『なりたくなかった魔法使い。 序〜1』作者:爆音。 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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序章


俺の名前は、「黒澤 新一郎」(くろさわ しんいち)。
……ちなみに言うと、俺は魔法使いだ。
どうして?何て質問に答えるつもりは無い。
ただ魔法使いなんだ。
魔法使いとは……そう、何でも願いを叶える事が出来る、あの魔法使いだ。
皆が魔法使いだったら、どんな事を願いを叶えるだろう?
……俺は……そうだな。願わくば、「魔法使いじゃなくしてくれ」。こう願うだろう。


春。
桜の木々から綺麗なピンクの花びらが舞い落ち、暖かな風が緩やかに流れている風景を想像するだろう。
……しかし、実際そんな微笑ましい物ではなかった。
自宅の近くにある、過去には祭りも行われた川沿いの桜並木は、いつからか鮮やかなピンク色の花達は姿を消し、そこにあるのはただただ淋しい枯れ木の並木道。
家の中は暖かいものの、外界は寒風が時折強く吹き、『四月である』という実感を少しも湧かせない。
向かいに密集した家々も、寒そうに風に吹かれている。
そんな住宅街に、今年初めて高校生になる一人の男がいた。
それが「黒澤 新一」。彼である。
新一は、裕福では決してなかった。むしろ貧乏である。
父親は新一が9歳の時病気で先立ち、女手一つで新一を育てていた。
そのため、当然収入も少なく、家計は必然的に厳しくなっていく。
それに追い討ちをかけるかのように、父の遺産も今回の新一の高校入学でほぼ底を尽き、かなり貧しい状況だった。
そんな中、唯一高価な物と言えば父の残していったこの家。
が、その一軒家も売却してしまおうか検討中。母の心身もボロボロで、新一の方も気を使いっ放しで精神的にやられていた。
なので、新一は高校入学も全く嬉しいとは思わなかった。
「行ってらっしゃい。」
今年でもう五十歳になる母のやや震えのかかった声で見送られると、新一は高校へ向かった。
新一自体は、といえば、全く普通の男の子である。
特に目立った存在でもなく、むしろあまり目立たない方の存在であった。
得意な事もなければ、不得意な事もこれと言ってない。
物事に意見するといっても心の中でだけ。
『普通』という言葉がピッタリの男だった。
「おはよ〜!新ちゃん!!」
ふと、後ろからやや高い声が新一に投げかけられる。
その張本人は「杜松 恵太」(ねず けいた)。
背が小さく、髪型は寝癖なのかセットしてきているのか、ボサっと舞い上がっている。
あだ名をチュー太。
由来は背が小さくチョコチョコしていて、苗字の『杜松』から『ネズミ』を連想させるため、『チュー太』
いつもニコニコ笑っていて、新一の中学一年生の頃からの友達である。
「あぁ、おはよ。」
新一は、小さく返答する。
とても『楽しい』とは思えないテンションにチュー太は少しムッとし、新一の前に早足で出ると、振り返って後ろ向きに歩き出す。
「も〜!新ちゃんは嬉しくないの!?これから俺らの青春が始まるってのにさぁ〜」
頭の中で何を想像しているのか、少し微笑みながら新一に言った。
「チュー太ってさ、青春がどーたらってよく言うけど、チュー太の言う青春ってどんなのよ?」
新一は、あまり興味はないがとりあえず話を繋がないとまたうるさいので、適当に話題を持ちかけた。
「そりゃぁやっぱ……神崎と付き合って、遊園地とか言って……そんでゆくゆくは……ベッドに連れ込んで――」
「誰と付き合って、誰とベッドで何するって?」
チュー太が話の後半に差し掛かるに連れ、鼻息を荒くし熱く語っている所に声がかかった。
その声の主こそ、チュー太の愛して止まない「神崎 亜由美」(かんざき あゆみ)である。
髪は肩より長いくらいで、色はやや緋色がかっている。
チュー太の小学生からの幼馴染であるらしいのだが、告白してはフられ、また告白しては殴られ……を繰り返している。
当然と言えば当然だ。なんせ彼女は中学校時代、学校で二番目に可愛いヤツだったのだ。つまり、かなりモテた。
しかし、どんなフられ方をされてもチュー太は決して諦めはしなかった。ある時は、新一もフるのを手伝った事もある。
「このヘンタイ!妄想ネズミ!!ドブん中で死ね!!!」
神崎は持っていたカバンでチュー太を力の限り殴りつけ、早足で高校へ向かった。
そう、彼女も今日から同じ高校へ通う事になったのである。
「あ〜ん痛ぁい〜〜、待ってよ〜〜!!」
チュー太は甘い声を漏らし、駆け足で彼女を追いかけた。
遠くで「キモいんだよ!ストーカー!!」と聞こえてくる。
だが、なんだかんだ言っても、新一には神崎も楽しんでいる感じがした。
彼女がチュー太に浴びせる罵倒の内容はヒドいものの、まるで悪意が感じられないのだ。
「……俺は今のオマエは、もう青春してると思うんだけどなぁ」
と、新一は何とも微笑ましい二人を見つめ、やはり微笑みながら呟いた。
「青春かぁ……俺も味わってみたいなぁ……」
続けて、新一はチュー太に焼餅を妬いたように呟く。

「……俺にも青春が訪れろ!!俺をモテモテにせよぉぉ〜……」

新一は目を軽く瞑り、魔法をかけるかの如くわざと低くした声で言うと、「何言ってんだ」とだけ言ってチュー太を駆け足で追いかけた。
……この言葉がすべての始まり。

冷たく吹いていた風がその言葉を聞き、一瞬止まった気がした。



一章


新一は結局、チュー太に追いつく事なく校門に入った。
入学式が終わると、自分のクラスである『1−C』の教室に入り、1−Cの担任である『荒城 恒彦』(あらき つねひこ)先生が紹介され、話をしばらく聞いた後その日は下校となった。
唯一の友、チュー太はといえば幸いにも同じクラス。そんなチュー太は神崎と同じクラス、しかも席が隣同士になり泣いて喜んでいた。

帰りはチュー太、神崎と一緒に帰った。新一の家はチュー太の帰路の通り道なのだ。そして同じく、神埼も。
昇降口を出ると、すぐに左上がりの坂になっている。これを降りて真っ直ぐ行った所が新一、神崎、チュー太宅、と並んでいる。
この三軒は大して距離もなく、新一と神埼の家に関しては隣であった。この事で神崎の話になる度、チュー太に羨ましがられた事は言うまでもない。
「神崎ィ〜!今日オマエん家行ってい〜〜!?」
と、チュー太があたかもいつもの事かのように神崎に投げかけた。
返答は決まって「ダメに決まってるでしょ」に「死ね」のおまけ付き。
しかし、チュー太はこれをわかってないのか、神崎に会うたびに聞いている。
こんな時、新一はいつものように笑って過ごす。
……ところで、新一は女性に興味は無いのか。そんな事はない。
いくら目立たないと言っても、ちゃんと恋をした時期もあったし、告白だってした事はある。
……が、答えは決まって『ごめんなさい』。
理由も決まっている。
『好きな人がいるから』
これは、『嫌い』の遠回しの言い方だ。
本当の理由は『貧乏臭いから』『暗いから』等、本人には決して言えない理由ばかりである。
そんな事も知らずに、新一はいつも素直に「そっか」と笑って見過ごすだけであった。
そして二度目の失恋から、もう告白はしない。と決めた。
付き合いたい気持ちを閉じ込めて。

「あ、ところで黒澤クンってさぁ、好きな人とかいるの?」
ふと、神崎が突然新一に話しを投げかけた。
「あ?コイツはそんなのいねぇよ!だって二度目の――」
「う、うるさい!!い、いるよ!!好きな人くらい!!」
チュー太が割り込み、勝手に答えようとした所を新一は顔を紅潮させながら否定の言葉をかぶせる。
「へぇ〜……そなんだ」
新一の言葉を聞き、笑顔でそう言った。
そしてそれを見た途端、チュー太は今までの笑顔がふっと消え、少しムっとした表情で新一よりも一歩先を早足で歩いた。

「じゃ、俺ここで」
新一は自宅の前につくと、一言そう言う。
神崎は笑顔で「じゃぁ!」と返してくれたのだが、チュー太は無視して帰ってしまった。
新一はどうしたんだろうという風に首を軽く傾げると、扉を開け自宅に入っていった。


さすがに帰りが早かったので母は帰っていなかった。
二階の隅にある狭い自室入ると、二歩程進んだ所にある小さなベッドに、担ぐように持っていた学校鞄を重そうに投げ捨てると、同時に新一もベッドへ転げ込む。
「なぁ〜んか疲れたぁ……」
新一はゴロンと仰向けになると、目を閉じて呟いた。
五秒、六秒、七秒……しばらく目を閉じていると、いつも新一は全身の血流を感じた。
それがとても心地良い。
手から腹部を通り、ももから足の指先まで。
新一は数秒その快感に浸ると目をゆっくりと開く。
……ふと、視界に黒い物が映った。
ソレはゆらゆらと視界で動き回っている。
この世のモノとは思えないその動きに一気に目を開いた。
瞬間、ライトの光が目に差し込み、目が痛みに近い刺激を受け、今度は上半身のみ起き上がらせた。

「ギョギョ」

すると目前、言葉の通り目の前に手の平程の大きさの黒い人魂のようなソレが浮かんでいた。
……しかし人間、本当に驚いた時は声すら出ない。
新一はまさにその状況だった。
目を点にして口をポッカリ開けたまま、数秒の時間が過ぎた。
「うわぁ!!!!」
声が出たのはその数秒の時間が過ぎた後である。
体勢は、驚いて一瞬で後ろに飛びのき、まさにあっけにとられたという形である。
すると、黒いソレの表面に曲線が浮かび、そしてその線を境にパクっと口のように開いた。
表情で言えば、笑っている。それも裂けきった口なため、不気味に見える。
あるのは口だけで、目も鼻もない。
「オマエ、今日から魔法使いだ。ギョギョ。一度言った願いは二度と叶えられないけどな。そして、一日に最低一回、願いを叶えなくてはならない……」
「……はぁ?」
全く意味が飲み込めないまま話を進められ、何が何だかわからない新一の頭は、もうしっちゃかめっちゃかだ。
ただでさえ、今目前に浮いている人魂すら完全に認めきれてないと言うのに。
そんな思いとは裏腹に、人魂は話を進めた。
「俺の名前はビリー。ビリーって呼んでくれ。同時に、魔法使いのパートナー」
更に意味がわからなくなる新一。
寝ぼけているのか、と一度グッと強く瞼を閉じ、そしてゆっくり開いてみる。
しかし、そこにあるのはさっきと同じ光景。
「オマエは今日から魔法使いに任命された。何故俺が?なんて聞くなよ?俺も知らない。」
ビリーは更に続けた。
「魔法使いと言えば願いを何でも叶えられるあの魔法使い。それがオマエ。オマエが言う願いを聞き、実際に叶えるのが俺。ただ、俺は魔法使いの言った願いを拒否する事はできない。」
非現実的な事をペラペラと話しているのにも関わらず、少しずつ納得していく自分がいた。
「しかし、願いを言う際、代償を支払わなければならない。例えば、『消しゴムを支払って鉛筆を一本出す』みたいな感じに。その代償は俺が言う。ただ、それは俺が独断で決めているのではなく、ちゃんとした制約に基づいているものだからそれはちゃんと守ってもらう」
「……なるほど。」
新一は完璧に信じていた。
飛びのいたような体勢は、いつのまにか正座になって真剣にビリーと名乗った人魂の話を夢中で聞いている。
「代償が気に食わなかった場合、その願いを叶える事を断念してもいい。それとさっきも言ったが、一度言った願いは二度と受け付けない。断念した願いも同様に。最後に……」

『魔法使いを止める』という願いは受け付けない。

「……どうだ?この話を聞いた上で、魔法使い……やるか?」
ビリーが笑った口のまま話を言い終えた。
そして「やるか?」という質問には、どこか悪意がこもっている様な言い方であったが、今の新一にはそんな事どうでも良かった。
たった今、ふと差し出された力の大きさに感激してやまなかった。
そして、質問の答えは決まっている。
「やる!やるよ!!!」
思わず身を乗り出し、大きな声を出してしまった。
「……わかった。」
今までに無いほど不気味に笑うと、新一の胸の辺りに吸い込まれるように入り込んでいった。
そんなことは目にもくれず、新一はただ呆然と佇んだ。
そしてふと、手を前に差し出し一言。
「この手の平に百万円を……」
【『母親の従兄弟の死』】
どこからか聞こえてくる人魂、ビリーの声が。
そして新一は恐らくこれが代償なのだろうと、直感で思った。
新一としては、母の従兄弟なんて見た事もなかったし、どちらかと言えば百万円の方が魅力がある。
そして……
「了承する。」
新一はばだ呆然としたまま呟くように掠れた声で言った。
すると、突然手の平に重みが加わった。
「うっそ……マジかよ……」
手の平を見ると、そこには札束が。新一は声も出なかった。




2005-01-11 20:35:29公開 / 作者:爆音。
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■作者からのメッセージ
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初心者なもんで、チョー下手です。。。
それと、新一クンの容姿は『普通』の概念から個々で想像お願いしますw

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