『柵のむこうに』作者:zenon / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約4.12枚
「うひょー」
 人間の声とは思えない叫び声をあげ、近藤は温泉にとびこんだ。大きな水しぶきができる。そしてその直後にまた叫び声がした。
「うひゃー」
 さっきの叫び声とはまた違う、今度は悲鳴のような近藤の声。
「どうした?」僕は訊いた。
「あたっ!」
「『あたっ』って何だよ」
「いや、い、いや、反動で足の指を角にぶつけちまって」
 近藤は顔をしかめてそう言う。
「ばかだなぁ」
 近藤は思いっきり温泉にとびこんだとき、足の指を仕切りの石の角に当てたという。近藤は続ける。
「うわー皮むけてるよー」
 いちいち実況するな。皮がむけてたから何だ? そんなことで死なないだろう?
「薄皮とれたー、うわきもちわる」
 何かが起こるたび喚き声をあげる。うるさいなあ……。
「うっせえよ近藤」
 思わず思っていたことが口に出てしまった。
「お前こそでかい声張り上げてうっせえよ」
 近藤自信が一番うるさいということに、まだ気付いていないようだ。
「お前のほうがうっせえんだよ」僕は反論する。
「なぁなぁ」
 近藤は自分が窮地に追い詰められていると気が付いたのか、いきなり話題を変える。
「この竹か何かの柵の奥、女風呂だよな?」
 嫌な予感。
「え……? 何でいきなりそんなこと言うんだよ」
 大体近藤が何をしようとしているのか予想はついたが、あえて口にはしなかった。
「お前も鈍い奴だなぁ。女風呂を覗くんだよ! の、ぞ、く、の!」
 近藤に鈍い奴と言われるとは。屈辱にまみれながらも一応言っておく。
「やめとけよ。後でどうなるかわかんねえぞ」
 これは後で先生に怒られたとき、「なんでお前は注意しなかった!」と巻き添えを食らわないようにするための予防線というものだ。
「見つかんねえって」
 自信満々の近藤。
「けどさ、この柵かなり高くねえか? どうやってのぼるんだよ?」
 話にのってみる。すると近藤はにやけた顔でさらに続ける。
「おいおい、誰ものぼるとは言ってねえぞ。」
「どういうことだよ?」
「あはは山下君、君はまだこの柵の盲点に気付いてないようだね」
 どこかの有名大学の教授っぽく近藤は言う。
「これは細い竹が何列にも並んでできている。つまり、」
「その竹と竹の間から見る……ってわけか」
「せーいかい」
 所詮近藤。大体言うことは予想できたが……。
「思いついたら即実行、早速覗いてみましょう!」
 そう言いつつ、近藤は竹と竹の間に指を挟み、少しずつ、少しずつ広げていく。
「お―――――!」
 柵のむこうを見て、馬鹿みたいな大声をあげた。とほぼ同時に、
「きゃ―――――!」
 鼓膜が破れそうな、高い叫び声。そしてその数秒後また柵のむこうから叫び声がする。
「すねこんどあ―――――!」
 興奮のあまり、柵の向こうの女子が何を言っているかよくわからない。とにかく単純に言えばこうだ。近藤は覗いてすぐ、女子に見つかった。
「おえおええええ、やべえええよよおおおよおおおお!」
 今さらそんなことを言ってももう遅い。
「どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ……!」
 しかしなぜか近藤の顔は笑っていた。こんな状況を楽しむ近藤になぜか感心していたとき、僕の頭上から、
 ――バコッ
 桶が落ちてきた。偶然にも桶の角があたった。気を失いそうになった。
「だいじょうぶかやましたあああ!」

「お前らはなぁ……」
 47歳保健体育担当植野浩之の怒号が廊下に響いた。お前『ら』……。なぜ、何もしていない僕まで怒られなきゃならないんだろう。
 植野の説教は15分くらい続いた。僕は何度も関係していないと説得しようとしたが、興奮している彼の耳にはちっとも入っておらず――。
 楽しい修学旅行のはずだったのだが、植野の説教で終えることとなりそうだ。
「おい山下あ! きいてんのかあ!」
2005-03-30 20:35:12公開 / 作者:zenon
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■作者からのメッセージ
はじめまして。zenonと申します。この掲示板でははじめての投稿となります。
これは、ずいぶん前に書いて保存してあったもので、この前もう一度見直してみると、変なところがありまくりでした。
そのようなところを修正したのですが、やはりまだ修正すべき点は多数あると思います。
自分が書いたものは主観的に見てしまうので、客観的に
そのような点をずばずば指摘してください。
この作品に対する感想 - 昇順
 どうも、サラ玉といいます。
勢いのある書き方で少し面食らいましたが、こんな雰囲気は大好きです。
あと、もう少し状況を細かく描写していただけたら。想像を膨らませられるかな?と、思います。
2005-03-30 20:52:27【★★★★☆】サラ玉
どうも貴志川です。お初です。いきなり厳しいこというようですが、読んでいてかなり混乱しまくりました。描写もさることながら何よりなんで温泉に来たのか、どういう状況なのか(これは描写か)どういう感情なのか、そういうのがないと読者がよくわからないうちに話が進んでしまい、取り残された読者は結局混乱のうちに読了。ということになってしまいます。ただしこれは主観者である自分にはわかりませんよね。だからzenonさんが客観に頼ったのはナイス選択だったわけで(何言ってんだろ俺は→汗
あーなんだろうか、とにかく今後も頑張ってください。以上です。ではノ
2005-03-30 20:55:43【☆☆☆☆☆】貴志川
初めまして甘木と申します。作品を読まさせていただきました。他愛のない題材を上手く処理されていると思います。特に近藤君の勢いはいい感じです。けれど読後に残るものが無く、私にとって優良可で言えば可の作品でした。本能全開の近藤君に対して、主人公(読者の視点だと思います)の山下君の感情があまりにも淡白で、作品の中に入り込めません。この手のいつの時代にもある普遍的な題材は、主人公と読者のシンクロがあってこそ雰囲気を楽しめるものだと思います。山下君をクールなヤツとでも感じればいいのかもしれませんが、文末で「楽しい修学旅行のはずだったのだが」と感情を描いているのでそうではないのでしょう。長々と書いて失礼致しました。zenonさんの次回作を楽しみにしています。
2005-03-30 22:24:07【☆☆☆☆☆】甘木
サラ玉さん、貴志川さん、甘木さん、ありがとうございます。

>サラ玉さん
確かに読み返してみれば描写不足な点もあったように思えます。
細かい点はこれからよく気をつけたいと思います。

>貴志川さん
客観的な意見ありがとうございます。
確かにこの温泉に至るまでの経緯がまったくわかりませんね……。
頭の中でだけ、設定を組み立てていて、それを文に表せていませんでした。

>甘木さん
近藤というキャラに力を入れすぎて、肝心な「主人公」の山下のキャラが曖昧となっていました。
主人公がひとつのキャラとしてちゃんと成り立っていなかったら、読む側も感情移入というか、話に入りにくいですからね……。

一部勢いにまかせて、詳細な点などが曖昧になっていました。
みなさんのご意見、ご指摘はとても貴重なものです。
今後は「他人が見てもわかりやすい」というところを注意しようと思います。
2005-03-31 09:41:26【☆☆☆☆☆】zenon
こんちあ〜。初めましてです。
ショートショートにしてみても驚きの短さだった、というのが第一印象です。
あまりにもストーリーが短すぎるので、近藤のキャラも山下のキャラも頭の中に入らなかった。つまりは情報不足ですね(苦笑
後、温泉には近藤と山下以外いなかったのでしょうかっていう点が。いるならいるで、山下の性格なら注意、もしくは事前に止めそうですからね。いないならいないならで、その辺もきっちり書いて置いて欲しかったです。
もっと描写を入れ込めば、内容も厚くなると思いますので次回にご期待。
ではでは


2005-03-31 11:17:23【☆☆☆☆☆】ベル
拝読致しました。何だか、物語の序章、と言った感じを受けましたので、正直SSには驚きました。zenon様の伝えようとする意図が解らず、ただ文を読んだだけという印象になってしまったと思います。主人公と近藤との関係(仲のよい友人であるだとか、あまり好ましくないだとか)を明らかにさせることが足りず、この続きに内容がある気が致します。しかし、シーン描写は上手く、想像することが出来ました。理由や心情描写が増えれば良くなりそうです。次回も頑張ってください。
2005-04-01 00:18:57【☆☆☆☆☆】昼夜
ベルさん、昼夜さん、ありがとうございます。

>ベルさん
情報不足は大きなな問題です。
キャラがちゃんとできていないと、話にも影響が及んだりしますし……
努力します。

>昼夜さん
何度も同じようなレスで大変申し訳ございません。
たしかに、より詳しい心理描写などをすることはその話を深めたりするのにとても重要な点ですから、これは詳しく、いっぱい書き過ぎないように、注意したいです。
2005-04-01 20:52:27【☆☆☆☆☆】zenon
どうも、ショート大好き樂です。作品読ませて頂きました。覗きを題材とした話の流れ、勢いは好きですね。ただ、やはりSSは短い文の中にいろいろ詰め込もうとするとゴチャゴチャになるし、変に贅肉を落としすぎると味気なくなったり、情景が判断しにくくなったりするんですよね。僕も短い文ばかりでよくやらかしちゃうんですけど…。次の作品、期待してます。頑張ってください。
2005-04-04 16:30:41【☆☆☆☆☆】樂大和
計:4点
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