『心のカケラ』作者:liz / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角4129文字
容量8258 bytes
原稿用紙約10.32枚
「ねえ、10回好きって言って。」
「何でだよ。」
「いいから、言ってよー。」
「好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き。」
「あたしの大好物は?」
「すき焼き!」
「残念でした。お好み焼きでした。」
「はあ?」
ふざけんなよ!俺は、心の中で隣にいるこいつに叫んでいた。分かるわけない。初めて会った人間の好物なんて。でも、ひっかかってしまったことに対して、心の中でくやしがる自分がいる。

俺の名前は末原 聡。高校2年。いちを受験までは時間があって、まだまだ余裕な高校生活。部活は、特にしていない。理由は、面倒くさいから。なんか全てがだるく感じる今日このごろ。
そんな俺は、本当に今日の今日出会ってしまったのだ。俺とまーったく正反対なやつに。
俺は、廊下を歩いていた。
次の授業は化学の実験かー、移動かったりー。
心の声は誰にも気付かれない。だから、俺は、心の中でいつも色んな人をののしって笑っていたのだ。
ところがだ。一人の女子生徒が、上の空の俺の横をすれ違いざまに俺にそっとささやいた。
「かったりー授業でごめんねー。」
は?俺は一言も言ってない。ていうか、言ってない。言葉に出して言うほど勇気があるわけでもないし、かといってぶつぶつ独り言を小声で言っている気持ちの悪いやつでも俺は決してないのだ!
ぎょっとした俺は、後ろを振り返ると、もうすでに彼女はいなくなっていた。
化学の実験が終わると、昼休みだったので、俺は購買部へと走った。なぜかって?化学実験室は購買部から遠いところにあって、なるべく早く行かないと売れ残りの甘いパンを食べないといけなくなるからだ。俺は甘いものが苦手なんだ。
行ってみると、そこにはすでに長い行列ができていた。しかし、俺はやっとこさっとこ焼そばパンとコロッケパンを買うことができた。やったー!と心の中でつぶやいた時、またもすれ違いざまに聞こえてきた。誰か分からない女子生徒のささやき。
「やったね!おめでとう!そんな小さなことでも心でガッツポーズ。かわいいね。」
今度こそ捕まえてやる!そう思い、すっと手を伸ばして彼女を捕まえた。
俺は顔を見る余裕など持ち合わせてなかったから、彼女の腕をひっぱって裏庭へと連れ出した。裏庭でようやく彼女と向き合う。
「なんですか?俺になんか用ですか?」
うつむく彼女は・・。なんと、ほ、保健の先生だった。そして、そんな彼女はもうとうに60を超えている。高校で名高い「鬼の名村」
「私が何をしたというの?担任はどこ?私に何か言いたいことがあるの?」
怒りをあらわにした彼女は、いつになく怖かった。
「す、すみません。人違いでした。」
「ああ、そう?今度したら許さないから。」
怒った彼女は勇み足で校舎に消えていった。俺は、近くの木陰に腰をおろした。くそ、寿命が5年は縮まったじゃないかー。誰なんだよ!俺は、パンにかぶりつきながら俺にそっとささやきつづけるその女性を探し出そうと心に誓った。
「クスッ。」
一人の女性が笑いをこらえながら俺を見下ろしているのも知らずに。

しばらく木陰で休んでいたが、何か飲みたくなったので再び購買部へと向かった。自動販売機で大好きな100パーセントオレンジジュースを買った。あの酸っぱさと甘さが好きでついつい買ってしまう。俺は、ふと次の数学の予習をしなければならなかったことを思い出して、オレンジジュースを片手に教室へと急いだ。教室に行くまでにオレンジジュースを飲み干そう。俺は教室が見えるところまで来て少し立ち止まり、缶に残ったジュースを一気に飲み干そうとした。

「オレンジジュースなんか飲んじゃって。子供っぽいんだね、す・え・は・ら・く・ん!」

俺は、思わず口からオレンジ色の液体を吹き出してしまった。

「お前、何やってんだよ!」
クラスメートの野口の声にふと我に返って辺りをキョロキョロ見回してみた。しかし、俺に見えたのは俺の横をクスクス笑いながら通り過ぎる女子生徒の集団と野口だけだった。
「何キョロキョロしてんだよ。いつも冷静なお前らしくもない。うわ、シャツにべっとりついてるぞ。早くトイレに行って洗ってこいよ。染みになるぜ。」
俺は、仕方なく数学の予習をあきらめて男子トイレに駆け込んだ。シャツを脱いでみたら、下着にもオレンジジュースは染み込んでいた。
「くそ。」
今が夏じゃなくて正解だと思った。初秋のこの季節は寒くもなく暑くもない。おかげで汗とオレンジジュースが合体してもっとベタベタになるのは防げた。上半身裸になって急いでシャツと下着を洗い終えた。

「うわー。上半身裸で、セークシー!」
耳元で、ささやき声が聞こえた。

また、あいつだ!俺は、急いで後ろを振り返ってみた。すると、男子トイレの個室のドアがバタンと閉まった。俺は、そこに俺をからかい続けている女がいると確信した。
「おーい!出て来い!そこにいるのは分かってるんだ!!!!」
俺は、叫びながらドアを叩いた。と、ドアが開いたら、便座に腰を下ろしてまさに用を足している真っ最中の男子学生が驚きの眼差しで俺を見ていた。
「あの、トイレしたいんですけど、僕に何か?」
俺は、平謝りに謝った。また逃げられてしまったようだ。そして、なんとまた耳元で声が聞こえてきたのだ。
「おーい。遅れちゃってもいいの?セクシー君。始業ベル鳴るまであと10秒だよ。次の授業って数学の西田でしょ!いいのかなー、そんなにのんびりしてて。」
俺は、ハッとした。や、やばい。授業に遅れる。俺は、後ろを振り返る余裕なんてもうなくて。シャツと下着をひっつかんで廊下を駆けてしまった。後から聞いた話だが、俺の形相はかなりのものだったらしい。俺は、なりふり構わず教室目指して全力疾走。そして、教室のドアを思いっきり開けた。と、同時にチャイムが鳴った。
「お、お前。」
西田とクラスメートが目を見開いていた。何しろ、俺はセクシー君のままだった。シャツと下着を片手に鼻息の荒いまま席に着くと、俺は教科書とノートを取り出して、今日の範囲のところを開いた。黒板のほうに目を向けると、クラスメートと西田がクスクス笑い出した。しまいには、大声で笑い出すやつもいる。俺がきょとんとしていると、西田が笑いをこらえながら俺に話しかけてきた。
「末原。お前、必死に走ってきたのか?かわいいやつだな。シャツ着ないと風邪引くぞ。では、授業を始める。」
俺は、必死すぎて裸であることも忘れてしまったこの恥ずかしさをこらえながら急いで下着とシャツを着た。顔から火が出そうなほど恥ずかしい…。今日は恥ばかりかいている。鬼の名村の手を皆の前できつく握り締め、オレンジジュースは吹きこぼし、男子生徒のトイレの最中をのぞき、裸のまま教室に走りこんでしまった。


それもこれもあいつのせいだ。

俺に話しかける女。必ず耳元でおもしろそうにささやいてくる。しかも、今までしてこなかったくせに、今日何度も俺に話しかけてきた。くそ。俺は女子と極力話さないたちだから、それが誰かなんて分からない。女子生徒の名前をほとんど知らないから検討もつけられない…。

数学が終わり、俺は、野口に相談してみることにした。

「俺さ、今日災難続きで。」

一部始終を話したら、野口は、目を輝かせ始めた。
「なあ、それってお前の気を引きたいからなんじゃないか?」
野口が言うには、俺に気のある女がきっと俺の気を引くためにそういう方法を思いついたのでは?というのだ。だが、俺みたいにいつも冷静で余裕ぶちかまして女子とも極力関わらずにいるようなやつに興味を示す女子なんているのだろうか?て、今は冷静じゃないし、余裕もなくしているけれど。でも、前はすごく大人だと俺は学校でも評判で、成績もよかったので秀才だと先生方の評判も高かった。今日でそのイメージはとことん崩れてしまったけれど…。今、皆のなかでは、きっとボケてて、情けなくって、ドジな人ということになっているだろう。そう思うと、少し腹が立ってきた。くそ。仮にだけどその女、いくら俺に気があるからってこういう方法はひどくないか?しかも、俺の心を全てお見通し。全部読んでる。俺がびっくりするような内容の言葉を俺に語りかけている。信じられないが、事実だ。人から自分の心を全て読まれたら面白くない。本当に面白くない。
「まあ、お前が探し出すしか方法がないな。そのうち見つかるさ。」
野口は、協力して欲しいことがあったら、協力するよ!と言い残し俺から離れて彼女のところに行った。野口にはクラスに彼女がいる。いつもラブラブで、皆が嫌がっていることにも気付きもしない。実際、俺も少しイライラすることもある。2人きりの時にラブラブでいてくれよ。せめて教室では普通にしていてほしい。

「ねえ、うらやましいの?2人が。」

俺は、耳元のささやき声にはっとして後ろを振り返った。しかし、誰もいる気配はない。絶対いたはずなのに、また取り逃がしてしまったようだ。

もしかしたら、俺の中にいるもう一人の俺が自分自身に女の声でささやいているのかもしれない。

そう思ってみる。だけど、そうではないと思った。だって、本当に耳元に吐息がかかって、ささやかれてるのだ。不思議だ。どうしてもその人に会いたいと思った。そして、俺を惑わせる理由を尋ねたい。俺は、ため息をつきながら、自分の席に着いた。すると、そこには、鉛筆で落書きがあった。


「末原君。私のこと早く見つけて。今日の放課後校舎の裏庭の木陰にいるから。探しに来て。待ってるね。  Mより。」


俺は、悔しかった。いつの間にMは俺の机でこの文章を書いたんだ!俺は、またも取り逃がしてしまったことに唇をかみ締めて悔しがった。しかし、放課後、Mに会えるかもしれない。俺は、早く放課後にならないかな、と心の中でつぶやいた。
2005-03-13 08:48:27公開 / 作者:liz
■この作品の著作権はlizさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
Mさんってひどい人だけど、かわいい人って設定にしてます。Mさんと末原君が早く出会えればいいですねー。p.s.末原聡という名前は私の知り合いの名前だったり。好きなんです、この名前。
この作品に対する感想 - 昇順
おお、lizさんの恋愛ものだ〜と食いついてみました。なかなかウマイ(←アホ 恋心くすぐられると言うか(キャラにあってないな…)興味をそそられる作品でした。 一つ気になったのは、もう少し場面の変換期で改行が欲しかったなあと…変換期じゃなくても、改行を入れると微妙な間を入れることが出来て、作品に味が出ると思います。……あとは細部ミスくらいでした。最後らへんが少し。「俺」が「僕」になってるのと、保健の先生のセリフの最後にかぎカッコがないとか、そんな感じ。短い気もします。 作品のふいんきや、一人称の言葉の運びがすごく上手くて、少し尊敬。 次回更新を楽しみにして待っておきます。 
2005-03-10 17:39:11【☆☆☆☆☆】貴志川
お久しぶりの作品、読ませていただきました。主人公の名前が知り合いに告示していたことに驚き(笑 始まりの少女がいつ出てくるのかなと思い読み進めました、どうやら次回以降になりそうですね。どうやら人間ではない模様(予想 少し気になったのは、捕まえられた保健の先生がうつむいていたということ。しっかりした先生なんでしたら、その生徒のことをビシッと睨んでてもいいんじゃないかなと。次回更新も頑張って下さい。
2005-03-10 17:49:09【☆☆☆☆☆】影舞踊
拝読させていただきました。おお、ボーイミールガールものケ? と訳の分からない方言を使いつつ、保険の先生のくだり、笑いました(爆 まだ始まりなのでなんとも言えないのですが、とりあえず気になった事を幾つかヴぁヴぁヴぁっと。とりあえず、「〜〜。」は「〜〜」にしたほうがよいかと。お堅い小説ではたまに前者もあるのですが、察するところ本作品はライトノベル風味なので後者の方が合っていると思います。あと、「……」三点リーダー。文頭の一マス空け。!や?の後の一マス空け。面倒くさいとは思いますが、これをしているのとしていないのでは、正直結構印象がかなり違います。ああ、こいつ文法作法学んでないな、と。とりあえず、ストーリー的には面白そうなので、文法の方も学べばもっと良くなると思います。それでは。
2005-03-11 13:09:39【☆☆☆☆☆】ささら
どうも、拝読致しました。まずは少し短かったですかね。まだ序盤といったところですし、気になるとまではいきませんが。恋愛物はなかなか好きなので、いかに羨ましくなれるかをポイントにして(ぇ)これからを楽しみにしようと思います。あと、これは私の理解力が足らないからなんでしょうか、《次の授業は化学の実験かー、移動かったりー。》という一文に対して、「かったりー授業でごめんねー」という台詞には違和感が……。彼女はまるで先生みたいだなぁと(汗 更新頑張ってください。
2005-03-12 20:54:58【☆☆☆☆☆】昼夜
続きも期待しています。 (簡易感想)
2005-03-13 14:19:04【☆☆☆☆☆】影舞踊
ああー結構ツボだなMさん(笑 自分的に好きなキャラクターです。おちょくられるのが好きだとかそういうわけじゃないですけど、いい性格してんナア…こういう子が近くにいたらなあ〜と思ったりして(周りは暴力的かブリッコちゃんばかりで、個人的にかなり不満です→ケッ)続きに期待で。
2005-03-13 23:41:38【★★★★☆】貴志川
読ませていただきました。恋愛モノは好きなので、続きに期待してます。ただ改行後の字下げがないので、少しぎっちり感が否めず読みにくかったかな、と。少し考慮していただければ嬉しいなぁと我儘を言ってみたり。続きも頑張ってください。
2005-03-14 16:14:26【☆☆☆☆☆】ゅぇ
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。