた。
メール、一件。
しかし、メールは加奈からだった。
由紀は少し落ち込んだが、とりあえずメールを開けた。

『がんばれ』

「ぷっ」
なにこれ。
由紀はおもわず笑った。
ただ一言。がんばれ。
クールに見えて、いいとこあるじゃん、加奈。
由紀はそんな自分の親友に心から感謝した。
加奈は由紀より断然頭もスタイルもよくて、いつもお世話になりっぱなし。
いろんな経験もしてて、恋愛関係でよく相談したな。
いつか恩返ししなきゃ。
由紀はケータイを折り畳んで、ベッドに放りなげた。
加奈のおかげで少しは気が楽になった。
まだがんばれる自分を見つけたから。

ぴろっぴろっぴろ
由紀は放り投げたケータイをうさんくさく見つめた。
「…………」
メール、一件。だろう。
果たして誰だろうか。
期待する自分がイヤだった。
もし、違ったら傷付くから。
でも、もしかしたら………。
由紀は目を堅くぎゅっとつぶってケータイを開けた。
そして、おそるおそる目を開けていく。

『メール一件、健二』

由紀の心臓が痛いくらいに強く胸を打ち付ける。
「わっわっわっ」
そして震える手でメールを開く。

『俺も。……いつもそう思ってる』



ねぇ、健二。
私、日本でがんばってるよ。
健二はモテるし、カッコイイし私には不釣り合いなのかもしれないけど。
私はあなたが大好き。
もうちょっと、がんばるね。
今度、私と会う時は、抱きしめて。
そして、外国であったいろいろな事を教えて。
待ってる。


遠い距離を乗り越えて。









2005-04-10 11:51:38公開 / 作者:五月
■この作品の著作権は五月さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは、五月です。
今回は恋愛ならではのもどかしさ、をプレゼントさせていただきました(笑
いかがでしたか?
またいろいろな感想や御指導、おねがいいたしますv
この作品に対する感想 - 昇順
すいません、題名を書き忘れました。
題名は「遠い距離を乗り越えて」です。
2005-04-10 11:52:31【☆☆☆☆☆】五月
作品拝読させて頂きました。長距離恋愛の不安な気持ちを加奈というキャラを上手く使って描いていますね。ほんと加奈ちゃんっていい人だなぁ。でも健二君って夜中の3時までなにやってるんだ? 勉強しろよ、勉強(笑。ただ、加奈からの電話に対して失望感を「由紀はガクッと肩を落とした」と、ありきたりな表現で描かない方が良かったのでは。由紀の期待は大きかった分、失望感も凄く大きいはずです。その感情を丁寧に描いて欲しかったです。それでは、次回作品を期待しています。
2005-04-10 12:24:02【☆☆☆☆☆】甘木
遠距離……横から見てるとつらいものです【笑 どうもお初です、貴志川です。久々に読み手に回ったらキレイな感じの小説に会いました。あー空気はいい感じですが、甘木さんの言うとおり加奈からの電話に対する失望と言うかなんと言うか……残念的な気持ちを前面に押し出してもよかったかなあ〜と。そうすれば後々のケンジからのメールにインパクトが出ていいと思いますけど……ただそうなるとカナからのメールに対する主人公の気持ちがやりにくくなるか【汗 えーまあ、とにかく恋愛モノはきれいでいいですよね。ではノ
2005-04-10 12:37:03【☆☆☆☆☆】貴志川
拝読しました。私は自分が心的表現を上手く使えないので、こういう風に書き上げられるとつい呑まれてしまう京雅です。遠距離恋愛……私は耐えられないだろうなぁ。読んでいて思わず頑張れと言ってしまいました。疑問に思ったのは甘木様も書かれている3時まで何やってんだという事で……そんな時間に起きていれば私なら逆に心配してしまう、という女女しい私でした。次回作も頑張って下さい。
2005-04-10 13:31:50【☆☆☆☆☆】京雅
まったりとするいいお話でした。心情描写をもっと細かく詳しく切なく書いてもいいかなとも思いましたが、これぐらいの長さでも十分ほのぼのとすることはできますね。んで、皆さんのコメントを見て確かに三時まで何やってんだと(笑 次回作も頑張って下さい。
2005-04-10 16:02:39【☆☆☆☆☆】影舞踊
エッセイのような読み心地でさわやかな仕上がりです。でもちょっとひねったオチがあれば尚よかったかも
2005-04-12 15:47:59【☆☆☆☆☆】アギ
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。