『鈴の声<読みきり>』作者:千夏 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約3.93枚
いつでも、どこにいても聞こえてくる、
リンリンリン。
寝る前は聞こえないのに、起きたらすぐに、リンリンリン。
これは、あいつの声なのだ。小川朝香の…。

「奥田」
小さな小さな、今にも消え入りそうな声で俺に問いかけるのが分かった。目をゆっくりと開けると、奥田、奥田と問いかける小川の白い顔が見えた。同時に鈴の音も聞こえる。視線を少し上に向けると、小川の薄茶のサラサラの髪が見えた。俺は、この髪が好きだった。まるで、女神の様だったから。
段々、笑いが込み上げてくる。もう我慢できない。
「あははははははっ!」
笑いの正体は小川が俺の足の裏をくすぐっていたこと。
「やめろよな小川!」
小川は良かった、奥田、死んじゃったのかと思った、と本当に安心したように表情を穏やかにさせた。なぜ俺が死ぬんだ?と疑問に思いつつ、俺は小川に突っ込んだ。
「だからって足の裏くすぐることないだろう」
真顔で言った。小川はくすくすと上品に笑ってみせた。まさに、山の手のお嬢様である。
「ごめんね、奥田の足の裏、葉っぱついてたの」
なんだそれ、と一気に力が抜けた。小川はとても変な奴だ。妙に男っぽいところがあるし、でも身なりはそこらの女子とは比べ物にならないくらい綺麗。ほかにも、笑いのツボが人と違う、いつも鈴を身につけている、声が小さい。
「まあいいや。小川、一緒に帰ろう」
にこりと笑う小川の手を、力が入らないように握った。細い手だったから、俺にはとても脆く見えたのだ。

普段は悪ガキの俺も、きっと小川の前では違う。いくらか優しくしているつもりだ。
「奥田、あたし、奥田のこと、好きだよ」
小さな声で言った。いつもより少し大きめの声だった。いきなりすぎて、俺は目を大きくする。
「いま…なんて?」
小川はあれ、いつもより大きめの声にしたつもりだったんだけどな、と、見当違いな独り言を呟いている。俺は、今度は耳を澄ませた。
「あたし、奥田のことが好きなの」
それは、俺の心にスーッと沁みこんでいった。まるで、いつでも聞く準備ができていたとでも言うように。鈴の音が、リンリンと鳴る。
「お…俺も…小川のこと、好きだよ」
少し下を向いて言った。小川の顔は見れなかった。きっと、白い顔が赤くなっているんだろうなあなんて思いながら、俺の赤い顔を下に向けた。ゆっくり小川の顔へ目を向けると、小川は今まで見た中で一番綺麗な笑顔を見せた。
「うれしい、ありがとう」
その言葉と、鈴の音が、妙にマッチしていた。俺が聞いた小川の最後の言葉はそれだった。

次の日、小川はざわめいたクラスには姿を現さなかった。
チャイムギリギリで登校する俺には情報が遅くに届いたのだ。
「おい、奥田!小川今日死んだんだってよ!」
いつもは口数少ない中屋が血相変えて俺に言ってきた。小川が死んだなんて最悪な冗談だな、とか思いながら席に着いた。俺の胸はどんどん高鳴っていった。ドキドキドキドキ、ドキドキドキドキ、ドキドキ…。破裂しそうだった。最悪な冗談と思ったのは聞いたその一瞬だけで、このクラスを見れば本当なんだってことぐらいすぐ分かった。
眩暈がした。

「奥田?」
ショートカットで黒い髪を耳にかけながら、俺を呼ぶ声がした。ゆっくり目を開けると、俺に聞こえるように大きな声で奥田、と呼ぶ南の姿が見えた。肩を摩る。
「いってえな!なんだよ南!」
寝ないでよ、と突き飛ばすように南は言った。

今でも俺の心の中では小川が問いかけてくる。奥田、奥田と。とても小さな声なので、たまに聞き取れないことがあるが、俺はなるべく耳を澄ます。小川の声が鈴と一緒に聞こえてくるのだ。
リンリンリン。奥田、大好きだよ。
(END)
2005-01-13 18:22:55公開 / 作者:千夏
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■作者からのメッセージ
コンニチワ♪千夏ですッ♪♪♪
今回はとってもスラスラ書けました!!
手が勝手に動くみたいに、頭の中でどんどん整理されていく感じにv
最近こういう話ばっかり書いてますが、個人的にこの話が一番好きです。
どこよりも雰囲気だけは負けないぞ、といった感じで…(ぉぃ。
それでは、感想など待ってます♪
この作品に対する感想 - 昇順
最後に出てきた南さんと奥田君の関係がわからなかったのですが(現彼女と言うことでしょうか? 冒頭の部分が現在のことで、その後に続く部分が過去のこととわからず読み進め、最後にきて、ああそうかと納得。それから小川さんが死んでしまったことに対する描写等が欲しかった気がします(もしも、病気でならばその複線的なことがあればもっとよかったかと 偉そうな口を叩きましたが、許してくださいませ。終わり方はとても綺麗だったと思います。次回作も楽しみにしておりますので。
2005-01-13 21:17:22【☆☆☆☆☆】影舞踊
読ませていただきました。千夏さんのテイストが良く表現されていたと思います。小川さんが死んでしまったと言う展開が、少し唐突過ぎる印象も否めなかったので、その部分にもっと具体的な説明があれば、更に読み応えのある作品に仕上がった事と思われます。鈴の音と言うのがアクセントになっていて、仰る通り独特な雰囲気を演出しておりましたね。次回作も楽しみにお待ちしておりますのでっ。
2005-01-13 21:52:20【☆☆☆☆☆】卍丸
青春テイストの悲しい話ですね・・・(⊃○T)ェグ・・・ 小川さんが死んだ、というのは少し唐突でしたね。いや、唐突なのはいいのかな?そういう作品だととらえるととても面白い。 しかし実際人が死んだ場合こんなにはっきりと「死んだってよ」といえるのでしょうか?むしろ『入ってきたら誰一人として口を開いている者はおらず、俺を振り返った奴らもスグに目を伏せた・・・』的な表現のほうが俺としては感情移入できたかな・・・(すみません・・・)おもしろかったです。次回作品も期待しています。
2005-01-15 13:48:04【☆☆☆☆☆】貴志川
レス有難うございます!!今回はみなさんからの感想を見て反省する点が多いため、個別にレスすることは控えさせてもらいます。(長くなるので;)所々描写が曖昧だというのは読み返せば私にも分かります><みなさんの感想を心に留めて、次回作にも取り掛かる予定です。日々精進!!みなさん本当にレス有難うございました。
2005-01-16 16:29:17【☆☆☆☆☆】千夏
文章力があるのは誰の目にも明らかです。表現も明快ですっきりと読ませてもらいました(このすっきりはテーマとは無関係ですw)。あとは作りこみですね。小説というものを人に読んでもらって、より深く理解してもらうためには。文章を書く全ての人の永遠のテーマです。個人的には、千夏さんの長編が読みたいな、なんて勝手なことを考えています。ではでは、お互いがんばりましょー。ココハでしたー。
2005-01-16 21:56:47【☆☆☆☆☆】ココハ
計:0点
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