- 『狼の眉毛』作者：四番砦 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角1830文字むかしむかし、あるところに一人の猟師がいた。今日も朝から女房に行ってらっしゃいと見送られ、街道を渡って隣の山に狩りに出た。そして昨日のうちにしかけておいた罠のある場所を見回っていると、一匹の狼が罠にかかっていた。見たところひどく老いぼれた狼で、どうも毛皮はぼろぼろで肉も硬そうで、売り物になりそうに無い。猟師は気まぐれにその狼を逃がしてやることにした。罠をはずしてやると、その狼は一度だけこちらを振り返り、足を引きずりながら茂みの奥へと去っていった。
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原稿用紙約4.58枚
その日はほかの罠にも獲物はかかっておらず、昼過ぎにもなってくたびれた猟師は、いつもの山小屋にたどり着いて一休みした。湯を沸かしてお茶を飲み、煙草を一服するうちにうとうととなってくる。すっかり眠り込んでしまった猟師は、またあの狼に出会った。
狼は言う。人間よ、先ほどは無様なところを見られてしまったな。助けてくれたのはお前だが、そもそもわしを罠にかけたのもお前だ、さてどうしたものか。そうだ、お前にわしの眉毛を一本やろう。これをこうやって目の前にかざして、ほかの人間どもを見てみるがいい。きっと面白い事がわかるだろう。
ふと目を覚ますと、すでに日が暮れかかっていた。これはいかんと起き上がった猟師だが、なぜか鼻の奥がむずむずする。思わず大きなくしゃみをすると、何かが飛び出てきた。見てみると、それは一本の長い真っ白な毛であった。これがさっき夢で見た狼の眉毛だろうか、不思議なこともあるものだと思いながら、猟師はそれをたもとに入れて山を降りた。
家に帰る途中で、顔見知りの百姓が畑仕事をしているのに出会った。今日もご苦労さんなどと挨拶しているうちに、先ほどの毛のことを思い出す。確かこうやって、毛を目の前にかざして他人を見てみるといいんだったなと思い出し、その通りにしてみると、なんと目の前には見たことも無い怪物が立っていた。姿かたちはモグラのようだが、手足が二本ずつあって、クワを持っている。これはモグラの化け物だ。猟師は思わずわっと叫んでしりもちをついた、すると化け物はさっきの百姓に戻った。どうしたんだい、と相手が不思議そうにこちらを見ているうちに、もう一度おそるおそる狼の眉毛を目の前にかざしてみる。するとやはり百姓の姿がモグラの化け物に変わった。
何てことだ、こいつの正体がモグラの化け物だったとは。薄気味が悪くなった猟師は急いでその場を離れ、朝来た道に戻った。まだ街道にはちらほらと人影が見られる。猟師はその一人一人を眉毛でかざして見てみた。すると、峠の茶屋の主人は狸の化け物、そこで団子を食っている親子連れはどちらも豚の化け物だった。大きな荷物を背負った行商人は亀の化け物で、えっさほいさと駆けて行く飛脚は鹿の化け物だった。
まさか世の中にこれほど化け物がいたとは、しかもそれを知っているのはこの俺だけなのだ。猟師が逃げるようにして家にたどり着いたころには、すっかり暗くなっていた。お帰りなさい、といつものように女房が迎えてくれる。ここなら安心だ、はらぺこになっていた彼は、今日見たことは忘れることにして夕飯をとった。しかし、味噌汁を飲んでいるうちにまた不安になってくる。まさかうちの女房も、いやこいつに限ってそれはない、しかしほかの連中の正体はみな化け物だったのだ。猟師は心の中で念仏を唱えながら、毛をかざして台所の女房の姿を見る。
その正体は、めんどりの化け物だった。畜生、俺はいつのまにかめんどりの化け物と一緒になっていたんだ。もうこんな所にはいられない、猟師は叫びながら家を飛び出た。井戸のあるところまで逃げて、桶にためてあった水でじゃぶじゃぶと顔を洗う。
その夜は月のきれいな晩で、桶の中の水面には自分の顔がはっきりと映っていた。そこには、さっき顔を洗った拍子に手から離れた狼の眉毛が浮かんでいる。どうなんだろう、この俺は。世の中に本当の人間は俺しかいないのだろうか。猟師は毛をつまみ取り、自分の顔をかざしてみた。するとそこには、熊の化け物が映っていた。
そうか、俺の正体は熊の化け物だったのか。もしかするとあの狼は、人間なんて一皮むいたらけだものと同じ、そんなことが言いたかったのかもしれない。などと考えていると、様子のおかしい主人を心配した女房が迎えに来た。猟師は、ああなんでもないと答え、狼の眉毛を井戸に放り投げた。
これでおしまい、どっとはれ。
- 2005-04-07 22:30:42公開 / 作者：四番砦
■この作品の著作権は四番砦さんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
ジャンルとしては「民話」です。短い話なので、長編が好きな方はごめんなさい。
むかし、民話集のようなもので読んだ話が印象に残っており、それを思い出しながら足りない部分は創造で補って書きました。
むかしばなし風なので、あえて漢字・かな・句読点以外の文字は使用していません。
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民話の類は、説話集として非常によく読むので興味を惹かれました。昔読んだ民話をもとにされているようですが、内容的には良かったと思います。文末がひどく単調であることも、民話だからこそ許されるのだと思いますし。ただ単文を連ねただけで「ああした。こうした」といった簡単な日記のような印象も受けました。もう少し肉付けして、細かく描写すればもっと良かったと思いますし、改行後に一マス空けていないことでびっちり感が漂い、少しばかり読みにくかったです。漢字・仮名・句読点以外を使っていないのは非常に良かったと思うのですが。あともうほんの少し、読者に歩み寄った書き方をしていただければもっと惹き込まれるのではないかな、と思いました。次回作も頑張ってくださいっ。
2005-04-07 22:44:59【☆☆☆☆☆】ゅぇ拝読いたしました。
なるほど、ですね。イソップ童話とかにありそうな『教訓系』の童話を、上手に日本むかしばなしに持ってきて上手にまとめた印象です。終わり方も好きですね。小さなことかもしれませんが狼の口調を上手に書かれていたので、全体的な物語の格式が高くなった感じがします。安心して読める面白さでした。
次回作を楽しみにお待ちしております！2005-04-07 23:16:56【☆☆☆☆☆】有栖川拝読しました。民話、確かにそんな印象を受けます。文章がそうさせるのか、まるで語られているかのようにすんなり読み進めました。今までにあまりないパターンでしたので、面白く読ませてもらいました。次回作も期待しています。2005-04-07 23:21:34【☆☆☆☆☆】京雅拝読致しました。こういう話はかなり好きです。アイディアもいい。終わり方も流れも巧いな、と純粋に思いました。改行が少なく一見した時には若干引いてしまったのですが、読み始めるとスラスラ読めてしまいました。読者を意識して書かれればもっと良くなると思います。次回も頑張ってください。2005-04-07 23:22:42【☆☆☆☆☆】昼夜初めまして、影舞踊といいます。昔話ですね。うん、昔話。子供の頃に読み漁っていた絵本を思い出しました。展開の早さにも首を傾げることはなく、どんどん進む感じでよかったです。纏まっていて面白い作品でした。(言い方は悪いですが、暇つぶしにぴったりという感じ(ﾏﾃｺﾗ 次回作も頑張って下さい。2005-04-08 00:02:42【☆☆☆☆☆】影舞踊初めまして甘木と申します。作品拝読させて頂きました。失礼な言い方ですが、なんだか昔こんなお伽話読んだことなかったけ？ これが読後の第一印象でした。でも惹かれるところがあり、改めて読み直すと冒頭の狼が凄く良い味出しています。もう少し読み手に媚びを売っても良かったのでは……狼以外に感情移入ができないんです。勝手書いてすみません。では、次回作品を期待しています。2005-04-08 00:18:23【☆☆☆☆☆】甘木とてもいいお話だったんですが。
作者からのメッセージを見たところ、これはオリジナル作品ではないのではないかと。ここはオリジナル作品のみの投稿をする場所で、オリジナル作品ではないと判断された場合は削除。らしいです。
民話といえど、マズいんじゃない？2005-04-08 00:29:23【☆☆☆☆☆】clown-crown計：0点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。