『目の役割【読みきり】』作者:影舞踊 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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人に見えないものがあるとすれば?
ものすごく早く動くもの?
幽霊?
人の気持ち?
そうかもしれないね。
でも僕は違う。
僕は…人が見えない…



 ☆   ☆




 産まれた時の事を覚えてる人がいるなら教えてほしい。お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃん。その他多くの自分を見守ってくれた人。その人達がどんな顔をして、どんな風に喜んでくれたのか。僕にはわからない。
―でも、僕らもわからない
 君達はそう言うかもしれない。でも君達は知ってる。どんな風に笑うのか、どんな風に泣くのか、どんな風に怒るのか。感情が表に出ると、人はどんな風な表情をするのか、を。
 塞ぎこむ気持ちをわかってくれとは言わない。愚痴を聞いてくれとも言わない。僕は別にこう産まれてきたことを恨んでいるわけじゃないし、恨んだところで解決する問題でもない。でも、時々思ってしまう。
―どうして僕なんだっ!
 ってね。だから僕は真っ暗なのかも知れないね。



 ☆   ☆



 心では割り切っていても、僕は自分を騙せるほど器用な人間じゃなかった。いつからか、周りの人の声は聞こえても出来るだけ返答をしない自分がいるのに気がついたのは。でも気づいただけましだと思う。否、気づいてもそれを直そうとしなければ結局は同じなのかもしれない。
―僕には視覚がない
 人間には物を見る能力があるそうだ。物を見るって言うのはそれを映像としてとらえること。人体の頭部に存在する二つの眼球を通して、目の水晶体に映し出された外部の情報は視神経を通って複雑な回路から脳に送り込まれ映像と化す。もっとも、文字でしか否、言葉でしか聞いたことのない僕にとってはちんぷんかんぷんだった。
―明日はホームに行こうな
 僕の両親はとてもいい人で、とても優しくて、僕はだから彼らにとても申し訳ないといつも思っていた。いつもいつも僕のことを一番に考えてくれて、大切に考えてくれて、それでもその時僕は何にも言わなかった。

 ホーム。ここには僕と同じ人がたくさんいる。姿が見えなくても声でわかる。小さい時から何度かここには来ていて、毎年交流会のようなものもある。両親はいつもそこに僕を連れて行ってくれた。僕は一言も連れて行ってとは言わないのに。
 ホームに着くと友達がいる。何度も何度もケンカした仲間だ。僕の方がかっこいいとか、かっこ悪いとか、他愛もないけんかだったと思う。ホームにいる間だけが僕の心を開いてくれた。僕は久しぶりに聞いた友達の声と、たくさんたくさん会話をした。彼はいつもいろんなことを教えてくれるとても物知りなやつだった。
―交通事故だった
 よくある事故だ。目が見えないんだから。
 お葬式。初めてだった。僕は彼が死んだと聞かされ、喪服というスーツを着せられ彼の家に向かう。ポウポクポウポク…という音が部屋中に響き頭がおかしくなりそうだった。彼の声はしなかったけど、誰の声もしなかった。聞こえるのは念仏という音楽と、ポウポク…という音だけ。

―僕の友達が死にました
―安らかな顔だった?
―わかりません
―たくさん人は来てた?
―わかりません
―じゃあ何かわかったことは?
―僕の友達が死にました

ポウポクポウポク…
 ずっと聞こえていた音が止まり、不意にざわっと周りが動く気配を感じる。母に袖を引っ張られ歩かされる。手に何か渡され、触って確かめる。それは花だった。僕はそれを言われるままに、いわれる場所に置く。その時近くの少女が僕に言った。
「こっちの方がいいよ」
「どっち?」
「こっち」
「ごめん、見えないんだ」
「この人の手に持たせてあげるの」
 そういって少女は僕の手と友達の手を合わせた。

 あぁそうか。こういうことなのか。僕が今してる顔が泣いてる顔なんだ。こういう気持ちが悲しいってことなんだ。少女の手は温かく、彼の手は冷たかった。何かが失われた感じ。
 僕の手の甲に落ちた一粒の液体は僕の目からも流れ出した。知らなかったわけじゃない。忘れていただけだった。そうかこうして泣くのか。これが感情か。僕の手の甲に落とした水滴の持ち主は僕の隣で嗚咽の声を漏らしている。こんな時こそポウポク…と鳴らしてくれと思った。周りからも聞こえる嗚咽は今までほとんど働いたことのない僕の目に仕事を与える。不謹慎かもしれない。ふざけるなといわれるかもしれない。それでも僕は―


―僕の友達が死にました
―初めての経験だったの?
―はい
―そこで学んだものは?
―生きるということ


 僕は綺麗な風景も、面白いテレビ番組も見れなくていい。
 僕のことを誰かが見ていてくれるなら。
 僕の目は涙を流せるだけでいい。
2005-01-12 00:46:32公開 / 作者:影舞踊
■この作品の著作権は影舞踊さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
うあ〜ショートはムズイ。連載もムズイですけどね。どうも、最近全くめんどくさいこと続きでへたれな影舞踊です。
なんかクソ重たいテーマな感じのする読みきりですなぁ。読むのがしんどい(笑
「感情を出すこと=生きること」的な考えで書いた作品で、受け取り方は様々でしょうね(ダメじゃん
感想・批評等頂ければ幸いです。
読んでくれた方ありがとうございやすっ(誰よ?
この作品に対する感想 - 昇順
ども、読ませてもらいました。全体的な流れと、伝えたいこともハッキリしていて良かったです。やや分かりづらい文が何個かあったので、そこを直せば問題なし、かと。私は何度かもし自分が眼が見えなくなったらどうするか、と悩んだ事があります。この作品を読んで、そんな昔をふと思い出しました。ではでは
2005-01-12 01:40:54【★★★★☆】rathi
読ませていただきました。視覚障害と言う難しいテーマを、短い中で上手く捉えて作品化しているといった印象を受けました。主人公の心情描写をあまりくどくどと書かずに、簡潔な言葉を使って表現しているところが、より効果的であったように思われます。このようなメッセージ性の高い作風と言うのも、影舞踊さんの新機軸と言えるかもしれませんね。ズシリと伝わってくるものがありました。今後の作品にもおおいに期待しておりますので。
2005-01-12 08:41:58【★★★★☆】卍丸
読ませていただきました。綺麗にまとまっていて面白かったです。問いと答えみたいな部分がとても効果的だったと思います。生きること、それは確かに感情を出すことでもあると思います。次回作も期待してます!
2005-01-12 09:51:27【★★★★☆】流浪人
や、良かったですっ!!あたしも目が見えなくなったら……そういうことを考えて、家の中を目つぶって歩き回ってた覚えがあります。心に響く良作を読ませていただきまして、ありがとうございますっ!!次回作も楽しみにしてますね♪
2005-01-12 10:14:13【☆☆☆☆☆】ゅぇ
テーマもストーリーも、瑞々しく素適でした。目の見えない方は、やはり音と気配と感触が頼りでしょうから、その感じがもうちょっと欲しかったような気がします。それと、『僕』が涙をそれまであまり流したことがない(視覚障害と感情や涙腺の関わりは人によって千差万別だと思うので)ような伏線があれば、ラストはさらに感動的になったと思います。
2005-01-12 13:50:32【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ
読まさせていただきました。何か心にうったえられるよな物があってとても良い作品だと思います。主人公の心情を会話のような形で表現したのもうまいなと思いました。そして最後の3文グっとくるものがありました。次回の作品もがんばってください。
2005-01-12 14:23:34【★★★★☆】青いリンゴ
皆様読んでくださってありがとうございます。
>rathi様 全体的な流れと伝えたいことを基本に描くものでして、まだまだ細部にまで気がまわっていないのが今後の修正点ですね。もし自分の目が見えなくなったら…恐怖ですね。障害を持ってる人は本当に強いと思います。
>卍丸様 主人公の心情はほとんどといっていいほど書いてませんね(というか文章自体短い(笑 難しいテーマですが、なぜか挑戦してしまいました。上手く表現できていたなら、それはそれでとりあえずよしかなと。自分はこういう難しいテーマはやっぱり無理ですね。(知識もあまりないですし これからも精進します。
>流浪人様 問と答えのところの、質問しとるやつ誰やねん?とか言われたらすいませんなんですが(まぁ心の中の住人(意味不明w でも効果的であったならよかったです。(成功!? 感情もろ出しで生きれるなら、その人はものすごく幸せだと思います。
>ゅぇ様 うわ〜こちらこそ、ありがとうございますっ!「ありがとうございます」なんて言葉が聞けるなんて(ドキドキ 人からもらえる言葉の中で純粋に綺麗な言葉の一つだと思います。ありがとうございます(便乗
>バニラダヌキ様 「視覚障害と感情や涙腺の関わりは人によって千差万別」その通りでございます。というか読み直してみて、書いてねぇ!自分の頭の中で書いたはずだった所が抜け落ちておりました(恥 この少年が感情を置いてきた的な設定を書いたはずだったのに(アホ 次回から気をつけよう(うんうん(コラ 短すぎたため描写も少なかったですね(これも気をつけねば 貴重なご意見ありがとうです。
>青いりんご様 最後の3文を気に入っていただけたなら、よかったです。実は最後にそこは付け加えたもので、これでちょっとは締まったかなって感じで。コメント嬉しく頂戴しましたっ。
2005-01-12 17:48:22【☆☆☆☆☆】影舞踊
主人公の心理が平坦なかんじで進んでいるため、とてもしんみりとした雰囲気が味わえました。何かが欠落している人ってどこか冷たいんですよね。全員がそうではないかもしれませんが。最後のほうは感動的で良かったと思います。……あんまし役に立つこと書いてないですね(汗 できるだけ役立つ批評ができるよう努力します〜。
2005-01-12 19:56:27【★★★★☆】霜
読ませていただきました。前作同様に、大変楽しませてもらいました。今回は重いテーマが題材ですが、それをすっきりと読ませてる力量はお見事。途中にある『―僕の友達が死にました』で始まって終る部分は個人的にすごく良かったです。その中身だけですでに評価は『良い』になっております。ラストも綺麗に納まっており、ものすごく面白かったッス。影舞踊さんの新たなる新作を、また楽しみにしております。
2005-01-12 21:45:16【★★★★☆】神夜
お話読ませて頂きました。話の内容も綺麗に書かれているし、こういった描写のもってき方が私はなんだか好きだなぁと感じました☆次回作も楽しみに待っています。頑張ってください!
2005-01-12 21:58:16【★★★★☆】満月
読みました。実はこういう主人公の考えることとかが嫌いで、あまり好きではなかったのです。ですから、そういう風に読み始めて、最初のイメージは悪かったのです。前半の部分とか特にそうですね。こういう考えするな、とかそういう風に思ってしまう。実際に見えない人にはかなり失礼ですけど、物語の場合だと問答無用で思ってしまう。しかし、この作品の後半。ホームからの場面。そこからはすごく面白かった。前半の部分を悪いイメージで読んでいたのに、後半からは反対になりました。ああ、とか思わされました。すごく面白かったです。いや、ほんとになんだか変な部分が揺れ動きました。自分の固執した考えが消え去った感じ。では、これからの執筆頑張ってください。
2005-01-13 00:17:09【★★★★☆】うしゃ
読ませていただきました。こうゆうのを感情移入というでしょうか?主人公の気持ちや考えがスッと入ってきてとても共感できた気がします。描写も綺麗でした。次も期待していますので!
2005-01-13 00:25:06【★★★★☆】朱色
>霜様 少しでも感動してくださったなら幸いでございますょ^^何かがかけてる人はどこか冷たい…なるほど、でもそれはたぶん気づかないだけだと思います。こんな作品かいといて何いよんねん、と言われそうですが…影舞踊は何かが足りない人は変わりの何かを持ってると思ってます。たぶんそれが普通の人と違うからわかりにくいんだと。今回の主人公は目が見えませんでしたけど、同じ視線に立たないとわからないことって多々あると思います。(くだらん事をごちゃごちゃとぬかすな〜って感じですね。聞き流してくだされ(笑 コメントはもらえるだけでありがたいですよ。気にしないで下さいな☆
>神夜様 お褒めの言葉もったいないでございますw「―僕の友達が死にました」からの部分が気に入っていただけましたか!?それは作者として嬉しい限りです。ホームからの事故の場面が唐突になりすぎかなとも思いましたが、違和感なく流れてるようで。嬉しいご意見ありがとうございます。
>満月様 話の内容綺麗でに書けておりましたか!?よかったです。常に自信なさげな影舞踊といたしましては、奮い立つお言葉。これからも少しでも文章力が上昇するよう心がけますっ。
>うしゃ様 前半の部分が気に入らなかったと。それでも最後まで読んでくださったうしゃ様=神(妄想w 自分なら入りダメならダメですね(笑(そんなことないのもありますが 素直なご意見、乾いた心に本当に染み渡ります。ありがとうごぜぇます。
皆様から感想・批評等いただけて影舞踊は幸いです。(コメント通り(^□^?
2005-01-13 00:47:31【☆☆☆☆☆】影舞踊
>朱色様 レス返しを送ったら同時に朱色様のコメントがっ!(はぅ〜という感じで早速 感情移入してくださったのであれば本当に光栄です。盲目の主人公の重い物語でしたけど共感してくださったのなら、影舞踊の伝えんがしたこともわかっていただけたと勝手に解釈。コメントありがとうでしたっ!
2005-01-13 00:51:49【☆☆☆☆☆】影舞踊
読ませてもらいました。情景がスーッと浮かんできて、お葬式のところなんか周りで見ている人間の気持ちになりました。あえて言葉をスッキリとさせたところが良かったです。変に考えなくていいですしvそういえば、最近涙を流してないなぁと思いつつ、千夏でした。次回作も楽しみにしてますv
2005-01-13 18:37:46【★★★★☆】千夏
影舞踏様の作品を拝読するのは初めてです。読ませていただきました。読者デビュー(?)が、視覚障害者が主人公の作品ということで、何やらおろおろしながら書いているわけですが。視覚障害者をテーマにした文章なら、学生時代に現代文の時間に読みました。目の利く私達に、彼らの不便さや苦しさを計り切ることはできないかと思いますが、彼らは目が利かない代わりに、視覚を持っている人以上の感性を持っているのではないのだろうか、そんなことを思っております。うっ、話がずれてしまいましたが(汗)、「生きるということ」の一言にどきりといたしました。反面、今度は笑顔も覚えてね、などと激励を・・・(何)。(主人公の周りの人達は、やっぱり主人公の笑顔も見たいのではないのかな、と思ったので)生きるということを学んだ主人公には、やはりこれから先、人一倍輝いた人生を送っていただきたいです。
2005-01-13 22:30:09【☆☆☆☆☆】エテナ
>千夏様 主人公盲目ですからねぇ。感情移入したら何も見えないですし(笑 言葉足らず的なところもあったかと思いますが、それが上手くいったようで、よかったです。涙は定期的に流した方がいいですね。泣き方と止め方がわからなくなりますから(エ?
>エテナ様 このようなクソ重たい作品で読者デビュー(?ついてますが(笑)していただきありがとうございます。(出来るなら前の読みきりでしていただいた方が楽でよかった気がします(笑 影舞踊的にはこの主人公は感情の出し方を思い出した的なノリで(言葉足らずでわかりにくいですね 
お二方感想ありがとうございました。
2005-01-14 00:37:48【☆☆☆☆☆】影舞踊
本当に面白いものを読みたくて、かなり時期はずれに読ませてもらいました。僕の中では、影舞踊さんのショートは尊敬に値します。僕は感情と言うものがよりリアルに伝わってくるこういった作品のほうが、だらだらと知っている表現を書き連ねる作品よりも優れていると思うのですが……。もちろん影舞踊さんの文体から伝わってくるものを、たったそれだけで評価するのは無理ですが。というわけで、時期違いな書評をさせていただきました。……読んでくれないですよね。
2005-03-12 13:51:08【★★★★☆】恋羽
計:44点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。