『夜は眠らない [序〜三夜+直春]』作者:トロヒモ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約23.09枚
夜は眠らない

 〜 序夜 〜

夜の本当の姿って、なんなのか分かるかい?
夜は不思議な力を持っている。
希望を与えたり、夢を見せたり、一人の時間をくれたり。
その反面……
自虐、決裂、破壊を与える。
夜の本当の姿をアナタは分かるかい?



俺は、木製の机とマンガがたくさん詰まった棚のある自分の部屋で、いつものように起床した。起きて最初にやることは、俺の子守り歌代わりに、昨日の夜から鳴らし続けているコンポの音楽を消す事から始まる。
寝ぼけながら部屋を出て、一階につづく階段を歩いた。一階に着くと、すぐ西側にある洗面所に行き、顔を洗う。顔を洗っても、やっぱり眠い。欠伸も出る。
洗面所の鏡に映る自分の顔は目が細く、髪はボサボサで、唇はカサカサだ…。
それら全てを自分なりに、かっこよく極める。支度を終えると、登校時間ギリギリに間に合う時間になる。朝飯を急いで食べて、自転車に乗って高校に行く。これが、いつもの俺の朝の日課だ。

教室の席に着くなり、隣の席で、俺の親友の益田 大地(ますだ だいち)が話しかけてきた。
「昨日、雛女の可愛い女の子見かけたから見に行かねぇ?」
雛女とは、私立雛守女子高等学校の略称である。俺の彼女もそこに通っている。俺は大地に、俺の言い分を教えてやることにした。
「大地よ〜く聞けよ、俺には彼女がいるから、他の子には興味は無い」
大地は悲しい顔をして、俺にしがみついてきた。
「じゃあ、隼人の彼女に頼んでくれよ〜」
俺は、大地が最初から、それが狙いだと気づいて、大地を俺から力づくで、取り外した。
「大地、いい加減にしろよ。」
ほぼ毎日の大地のこのような行動に、俺は怒った。大地はすねて、そっぽを向いてしまった。
どうにかして、大地の機嫌をなおす為に話しをもちかけた。
「おい大地。夜ってなんで暗いのかな?」
頭にあった、気になっていた事が無作為に出てしまった。
「知らねぇよ、そんなこと。」
まだ、すねていた大地は、俺の方に顔すら向けずに言ってきた。
今の俺の頭の中は、大地の事より、なんで、こんなフレーズが出てしまったのか、の方が気にかかっていた。
思い当たる節が無いこともない、しかしそれは夢の会話のはずなんだ。
「なぁ、隼人。さっきから何だまりこんでんだ?」
大地の声で俺は、現実に引きもどされた。
「なんでもない。」
大地は、そんな俺を気遣ってか、気遣ってないのか分からないが、近くのお好み焼き屋に久しぶりに行こうと言ってきた。けど、断ってしまった。なぜなら夢の事が気になって、しょうがなかったんだ。

 夢で何があったんだ?

けど、これは夢の事では無かったんだ。昨日の夜に実際に俺が体験した現実の事。
なぜか忘れていた夜の話し。俺は今……思い出す。



 〜 一夜 〜

俺の頭には、一人の男が映っていた。夢にしては、なぜか昨晩の事が思い出せた。
昨日の夜は1:20分頃に、テレビを見終わり、寝たはずだった。
そこからの記憶は、今朝は無かったから、夢だと思い込んでいたんだ、と気づいた。
けど、実際には、黒尽くめの男が、俺の前に現れた時間だったんだ。
なんで、こんな重要な事を忘れていたんだ…。

5月23日 AM1:24
「さぁ〜て、寝るか」
俺が寝ようと、近くにあるリモコンでテレビを消して、目をつむった。
少しすると、上から声が聞こえた。
「おまえが南雲 隼人(なぐも はやと)だな?」
俺の名前を呼ぶ声がしたので、目を開けて、声のする方を見た。
そこには、俺の上を浮いていて、全身真っ黒の男がいた。暗闇で見えにくいはずだけど、俺の目には、くっきり姿が見えていた。
「そうだけど、あんた誰? 」
黒尽くめの男は、片手に持っていたカバンから一枚の紙を取り出して、俺に差し出してきた。
「それならば、この書類に目を通してもらおうか。」
俺の言うことを聞いていなかったかのように、平然とした顔で書類を渡してきた。しかたなく書類を受け取った俺は、書類を読んだ。内容は、<治療を受けますか>の八文字だけだった。どんな意味なのか謎に包まれていたけど、なぜか、その時の俺は承諾しますと書いていた。その紙を、黒尽くめの男に渡すと、男は一言だけ残して、暗闇の中に姿を消した。その一言……。それが<夜は、なぜ暗いのか>だった。

放課後になると、俺の体は無意識のうちに職員室に向かっていた。聞くつもりは無かったけど、不思議と体が動いたんだ。職員室に入ると俺は物理の先生に訊きに行った。
物理の桑田先生は、俺に丁寧に教えてくれた。桑田先生いわく、地球は自転していて、太陽の陰になると暗くなる、そして、オルバースのパラドクスという定理に基づいて、無限の星が存在する。しかし、その星の大半は地球から遠い為、夜は光を失い暗くなるそうなのだ。
俺は、桑田先生にお礼を言い、職員室を出た。なんだか訳が分かんなかったけど、一応スッキリした気分で外に出た。
外は肌寒く、鳥肌になった時のようにゾクゾクと体が震えた。空はもうすっかり暗くなっていた。寒いから急いで自転車に乗って家に向かった。

家に帰る途中、胸が急に痛くなった。最初の時は我慢できる程だったけど。自転車をこぐにつれて痛みは激しくなってきた。俺の体中は痛みで汗が滝のように流れだし、手足の痺れで感覚がなくなり、自転車のバランスを崩し倒れた。
痛みが更に酷くなると、意識が朦朧(もうろう)とした。このまま目をつむると死ぬと思い、必死で耐えた。でも、この痛みから解放されるなら、それでもいいかな、と愚かな考えも、ちらついた。
そんな時、微かな声が聞こえた。必死に目を凝らし、顔をあげた。そこには昨日の黒尽くめの男が立っていた。何か言っているようだが、もう俺の耳には聞こえなかった。そして俺の意識はそこで消えた。



 〜 二夜 〜

痛みは急に始まった。
消えることの無いその痛みは、段々と強まるばかり。
発汗、痺れ、震え、痛み、
気力を奪う、胸元の悪魔は、日々成長する。
悪魔はアナタを蝕み続ける。
痛みが死より恐ろしく感じようと、アナタは死ねない。
アナタの夜は死ぬ事さえ、許してはくれないのだから。


漆黒の闇の中から、大きな音が鳴り響いた。その音に反応して瞼(まぶた)を開けた。久しぶりの光との接触で視界は暗く、視点はぶれていた。すぐに、目が慣れてきた。目の前には、俺の彼女の水嶋 好実(みずしま このみ)が、そそくさと地球儀を、棚の上に戻していた。
「ごめん、起こしちゃった? 」
好実は、地球儀を片付けると、隼人に近づき、言い訳をしていた。
大きな音の原因は、俺が小さい頃、父さんにねだって買ってもらった地球儀が棚から落ちた音だった。
好実が着ている、白い上着が、俺の目に、最初に入ってきた。久しぶりに「白」を見た気がした。当たり前だ、丸3日も寝続けていたんだ。
体を起こそうと腹筋に力を入れた、反動で胸に衝撃が奔った。
「いっ! 」
好実は、痛がる俺を見て、手で俺の背中を支えてくれた。
「大丈夫? 」
「あぁ」
好実は、他の人とは違う。他の人なら、「無理するな、もう少し寝てろ」とか言ってくるだろうが、好実は俺がやりたい事を止めようとはしない、必ず、陰ながら支えてくれる。そんな好実が好きだ。そして、少しドジなところも…。
「私、お母さん呼んでくるね」
隼人を起こした後、好実は、部屋を出ていった。
隼人一人になった部屋は、一気に静かになった。静まりかえった部屋からは、隼人の胸の鼓動だけが、音をたてていた。
その音を、聞いていると、今生きていると、実感できた。正直、嬉しかった。だけど、胸の鼓動を聞いていると、3日前の胸の痛みを、思い出しそうで恐ろしかった。
急に、胸の事が気になり、胸に巻いてある包帯を、ゆっくり解いていった。包帯を取り終えて、自分の胸を見た。
そこには俺の目を疑うような光景が映った。心臓の上になにやら、唐辛子のような形の出来物があった。それに触れる勇気は、今の俺には持ち合わせていなかった。
とりあえず、冷静になろうと深呼吸を一回した。出来物を見ないようにして、包帯を丁寧に巻いた。ちょうど巻き終わった時、好実が、俺の母さんを連れてきた。
母さんは、俺の顔を見るなり、心配そうな顔になった。
「もう、起きてても平気なの? 」
「あぁ」
平気なはずが無い、こうやって自然にしているのでさえ、精神的にも肉体的にもピークがきていた。ただ、それ以上に、好実にも、母さんにも心配かけたくは無かったから…、ただそれだけが、精神を繋ぎとめていた。
好実は、そんな俺の心を読みとったかのような行動をとった。
「お母さん、まだ起きたばかりなので、私帰りますね。」
好実は、椅子の上に置いてあるバッグを取り、隼人の母にお辞儀をした。
「もう帰るの?」
隼人の母は、好実を見て言った。
「はい、お母さんも隼人君を、一人にしてあげてくださいね。」
好実は、俺に小さく手を振り、部屋を出て行った。母さんも、後を追うように部屋を出て行った。好実の気遣いが、すごくありがたかった。
そして、再び静まり返った部屋で、俺は、部屋の窓を右手で開け、雲一つ無い、青く澄んだ空を眺めた。

「いつも、ごめんなさいね、好実ちゃん」
玄関で、隼人の母は、好実に挨拶していた。
「いえ、気にしないでください。」
好実は、玄関のドアを開けて、外に出た。
「暗い雲……、雨が降るのかな」
好実も、空を見上げていた。

ようやく一人になり、隼人は眠りについた。
それから何時間たったか分からない、ただ分かることは、俺の目の前に、黒尽くめの男が立っているということ。
黒尽くめの男は、冷たい表情で、紙袋を差し出してきた。
「これは?」
「それは、イレフォルムという薬だ」
説明によると、飲むと胸にある出来物の侵攻が一時止まるらしい。効き目は5時間、1日二回以上の服用は禁止らしい。

「本題に入らしてもらう」
黒尽くめの男は、急いでいるのか、せっかちになっていた。黒尽くめの男は、自分の事を医者といい、なにやら、この胸の出来物を取り除いてくれるという。それを聞いた俺は、神様は、見放さなかったと心から神様に感謝した。
ただ、条件が三つあるらしい。一つ目は、病気が治るまで、黒尽くめの言う事に従う。
二つ目は、自分の力で治すこと。最後に、これからある、普段と違う出来事の記憶は、直った時に消えてしまう。という事であった。疑問に思う事は、多々あるが、その中で<自分の力で治す>という所…。
「自分で治せ、と言ったけど、お前が治してくれるんじゃ、ないのか?」
隼人は、黒尽くめの男に聞いた。
「私が、お前を治す訳ではない、私は、お前をサポートする事にすぎん。」
黒尽くめの男は、どうやら、俺を治してくれる訳ではないらしい。
「でも、何をしたら治す事ができるんだ?」
質問をすると、黒尽くめの男は、俺の額に手を当てて、意味の分からない言葉で何か唱えだした。段々と声が聞こえなくなり、体の力が勝手に抜け出した。目の前がぼやけてきた。

気づくと俺は、知らない部屋にいた。
全てが真っ白で、広く、ベッドがたくさん並んでいるだけで、他の家具や、物は何一つ無い奇妙な部屋だった。
すぐに、此処が病院だと思った。それなら白くても、ベッドがたくさん在っても、俺が此処(病院)に運ばれている事も、不思議ではない。ただ一つ、不思議に感じたのは…

 俺以外の患者が誰もいないという事だ。





 〜三夜〜

白い部屋でアナタは一人
アナタの前に、黒衣の医者が現れた。
黒衣の医者は、一つの希望を提示した。
希望を手にするには
アナタは「未知」という橋を渡らなければ、ならない。
黒衣の医者は助けてはくれない
アナタの力で渡らなければ意味が無いのだから。


俺は、白い部屋のベッドの上で、脱出する方法を考えていた。窓は一つも無く、鍵がかかっていると思われる、ドアが一つだけ。考えているだけじゃ、埒が明ないから、結局、ドアを強引に開ける事にした。

白い部屋のドアには、予想通り、鍵がかかっていた。強引に開けようとしても、開かなかった。
それでも必死にドアを開けようと努力していた時、向こう側からドアが開いた。
予想もしてなかっただけに、ドアに強く頭をぶつけ、バランスを崩しこけた。
「ん!? なんで、そんな体勢で寝てんの?」
ドアを開けた奴は、黒い白衣?を着た、150cmくらいの背の男だった。
俺の体勢は、お尻を突き出し、うつ伏せにのびていた。 恥ずかしさで、顔が熱くなり、このまま気絶しているフリをして、やり過ごそうと思ったけど、恥より、脱出を選ぶことにした。
「誰だ、お前?」
恥ずかしさに、耐えながら、静かに起き上がった。
「ぼくぅ〜、ぼくぅは、ねぇ〜、ここの医者をしている、ムルドといいますぅ〜」
ムルドという医者は、これから俺が、しなくてはならない事と、訳を説明してくれた。
この胸にある出来物の名前は、[マーブル]と呼ばれ、おれ以外には見えないらしい。
そして、マーブルが何故、俺に取り付いたのか、という質問にも、ムルドは答えてくれた。マーブルは、そもそも心の病気を、治してくれるもの。
しかし、病気を放置していると、マーブルは暴走を始めてしまう可能性が、あるらしい。そして、今、それが俺の体に起きている。
マーブルを取り除く方法は、あるらしいが、ムルドは知らないらしい。
俺は、知らないうちに、自分の心に傷を負い、マーブルに取り付かれていた。治る希望が、あるのなら、やってみようと思う。俺は、ムルドにそう告げた。
「じゃ〜あ〜、ここの施設を案内して、あげる〜よ〜」
ムルドに案内してもらう事になった俺は、白い部屋を出た。
部屋を出ると、目の前には、先の見えない程、暗く長い通路があった。その通路を、ムルドと歩いていると、向こう側から黒尽くめの男が、やってきた。
「つきとく〜ん」
ムルドが「つきと」と呼んだ男は、俺をここに連れてきた張本人である。男は、俺を見るなり肩を叩いてきた。
「何度も話したが、自己紹介は、まだだったな。俺の名は、赤村 月徒(あかむら つきと)だ、よろしく頼む」
月徒って人は、俺に、院長室に行けと伝えると、引き返して歩いていってしまった。
俺と、ムルドは院長室に向かうことになった。
俺は、自分より20cm以上小さい、ムルドの背中を見ながら、頭の中では、急な出来事に理性でどうにか処理しようとしている俺がいた。あたりまえだ、こんな体験、した事も、聞いた事も無いんだからな。

そんな事を、考えていたらムルドにぶつかった。
「なんだよ?急に止まんなよ。」
「ん?あ〜、ごめ〜ん〜、でも〜、ここが〜いんちょうしつ〜」
「ここが!?」
俺の左隣りには、真っ黒な壁に映える、白い扉があった。
ムルドがドアをノックすると、中からは、男の声が聞こえた。
「ドアは開いているから、入っていいぞ」
ムルドがドアを開けた時、机越しに座っている男がいた。男の目は、俺の心中まで見透かしそうなくらい、透き通った目で、俺を見ていた。
「君が、新しい患者の隼人君だね?」
男は、笑みをうかべながら、聞いてきた。
「そうだけど、あんた誰?」
男は、懐に手を入れ、名刺を取り出して、俺に差し出してきた。俺は、それを受け取り、内容を見た。そこには、院長 矢吹 奏介(やぶき そうすけ)とだけ記されていた。今時、会社の住所も、連絡先も、会社名すら書かれていない名刺なんて見たことがない。それに、院長と呼ぶには、若く見える。俺が見るに20代後半ぐらいだろう。
「隼人君に、これからやってもらいたい事があるんだ。」
院長先生は、俺にある男を、助け出してほしいと言ってきた、当然、何が何だか、分からない。でも、院長先生が言うには、俺の病気を治すには、鍵を手に入れなくては、いけないという事。それを持っているのが、その男(ターゲット)らしいんだ。

聞かされたターゲットの情報は、<岸本 直春(きしもと なおはる)35歳 罰一(奥さんが引き取った、娘が一人)元ここの医者>急な話しに翻弄された俺だけど、この人を助け出すことによって、病気が治ると思うと、自然とやる気が出てきた。
「サポートに、月徒を付ける。分からない事は月徒に聞いてほしい」
また、あいつかぁ〜と思いながら、院長先生にお辞儀をして、部屋を出たら、そこに、月徒って奴がいたので、驚いて腰が抜けそうになった。
月徒って奴は、最初に会った時と同じような、冷たい目つきで、俺を見下していた。
「来い」
その、たった一言で、俺の背筋が凍るぐらいの緊張が奔った。
この緊張感に負けまいと、平然とした顔をきめ込んでるものの、内心、息苦しい。
月徒って奴の後を、付いていくと一つの部屋があった。
中には、シャッターのような物が、あるから、おそらく出口であろう。俺は早速、外に出ようとした時、月徒って奴に止められた。
「止まれ、話しがある。」
月徒って奴は、俺に一言こう聞いた。<夜が暗い理由は、分かったか?>と、俺は、桑田先生から聞いた事を話した。あいつは、こう言った。<いずれ、分かる>と。
俺の答えは、間違っているのか?自分に問いかけた。
「いくぞ」
「お、おう…」

        俺と、「夜」との物語はここから始まるのだから。





[ 岸本 直春編 ?]


 〜直春の夜〜


今でも感じる、アイツのぬくもり。今でも見える、アイツの笑顔。
そして、全てを、俺から奪ったのは、俺の心に潜む、悪魔達。何故アイツを、守ってやる事が出来なかったんだ。今更思いつめても、現実は変わらないのに…。
街の明るい街灯の光が、届かない程、暗くて、狭い路地裏にあるフェンスに寄り掛かって、俺は、昔の事を悔やんでいた。
少しばかり昂る気持ちを、落ち着かせる為に、身に着けている、茶色のコートの裏ポケットから、タバコを一本取り出して、口に銜えた。俺は、タバコに火を点けなくても、銜えているだけで、落ち着く。時計を持ち歩かない俺に、暗く染まった空だけが、ようやく夜になったと知らせてくれた。
空を見上げていた、俺のコートのポケットから、携帯の着信音が鳴った。
携帯をポケットから、取り出して名前を見ると、そこには林 京介(はやし きょうすけ)と書いてある。幼馴染だ。
電話に出ると、落ち着きのある声が聞こえる。
「よ、元気にしてたか?」
「まぁな」
「そうか、そりゃ、良かったよ。「なお」が、離婚して、仕事辞めたって聞いて、心配していたんだ」
そう、俺は、ほんの半年前までは、仕事もしていたし、妻も娘もいた。
「京介にまで、心配かけてすまなかったな。」
「水臭いぜ、いつでも俺に相談しろよ。どうだ、これから一杯?」
「いや、遠慮しとく」
「そうか…、なにかあったら、本当に相談しろよ。」
話し終えると、携帯をポケットにしまって、再び空を眺め始める。
アイツが、俺と出会ったのも、この場所だった。だから、俺はこうしてたまに、此処でアイツを待っていたのかもしれない。
俺の仕事は、(*)裏の仕事だっただけに、アイツ等の事に気を使っている暇がなかった。だから、アイツは俺に愛想を尽くして、出ていった。そんな事ぐらい分かってる。
信じていた。
それだけに辛かった。
悔しかった。
今はもう、何もする気になれない。
愛していたアイツの為に働いた仕事も、何もかも。

――「知ってる?岸本さん家の奥さん、出て行ったそうよ」

――「娘さん、可哀想にねぇ、まだ小さいのに」

――「浮気かしら? 」


周りが、どんな事を言っても、信じないし信じられなかった。アイツが、俺の前から消えてしまってなんて。
アイツは生きているんだから、また何処かで会えるかもしれないな。
無理やり、そう思い込んで、街灯の明るい通りの方に歩いていった。
点々と続く、街灯の光が、一本の線状に見える。その線に沿って歩けば、アイツに会える。
しばらく光を見ながら歩いていると、何かにぶつかった。
「あぁ?」
光を遮る、デカイ男が立っていた。こんな寒い夜に、タンクトップを着ている。
「あ…すいません」
デカイ男を、避けて歩き出そうとした時、後頭部に鈍い衝撃が奔った。
頭を押さえながら、俺はデカイ男を見ると、片手に拳を作って、笑みを浮かべている。
デカイ男の周囲にも、仲間と思われる男が、4,5人。
そいつ等に殴り蹴りされている間も、俺は、アイツの事を考えていた。
「このオヤジ、金たいして持ってねぇぞ」
今の俺は、殴られようが、財布を取られようが、気にはしない。
「おいっ、見ろよ。このオヤジ殴られて笑ってるぜ。キモッ」
仕事をやっていた頃は、よくこんな輩共を助けてやったもんだ、アイツも、俺が人を救うごとに喜んでくれた。だから、率先して仕事もしてきたんだ。
医者は、どんな事があっても、人を救う者であって、傷つける者ではない。
それが、アイツが俺に言ってくれた、応援の言葉。でも、この事だけは……
「このオヤジ、高そうな指輪してるぜ!盗っちまおうぜ」
許してほしい。俺が傷つけてしまう事を…。
俺は、アイツとの約束を破り、手を出してしまった。
アイツと俺の婚約指輪。アイツとの思い出の一つ。
「このオヤジ〜!よくもやりやがったな」

 その時、俺の前に一人の青年が現れた。


    続く。



          

(*)政府に認められていない、公にされない商売の事。




2006-01-08 22:28:16公開 / 作者:トロヒモ
■この作品の著作権はトロヒモさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
投稿遅くなってスイマセンでした。
あいてる時間が、本当になくて(汗)今、書き終えたばかりでして……。
「岸本 直春」編のスタートです。次回では、隼人との絡みが入ってくる展開になります。今度も、遅くなるかもしれないのですが、どうぞ大目にみてほしいです。
感想や指摘ドンドン待ってるので、よろしくお願いします。

ゅぇさんの説明の、おかげで「字下げ」が、なんとなくだけど分かりました。ただ、書き方の方が、まだ理解できてないので、もっと詳しく教えてほしいです。よろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
読ませていただきました。まだこの時点ではお話がどう展開していくかわかりませんが、面白そうな伏線がちりばめられていて、次を読みたいと思わせますね。ちょっと時間軸がとらえづらいかな?とは思いましたが、今後期待しております!
夜がなぜ暗いか?考えてみるとなかなか不思議なことですね。全身真っ黒の男の正体、さらには『治療を受けますか』だなんて、これからの展開を楽しみにしています!
2005-03-14 18:31:40【☆☆☆☆☆】有栖川
読みました☆何だかこのお話のもっていき方がすごく好きです☆それに内容も続きが早く読みたいって思えます…とゆーか私自身が続きを早く読みたいです!!!続きも頑張ってくださいね♪
2005-03-14 20:31:15【☆☆☆☆☆】満月
有栖川さん、読んでくださってありがとうございます。時間帯がとらえずらい気持ち、よくわかります。自分で読んでてもそうなんで(笑)続きは、時間帯を気にして書かしていただきます。有栖川さんの疑問(謎)をドンドン解いていくので楽しみにしていただいたら嬉しいです。続きも読んでほしいです。

満月さん、読んでくださってありがとうございます。感想をもらった時、とても嬉しくてその場で、跳びはねました。「続きが読みたいです」と言われると、もっと頑張るぞ!と思えます。続きも、自分の力を全力で出し切って頑張りますので、読んでいただけると嬉しいです。
2005-03-15 01:43:35【☆☆☆☆☆】トロヒモ
読ませていただきました。とりあえずは続きに期待、実は今あまり時間がないところに読んでしまったので(笑)一人称って楽ですよね。このまま『俺』がどう動くのか気になるところ。続きも頑張ってください。
2005-03-15 07:30:52【☆☆☆☆☆】ゅぇ
初めまして。読まさせていただきました。デリケートなのかずぶといのか分からない「俺」がいいですね。夜の本当の姿ですか、非常に興味を惹かれる題材です。次回更新を期待しています。
2005-03-15 07:50:31【☆☆☆☆☆】甘木
ゅぇさん、時間が無い時に、読んでくださってありがとうございます。「俺」ですか(汗)確かに主人公の名前のイメージは「俺」ですね…。いつか主人公の名前を呼んでいただく時まで、頑張りたいと思います。

甘木さん、読んでくださってありがとうございます。まだ一夜目なので、主人公の性格が分からないですよね…。話しを進めば、きっと固定されると思います!?
また甘木さんにも、「俺」でなく名前で呼んでいただく日まで頑張りますので、続きも読んでくれたら嬉しいです。
2005-03-15 22:34:10【☆☆☆☆☆】トロヒモ
読ませていただきました。私はトモヒロさんが描く「俺」のイメージが気に入って前回は感想を書きました。私にとってこの作品は「南雲隼人」という固有名詞より、読んでいて主人公に同化(同期)できる普通名詞の「俺」の方がしっくりくるんです。気に入っていますから「俺」。隼人だとよそよそしい感じがして(他人の作品に勝手に浸り込んでるんじゃねぇーよと言われるのは覚悟しています)。戯言はここらへんにします。次回更新を楽しみにしています。
2005-03-19 21:43:51【☆☆☆☆☆】甘木
読ませていただきました。いまさらながら、「第一夜」とか「第二夜」とかいう話の進め方が大好きですっ。う〜ん……注文をつけるとすれば「……た」っていう語尾表現が多くて単調な感じがすることと、字下げをしてほしいってことですか(爆←いや、あたしそんなに年はいってないはずなんですけど、字下げがないとちょっち読みにくいんですよ(笑)字下げしていただけると読みやすいっす!!次回も頑張ってくださいね〜♪
2005-03-19 21:53:53【☆☆☆☆☆】ゅぇ
甘木さん、読んでくださってありがとうございます。「俺」でやってみたいと思います。自分も主人公の気持ちで書いていたので、「俺」を使っていまして。甘木さんのおかげで、「俺」でやってみたいと思いました。これからも、読んでほしいです。

ゅぇさん、読んでくださってありがとうございます。自分は、登竜門にくるまで小説を読んだことなくて「字下げ」とか知らないんですけど(汗)ゅぇさんが読みやすい作品を、これからも心がけていきたいです。
2005-03-19 22:41:49【☆☆☆☆☆】トロヒモ
これです。改行後に一字さげてもらえると、びっちり感がなくなって読みやすいんです♪↓
 彼は…………言った。
2005-03-20 15:49:41【☆☆☆☆☆】ゅぇ
〈夜〉がやっと正体を現すのか。楽しみな展開になってきましたね。改めて最初から読み直してみたのですが、文章が『○○た。』と終わるのが多く、やや単調というか、状況説明の文章が突き放した書き方になっている感じがしました(実は結構難しいんですよね、私も一気に書いていると自分の文の終わりが『○○た。』ばっかりになっていて、書き直したりしています。させ今回の終わりは次回をとても読みたくさせるものです。ですから時間の許す限り早めに更新してくださいね。
2005-03-23 22:38:41【☆☆☆☆☆】甘木
甘木さん、ゅぇさん、読んでくださってありがとうございました。
時間が、ここ10日程なかったので、投稿できなくて…。
甘木さんの気遣いも裏切ってしまってすみませんでした。次回はできるだけ早く頑張ろうと思います!次回も読んでほしいです。
2005-04-01 18:34:40【☆☆☆☆☆】トロヒモ
 読ませていただきました。こんどは岸本 直春編かぁ、想像してなかった展開だけど岸本サイドの視点で話しを読むのも面白そうと、早速食らいついていました。でも今回の更新分ではアイツとか心に潜む悪魔達とか思わせぶりの言葉が多くて……次回更新まで待つのが辛いなぁ。
 でも(←このように、改行したとき文頭の一文字を下げるのが普通の文章の書き方です。「○○○○」と会話文の次の行も文頭を下げるのが普通です)。改めて、でも忙しい中書いているのでしょうから、私はのんびりと待ちます。私自身が遅筆なので他人様に偉そうなことは言えないので……。
 ところで、文中表現で〜〜〜〜〜〜「浮気かしら?」〜〜〜〜〜〜とありましたが、少々鬱陶しく感じました。『浮気かしら?』とか、───浮気かしら? みたいな書き方で良いのではないでしょうか?
 色々書きましたが、次回更新を気長に待っています。
2005-04-01 22:16:46【☆☆☆☆☆】甘木
甘木さん、毎度指摘ありがとうございます。直春目線は、ここまでなんですよ、実は…(笑  
次回から、また隼人目線に戻します。どうして、直春目線にしたのには、訳がありまして。次回まで、待っていただければ嬉しいです。
2005-04-02 01:46:19【☆☆☆☆☆】トロヒモ
計:0点
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