『平安鬼神伝』作者:深音紫苑 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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『プロローグ』

街が漆黒の闇に覆い尽くされ、住民は皆眠りにつく夜。
その夜は、雲一つなく風は微弱で空気はしっとりと生暖かい。
夏真っ盛りのこの時期、虫はその羽を擦らせて騒がしいほどの求愛を繰り返す。
だが、今宵はそれらが何一つ無い。
変わりに耳に届くのは

人為的な音

人間のいくつもの数え切れないような数の役人の足音。
武器のぶつかる堅く冷たい音。
いつもは無いはずの音・音・オト。
そうだ、今宵はアレがでるのだ。

深紅の光を放ち、人々を惑わす一対の眼を持ち、

人間には決してないモノ、

否、

有ってはならないモノ。

月光で金に輝く二本の角。

闇でも見える鋭利な白い牙。

鋭く尖る爪。

それらを持つイキモノ。

否、

イキモノでは無いかもしれない。
人とはモノ、妖しである。
人々はその風貌からその妖しをこう呼ぶ。

『月紅鬼』と。

月夜に現れる深紅の眼を有する鬼。

誰が名付けたのか、そんなことは誰独りとして知らない。
気が付けば皆がそう呼んでいたのだ。
ただ独りの少年を除いては・・・・・。



『第壱章』

第壱項



少し蒸し暑い日の早朝だった。
街の中心から少し離れたところに、一つの屋敷がある。
中流貴族の屋敷だ。
その敷地内にはいつものように武術の稽古に勤しむ一人の少年。
緑がかった黒い瞳に、光のあたり具合で美しい緑に見える漆黒の長い髪をもつその少年、
年は12.3歳と言ったところだろう。
この屋敷の末子として生まれ、つい最近やっと元服を終えたばかりの彼は、
毎日こうして武術の稽古をしているのだ。
彼は物心ついた頃から

『見鬼の才』

つまり、異形のモノを見ることが出来たのだ。
しかもかなりの力の持ち主だ。
だが、そのことを知っているのは家族だけである。
他の者に秘密にしているわけではない。
ただ、彼が他言しなかっただけ。
別に言い触れ回る必要はないと考えていただけのことだ。
だが、家族を除いてただ一人、



一匹と言うべきだろうか。
あるいは、数えられるモノでは無いのかもしれない。

なぜなら、

それは、この世のモノではないからだ。


『異形のモノ』

と呼ばれるモノだからだ。
2003-08-09 01:32:39公開 / 作者:深音紫苑
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■作者からのメッセージ
初めまして、深音と申します。
うちのサイトにある小説の一部分ですv好きな平安時代を舞台にしたファンタジーし溶接となっています。
続きはサイトの方に少しありますので、お先に読みたい方がいらっしゃいましたらどうぞv
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