『〜voice〜2話』作者:流几 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「俺は、育水のことが好き。」

「・・・・。」
周りの音が一瞬消えたように思えた。心臓の音しか聞こえない。
「・・・育水?」
勝の言葉で気づいた。
「ぁっあれ?何で・・・?」
私の目からは大粒の涙が流れ出ていた。悲しいの?どうして泣いてるの。
「もしかして、育水、俺のこときら・・・。」
「ぇ!そんなこと無いよ!!目にゴミがさ。」
勝は精一杯だったのか、口は笑っていたけど、凄く悲しそうな目をしていた。胸の奥から何かがこみ上げてきた・・・。
「勝。」
勝は私を見なかった。ずっと、下を見ている。私は言った。
「私も、勝が好きだよ。」
勝は私の言った言葉を聞くと、すぐに私のほうを向いて泣きそうな顔をしていた。
「ホントに・・・?」
うなずく私を見た勝は今までに見たことが無かった勝だった。
チクっと、心臓が痛んだ感じがした。
(・・・・ん?)
「じゃ、戻ろっか。」
私は勝の手を引いて達也と真里菜の元へ戻った。


「おっかえりぃ〜!!」
「おっ!その手は上手くいったんかー??」
このときは気づかなかったけど、達也と真里菜は何か変だった。
帰ってきた途端真里菜に腕を引っ張られ、問い詰められた。
「育水ちゃん。さっき言ってた真っ黒の人のことはどうしたの?もういいの?」
「あー・・・。うん、別に好きになったわけじゃないし。気になる程度だし。それに、勝は昔からずっと一緒で。」
真里菜はどこか不安そうな表情で、そう、と一言呟いて私の手をギュッと握った。
「無理しすぎたら、真里菜みたいになるから気をつけてねvv」
そう言って真里菜は先に帰っていった。
「え!?真里菜?」
真里菜が達也と帰らないなんておかしい。きっと、勝と話してるときに何かあったんだ。
「達也・・・。」
達也を見たけど、達也は普通にしていた。
「そうだ!二人でどっか言って来いよ!後は俺が片付けておくからさっ。」
達也は気を使ったのか、勝と私の背中を押して見送ってくれた。気を使ってくれた・・・。いや、達也は一人になりたかったのかもしれない。

「達也はああ言ってくれたもののどこ行く?」
駅の近くの公園で考える。時計を見てもまだ4時。
「育水お腹すいてる?俺全然なんだけど。」
さっきまでの泣き顔を思い出させないかのような自然な表情をしている。
「じゃあさ、久しぶりにどっか遊びに行こうよ。」
ということで、商店街のゲーセンに行くことに決まった。

「ちょっ!勝っ!!強いよ!も少し手加減してよ!」
「おらぁ!いけいけいけ!!」
『ザワザワッ。』
「あぁぁぁ!!負けたー!勝強すぎなんだよー。」
「おっしゃぁ!やっぱ、格闘ゲームで女に負けらんねぇよ。」
『ザワザワ。』
気づくと周りには・・・。
(勝・・・。やばくない?何か人集まってきた。)
(別にいいじゃん。大丈夫だよ。)
勝は気にせず奥のUFOキャッチャーへと足を運ぶ。
「ちょっ!おいてかないでよ!」
「いっ!」
痛い。勝が行っちゃう。よく見るとオジさんが私の腕を掴んでいる。
「離してください!何!?」
眼鏡にシャツ。普通の人。でも、おかしい。オジさんの左手をみると包丁が。
「え!?何??嘘っ、勝、勝!!勝ー!!」

「「勝ー!!」」
「えっ!育水!?」

目を開けると、オジさんが倒れていた。私は無傷だった。周りを見渡すと、私の隣にはあの、真っ黒の男の人が立っていた。
「もう大丈夫だよ。」
彼の言葉に安心して力が抜けてしまった。彼は私を抱きかかえて外に連れ出してくれた。
「ぁ・・ありがとうございます。」
近くで見るとますますカッコ良く見えてしまう。
「今日はいつもより早く切り上げたんだね。」
彼は携帯を取り出しながら言った。
「あ、そう・・・です。」
『ピッピッピ。』
「ぁっ、もしもし。○○駅近くの商店街で包丁を持った男の人が―・・。」
(・・・・良かった。この人が助けてくれて。)
私は勝つの存在を忘れていた。頭の中は彼でいっぱいだった。
「後は警察の人が来てくれるから。」
優しい目をした彼は真っ黒のコートのポケットから紙を取り出した。
「俺の存在、覚えといて。」
彼は立ち上がってどこかに行ってしまった。

「育水・・・。」
後ろを振り返ると勝が立っていた。青ざめた顔をして。
「勝・・・。」
私をギュッと抱いた勝は黙ったまま。そんな勝を感じながらも、真っ黒な彼のことを考えていた。

もう一度会いたいな・・・。
2003-10-26 13:46:50公開 / 作者:流几
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