『生き抜いて【読みきり】』作者:夢幻花 彩 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 今日、私の親友が死にました。
 彼女はまだ私と同じ十六歳でした。

 私は上手く言葉を紡ぐ事が出来ません。だけど、一生懸命話すので、聞いてくれたらいいなと思っています。どうか、お願いします。
 今日、自殺志願者の沢山いるチャットルームを見つけました。
 みんな、生きていくのが辛いと言っています。リスカをすると落ち着くと言っていました。私も参加してみました。そんなに死にたいのなら手首なんかじゃなくて心臓を一突きするべきだと教えてあげました。そしたらすぐにあんたなんかに何がわかるんだ、本当に辛い目にあったこともないくせにと罵られました。でもおかしいです。本当に死にたいなら、そんなことは言わずに試していると思います。だから挑発の意味も込めて、死にたいあなた達が生きて、生きたかった留美が死ぬのは理不尽です。そう伝えようとして、やめました。

 あの人たちには留美の苦しみなんて判るはずないです。だって、自傷できるという事は、彼らはちゃんと生きる事を許されているんですから。




 例えば、です。
「私将来カウンセラーになりたいんだよね」
 そういう夢を持っている人がいたとします。その夢の為に、毎日同級生が適当に遊んだりデートしたりする時間を惜しんで臨床心理だとか、深層心理だとか、難しい専門用語の一杯でてくる本を読んで、必死にカウンセラーの資格を取ろうと頑張っている人です。
 そしてその一方で、
「生きてるの楽しくないし、あーもう死にたいー」
 なんて適当に笑いながら言っている人がいたとします。
 本当に例えばの話、です。
 もしあなたが神様だったら、あなたはどちらに生きる事を許しますか?

 だからつまり、神様なんてきっといないんです。
 だって留美は、前者だったのに死んでしまったから。それも最悪です。留美にはええと、なんていったかな。ああ、そうだ。「骨腫瘍」っていうのがありました。右の二の腕の骨に、小さなでっぱりがあったんです。それは「外骨腫」という良性のもので、腕を酷使したら筋肉が擦れて痛いけど、ただそれだけと言うものでした。外観的にもさほど判らない、本当に大したことのないものです。
 けれどそれ、成長途中のもので、ある時を境に悪性のものに変わりました。本当に不思議なんですけど、悪性だとそれ、名前変わるらしいです。「骨肉腫」って。
 それなんだろうと思って辞書を引いてみました。そこには、
『骨の原発性の悪性腫瘍の一。未分化で増殖の激しい骨組織から成る。主に肩や膝関節の周囲に生じ、早期に肺に転移することが多い……』
 難しい言葉が多くて良くわからなかったけど、それでもこれだけ判りました。

 ああ、留美助からないのか、って。何でだかそれだけ判ったんです。不思議だけれど、本当なので信じてもらえたら良いなと思います。
 私が気付いたくらいだから、そういう所に鋭い留美は間違いなく判っていたでしょう。だけど、まるでそんな事ないというように、全然元気で、すぐに直るんだと言うように留美はいつも笑っていました。
 
 私はそんな留美にどうしてあげればいいのか判らなくて、あまり留美のいる病院に行かなくなりました。そのうちに、留美は腕を切断手術していた事を人づてに聞きました。ああ、もう留美はピアノも弾けなくなったんだ。それを聞いたとき思ったのはそんな事で、私は酷いなぁと思います。もう発表会、出られないんだねと呟くと、ある友達は変な顔をしているのが判りました。

 

 例えば、です。
 一人の少女が死んだとします。見たこともない、聞いたこともない知らない女の子です。骨腫瘍とか、良く判らない病気でです。それをニュースで見たとします。
 もちろんあなたは、可哀想と思うでしょう。けれどあなたは泣きますか?その見たことも聞いたこともない、知らない女の子の為にあなたは涙を流してあげる事が出来るでしょうか。私には出来ません。私はきっとその女の子を可哀想と思っても、その子の為の涙なんて流す事はできないでしょう。そして、いつか記憶からも消し去られてしまうに決まっています。それは思えばとても悲しいことだと思います。例え知らない少女にしても死ぬと言うのは恐ろしい、辛い事なのにそれを自分の痛みのようには感じてあげられない、逆に言えば自分が死んだ時、涙を流してくれる人はごく少数だということなんですから。その上芸能人のゴシップネタや毎日のなんてこと無い日常によって、いつかほとんどの人はその死でさえも忘れてしまう。
 私はそれを怖いと思います。あなたはそう思いませんか?あなたにとってそれは仕方ないし、どうでも良い下らない事ですか?それでも構わないです。大体、人は必ず死んでいくのに死ぬのが怖いだなんて矛盾してますしね。
 けれど留美は、死ぬのが怖いと言って泣いていました。

 久しぶりにお見舞いに行くと、とても元気そうな顔をして笑っていてくれました。学校の方どう?そう尋ね、私は答えました。この間菜々が初カレGetしてさ、それまでが嘘みたいに毎日のろけてくんの。あ、小百合がまた失敗確定のダイエット始めたよ、どうでもいいことだけ拾い集めて私はいかにも楽しくて仕方ないとばかりに笑って見せました。留美は私も早く学校に戻りたいな、やはり笑顔でした。
 しばらくして、塾の時間だから帰る、またくるねと病室を出ました。塾の日が今日じゃない事くらい本当は留美も知ってたと思います。それでも判った、またねと留美は左手を振りました。きっと右手が残っていたら、両手で振ってくれてたような気がします。
 廊下に出て、ぱたんと戸を閉めました。そのまま帰らずに息を潜めてそこに立っていました。
 留美の泣き声が聞こえました。いやだよ、私だってまだ死にたくないよといって、泣いているのが判りました。
 傍を通った看護師さんが不思議そうな顔でこっちを見ます。私は軽く会釈をして、
「あ……」
 自分が泣いていたことに初めて気付きました。どうして判らなかったんだろうというくらい、私はぐしゃぐしゃになって、泣いていました。


 例えば、です。
「私将来カウンセラーになりたいんだよね」
 そういう夢を持っている人がいたとします。その夢の為に、毎日同級生が適当に遊んだりデートしたりする時間を惜しんで臨床心理だとか、深層心理だとか、難しい専門用語の一杯でてくる本を読んで、必死にカウンセラーの資格を取ろうと頑張っている人です。
 本当に例えばの話です。
 あなたはその人が死ななくてはならない理由があると思いますか?いい加減に毎日適当に笑っている人が生きているのに、留美が死ななくてならない理由なんて、もしあなたが神様だったとして、納得のいくように説明してくれますか?きっと、そんなことは誰にもできません。
 だけど、留美の死を私は無駄だとは思っていません。
 だって留美は、確かに死んでしまったけれど、私に精一杯生きなくてはならない事を教えてくれたから。人は、何があっても生き抜かなくてはならないのだと伝えてくれたから。

 例えば、です。
 あなたの傍に、自殺志願者がいたら、もしくはあなた自身がそうだったら。
 私はそれを否定したりしません。そんなことは神様にだって許されていないと思います。
 けれど、留美のように、生きたかった人がいます。生きたくて、精一杯生きていたのに死んでしまった人は沢山います。それでも神様は、留美たちではなく、あなたに生きる事を許したんです。これは強制ではありません。けれど、お願いです。
 どうか、生き抜いてください。出来る限りで良いから、あなたらしい方法で生き抜いてください。
 私の話は、これでお終いです。




 今日、留美は死にました。
 だから私は、生き抜こうと思います。

 今日、自殺志願者ばかりのチャットを見ました。
 生き抜いてと言ったら馬鹿にされました。それでも、いつか判ってくれる事を願っています。








 




 



                          For you.

2005-02-11 00:08:53公開 / 作者:夢幻花 彩
■この作品の著作権は夢幻花 彩さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
いきなりシリアスな話です。この間私の親戚は、子宮癌で死んでしまいました。子供好きで、保育士を志していたのですが親に反対され諦め、やっと結婚して子供を沢山生むと言っていたのに、すぐに発病。子宮を取れば助かったのに、最後まで彼女は嫌がり結局亡くなってしまったのです。私はあまりあった事の無い人でしたが、それでもその話を聞いたときには苦しかったです。
そしてもう一つ。先月だったと思うのですが、市内の学校に通う同い年の女の子が電車に飛び込み自殺を図りました。後で知ったのですが、その子は親友の友達です。原因はイジメだったということらしく、どうして自分に一言相談してくれなかったんだろうと親友は泣いていました。
 と。理不尽だと思いませんか?なんていうか世の中って。そういう思いと、某自殺志願者のサイトに迷い込み落ち込んだ事とが混じってこんな小説になりました。
 ちなみに自殺、未遂の未遂くらいならやった事あるんですよね、私。ただ怖くてやめました(笑)あれは絶対駄目ですよ。冷静になればちゃんと判るのに、日とって追い詰められると脆いなぁ。
 それでは、批判等でも大歓迎ですのでレスいただけたら嬉しいです!バシバシ言っちゃってくださいな。

この作品に対する感想 - 昇順
…悲しいなあ、きついな…確かに自殺とかはやめた方がいいよな、僕も経験者です。飛び降り未遂(しかも、やめた理由が面倒だから)
人の生き死にが深く突き刺さる小説だと思います。
2005-02-11 00:17:51【★★★★☆】リュウ・レジェン
初めまして。私は、生きるのがつらいという気持ちは理解できますが、私には夢があるので頑張りぬこうと思っています。だって、夢はあきらめられません。叶えるまでは。とても大切な話だと思います。友人の妹が自殺したらしいんです。彼は、言ってました。妹から生きろ、ていうことを教わった気がする、と。そうですね、と私は大きく頷きました。私は一番尊敬している人が中学生の頃になくなりました。どうして?なんで、あの人がこんなに早く亡くならないといけないの?て、すごく苦しくて今でもその人を思い出せば涙が出てきます。死を人生の打開策に選ぶのは、人間の弱さから来ると思います。でも、少なくとも私は、その道を選びません。私は、生きたいと思っています。
2005-02-11 01:36:49【☆☆☆☆☆】liz
どうも、読ませてもらいました。伝えたい事が痛いほど感じ取れました。自殺ではないのですが、私は高校二年生の時、僅か四ヶ月の間で友人を三人亡くした事があります。二人は中学以来会っておらず、あまり実感はありませんでしたが、もう一人は同じクラスの人でした。しかも、全員交通事故で、一人は私の知っている先輩に――酔っぱらい運転で轢かれ、死んでしまいました。泣きはしなかったものの、何が何だか分からなくなっていた時期がありました。ちょっと文章がちぐはぐになってますね、申し訳ない。ともかく、私はこんな胸に迫る小説は好きです。ではでは
2005-02-11 01:46:43【★★★★☆】rathi
死というのはヒトにとって一生をかけるコンセプトですよね残酷な話。第一俺たちはまだ『生きている』ことすら何なのかわかってないくらいなのに。『死』が目の前に迫っている人には(たいてい)『生きている』ことが重要で、『死』が遠い人には『死ぬこと』が重要になる。これはいったい何なのか。必死になることも、投げやりになるのも俺たち人には与えられているのにたったそれだけで俺たちは選択技を消していってしまうのだろうな、と思う。このテのはなし話を見るとそういうことを考えてしまって『じゃあ俺たちが必死になってやってる小説書きなんてゴミみたいなもんじゃねえか』と・・・要するに「俺は甘い」という感情に包まれていたたまれなくなる。とか、真面目に語ってしまった(―▽―;)
2005-02-11 02:18:44【☆☆☆☆☆】貴志川
読ませていただきました。正直な話、『死にたい、おもしろくない、生きていても意味がない』そんなことを言いながら、『あんたにあたしの痛みはわからない』と言いながら、自殺願望を持っている人間に対して私は決して共感することはできません。あたしも自殺サイトとか見たことありますが、結局甘えてるだけの気がしてならないのです。結局、自分がつらいつらいって、あたしは苦しんでるんだって自分が悲劇のヒロインぶってるだけの気がします。そんなんならとっとと死んで、その命を生きたがってる人間にやってくれ、とも思ったりします。私も、何度も死のうと思ったことがあります。何度も死にたいと思ったし、手首切りかけた(←ここらへんが臆病)こともあります。が、それはあたしが生きてる意味がないって認めてるようで嫌でした。生きていこうと、今は切実に思えます。死んでしまいたいなあ、とは思いますけど。なんて、とても深刻に考えさせられた作品でした。とにもかくにも、彩さんの作品に大共感です♪
2005-02-11 09:12:19【★★★★☆】ゅぇ
はじめまして、読ませていただきました。まず思ったのが、この小説が妙に現実味を帯びていたということです。自殺志願者達をのらりくらり生きているだけの人間と考えるとやはり夢幻花 彩さんが書かれている通り、僕が神様ならばもっと意欲的に人生を送っている人たちを生かすでしょうね。でもどうなんでしょうかね。心の病気という概念が存在することを考えると、もしも僕がそういった病気であったときに、神様から「死ね」といわれることを考えると……。もちろんそんなことがメインのテーマじゃないんですけどね。画一的な倫理観や感性では理解できないものが世の中にはあふれているものですね。と、世の中を語る19歳でした。さて作品のほうなんですが、リフレイン(?)みたいな表現方法を使っているのは効果的ですね。心に訴えかけてくるものがストレートに届く感じです。またこんな作品を書いてくださいね。期待してます。ココハでしたー。
2005-02-11 10:27:05【★★★★☆】恋羽
読ませていただきました。自殺志願者否定の視点は個人的に好印象で、生きることについて考えさせられる作品でした。作中での「いい加減に毎日適当に笑っている人」、これは自殺志願者さんの事を言ったのだと思いますが、全ての人に向けられるなぁと思いました。自分もいい加減に適当に笑ってますからね(笑 死にたくて死ぬ人、死にたくて死なない人、生きたくても死ぬ人。映画、アニメ等で死のインフレが起こってますからね、最近の子供とかに読んで貰いたいですね。
2005-02-11 11:06:25【★★★★☆】影舞踊
読ませていただきました。テーマははっきりと明確、多分に夢幻花さんの主観を前面に押し出した作品であったと思われるのですが、その分生々しいメッセージが深く胸に迫ってまいりました。自殺と言う行為うんぬんに関しては語ると長くなりそうなので控えますが、夢幻花さんの伝えんとする事が読み手にダイレクトに伝わってきて、おのおのに考えさせる機会を持たせる、とても意味深い作品であったと思います。
2005-02-11 11:12:47【★★★★☆】卍丸
……何だかなあ。こういう話を読んでると昔の古傷が痛む。いや、実際に体のどっかに剃刀で切った一生消えない傷がある訳じゃないんですが、取り敢えず臭い台詞承知で言うと、中学二年の頃から心の奥底に消えない傷がある訳です。一体幾度の無く、死のう、マジで死んでやるぞコラ、などと思ったことか。しかし結局こうして自分が生きているのは、ひとえに友達の御かげなんだろうなあ。イジメ、ってほど大層なものではなかったのですが、自分の場合はぶち切れてぶん殴ってそれでハイ終わり、逆に友達になった、的なパターンなんですが、それができない人も沢山いるんだろうな。それで本当に死んでしまう人もいるんだろうな。ただ、この小説を読んだ上でこんなこと言うのはマズイのですが、自論は「死にたきゃ死ねや」になる訳です。嘘偽り無く本当に死ねる度胸があるくらい辛ければ死んだ方がいいんです。人間いつだって死ぬんだから、それが早いか遅いかの違いですし。生きれてばいつか幸せになれる、なんてことは自分の口からは吐けません。だから「死にたきゃ死ねばいい」になるんです。ですが、大抵の人間は「死のう」と思っても結局死ねない。自分もその内の一人であり、そんな人間はただの甘えなのです。死ぬ度胸も無い奴が、偉そうなことを言うな。それが結論だったのですが、よくよく考えてみると自分も臆病者でして、ここにこうやって書いている時点で矛盾しているんだろうなあ、と。……何が言いたいのかわからなくなってきた。取り敢えず、まとめるとただ一言。「生きれる内は生き抜け」以上。  心の深く残る物語、誠にありがとうございました、彩さん。
2005-02-11 14:50:48【★★★★☆】神夜
読まさせて頂きました。読んでいて何だかとても現実的でこれは作った話なのか?と思いながら読んでいましたが、最後のコメントを読んでああ、やっぱり…と思いました。確かにこの世の中には沢山の人が自殺をしたり死にたいと言っている人がいると思います。私はそう思っている人達に夢幻花さんが書いたこのお話を読んでほしいなと思いました。次回作も頑張ってください☆
2005-02-12 20:51:03【★★★★☆】満月
計:32点
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