『ある夏の日。』作者:深海 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1892文字
容量3784 bytes
原稿用紙約4.73枚




枕もとに立つ君は悲しげに微笑んで一つ涙をこぼした。
落ちてきたしずくは僕を窒息させるのには充分すぎて
僕はもがき立ち尽くす君に助けを請う
けれど君は笑いながら泣いていて…
僕は惨めに屍になるのを待ちながら夜の深さに恐怖を覚えた。



深く
深く
僕は
一人
光を求め
夜に落ちる

惨めな蝶は
光に翅を焼かれ
醜く
アスファルトに落ちる



朝が来ていた。
太陽は一周してまた僕を照らす。
隣では君がうなされていて
苦しそうに低く唸る…いつものことだ。

うなされてもがきながら助けを請うように僕の名前を呼ぶ。
その時
僕は必要とされていると確認できる。
だから
僕は君が苦しそうにうなされている寝顔が愛しくて堪らない。

別に異常だとは思わないしサドでもない。
誰だって必要とされるのは嬉しいことだ…自分の存在価値を確かめることができるから
少なからず僕はそう思う。


側にて
抱きしめて
僕の名前を呼んで
弱いから
僕の存在を認めて
必要として
僕を…
必要だと言って


しばらく、君の寝顔を見つめていた僕は妙なことに気づく。
時計はとっくに12時をまわっているのに君はいつまでも
眠り姫のように眠り続けている。
いつもなら僕よりも早く起きていることのほうが多いのに…
それでも僕は君を起こそうとはしなかった。

少しすると
君の長い指達が君の細い首を絞め始めた。

苦しそうに眉を寄せる君の顔

妙な気分だ。
このままでは君が死んでしまうかもしれない…
それでも僕はないも声にすることができなかった。
ただ、黙って覗いていた。


汗が額からこぼれて
今日がすごく暑いことに気づいた
本当に暑い。
それなのに
きちんと足の先まで布団をかぶっている君は
暑くないのだろうか…
そんなことを遠い世界の僕が考えていた。
君はますます苦しそうにうめいている


後二分も持たない


冷静に僕が僕に語る
僕は僕に君の死が近いことを教えられる。

妙な気分だ

僕が僕で僕が僕じゃないような…(もちろん君は君で君以外の君は君じゃないのだけれど)

時間が経つのがすごく遅くて、汗だけが休まず流れてくる。
君を起こすべきか否か僕は悩む。
僕は愛する君を死なせたくなくと
そして
僕は愛する君の最期がみたいと…
僕は僕だから僕は僕に従う

まったくもって理解できない…それも僕だ。


顔のない僕

君を愛したのは僕
君を愛するのは僕
君にキスを捧げたのは僕
君に愛を捧げたのは僕

初めまして僕
こんにちは僕

顔のないトランプは姫を守るためジョーカーに立ち向かう


僕は結局
何もできなかった
何もしなかった
何もしたくなかった

僕がどこかで泣いている。
胸が苦しい…そんな気がする

僕がどこかで笑っている。
口元が緩む…そんな気がする

涙がこぼれた
僕のものじゃない僕の涙

君の白い頬にしずくがこぼれおちた。
君の唇が動いて…呟いた…小さなうめきと一緒に…

それは小さすぎて見失ってしまいそうな程
それでも僕にはあまりにも大きくて押しつぶされてしまいそうな程重かった。

僕は笑った
なきながら
笑った


君は
最期に
僕の名前を呼んだんだ…。

助けを請うように…愛し合った僕の名前を…

そのまま君は塊になった。
少しずつ、もがきながら。
太陽の光がやけに目に焼きついて離れなかった。



裁判官!!
僕は愛されていたのです
僕は彼女を愛していたのです
だから
どうか
僕を裁いて下さい。
愛していたから
愛されていたから
どうか
僕を裁かないで下さい。
裁判官!!
裁判官!!
どうか
正しき判決を!!



僕は夢を見ていた
汗がだらだらとこぼれてくる…いつものことだ。
涙の乾いた痕が夢の恐ろしさをあらわしていたけれど
夢の内容はおぼろげでハッキリしない。
あたりを見渡しても僕以外いない。
セミの声が耳にまとわりつく。
僕は押入れをみて笑う…
愛した君の名前を呼んだ
愛している君の名前を呼んだ
「愛」と…呼んだ。

そして僕は、また眠りにつく。
君の香りが侵食する部屋で…。


2005-01-05 01:34:36公開 / 作者:深海
■この作品の著作権は深海さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品に対する感想 - 昇順
お久しぶりです。卍丸です。読ませていただきました。綺麗な言葉の持つ表現力は気持ちの良いものでしたが、小説としてはやや詩的過ぎるような印象が強かったです。この心情表現は素晴らしいと思うのですが、もう少し文章に肉付けをされれば、更にストーリーが楽しめるようになるのではと感じました。今後のご執筆もぜひぜひ頑張ってください。
2005-01-05 06:57:48【☆☆☆☆☆】卍丸
読ませて頂きました。表現が凄く豊かで、ものすごく深みのある作品だったと思います。特に最初の部分で一気に物語に引きこまれていくのを感じました。また、途中の「僕は僕で」のセリフは、思わず唸ってしまうほどでした。“僕”から見た視線だったからなのか、やはり湾曲している部分があって、それが余計に深みを増しているんですが、少しの不可解さは残りましたね。次回作を期待しております。今後も頑張ってください!
2005-01-05 09:48:47【★★★★☆】冴渡
冴渡様、読んで下さって有難う御座いました。この話は半年前に書いたものだったのですが自分でも気にっていたので皆様に読んで頂いて感想などが欲しいなぁ〜と思い投稿したものなんです。自分も書いていて視点がわからなくなることもあるんですよね(何)それでも最後まで読んで感想を残してくださって本当に感謝です。今後も頑張りますので宜しくお願い致します!
2005-01-05 13:58:47【☆☆☆☆☆】深海
卍丸様、お久しぶりです!!覚えて下さっていたのですね!!感激です…。投稿するたびに言われていますが…やはり私の今後のお題はもっと小説っぽく(?)書けるようになのですね;;頑張ります!!感想有難う御座いました!!
2005-01-05 14:02:31【☆☆☆☆☆】深海
読ませていただきました。心情描写が上手くて、言い回しがステキな作品でした。小説と言うよりは詩かなぁと思いつつ読ませていただきましたが、十分楽しかったです。最後に現されたダークな感じが、この物語をさらに引き立てていました。次回作も頑張って下さい。
2005-01-06 10:50:08【☆☆☆☆☆】影舞踊
初めまして。満月と申します。私も読んでいて、これは小説より詩に近いなぁと感じました。でも、話の内容や描写の書き方表現の仕方が私は好きだなぁ。次回作も頑張ってくださいね
2005-01-06 19:56:13【☆☆☆☆☆】満月
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。